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もう一人の転生者

南の大陸の北端に悪逆の都と揶揄されるクヌートがある。

港湾都市だが、そこは普通の街ではない。五つの海賊団が街を同時に治めており

住人はほとんどが悪人だ。

「良く集まってくれた」

悪逆の都の中心部にある一番大きな酒場の個室に5人の男女が高級そうな椅子に凭れている。

今日は、クヌートを治める5つの海賊団が一堂に顔を合わせる『連絡会』の日でもあった。

「急に呼び出したからにはなんかあるんでしょうね?」

五人の内の一人、高価な衣装に身をつつんだ女がくわえ煙草を揺らしながらおとこを冷ややかに見据えた。

「そいつについては、ミリアスから報告があってな。東の大陸に行っていたミリアスの部下、『皆殺しのモリス』が帰ってこねぇそうだ」

「おおかた、他のとこも襲ってるに違いない」

他の3人もうち二人は女だが、どちらも真っ当な格好はしていない。

「ハッそりゃそうだ!モリスの船は200人からいるんだ。一つの街じゃくいたりないだろうぜ。だろう?ミリアス」

「だといいんだがな。今回はどうも違うらしい。他の船が、催西の沖でモリスの海賊旗が浮いているのを見たらしい」

「・・・・」

「じゃあモリスは返り討ちにあったってのか?」

一緒、場が静まり返る。皆、真面目な顔つきにもなった。

「さぁ、だが――――帰ってこねぇことには変わりねぇんだ。ミリアス。アンタはどう見てるんだ?自分の傘下だろう?」

場の進行役を務めていた男が自分の右前に座っていた女――――ミリアス―――――を見やる。

「当然、いま崔西の街に情報屋を行かせてる。調べがつき次第次の手は打つさ」

「また『烈火』のミリアスが見れるかも?だな」

「それより、まだ話があるんだろう?エディル?」

ミリアスからエディルと呼ばれた進行役の男は酒を一口飲んでから周りを見据えた。

「つい二日前のことだ。帝国の騎士団の頭が変わったらしい」

「なんだって?――――『黒剣』アーバインが倒された?」

「あいつは相当に強かったはずだ?誰が『黒剣』を殺ったって?」

場にどよめきが走る。

「名はグレイス・ミュラー。女だそうだ」

「黒剣がヤラレルなんてね・・・・・そのグレイスとやらそんなに強いのか?」

「帝国領内の冒険者の出だそうだ。背格好は二十歳くらいの赤髪。とにかく素早いらしい。視界から消えたと思ったら首を撥ねられて――――あの世行きだってよ」

エディルは今度は葉巻を咥えて火を付けた。

「黒剣が居なくなったんじゃあ、帝国とのパイプはどうなるんだい?」

「問題はそこさ。グレイスとやらを取り込むか。他に新たなパイプ役を作るしかねぇだろうぜ」

殺された黒剣 アーバインは騎士団を統括する役を担い、裏で海賊たちを見逃す代わりに、多額の賄賂をもらっていた。

南の大陸で仕事をする以上は帝国領内の治安維持を任される騎士団の目こぼしなしには彼ら海賊団はやってはいけない。

「アーバインは話の分かるヤツだった。が―――グレイスという奴がそうとは限らない。そこで今日はそのグレイスにたいしての方針を決めておくために集まってもらったって訳だ――――異議は――――ねぇな?」

エディルは4人を見回す。異議を答える者はいなかった。



いつも通り、最後は首を撥ねておしまいにしてやった。

コイツ―――『黒剣』とか呼ばれていた死体が生前に使っていた武器『黒剣』がどうしても欲しくなって、アタシ――――グレイス・ミュラー ―――――は騎士団に入団後4年を経て、騎士団長だったアーバインに戦いを挑んだ。

流石にアーバインは骨があった。けど、やはり、アタシの敵じゃなかった。


グレイスは帝国領内の娼婦の娘として生を受けた。

母親は娼婦。父親はいたらしいが生活がひどくアルコール中毒だった。

この世界に来る前は――――アメリカにいてダンサーを目指していた。

ある日、バイトの帰りに裏通りを歩いていたら、偶然、強盗に出くわし、殺された。そして、グレイスは一度死んで、この世界へと転生した。

転生した当初はどうしようもない境遇を嘆いたものだが、冒険者と呼ばれる、『なんでも屋』を生活のために営むようになってからは、周りの人間が自分よりも脆弱なことに気が付いていた。

帝国領の周りには亜種族の敵が多く、それを毎日のように駆逐するのが冒険者達の仕事だった。毎日のように街に攻めて来るゴブリンや子鬼たちの群れを剣とナイフだけで打ち倒すことはグレイスにとってはとても簡単だった。

相手の動きが止まって見えたし、自分の一撃が相手の身体に当たれば、ゴブリン共の身体はケーキを着るより柔らかい感じがした。

(なぁんだ。随分と楽じゃあないか。それに、稼ぎもイイ)

グレイスは冒険者に支払われる賃金の多さに心を動かされた。

出来高払いであるため、倒した頭数が多いほど、賃金が多く支払われる。

グレイスの一回の討伐で倒す数は20から30程。他の冒険者からは自分たちの取り分が減るからと、次第に疎まれるようになっていく。

(ケッ、チンケなやつらだ。まぁいいさ。アタシはもっとやれる筈さ)

次第にグレイスは、大型の魔獣やトロールなどを刈る様になっていった。

一回に払われる金は一体1000カリフを超え、さらに頭数を稼ぐことでそれが倍加していく。

1頭で1000カリフ。2頭で2000。グレイスの住む悪逆の街クヌートでは、手持ちで5000カリフも持っていれば十分に3日は暮らすことが出来るし、もし大型の魔獣を倒せば、一頭に付き1万~2万は手に入る。

やがて、グレイスは冒険者を始めてから8年を経るころには、16歳になり母親と二人でそれなりにいい暮らしをする様になっていった。

母親のアマンダは娼館の経営を手掛ける主人となり、下には10数人の従業員たちを抱えるまでになった。

「最近は騎士団にも顔が利くようになってきたんだ。もうアタシを誰も無視できないよ」

グレイスは自慢気に母親に話すと

「ああ、ほんといい娘を持ったサ。騎士団に入れれば、決まった金額が手に入るしね。騎士団の中に上客を作ることだってできる。頑張んなよ?」

母親のアマンダは満足した顔で励ましをくれた。

それから、アマンダの勧めもあって、騎士団の入団試験をグレイスは受けることになり―――

結果は無論合格だった。

(周りの奴らは、冒険者に毛が生えた程度。魔術を使えるやつも中にはいるが発動前にアタシなら対処ができる。一番厄介なのは、団長のアーバインか)

一度手合わせをしたことがあったが、一番手を焼いたのはアーバインだった。

ただ早ければ勝てるわけではなく、アーバインは長大な『黒剣』を使って間合いを詰めさせることをしなかった。

しかし、それから4年。グレイスは騎士団長の座を簒奪した。

元より、騎士団の長の座は、力づくで決闘を挑んで勝ち取るものだったし、グレイスの実力は4年でアーバインを追い越した。

21才になった彼女にはアーバインの動きが読めるようになっていたし、膂力も増し、訓練を重ねて俊敏さにも磨きをかけ、ついには雷撃の魔術と爆炎の魔術も使える様にもなった。

そんな今までの事を思い出しながら、グレイスは死体となった元団長の手から『黒剣』を奪い取って一振りする。全長150センチ、幅25センチ程の黒光りする大きな鉄板のような刃がいとも簡単に宙を舞い風切り音を上げた。

そしてグレイスは周りで見守る騎士たちに向きなおると

「これでアタシが騎士団長だ。イイナ!? お前ら!」

そういって騎士団員ににらみを利かせたのであった。





騎士団の仕事は警護と帝国領の見回り、治安維持がある。

建国の王「ガスパール1世」が南の大陸に移り住み先に棲んでいた亜種族との戦いの末、北端をから侵攻し、やがては大陸の東3分の1を制圧するまでに至った。

のこる2/3分は未だに亜種族達、ドワーフやコボルド、ダークエルフや果ては竜族に至るまで多様な人種がすむ未開の荒地だった。

東と西の国境には防衛線を兼ねた城塞都市が築かれ、各城塞都市には防衛のための兵力として騎士団が設置されている。

グレイスの所属する港湾城砦都市クヌートは騎士団の質が高い。決して素行がいいわけではなく、街の混沌具合になじむようにして、外敵に対してはしっかりと治安維持を果たしていた。

内部に関しては、賄賂と力がモノをいう世界で、街に利益をもたらし続ける5つの海賊団も海上兵力としてみれば、優秀であった。

「アーバインの後釜はあんたって訳だ」

高級な酒場の一室にグレイスは、悪逆の街クヌートを支配する5人の海賊を目の前にしてグレイスは『黒剣』をそばに置いたまま椅子にふんぞり返っていた。

「アタシらはアーバインとは仲良くやってたんだ。アンタはどうなんだろうね?」

頭目の一人、ミリアスが少しどすの利いた声でグレイスに問いかける。

右隣には同じく海賊団の頭目『冷血』エディルが座り、ミリアスの左隣にも『女王』アリーナが足を組んで座し、左右の端にはそれぞれ残りの二人、『鉄腕』ヴァンデットと『海老』ファン・ローが座っていた。

「アーバインを倒した手腕は見事。なれど、政治的なやりとりはまた別じゃて」

『海老』ファン・ローが年長者の威厳を見せつける。

「べつにあんたたちは好きにすればいいさ。アタシだってこの街で育ったんだ。流儀は知ってるつもりさ。アーバインとのやり方を続けたいってんなら好きにしなよ」

グレイスの答えは簡単だった。

「ほう。こいつは肝が据わってるな。じゃあお前さんはアタシたちの権利を侵害しないってんだね?」

ミリアスが再度、念を押した。

「ああ、アンタ達の権利は侵害しない。いまさら変えようとは思わない。この街がうまく回っていくなら今までの関係を続けるとしよう」

グレイスはニタリと笑う。

「なら話は早い。アンタは俺達の仲間だ。仲良くやろうな。団長さんよ」

最後は『冷血』エディルがパンと手を打った。まるでこれですべてが終わったとでも言いたげな笑みを浮かべて。

こうして――――悪逆の街クヌートの会合は静かにその幕を閉じたのである




「王国を卒業したら、冒険者にでもなろっかな」

「いけません」

「ダメよ」

朝食をとりながら、なんとなく呟きが漏れたのを、シシリーとヴェロニカは即座に却下した。

「えー。なんで?」

「冒険者は日銭を稼ぐのが常です。保証も有りません」

「ダメよ。貴方は王国と契約を結んで要るでしょう?凍太ちゃんは、大きくなっても王国に勤めるのが慣わしよ」

プウッとむくれてみる。が、シシリーが

「それに、今日は騎士課との合同演習の日ですよ?負けたりしたら許しませんからね?」

釘を刺された。

今日は騎士課との合同演習がある。

騎士課の騎兵突撃訓練と、魔術課の対、騎兵迎撃訓練を纏めて行う為だ。

「騎士課は怖いなぁやりたくない」

「近づけさせなければ良いのです。凍太様ならば可能な筈ですよ」

ヴェロの言う事は正論だったが、それを行うのは東大だ。

言うほど簡単ではない。

「いくつの手を思い付くかが勝負よねえ?」

シシリーはこのごろ教えかたが変わって来たなと凍太は感じていた。

具体的に言えば、より、凍太に考えさせるようになったのだ。

いままでは、答えをくれることもあったのに――――と思ったりもしたが答えを自分で見つけるべきだろうと考え直した。

(騎兵の迎撃には、複数の答えがある。多面的に見ないと勝てないな)

凍太の顔つきが変わったのを確認してシシリーは満足げに笑って見せるのだった。


4


ミリアスの雇った情報屋が南吠ナンフェイの港街に街道側からたどり着いたのは夜中だった。

大きな門を潜り、門衛に怪しまれない様民間人を装って進む。

門を通り抜けたさきに見えたのは整った街並み。

(綺麗すぎる・・・・)

情報屋が最初に感じたのは違和感であった。

皆殺しのモリスの手口ならば、街中は廃墟と化すはずで、だいたい死体が少なすぎる。

(まさか、モリスが負けた?いや)

可能性があるのは、モリスの敗北というパターンだが、情報屋かれとしてはまだその答えを出すには早すぎる様に思えた。

(やったとすれば、月狼国か?)

様々に憶測が頭のなかを飛び交う。

しかし、まずは確実な情報が必要だった。これが無くては正しい解答は導き出せそうにない。

周りを横目で確認しながら、宿を探す。 とりあえずは宿を取り酒場で

流れている噂の収集から彼は手をつけることに決めた。

中央通りにある宿屋に併設されている酒場の一角に陣取り、注文を済ませ、聞き耳をたてる。

すると、周りの声が勝手に漏れ聞こえてくる

『いやぁ、崔西の街みたいにならなくて良かったよな。王国様様だぜ』

『ああ、全くだ。月琅の兵士なんかよりよっぽど便りになる』

(王国?)

「海賊を潰しちまうんだから、驚いたな」

「まあな。特にあの賢狼族の女剣士はすげェ腕前だったな」

「ああ、あれな!」

「氷の上で海賊を野菜でも切るみたいに切って行くのにはびっくりしたぜ」

「凄いのはあの子供と聖女もだぜ?」

「凍太にハンナだろ?あれも、驚れぇたね」

(信じられんが、モリスは倒されたらしい)

会話を聞くうち、どうやらモリスは倒されたらしいということを、情報屋は理解した。

それも、どうやら月琅国の手ではなく、王国によってだということも。

王国といえば、蛇の王国意外にはあり得ないし、話の内容もしっくりくる。

蛇の王国による緊急出動があったと見て間違いなさそうだと彼は判断した。

(賢狼族に凍太、ハンナ…か)

会話に出ていた固有名詞も忘れずに記憶してから、

やがて、彼は注文分の代金を机に置いて、店をあとにしたのだった


5


それから数日の後、情報屋によってもたらされた情報がクヌートの港街中に駆け巡った。

「モリスが殺られるなんてね」

冷徹な面持ちのままで、五大海賊団の一人、ミリアスは酒を飲み込んだ。

(相手が悪かったのか、下手を打ったのか・・・・)

「どっちにせよ。アタシのやることは変わらないさ」

彼女は手近にあった呼び鈴をリリンと鳴らす。すると、扉が開いて仲間の一人が姿を表す。

「頭、御用で?」

「王国と喧嘩をするよ!5日のうちに用意しな!」

号令を一声掛けると、

「分かりやした」

とだけ言って仲間の一人は扉の向こうへと姿を消し――――それから少しして、

「――――!」

海賊どもの荒々しい雄叫びが扉を隔てて木霊した。


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