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折鶴

平安時代の身分違いの恋について自分なりに考えてみました。

知識がないまま書き散らかしたので、おかしな点も多々……。

だけど私、気にしない!!(気にしろよ)


テーマは、報われない想い


 京の都でも名高い貴族の館。色とりどりの春の花が咲き乱れる庭にある満開の桜。池の水面には桜の花弁が浮かび、池を桃色に染め上げている。そのすぐそばで鶯が二羽戯れていたが、ドタドタという乱暴な足音に驚いたのか、雲一つない青空に飛び立っていった。

 「右近! 右近はいづこか、右近!」

 庭に面している廊下を、黒髪を肩を過ぎ腰のあたりまで伸ばした十歳ほどの少女が、裾の長い着物を引きずりながら「右近!」と女房の名前を叫びながら足早に歩く。その彼女のもとに、「鶴冬様! 」と慌てた様子の妙齢の女房が一人近寄った。

 「如何なさいましたか?」

 「右近、探したぞ。千十郎はいづこにおる」

 「千十郎は先日より、病で床に臥せております」

 右近と呼ばれた女房が鶴冬と呼ばれた少女に告げるが、鶴冬は形の良い眉をしかめて口を尖らせて言った。

 「それはとうに知っておる。わらわは千十郎を見舞いたいのじゃ。右近、千十郎はいづこにおる?」

 千十郎は右近の息子で鶴冬とは乳母兄妹であり、良き遊び相手である。三日ほど前から高熱を出したので、離れの方で養生していたはずだった。

 右近は顔を曇らせ、悲しそうに眼を伏せる。

 「愚息の身には余る有難きお言葉でございます。……千十郎は、今実家にて養生しております」

 「実家? 何故この屋敷にはおらんのだ」

 「千十郎は流行病にかかったのでございます。姫様はやがて尊き方の奥方となる身。大事な御身に何かあってはなりませぬ」

 京では現在とある病が流行っている。初めに高熱を出し、激しい咳と吐き気に悩まされ、最後は命を落としてしまう。原因も治療法もわからず、僧侶も陰陽師も手を挙げている恐ろしい病である。そのような恐ろしい病を持つ者を、鶴冬に近づけさせるわけにはいかない、というのが屋敷の主の意向である。

 「千十朗を追い出したのは父上か」

 「追い出したのではありません。千十朗のためにも、生まれた場所で養生させよと言われたのです。それでは姫様、私はこれにて仕事があります故……」

 右近が鶴の前から下がろうとしたとき、「くだらぬ」と、ひどく冷めた声で鶴が呟いた。

 「この家は男には恵まれても女には恵まれておらぬ。唯一の女であるわらわに何かあれば、天皇家やその系列の家と繋がる事が出来ず、父上の出世の道は閉ざされる。わらわのためだの千十朗のためだの言ってはおるが、父上が考えるのは常に己の権力よ」

 「姫様! 滅多なことはおっしゃられますなっ」

 他の者達に聞かれたら大事だと、右近は辺りを見渡すのをよそに、鶴冬はふんっとそっぽを向く。

 「何をいまさら。父上の権力に対する並々ならぬ欲は、皆知っておろう」

 「姫様っ」

 鶴冬は踵を返し、来た道を戻ろうと一歩を踏み出すが、何かを思い出したのかふと立ち止まる。そしてくるりと右近を振り返り、言った。

 「右近、確か先日父上が商人から珍しい色のついた紙を取り寄せておったな?」

 「え? ええ、確か右大臣殿に献上するのだと、宴の席で昨日申しておりました」

 「うむ、急いでその色紙をわらわの部屋まで持ってまいれ」

 これは良い案を思いついたぞといわんばかりに興奮で両頬を桃色に染め、顔を輝かせる鶴冬をよそに、右近の顔色は血の気が引いて真っ白になる。

 「なりませぬ! あれは右大臣殿に献上するのだとっ」

 「案ずるな。父上は唯一の女子であるわらわには甘い。わらわが未来の殿方のために和歌を書くのに欲しがっているといえば、最初は渋ってもなんやかんやで下さるだろう」

 立派な姫君の教養として、第一に習字、第二に七弦の琴を誰よりも上手に弾けるようになりなること、そして古今集の歌二十巻を全て暗記することがあげられる。鶴姫は琴以外は皆嫌いで、習字も和歌もきちんと学んでこず、これでは位の高い婿を迎えることができないと鶴冬の父である従三位も頭を悩ましていた。だからこそ、色つきの紙なら習字もかねて和歌もきちんと勉強すると言えば、従三位も最初は渋っても鶴冬に紙を渡すだろう。

 「それならば従三位殿も下さるでしょうが……なぜ色紙を?」

 千十朗に和歌でも渡すのだろうか。あの子に和歌なんて高等なものわかるかしらとそう心配になりつつ鶴冬に尋ねると、まるで雪原にある梅が赤い花を一瞬で咲かせたかのように白い肌を真っ赤に染め、うじうじと手を弄りながら「鶴を折るのじゃ」と小さくつぶやいた。

 「鶴……でございますか?」

 「うむ」と頷くと、鶴冬は飛び立っていった鶯の軌跡を追うように、広い空を見上げた。

 「昔母上が言っていたのだが、鶴は千年生きるそうな。わらわは本物の鶴を千十朗にやることはできぬが、紙で折った鶴ならやれるじゃろう? 早く元気になってもらわぬと、一人で遊ぶのはつまらぬ」

 あぁ、安心するがよい。父上の目をごまかすのに一応和歌も書くから、右近が父上に言わない内は紙を鶴を折るのに使っていても知られることはないだろうと、鶴冬はその可愛らしい見た目とは裏腹の意地の悪い笑みを浮かべる。

 右近は鶴冬のその凶悪な顔に内心引きながらも、彼女が千十朗のことを気にかけてくれることをうれしく思い、言った。

「ただちに姫様の部屋に紙を持ってまいりまする」



それから鶴冬は毎日ではないにせよ、鶴を折り続けた。ある日は赤い紙の折鶴を、またある日は黄色い紙の折鶴を。早く千十郎が良くなるように願いを込めて。折った鶴は千十郎に届けるように、右近に申し付けて渡していた。

鶴を折り続けてどれほど経っただろうか。とある天皇家と繋がりのある家に入り、髪も丈に余るようになるほどの時が経ち、折った鶴の数が千に達したある日のことである。鶴冬は夢を見た。

夢には子供の千十朗がいて、彼の目の前には同じく子供姿の彼女がいる。千十朗はぬくぬくと成長して彼女の身の丈を超えた立派な青年になり、鶴冬も千十朗よりは低いものの背が伸び髪も伸び見事な女性と成長する。千十朗は優しく鶴冬を見つめていて、それに鶴冬が嬉しくなり近寄ろうとすると、二人の間から千羽の折鶴が吹き出すように空に向かって飛んでいき、彼女が折った千羽めの鶴が千十朗を連れて空に飛び去っていく。彼女を残して。

「待って、千十朗!」

鶴冬は天井に手を伸ばした形で目を覚ました。息は荒く、単衣は寝汗で湿っている。

「ゆめ……」

腕をまぶたの上に置き、先ほどの夢の内容を思い返す。幼い頃、千十朗に抱いていた淡い想い。この家に入るとき、捨てるつもりだった。けれど、結局捨てられず、時がたてば経つほど大きくなる。かつて式子内親王が「玉の緒よ」と詠んだ歌を聞いた時は、何を気弱なことをと馬鹿にしたものだが、皇女がこの歌を詠んだ時の気持ちが、今の鶴冬は痛いほどにわかる。

「寝なおそう」そう思いごろりと寝返りを打つと、目の前に闇の中でもわかる真っ白い折鶴が置いてあった。その下には長方形の紙が敷かれてある。月明かりに紙を照らすと、「夕暮れは雲のはたてにものぞ思ふ天つ空なる人をこふとて 」と少し乱雑な筆使いで書かれていた。慌てて御簾を上げ、辺りを見回すも、鼠の姿一匹も見つからない。鶴冬は霞かかった月を見上げる。

「闇の夜に 鳴くなる鶴の 外のみに 聞きつつかあらむ 逢ふとはなしに 」

 一筋の涙が彼女の頬を伝った。



おわり


和歌の意味


夕暮れは雲のはたてにものぞ思ふ天つ空なる人をこふとて

(夕暮れは雲の果てにさえ物思いする 天高く空の上にいるような、手の届かぬあの人を恋しく思うから)


闇の夜に 鳴くなる鶴の 外のみに 聞きつつかあらむ 逢ふとはなしに

(闇夜に鳴く鶴の声を聞くように、遠くからお噂ばかりを聞いて過ごすのでしょうか、お逢いすることもできないまま)


本当は、

我が恋はむなしき空にみちぬらし思ひやれどもゆく方もなし

(私の恋はむなしく空に満ちてしまったらしい どんなに思ってみても、行き場が無いのだから)

も入れたかったのだけど、断念。


ちなみに、折鶴を夢で見るのは夢占いの視点で見ると良くないです。

鮮やかな千羽鶴や色とりどりの折り紙を見るのは、精神的な葛藤、届かない思いなどネガティブな要素を持ちます。

ただし、巨大な折り紙に乗る、巨大な折り紙をきれいに折るイメージは、願望成就を暗示する吉兆になることがあります。


あれ? もしかして成就するのかな??(作者でもわからない)

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