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Stand and 

言葉を理解している事が、周知の事実となってから、一か月程。

首がようやく座ってきたのか、自分で「お座り」をできるようになった凍太は、寒さを感じて目を覚ました。

周りが明るくなっているのを感じて、目をゆっくり開く。まだ体は起きてはいないけれど、トイレに行きたくなってのそのそとハイハイで布団から、抜け出す。隣には凍子が眠っているのをみて、起こすべきか迷ったけれど-----結局、自分で用を足すべく、トイレに向かって動き出した。

襖に手を掛けて横にスライドさせる。一人が通れるぎりぎりの隙間を空けて「ハイハイ」で通り抜ける。

捕まり立ちはできるようになっていたが、すぐに転んでしまうので「ハイハイ」が効率いい。


板張りの廊下をハイハイで進む。

横目で、中庭を見ながら、トイレへと全速で向かう。

その時だった。急に前へ進まなくなり、目に移る景色が高いところに変わった。

「おはようございます。凍太さま」

後ろから、紗枝に抱きかかえられて、挨拶をされていた。


「ああぅ」

俺はとりあえず挨拶をして---とはいっても「おはよう」とは言えなくて「ああぅ」になってしまったが---続いて、いつも口にしているお決まりのセリフ「しーしー」を紗枝さんに伝えた。

「ああ、そうでした。『しーしー』ですよね」

紗枝さんはそういうと俺を抱きかかえたまま、トイレに一緒に入り、下着を一気に降ろしてくれた。

(・・・・なんどやってもらっても恥ずかし・・・)

紗枝さんに腰を支えてもらいながら、眼前にある穴に向かって用を足す。この世界のトイレは残念ながら、ウォシュレットもないどころか、便座もなくーーーただ単に穴を掘ってそこに蓋をしてあるだけの簡素なものだった。が、一つ違っていたのはトイレ後に、壁にある黒い石に手を翳して―――

排泄したものを流すということ。妖石、魔石というらしい、『この石に触れることによって水が流れる』そんな仕組みなんだなと毎日の動作の中で

なんとなくだったが、学び取っていたので、触れていつものように水を流した。




「いやー。偉いですね。ちゃんと妖石を使ってお水を流せるようになったんですねぇ」

わたくしは言いながら、凍太様の身支度をし、共にそこを出ました。

(・・・・妖石の使い方を見て覚えた・・・? 誰かに教わったのかしら?)

この子は言葉が理解できている。だとしたら、誰かにやり方を教われば、できたかもしれない。

でもーーーすこし早すぎる。何もかもが、普通の子供の基準を上回っている。才能。速成。そんな部類の言葉で表すのがぴったりの成長の早さなのだけれど、

(どこまでできる様になるのか・・・・見てみたくなってきちゃった)

内心ウキウキする。

そして抱えていた凍太様をゆっくりと廊下に降ろすと、同じ目線から凍太に言い聞かせるようにやさしく、こういった。


「凍太さま。立って歩いてみましょう」とーーーー。



『立って歩いて』

紗枝さんから告げられた言葉に俺は頷いた。

座ったままの姿勢から手をついて、立ち上が---ろうとして、しりもちを付いた。

「凍太さま。もう一度」静かだが、紗枝さんの指示が飛ぶ。それから4、5回してやっとバランスを両手で取りながら、なんとか立つことができた。

「あぅー!」

俺は声を上げながらしばらく、立つことに専念していたが・・・

「・・・・凍太さま。そのまま、こっちに進んで歩いてみてください。足を一歩前に。手で平行を保って」

もう一度、紗枝さんの指示が飛んだ。

手で平行・・・・バランスを保つ。意識する。腕でバランスをとるようにして、ふらふらしながらも、一歩を踏み出す----と、歩けていた。

(歩けた!)

多少、よたよたしながらではあるが一歩一歩進んでいくのが実感できる。5歩目に差し掛かろうとしたところで、紗枝さんが抱き留めてくれた。

「あぅーあぅー」

「お見事です」

そういうと紗枝さんは、にっこりと笑って俺の頭を撫でてくれたのだった。





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