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結末と疑惑

「はぁ・・・・はぁ・・・」

流氷の海からやっとのことで、上陸した海賊どもは、はるか上から放たれる魔術の弾丸によってことごとく膝を打ち抜かれ地面に転がることになった

「いやだ・・・死にたくねぇ・・・」

海賊は呟くが―――出血で意識が朦朧とし、気絶しそうになったところで、

「―――――!!」

タァン――――今度は腕を打ち抜かれて意識を取り戻した。

(そう簡単に終われるにゃんて思うな・・・)

ミライザは内心怒り心頭。

崔西の港で見た犯しぬかれて殺された死体を見た時、絶対に後悔させてやると決心していた。

(あの子の仇はアタシがとってやるにゃ)

この男でなくとも、仲間の一人には違いない。報いは受けさせなければならない。

港の広場には焦げた死体、首が無くなった死体、凍らされた死体が折り重なっていたが、その上さらに、足を打ち抜かれ、体中を穴だらけにされた死体が転がっている――――無論。ミライザの手によるものだった。

(アイツが最後の一人)

死体の中から這い出る様にして動いた影を慎重にレンズ越しに見据えて

タァン――――側頭に一発。見事に頭を打ち抜かれて海賊は絶命した。

(終わりにゃ)

沖では海賊船が黒い煙を上げて火に巻かれて燃え盛り、半分は沈没している。

屋根の上から見下ろす海は流氷のせいで、一面が白く、波の音に交じってごつんごつんと氷がぶつかる音がしていた。

動く影はない。海賊は全滅。崔西の港町は守られたが、街の各所では火の手が上がり、燃え盛っている。

(またこれから死体の処理だにゃ)

これから数日間は、街の住民総出で後片付けが待っている。

死ねば、タダの死体。海賊は海に捨てられてしまうに違いないが―――――

「まぁ、しかたにゃい。今は勝ったことを喜ぶべきだにゃ」

ミライザは屋根の上で朝焼けの海を眺めながらひとり呟いた。



「ありがとう。アンタらのおかげで崔西スイシーの仇がうてた」

あれから、一週間ほどたって――――町は平穏を取り戻しつつあった。

「もう帰っちまうんだね。もう少しいりゃあいいのに」

「そういうわけにも行かないの。帰還命令が出ているから」

ハンナは苦笑いを浮かべた。

本心を言えば、もっと後処理をしたかったけれど、あとは後続の月狼国の兵隊たちが引き継ぐことになっていた。

「あとは月狼国の兵に駐屯してもらって防備を固めるでござる。自分の国の兵じゃし、きっと――――」

「あいつらより、あんたらの方が何倍も信用できるさ」

住民が苦々しく呟いた。

「まぁ、ありがとう。正直あんたらの力を疑ってすまなかったな。やはり、王国は違うってこったな」

「これで溜飲が下がればあたし逹も戦った甲斐があるにゃ」

ミライザは椅子にもたれたまま、自嘲気味に笑って見せた。

出発は今日の午後に迫っていた。



帰りの船が来る間に、ハンナは月狼国の役人に面会をおこなつていた。

「この度は誠にありがとうございました」

役人の顔はにこやかだった。が――――『やはり動いたではないか』といわんばかりの胸中が見え隠れしていて――――正直、ハンナは横面を殴ってやりたくなった。

「今回限りの協力よ。次はないわ」

だからハンナは交渉相手を睨み付けた――――精いっぱいの怒りをこめて。

「帰って、伝えるのね。王国は納得していないって。お金を積まれたから代金分の働きをしただけ。もっともあなたたちには代金以上の効果があったでしょうけど」

今回は事の緊急性を重視し、月狼国皇帝まで書簡で確認はしていなかった。

もし、書簡で確認を取り、それから動いていたらきっと南吠ナンフェイは廃墟になっていたはず。その点においては十人委員会の独断が功を奏した形になった。

「それに、南吠の街は貴方たちが駐屯することを願っていないみたい。信用はなくなっているから気を付けた方がいいわ」

(当然よね。自国民を見捨てようとしたんですもの)

「ご忠告痛み入ります」

役人は笑顔を崩さない。ハンナの意見など小娘が騒いでいるだけにしか聞こえないのだろう。

結局、表面上は何の滞りもなく報告は済んだのである。




「ご苦労でした。ハンナ」

十人委員会の一人。エリーナ・ガルティエに呼ばれ、ハンナは彼女の自室を訪ねていた。

「教師。どうにかならないんですか? きっとこのままじゃ南吠ナンフェイは潰されてしまいます」

「そうねぇ。今回の月狼国の件は考えさせられる出来事だったわ。でも――――これ以上の干渉は月狼国との関係を悪化させることになるわ。関係が悪化すれば

いずれは決裂して、戦争になってしまう。分かるわね?ハンナ」

エリーナは優しく諭すように言って聞かせる。

「はい。理屈は分かるんです――――でも」

「あなたは貴方の領分の仕事はきっちりこなしたわ。そんなに気負ってはダメよ?今日はとりあえず、帰って休みなさい」

コクンと頷くハンナ。

そのまま、彼女はエリーナの自室を退席した。

「ふぅ――――まぁ確かにハンナの言うことも分かるわ。このまま、南吠を手放すのは少しムカつくわ」

エリーナの目が険しくなった。




「で―――あたしに何の様です?」

エリーナの自室に呼ばれたアムリッタ・ベルデスは椅子に腰かけながら面倒さそうに言った。

「そうつんけんしなくてもいいじゃない。アム」

「その呼び方止めて。もう昔とは違うのよ」

「ううん。違わないわ。アム。同門だった時と同じ。お互い年取っちゃったけど実力は落ちてないでしょう?」

「何が言いたいの?これ以上くだらない昔話をするなら――――帰るわ」

アムリッタは苛立たし気に足を組み直した。

「ふふ――――その癖も同じね。まぁいいわ。貴方に頼みがあって、ここに来てもらったのよ」

「あたしに何をさせようっていうの?」

(ああ・・・・エリーナの目。悪い顔に成ってるわ。あんたの方もその癖はなおってないじゃない)

なにかたくらみごとをするとき昔から決まって、エリーナの柔和な顔から悪そうな顔へと変わる癖をアムリッタは見逃さなかった。

「南吠の港の件知ってるでしょう?」

「ええ。特務が大活躍だったらしいわね」

「そう。あの子たちが頑張って守った街を今、月狼国の軍隊が南の大陸への最前線に変えようとしてる」

「へぇ。自分の国だ。政治的な判断なら仕方ないわ」

アムリッタは興味がなさそうに答えた。

「仕方ない?いいえ――――今回は許すわけにはいかない。なんといっても皇帝の命ではない可能性があるの」

「そんなもん親書で確かめりゃいいでしょ?」

「すでに2通。正式なルートを通して送っているけれど、いまだに何の返答もないわ。きっと下の奴らが揉み消しているはずよ」

「ならあんたが行って渡してきなさいよ?王国の十人委員会が直々に運べばもみ消されることもない」

「取り次いでもらえないのは、アム。貴方がよく知ってるはずでしょう?」

エリーナは目を鋭くして見せた。

「ならどうするの?」

「そこで、アム。貴方の手を借りたいのよ」

「いやだ」

アムリッタは即決した。

どうせろくなことではない。同門時代に散々、エリーナが同じセリフでアムリッタを利用したのを思い出したのだ。

「あら残念――――今回の報酬は「エミリオの手記」なんだけど――――」

ぎぃ

アムリッタの座っていた椅子がきしむ音を立てた。

見ると、今までそっぽを向いていたアムリッタの顔がエリーナに向けられ目が大きく見開かれていた。

(食いついた)

エリーナはアムリッタの特性を本人以上によく知っていた。

(あなたは根っからの研究者だもんね?「エミリオの手記」は喉から手が出るほど見てみたいはずよね)

「本物なの?」

「ええ。本物よ?エミリオ=ロッテルの直筆。世界に現存する王国秘蔵の一冊よ」

「やっぱりここにあったのね」

アムリッタの王国入学の理由は「エミリオの手記」を見ることだった。

エミリオ=ロッテル。

魔術体系の研究者である彼は、世界に現存していた『禁呪』と呼ばれる魔術を独自に調べて、手記にそれを纏めていた。『禁呪』の詰まった「エミリオの手記」は彼の没後、行方が分からなくなっていたのだが――――

「やるわ」

アムリッタは静かに言った

「あら、いいの?依頼内容は言ってないけど」

「いいさ。どんなもんでも受けてやるわ。「エミリオの手記」が見れるなら」

「ありがと。アム」

エリーナは侃爾と笑って見せた。




「禁呪ねぇ。それってどんなもんなの?アムリッタさん」

凍太はシシリー家に尋ねて来たアムリッタにレモネードを渡しながら聞いた。

「禁呪は今の魔術体系にはない昔の儀式なんかね。生贄だったり、結果が代償と釣り合っていなかったりで――――結局、歴史には残っていないものよ」

凍太の師匠、シシリー・マウセンはアムリッタを前に座らせて、話を聞き出していた。

「で――――月狼国の王宮へ内緒で手紙を届けに行くというわけね?」

「はい。是非ともシシリー様のお力をお貸し願いたくて――――」

「王宮までは入れれば、あとは皇帝のそば仕えの女官に手紙を渡すと」

「はい。あの子なら必ず皇帝へ手紙を渡せるはずです」

「確かに。王国の『導師』が動けば王宮には進めますが――――凍太ちゃんを一人で置いておくわけにもねぇ」

シシリーは8日ほど家を空けることに難色を示していた。

「僕なら平気――――」

「だめよ?そう言ってまた練習をサボろうとするんだから」

シシリーは最近の凍太のサボり癖を見抜いていた。

「だったら、一緒に連れていかれてはどうです?」

「それも考えてはいるのよ。でも、凍太ちゃんに目を付けているところへあえて連れて行くのも危険でしょう?」

「そうですね。月の都の諜報部隊は常に張っていますからね」

「子供だから、拉致も簡単だし」

(おぃ――――なんか拉致とか言ってるが、ほんとか)

シシリーとアムリッタの顔はいたってまじめだった。冗談を言っているようには見えない。

「でも、常に手を引いて歩いていれば安全ではないですか?」

「そうねぇ。まぁ護衛もいることだしやっぱり一緒に連れていこうかしらね」

シシリーが頭を撫でて来る。

「ヴェロニカにも声をかけて置けばいいかしら?」

「ええ。上級補佐官ですから王宮の作法にも明るいでしょうし」

(へぇ。ヴェロニカって結構すごいのかもな)

「ふふ。凍太ちゃん。ヴェロはね。だてに上級補佐官なわけじゃないわ。魔力も知識も振る舞いも高いレベルでないと、上級補佐官にはなれないのよ?」

アムリッタが笑っていた。

「本当は、導師のそばに立って研究の助けをしたり、各国のイベントなんかにも導師と一緒に行動するのよ」

話題に挙がっているヴェロニカは今は図書館に用があるとの事でこの場を離れていた。あと少しすれば帰ってくるはずだった。

それから、少したって、ドアが開く音がして――――

「ただいま、戻りました」

階下からヴェロニカの声が聞こえた。

「二階よ。上がってらっしゃい」

シシリーが少し大きめに声を上げると、

「畏まりました」

と返答があって、階段を上ってヴェロニカが顔を見せた。

「お客様ですか」

「魔術課のアムリッタ・ベルデスさんよ」

「アムリッタです。はじめまして」

「凍太様付上空補佐官兼監視役のヴェロニカ・アリトフです」

ヴェロニカはドレスのスカートを少しつまんでお辞儀をした。

「ヴェロのお辞儀はきれいだね」

「そうねぇ」

凍太とシシリーは頷き合った。

「そうですか?昔からですので良く分かりませんが?」

「とっても優雅よ。これなら、王宮に一緒に行っても問題ないわね」

アムリッタも満足そうにうなずいて見せた。



月の都。と聞けば、月狼国の王都の事だと誰もが答えるこの世界でも1,2を争う大都市の名前。

その月の都入ってからかれこれ一日ほどアムリッタたちは宿に泊まっていた。

「で?どうやって潜入するのです?」

「今日の夕方には昔の知り合いとこの宿で落ち合うことになっています」

シシリーの心配顔に、アムリッタは頷いた。

「信用できるのでしょうね?」

「情報屋をやっているものですよ。ワン・レイというんですが知りませんか?」

「ワン?さて――――よくある名ですしね」

シシリーが思案顔で小首を傾げた時だった。

コンコン――――

と部屋のドアがノックされ続いて小声で「ワンだ」と名乗りがあった。

来たみたいですね と、ドアを少しだけ開けると、アムリッタはドアの隙間から目だけを覗いてワンの姿を確認した。

「お初にお目にかかる。情報屋をやってる。ワンってもんだ」

「こちらの三方は蛇の王国のシシリー様、凍太様、ヴェロニカ様よ」

「あんたが「様」つけるなんてな。へぇ。『制御』のシシリーと『氷帝』凍太。か。じかに見るのは初めてだな」

ワンは値踏みをするかのように顎をなでながら、シシリーと凍太を見比べていた。

「おじさん。僕たちのこと知ってるんだ?」

「そらそうさ。あんたたちは『有名人』だからな。情報屋界隈じゃみんな知ってるさ」

「ワン。それで、警備が薄くなる日は分かったの?」

「ああ――――狼軽量の門番と女官から聞き出した。二日後の夜に見回りの時間があるらしい。場所は南門から始まって東門、北、西と一周するそうだ。南門と東門の間は暗がりになってるところが多いからな。そこから潜入できるとさ」

「中は?」

「中は女官の部屋と薬草庫がある。どっか空き部屋でも探してコイツに着替えな」

そう言ってワンが取り出したのは女官の装束だった。

「わるいが、用意できたのは女官服だけだ。子供のアンタの分はない」

「まぁ仕方ないわ。実際に行くのは私たちだけだもの。手紙を届けるだけだから仕方ないわ」

「仕方ないから、アムリッタに女官の格好をして貰いましょう。私と凍太ちゃんとヴェロは正面から行くことにするわ」

「本気か?あんたら――――捕まっちまうかもしれないぜ?」

「月狼国ご自慢の諜報部隊にかしら?ふふ――――魔術師三人を相手にするならだいぶ人数が必要だとは思うけど?」

シシリーは動じた様子は見せない。

「それに、蛇の王国の魔術師に手を出すなど、まずないでしょう」

ヴェロニカが落ち着いた口調で付け加えた。

「まぁ――――俺の仕事はここまでだ。あとはあんたらの自由にしな」

ワンは付き合ってられないといったように部屋を出て行った。


▽▼▽▼▽▼▽▼



4人はそれから部屋に集まって机にワンから受け取った地図を広げた。

「正門がここ。アムリッタ、あなたは南東の方角から入る様に」

「ですが・・・・危険すぎやしませんか?」

「何をいまさら。それに、私たちが正面から進みますからあなたは夕闇の暗がりに乗じて潜入なさい」

「はい」

「ヴェロニカは王国指定のローブ姿でいいわ」

「シシリー様は?」

「私はいつもの格好ですよ。それにコレがあります」

そういってシシリーが見せたのは二頭の蛇がお互いの尻尾を飲み込む意匠が施されたリングだった。

「あれ?そのリングって――――」

凍太にも同じものが以前にランドルフから渡されていたのを思い出した。

王国の入学時に見せる様にと言われていたが――――結局使うことはなくなっていた。

「凍太ちゃん?そのリングはどこで手に入れたの?」

「雪花国にいた頃、ランドルフ先生に貰いました」

「ドルフったら。『認可の証』を渡すなんて、どういうつもりかしら」

『認可の証』とは王国が各地を旅する際に『王国の導師』であることを証明する物だということをシシリーは付け加えた。

導師職を認められた者だけが拝命の際にウェルデンベルグから渡され、各国を指輪を見せることで旅券無しで通過できる特権が有るモノだった。

「ドルフは自分の物を人にあげることがよくあったわ。今回も予約のツモリだったんでしょうね」

(今ランドルフに渡してなるもんですか。今が一番面白・・・もとい、重要な時期なんですから)

凍太を自分の弟子にしようかと考えでもして、渡したのだろうとシシリーは予想した。

「それはランドルフに返しておきなさい。今は私の弟子なのですから」

シシリーは凍太ににっこりと笑いかけた。

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