106 『なにコレ酷い値段!』
「ところでバケツさん」
「あのねバケツさん」
「「これ動かせるの?」」
「……わ、私じゃ無理かなー」
悪ノリが過ぎるくらいに魔改造してしまった『魔導人形:蟲型・蜘蛛』ですが、やりすぎたせいでどうも操作するのがひどく難しくなってしまっているようです。
というか元々魔改造する前ですら、『魔導糸手袋』のLvが低くて操作が困難すぎたくらいです。
せいぜいが歩かせるのがやっとでした。
でも魔改造を施した今の状態では歩かせるのすら無理になってしまっています。
『魔導糸手袋』のLvを上げて進化させればなんとかなるでしょうが、私では人形を製作するついでに動作テストをするくらいなのでほとんど上がりません。
数を作っているからやっとLv65にまで到達しただけにすぎないのです。
ですがそれも大した問題ではないのです。
そう、コレを使うのは我らが姫ちゃんなのですから!
姫ちゃんなら『魔導糸手袋』だって数段上に進化しているでしょうし、『人形使い』のスキルだって持っています。
きっと『人形使い』も進化しているでしょうから、動かすどころか素晴らしい動きを見せてくれるでしょう。
「じゃあさっそく姫ちゃんに連絡するねー」
「待ってました!」
「待ちくたびれた!」
「「やっと動くところが見れるよ!」」
「あはは。2人にはいっぱい手伝ってもらっちゃったしね。
あ、そうだ。報酬の上乗せもしないとね」
姫ちゃんへの『メール』を書きながらも、依頼以上に貢献してくれた双子にどんな報酬をあげるべきか思案します。
双子は『錬金術』のエキスパートですからね。
それ関連がいいと思うのですが、現状で私が持っていそうな素材では2人ももっていそうなんですよね。
加工素材では2人に敵わないでしょうし。
どうしましょう?
「ボク蟹チャーハン!」
「僕エビチリ!」
「「クールー飯店で奢りね!」」
「素材とかじゃなくていいの?」
「ボク達も楽しんだし!」
「面白かったし!」
「「何より素材とか全部バケツさん持ちだし!」」
「あはは。ありがとねー。じゃあ終わったら姫ちゃんも一緒にみんなで食べに行こうか」
「「やったー!」」
なんだか小学生に気を遣われてちょっと恥ずかしいですが、まぁ2人がそういうならご飯を奢るのを報酬の上乗せとしましょうか。
姫ちゃんには『メール』も送信しましたし、あとは返事を待つばかりです。
もしレイド中だったりしたら遅くなるでしょうし、『コール』だと迷惑になりかねませんからね。
さすがの姫ちゃんでも忙しいだろうレイド中に『コール』に出るのは大変でしょうから。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「きた」
「一名様!」
「ごあんなーい!」
「「ようこそー!」」
「ここ私の工房なんだけどなー」
それから大して間をおかずに連絡があり、姫ちゃんがやってきました。
ちなみに『魔導人形:蟲型・蜘蛛』は工房部分に置いてありますが、今はリビングです。
なので姫ちゃんにはまだアレの存在がわからないはずです。
『メール』にも新作の人形が出来たとしか書いてません。
誰が見たって驚くこと間違いなしの逸品ですからね! サプライズです!
「忙しいところごめんね、姫ちゃん」
「大丈夫」
「バケツさん! 姫ちゃんさん!」
「こっちこっち!」
「「早く早く!」」
「はいはい、そんなに急がなくてもー」
急いできただろうことは間違いない姫ちゃんですので、そんなに急かす必要はないと思いますが、そこは双子はまだまだ小学生ですからね。
自分の興味のほうが先に立ってしまうようです。
大人な面があったり、子供丸出しだったり、双子は見てて楽しいですね。
ちょっとうるさいですけど。
「「じゃじゃーん!」」
「すごい」
「えへへーちょっと悪ノリしちゃった。
ミーとムーと一緒に作ったんだー」
「すごい」
「でしょでしょー!」
「すごいでしょー!」
「「すっごいでっしょー!」」
姫ちゃんの背中を双子が押して、『魔導人形:蟲型・蜘蛛』が置いてある工房に移動すると見事に姫ちゃんは期待通りの反応です。
姫ちゃんの反応は見た目は少し蛋白ですが、双子も慣れたものです。
彼女がものすごく驚いているのをちゃんとわかってくれているようですね。
「すごい」
「こっちがねー!」
「あっちがねー!」
「「ボク(僕)達の案だよー!」」
「すごい」
「姫ちゃんさっきからすごいしか言ってないよー」
「だって、すごい」
「あははー」
驚きすぎて「すごい」しか言葉が出てこない姫ちゃんですが、双子に連れられて色々と解説をしてもらっています。
何せ色んなギミックを搭載していますからね。
8本の足に仕込まれた大剣は自由に収納が出来ますし、蜘蛛の顔部分の牙はひと噛みで私なんて即死しそうです。
人型部分も多数の装備で固められていて、その装備の説明だけでも結構大変なくらいです。
「それでそれで!」
「あのねあのね!」
「「姫ちゃんさん、これ動かして!」」
「いけそうかな?」
「やる」
一通りの説明が終われば今度は稼働実験です。
私のスキルLvでは動かすことすら出来ませんでしたが、姫ちゃんなら大丈夫でしょう。
姫ちゃんからやる気が迸っていますし。
『魔導人形:蟲型・蜘蛛』は木人形と同じように『魔導糸手袋』から伸びる糸で動かせます。
ですが、木人形は全て背中から糸を通していましたが、『魔導人形:蟲型・蜘蛛』は少し違います。
何より巨体ですから背中から糸を通しては操る糸が長くなって魔力の消費が桁違いに上がってしまいますから。
ですが魔力の消費を抑えるために、操作難易度がものすごく上がっているような気がします。
なぜなら10本の糸それぞれで各所の操作機構を別個に操作する必要があるからです。
姫ちゃんなら10本の糸を個別に操れるので可能でしょうが、他の人では満足に動かすのも難しいかもしれません。
まぁそこは魔改造のしすぎが問題なんですけど。
「おお!」
「おおお!」
「「動いた!」」
「さすが姫ちゃんだねー」
「ぶい」
私ではまったく動かせなかった『魔導人形:蟲型・蜘蛛』ですが、姫ちゃんは見事に歩かせてることに成功しています。
でも巨体すぎるので工房内ではあまり自由に動けませんね。
「ここより庭の方がいいかな?」
「そうだね!」
「庭がいいね!」
「「さっそくいこう!」」
「じゃあ姫ちゃん、『鞄』に閉まってくれる?」
「りょかい」
いくら巨体の『魔導人形:蟲型・蜘蛛』とはいっても、『鞄』に入れてしまえば大きさは気になりません。
持ち運びにも便利ですから、普段は『鞄』に収納しておくことになりそうですね。
相当狭い場所じゃなければ動かすことは可能ですが、動かすだけでも魔力が結構消耗しそうです。
姫ちゃんはその辺大丈夫なんでしょうか?
「姫ちゃん、魔力大丈夫だった?」
「ん。常時は無理。でもいけそう」
「そっかそっか。さすが姫ちゃんだね」
「ぶい」
木人形では常に操作していても問題ない姫ちゃんでも『魔導人形:蟲型・蜘蛛』では無理なようです。
でも戦闘などに限定すれば大丈夫のようですね。
きっと姫ちゃんは魔力不足解決のために魔力系のスキルも進化させているのでしょう。
生産者の私には過剰なのでいらないのですけどね。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「秘技、蜘蛛ドリル」
「おおー!」
「うひゃー!」
「「かっこいい!」」
「わー。現実だったらこれ庭が大変なことになりそうだねー」
「ぶい」
庭に出て色々と稼働実験をしてみたところ、姫ちゃんならば十分以上に動かせることがわかりました。
それどころか、ギミックを十全に稼働させ、必殺技っぽいのまで作り出すほどです。
今やったのは8本足の大剣を一点に集中させて回転するというとんでもない技です。
漫画や小説などではありがちな技ですが、巨体でやられると迫力もすごいです。
きっと破壊力もとんでもないことになっていそうです。
ただここはセーフティエリアなので土がえぐれることも壁が破壊されることもないのですけどね。
それにしてもすごいですね。
何よりも巨体から繰り出される攻撃が全てド迫力で、それでいて動きが早くて華麗です。
姫ちゃんの操作能力あってのものでしょうが、性能だけ見てもすごいのにこれほどの動きが出来るとなると……。
「姫ちゃんこれ……」
「ん……掲示板」
「だよねー。
また騒がれそうだから先出ししようかー」
「さんせー!」
「さんせい!」
「「大賛成!」」
明らかに現状では突出しているだろう性能に、姫ちゃんのとんでも操作能力が加わるっているので絶対に騒がれます。
特に巨体ですので絶対目立ちますし、もうすでに人形製作者は私だとバレていますからね。
いくら出禁という抑止力があってもこれだけの逸品では無茶をする人も出てくるかもしれませんし。
まぁ操作できるかどうかの問題もありますけど。
「……バケツさん、相談がある」
「あ、代金?」
「そう……まったく足りない」
「相場は……うわ……これはひどい」
「うわー!」
「うひゃー!」
「「なにコレ酷い値段!」」
魔改造や稼働実験に気を取られすぎて『魔導人形:蟲型・蜘蛛』の相場を見ていませんでしたが、ちょっとひど過ぎる値段ですね。
『封闇秘剣』もすごかったですが、これは更に上です。
まぁ性能的にも遥かに上ですから仕方ないといえば仕方ないのですけど。
でもこれほどの値段になってしまうと、私でも一括で支払うのはかなりきついです。
払えないことはないんですけどね。
でもそれは『オプション品』のスティール系装備を売りまくっている私だからの話です。
いくら戦闘系トッププレイヤー開拓者の姫ちゃんでも最近のイベント状況を鑑みるに難しいのはわかります。
何せミカちゃんと一緒にランキングトップを狙っているわけですから、『闇の涙』を購入するのにてんてこ舞いのはずです。
「ミカちゃんと同じように分割にする?」
「お願い」
「うん。姫ちゃんならもちろんオッケーだよ!」
「ありがと」
ミカちゃんに続いて姫ちゃんにもレンタルトレードで貸し出す装備が出来てしまいましたが、問題ありません。
何せ姫ちゃんは私の大事な親友ですからね!




