同盟国を求めて
王国は、各課トップ5人と現特務員を含めた25人を王国の使者という名目で各地へ放った。
無論、これは使者という形での亡命でもあり、25人もそれは分かっていることだ。
アナトリーはエルフという種族であることも考慮に入れ、ローデリア辺境府にある――――別名エルフ王国等とも呼ばれる――――サンタリオーネ王国へ。
ハンナはローデリア辺境府のリベェリ村を経由し辺境を回る。
凍太は、南の大陸へ旅立ち、同盟国を特務として探すことになった。
友として、同行するのは皐月。同じ月狼国の生まれであるのも関係していた。
そして――――監視役を続けるという名目でついてきたのがヴェロニカだった。
今回、シシリーは王国の中に残る生徒たちの為に、付き添いは却下となった。が
代わりにヴェロニカがシシリーに何らかの密命を受けていることは間違いなかった。
しかし、凍太がいくらそのことを聞いても、ヴェロニカは無視を決め込むばかりだった。
先ずは二人とも月狼国へ向かう航路をとっている。
一時的に親元へ返した実績造り――――所謂世論をこれ以上騒がせない為の措置だ。
翁視国の皐月の家に一泊した次の朝から、皐月は凍太にべったりとくっついて離れなかった。
どこに行くにも、手を引いてつれ回す。皐月は凍太からはなれようとはしない。
(シシリー導師のお墨付きもあるでござるし。ここは一気に凍太殿を落とすチャンスでござる)
シシリーから雪花国向かう旅の間、皐月はシシリー私室に呼ばれて
「私はいけないから、代わりに貴方に凍太ちゃんの護衛を頼みたいの。一度、雪花国へ里帰りをするはずだから、ついて行ってあげてちょうだい」
そう言われた時には皐月の頭には凍太を自分の良人にしてしまうという画策が浮かんだ。にやけそうな顔を必死にこらえるのがシシリーにはバレてはいただろうが、まぁ仕方ない。
雪花国に続く山間部のほそい山道を通ろうと差し掛かった時だった
「止まるでござる」
皐月が警戒感をあらわにした。
「どうしたの?」
皐月の背中に守られるようにしながらも――――凍太自身も風による魔術の防御を3人へと掛けて待機する。
「硫黄と炭・・・・・の匂い。どこからか狙われておるやもしれませぬ故、気付けるで御座る」
皐月は風に乗って流れて来ていた臭いをかぎ取った。賢狼族の嗅覚は鋭い。
山道を登りきり、雪花国の鉄城門までたどり着くと、城門の両脇の鉄砲櫓から声がした。
「何者か?名を名乗られい」
「「蛇の王国」特務員凍太と」
「騎士課第3位の皐月と」
「その御付のヴェロニカです―――――どうかご開門を」
そう言うと、銃眼からは銃口が消え代わりに喇叭が姿を現し、「王国の使者」が来たことを表すファンファーレが鳴り響いた。
――――――!
響くファンファーレに住民の皆は皆一様に顔を門へ向けた。
門が開き切ると、雪景色のなか、住民が凍太の事を見つけて駆けよって取り囲んだ。
「良く帰って来たな!凍太坊!」
「随分背が伸びたじゃねえかぁ」
「大きくなったなぁ」
街いる移民の男達数人に囲まれて近くの露店で腰掛けていたところ、通りの奥の方から雪煙が上って何かが迫ってくるのが見えた。
「おぃ―――――凍太坊。逃げた方がいいぞ」
露店で酒をひっかけていた男は、慌てる様にして露店の後ろへ隠れだした
(何だろう)
と考えているとヴェロニカが凍太と皐月を小脇に挟んで上空へと舞い上がる―――上空らか見てみれば――――雪煙の正体はイリスの操った4頭立ての犬型ゴーレムで退かせたそりが原因だと知れた。
イリスも凍太を上空に見つけ、そりを横にする様にして慣性を止めると
急いで、凍太達の足元まで駆け寄って、指先で何かを虚空に描くと――――ふわりとイリスの身体が空中に浮かんだ。
「精霊魔術だね」
「ええ。相当に使い慣れているのでしょうね。起動がはやい」
凍太の眼前までイリスが迫ろうとして――――
「させぬ!」
そこに割って入ったのは――――皐月だった。
抱えていたヴェロニカの脇からするりと抜けて、彼女は、イリスに横からぶつかる様にして右ひざを叩きつけた。
空中で飛び膝を横からイリスに見舞ったのは皐月だった。
「ひゃぁっぁぁぁぁぁ!」
軌道をずらされて、横に吹き飛んでいくイリスを、皐月は、下に落下しながら確認し、そのまま、ドスンと地面に着地をして見せた。
(落下点はあそこらへんか――――逃がすものか)
落下予測点を確認し、足に力を籠めようとしたところで―――
「両者それまで!」
ひと際大きな静止の声が皐月を踏みとどまらせた。
(何者でござる?)
訝し気に周りに気を放つ皐月の前に人垣を割る様にして姿を現したのは――――
着物姿に白衣を纏った女性だった。
「紗枝さん!」
空中から抱きかかえられるようにして凍太が声を掛けると――――
紗枝は軽く手を上げる様にしてそれに応じて見せた。
「いきなり突進してくる方が悪いのでござろう」
「久しぶりに彼氏に会えたんだもん!いきなり膝蹴りをお見舞いするなんてどうかしてる!」
「お黙りなさい。二人とも」
いがみ合う二人をヴェロニカは冷ややかな目で黙らせた。
「まぁ――――とりあえず、よくぞ戻りましたね。凍太」
雪乃の自宅の客間で、凍太と皐月、ヴェロニカの3人は街長である雪乃に対面していた。
「かれこれ――――4年ですかねぇ。随分と手足が伸びましたね。壮健そうでなにより」
お茶を飲みながらひじ掛けに頬杖をつく雪乃の姿は、この4年間で一層、すごみが増しているように見える。まるでどこかのダークヒーローのようだ。
「雪乃様もお元気そうで―――――これをシシリ-様より預かっております」
ヴェロニカは鞄より1枚の手紙を取り出し、雪乃へと渡した。
裏を返して見れば――――魔術印で封がされている所を確認して「開封」とだけ呟く。――――と、一人でに封筒が開き、中身がせり出す形になった。
雪乃は中身を広げ、読み進めると、やがて、パタリと閉じた。
「大体の事は分かりました。凍太を南の大陸に遣ることも――――できれば我が国に同盟国となってほしいことも。しかし、分が悪くはありませんか?
同盟を組む以上それなりの数でなければ、ローデリア共和国とは渡り合えませんよ?」
雪乃は簡単にくびを縦に降ろうとはしない。
当然、負けが見え隠れする交渉等は乗れるはずもない。
「まぁ答えは保留としますかね。答えはそうすぐに出はしないでしょう。凍太が同盟を取り付ける事が出来れば、その時は考えないでもありません」
ニヤリと雪乃は笑って見せる。―――――かなり無茶な要求であった。
しかし、リスクのない賭けなど存在しないのも確かだと、このに場にいる誰もが分かっていることでもあった。
「要するに――――だ」
トウタは皐月と街を歩きながら考えていた。
「僕達は賭けに勝たないと行けないわけだ。しかも、当たる格率はかなり低い」
「ムウ」
唸ったのは皐月の声だ。なにやら難しい顔をして先ほどからうんうんと唸りをあげている。
「もう少しすると寒気に入る。雪で埋もれる前に動き出さないと行けないわけだ」
「さしあたって、手始めは何処を訪ねるでござるか?」
「問題点はそこだよ。南の大陸になにがすんでいるのか、皐月は知ってる?」
「某も、あまり詳しくは。只、ハーピーやダークエルフの集落はあるようでござるが」
トウタたちの渡ろうとしている南の大陸はいまだ多くが解読されてはいない。未開の地。なにがすんでいるのかすべては噂と文献によるのだ。
例えば、ダークエルフであるが、
肌は褐色。魔術の素養は強いが絶対数はエルフよりも少ない。傭兵として生計を立てるものが多くあまり話を聞いてくれそうなイメージは沸かなかった。
「ダークエルフか――――イリスちゃんに同行して貰え――――」
「不要にござる」
「え?だってイリスちゃんが居れば話が通るかも――――」
「不要にござる」
皐月は頑ななまでにイリスの同行は認めない気らしいことを凍太はこの時悟った。
(分かったよ――――この話は皐月はしたく無いんだね)
納得してこの話をこれ以上、しないことに決めた。
(やれやれ――――イリスを同行させられて溜まるものか。まったく鈍いにもほどがあろうに)
皐月は心中でため息をつくしかなかった。
「ハーピーはどうなのかな?」
「ダークエルフ同様に、数は少のうござる。加えて住みかが――――」
「ああ――――岩場に住んでるだっけ?」
「左様。行くまでに苦労でござるぞ?」
「あとはケンタウロス。コボルド、オーク…でドラゴニュートくらいかぁ」
「どれもぱっとしないでござるな。交渉ができそうなのはケンタウロスくらいですかな」
「でも、かなり高慢なんだよね?」
「文献によれば、武は立ちそうにござるが、頭が固くて難儀すると習ったことがござるな」
「ドラゴニュートは?」
「あれは他の部族に干渉をしない事で有名で御座るぞ?乗ってくるとは思えませぬ」
皐月はお手上げだと、いうように手をあげて見せた。
「参ったねぇ」
「参ったでござるなぁ」
2人は雪のちらつく空を見上げる。空は曇天だった。
「いい案は浮かびましたか?」
家に帰ると、庭先で雪虎のレイレイのブラッシングをしながら雪乃が凍太達を呼び止めた。
「全然です。さっぱり」
凍太は首を左右に振って見せた。
「でしょうねぇ。あのジジイもそう上手く同盟が見つかる等と思ってやしませんよ。生徒を逃がすほうが最優先だったのでしょうね。まあ、ローデリアのやり方はそのくらい手回しが早い。という事です――――それは置いておいて」
雪乃はブラッシングしていた手を止めて、凍太へと向きなおった。
「どうです?――――久しぶりにおばあちゃんに遊びましょうか?どうせヒマでしょう」
雪乃は漢服の袖をまくって見せた。
「どちらかが一発。相手に有効打を入れられたらそこで終い。シシリーの所で遊んでいなかったことを見せなさい」
雪乃の目は本気だった。
「分かった。――――でも本気で行くからね?」
「手加減など不要です―――――そこの。レイレイと共にもう少し下がりなさい。でないと――――けがをしますよ?」
今回は互いの膝を合わせた所から攻防は始まった。
背丈はほぼ一緒だが――――雪乃の方がまだ高い――――あと3年もあれば追い越してしまいそうではあったが。
足の長さはほぼ同じ。腕は雪乃の方が少し長めに見えた。
(嫌な間合いだな。足で突き放しにかかるか――――手業と立ち関節で攻めるか)
御互いの手の甲を合わせて――――押し比べをしている状態で、互いに相手の重心を崩そうとしている。そんな中で、雪乃の足が音もなく動き、凍太の足をひっかけて転ばせようとする――――が、凍太はそれを賺して、躱し、代わりにローキックを雪乃の膝に入れた。
パァン。
乾いた音が響く。が――――痺れたのは凍太の足の方だった。
(膝で受けられた・・・・ダメージがあるのはこっちだな)
「ふふん。ほら上がお留守ですよ」
今度は手業が変化し、縦正拳から親指で目をひっかけるような動きまでもが追加された。
凍太も相手の肩口――――鎖骨を狙って肘を上から落とし、威力を削ぐ。
雪乃のサミングが凍太のこめかみ辺りを引っ搔いて凍太の頬が少し裂ける。
それを見ていた皐月はあんぐりと口を開けたままで動かなくなった。
(何でござるか!?コレが試しあい?実の孫で御座ろう?!)
自分も親族と手合わせはするが、
ここまで手加減しないものを、見たことはなかった。
打ち合いは続く。
いつの間にか少しずつ、間が開いてお互いに戦い方を変えて行く。
雪乃は手技と足技が半々。対するトウタは黙々と、雪乃の攻撃をそらし続けている。
(おかしい。トウタ殿の攻撃は足技が主ではなかったか)
皐月が、思っていたことが、雪のもどうやら不振に、思ったらしい。
「防ぐのは上達しましたねぇ。足技はどうしました?」
問いながら、雪乃がトウタと間合いを調整しようとした時だった。
凍太の手が、雪のの手首を外側から握り――――ほんの一瞬、手首を極めた。
(!)
(手首を外そうと動けば――――フィニッシュだ)
雪乃は手を引っこめる――――凍太はそれに合わせて手首と肘が、延びきる瞬間を待って、がら空きになった脇に横蹴りを合わせるつもりだった。
たが、雪乃は予想に反して手を引こうとはせず、そのまま極めた筈の力の入らない手首のまま拳をつきこんで来た。
ドんっと拳が当たると今度はその手でトウタの襟首を掴む。
(やば!)
そう思ったときはもう遅い。
眼前に雪乃の頭突きが真正面から叩き込まれ、そのまま凍太は気を失ってしまった。
「あてて」
縁側に腰掛け凍太は治療を自らに行っていた。
「最後の技はなかなか良い手です。並の者で有れば、お前の思う通りに技が決まったかもしれませんね」
実際に勝ったのは雪乃である。頭突きが決まり、そのまま庭先で気を失ってしまっていた。
「まぁここまで動ければ、良しとしましょうかね。が、まだ詰めが甘い。南の大陸に行って色々な戦いをしなさい。交渉事、だまし合いなんでもです。
南の大陸は力が強い者が幅を利かせます。それを良く覚えて起きなさい――――それと、一つ条件があります」
「条件?」
「イリスを同行させなさい」
「――――それは困りまする」
ここで雪乃の言葉に静かに反論をしたのは皐月だった。
「なんです?皐月―――何が困るというのです?」
「雪乃様のお下知は最も。されど、今回に限ってはイリス殿の同行は不要でございます」
皐月は頭を下げたまま、そのまま動かない。
「ふむ――――なにか思う所があるようですねぇ。なら、イリスと皐月で戦ってかった方を行かせるとしましょうか」
雪乃は軽い感じで――――そんなことを呟いて見せたのだった。




