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亜人達の国と黒騎士団


占領後、亜人達が南吠に移住を開始したという噂は、各国、各紙が連日の新聞で伝えるところにより、月の都に住む鳳麗華の知る所となっていた。

「全く・・・・諸侯は何をしてるのよ。こういう時こそ諸侯の腕の見せどころじゃない」

麗華はメイドにお茶を出させながら、尻尾をぼわんと大きくふくれさせた。

「お嬢様。尻尾が大きくなっておりますよ」

麗華は怒ると、尻尾に出やすい。起こると膨らみ、緊張すれば立ち上がり、悲しくなるとへにゃりと萎れるのだ。

「仕方ないじゃない。南吠をせっかく守ったのに、あっさり奪い返されたなんてうちの国は何してんのよ」

「仕方ないではないですか。あの一帯を治める領主様はもうご老体。長年臥せっておいでとか」

「だったら、他の代行がいる筈でしょう?」

「動いているようですが、既に亜人達が街に入り込み、他の街に、攻め込まれぬよう防衛線を張るところまでしか出来ていないのです」

「むぅ――――」

メイドはお茶を麗華に差し出す。と麗華は両手でカップを持ったまま黙り込んでしまった。



「すぐに偵察隊を用意なさい。率いるのは紗枝、お前で良いですね?」

「はっ」

雪花国の町長の自室で雪乃は机にどっかりと腰を下ろしたまま、紗枝に指示を出した。

「元暗殺者のお前の力。鈍ってないか見せてもらいますよ。探ってほしいのは南吠の街の状況とおよその兵数。あとは烈火のミリアスとやらの情報もお願いしましょうか」

「畏まりました」

「行きなさい」

紗枝は片膝立ちのまま、頭を下げるとそのまま部屋を静かに出て行った。

(さぁて――――ウェルデンベルグのジジイはどう出るでしょう)

机に座ったまま、雪乃はぼんやりと外を見る。雪花国は今日も雪模様だった。


紗枝は自室に戻り、隠してあった兵装を床下から取り出している最中だった。

(また、これを付ける日が来るなんてね)

鎖帷子と腰には数本のナイフ。足には皮ブーツを履き、双眼鏡と各種薬物も用意する。

上から竜の被膜が編み込まれた外套を羽織り、頭とつま先だけが見える格好になる。

これから、ローデリアの故郷に渡り、仲間を集める。月狼国の傭兵達を使うことも考えたが、事の隠密性からやはり自分の元仲間を使う方が有効だと考えた。

情報収集なら3人もいればいい。自分とあと二人に声をかけ、現地に集合。各自、情報を持ち帰り、雪花国へ帰還する。

(お役に立って見せます。雪乃様)

紗枝は表に出ると、音もなく、その場から移動を開始したのであった。


一方、その頃、南吠の街は亜人が南の大陸から「女王」アリーナと「鉄腕」ヴァンデットの船で移住を開始しているところだった。

移住が始まって5日。南の大陸から亜人を兵力として移住させるとともに、黒騎士団も派兵が決定していた。

「隊長ォ。南吠なんてしけた街に俺らが行く意味あるんですかぃ?」

黒騎士団の一人がだるそうにつぶやくのを、海賊船の大部屋でグレイスは聞いていた。

「いいじゃないか。亜人を率いて南吠を支配すりゃ、そのうちあたし達に南吠をくれるっていうんだ。悪い話じゃないさ」

「でも、雇った奴らは流れモンばっかりだ。種族も雑多ときてる。骨が折れますぜ?」

「好きにやらせておけばいいさ。そのうち種族同士でコミュニティーが出来上がる。君臨すれども統治せずって奴さ」

「隊長は頭いいスねぇー。コミュニティーってのがなんだかわかりやせんがね」

グレイスはまだ英語をそのまま使ってしまうことがあった。が部下にはなんとなく伝わったようだった。


南吠の街は第二の混沌の街と化していた。

流れ者の犯罪者。客を求めて来た行商人。自分たちの居場所を得ようとした亜人達。

そんな者達が、港町のいたるところに住み着きもともと人間のいた場所は亜人の住処に代わっていた。

路上にはバラックが出来上がり、家のないものがすんでいたりする。それでも仲間意識はあるのか日がたつごとに、種族同士で寄り添いあい住んでいるのは不思議にアメリカに居た時の記憶をグレイスに思い起こさせた

(ユダヤとチャイニーズは相いれないみてぇなもんだ。上手くできてら)

昔の記憶を思い返しながら、通りを歩く。後ろには黒騎士団が続いていた。

黒い鎧に黒いマント。上から下まで黒一色。

ガシャリ、ガシャリと足甲が音を点てる。

その音をきいて通りが一瞬静まり返るのをグレイスは見逃さなかった。

(この辺でいいか)

「ヨォ――お前ら、元気にやってるみてぇだな。OK。OK。アタシはグレイス。グレイス・ミュラー。黒騎士団の隊長をやってるモンだ」

グレイスは歩を止めると、黒剣を杖にしたまま道の真ん中で、グレイスは声高に演説を始めた。

「ああ―――あたしは煩いことは言わない。ただ、この街に住む以上、戦いが起こったら、全員アタシたちの指示に従ってもらうよ?!――――イイネ?」

回りの住人は何も言わない。

言えば、粛清が待っているのを皆肌で感じ取っているのだ。

グレイスは周りが何も言わないのを肯定と受け取って先を進めた。

「オーライだ。実にいいネぇ。ここはもう南の大陸の一部サ。自分の居場所が欲しけりゃ、戦って他所から奪えばいい。だろ?」

「そうだ!」

誰かがグレイスの言葉を聞いて声を上げた。

「奪ってやればイイ!」

次々と、声が広がっていく。

(ああ――――大統領にでもなった気分だ。実にイイネ)

通りのあちこちから歓声が上がるころには、グレイスはにやけ顔をさらににやけさせた。

「さぁ――――ここは楽園だ。みんなで楽園を広げて行こうじゃないか!」

「イエァ――――!」

歓声が広がる。

こうして第二の混沌の街は着々と支配の色を強めて行ったのである。




凍太はエリーナ導師の言った海賊の事を調べるために図書館へと向かっていた。

食堂を通り抜けたその先にレンガ造りで半円状の屋根を持った建物が姿を現した。


凍太は海賊のことを知るべく、一人で食堂を通り抜け、中庭に差し掛かかると

「よお」

前方からエンリケが声をかけてきた。手にはいつものライフルはない。変わりに本が何冊か抱えられているのが見えた。

「こんにちは。エンリケさんも図書館に?」

「新装備のアイデアが欲しくてな。お前は?」

「僕も調べもの。海賊の事が知りたくて」

「海賊?あんなやつらの何が知りたいんだ?まさか海賊になるってんじゃないだろうな?」

エンリケがむにっと凍太の頬を引っ張った。

「違うよ。敵として情報が欲しいだけだって」

そこまで凍太が言ってエンリケの眉毛がピクリと動いた。

「面白いな。それなら司書のイザベラに聞いてみな。アイツならお前にぴったりのもんを出してくれる」

「司書さんか。わかった。聞いて見るね」

バイバイと、てを降って別れを告げ、凍太はまた図書館へとむきなおった。



司書のイザベラ・モールドウッドは

銀髪ロングにやせぎすの姿が特徴の女性であり、実のところリッチーでもあった。

アンデットの長などとうわさされるリッチーであるが、不死であるということと、歳を取らないということ以外は、見た目はただの人間と大差ない。


時折、王国の生徒たちから挨拶され、手を振ってこたえる姿は図書館の司書。そのままだ。

カウンター越しに凍太が海賊の事が知りたいというと、司書イザベラは少し思案したのちに

「ふむ、それならばいちばん左側の4段目辺りがいい。しかし――――お前では届くまい。どれ、私が取ってやるとしよう」

そう言うとイザベラは傍らにあった杖を一振りした。

すると図書館の宙を浮いて10札ほどの本が移動し、凍太の上でピタリと止まる。

途端に宙に浮いていた本は制御を失ったかのように落下を初め、下に居た凍太に降り注いだ。

(――――っ)

落下を始めた本にいち早く気付き、急いで魔力経路を振ってくる本へつなぎ、慣性を止めるような命令をイメージとして展開すると、2、3冊は落下したものの

大半の本は空中に制止したままとなった。

(ふむ。やりおる)

イザベラは凍太の魔術構成を見て、内心で感心した。

「すまぬ。構成が不完全じゃったな」

そう、謝るイザベラを凍太は不信感ありありでみていた。


「お?」

ページをめくりながら、海賊の事を探す。しばらくすると、過去の事件が載って居る文献の中に海賊の名がいくつか見て取れた。


海賊は、権力者によって住んでいた島を追われ、海上で他の船舶を襲撃し続けて新しい生き方をしていくようになった。商船を攻撃し、その貴重な荷物を捕獲するという、船乗りにとって魅力はあるが、法に触れる機会を作りだした。

『まっとうな仕事は、食い物は貧しいし、賃金は安くて仕事はきつい。この仕事はお宝はたんまり手に入るし、楽しくて簡単、そして自由で力がある。こんなうまい仕事、やらずにいられる奴がいるのかい? 最悪の時は縛り首にもなるだろうが、「人生は太く短く」が私のモットーさ』

本を見れば、そんなことが書いてある所さえあるくらいだ。

「面白いかね?少年?」

ふと顔を上げるとそこには、先ほどの司書が頬杖をついて対面へと座っていた。

「ちなみにその言葉を言ったのは、誰だか知っているかね?」

「今読み始めたばっかりだよ?まだわかんないさ」

凍太は少しだけ頬を膨らませた。

「その言葉の主は、『海賊女王』アリーナの母親、アンナ・ベニーが語った言葉サ」

凍太はすぐに、アンナ・ベニーという名を目次で調べ始める――――と、すぐにその項目は見つかった。

古い書籍の主要な海賊としてリストアップされている中にアンナ・ベニーの名前は載っていた。それと共に肖像画も。

海賊帽子を目深にかぶり、煙管を咥えた人物で髪は長い。どう見ても女のように見える容姿だった。

「女の人なんだ?」

「女海賊がそんなに不思議かね。少年?」

「不思議っていうか・・・・なんか怖そうな人だなって」

「怖そう。そうだな。その表現は当たっているな。おまけにアンナ・ベニーは冷徹で剣の名手でもあった―――そしてそれは娘のアリーナにも受け継がれている」

「へぇ。娘がいるんだね」

「そう。『女王』アリーナさ。詳しくはその右側の本を見るといい。比較的新しい情報が載っている」

そういって司書は指で凍太の右側に積まれた二番目の黒い表紙の本を指し示した。

指し示された本を開き少し読み見進めていくと、アリーナ・ベニーの名前が載っている。

危険度は大。海賊女王のアンナ・ベニーの娘。犯罪歴は多数。配下総数は不明。

性格は母親アンナと同じく冷徹。特徴は母親の形見の煙管と二振りのカトラスソード

読み進めていくうちに凍太は「ふう」とため息をついた。

「どうした?」

「いや―――結構な大物だなと思って」

「そうか。まぁこのほかにも仇名される海賊がおるのは知っておるか?」

「うん、ここに書いてあるね。エディル・ガラード。ファン・ロー。」

「そうじゃな。がそのほかにも、押さえておかねばならぬのは「鉄腕」ヴァンデット・ビーンと「烈火」ミリアス・ヘイルがおる」

「全部でえっと・・・・・」

「5人。コレを総じて5大海賊と呼ぶ――――この間、南吠を攻め滅ぼしたのは「烈火」ミリアスじゃな」

(ミリアス。それが今度の敵か)

凍太は司書の説明を聞きながら思案した。

(烈火なんて呼ばれてるってことは何かあるんだろうけど――――)

ぺらぺらとページをめくりながらミリアスについての情報はないかと探るが分かったのは最近台頭してきた新興勢力で比較的新しいという事だけだった。

「ミリアスって人の情報はあんまり乗ってないね」

「ミリアスはここ2,3年で騒がれだした、海賊じゃからの。あまり詳しいことはそこには乗っておらぬ――――じゃが、儂の知ることで良ければ教えてやってもよい」

「本当?」

「本当だとも。知りたいか?」

「うん」

「よかろう」

こうして、ミリアスの情報を司書イザベラは凍太に語りはじめたのだった。

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