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動乱の足音

それから、4年の月日がたち―――凍太が11歳になったある日のことだった。

「お早うでございまする。凍太殿」

「おはよう。皐月」

今日も学舎に向かう王国のメインストリートを歩きながら凍太は皐月と朝の挨拶を交わす。

「うん。今日もいい艶してる」

皐月に近寄って自分よりもまだ少し高い頭をなでながら、いつものように声を掛けた。

「すっかり髪も伸びて、大人っぽくなったね」

「忝い」

皐月はにこりと笑いながら、腰に差していた大刀を邪魔にならない位置へともどす。

その姿は、4年前とは違う、しっかりとした女剣士になった。

髪は腰まである金髪。金髪に隠れる様にしてちょこんと頭の両側にある獣耳。

服装もすっかり背丈が伸びたせいか、大きめの袷に代わっていて、下は袴姿だった。

学舎が見えてくるころになると、生徒の数が増え始め、次々と凍太と皐月そして後ろからついて歩くヴェロニカに会釈と挨拶を投げかけて来る。

「おはよう。皐月」

「おはようございます。ヴェロニカ様」

ここまではいい。

「おはようございます。凍太様」

やはりいつものとおり、凍太に向けて、挨拶をする生徒たちの声が目に見えて緊張した物に代わるのを聞いて――――凍太はふぅとため息を吐いた。

「――――!」

凍太がため息を吐いた途端に周りの生徒たちの顔色が青ざめた時だった。

「心配いりません」

ヴェロニカがよく通る声で周りを制した。

「そんなに僕って怖い?」

凍太は挨拶してきた男子生徒に向かってちょっと心外といったかんじで聞くと

男子生徒は

「いいええ。とっても気さくだと思います」

と思ってもないことを口に出してその場を取り繕った。

その顔にはヤバい奴とは関わり合いになりたくないという表情がありありと浮かんでいるのに。

「まぁいいや」

凍太はいつもの事だという感じで、足早に学舎に向かうことを止めない。

進むうちに、こんどは

「おはようございます。師匠」

と猫族のミライザが学舎の入り口の所でライフルを抱きしめながら壁に寄りかかっているのが見える。

ミライザは長い黒髪と頭の上にツンと立っている耳。上はシャツを着て、下は皮のパンツに皮で出来たブーツ姿だった。

「おはよう。ミライザさん」

すれ違いざまにミライザの頭も撫でるとニャウンと気持ちよさそうな声をあげた。

「ちっ!」

隣で皐月が舌打ちをするのが聞こえる。これもいつもの事だった。



2人と教室を分かれて、自分は魔術課の教室へと向かう途中で――――

「今日は午後から特務の会議が入っていますのでお忘れなく」

ヴェロニカが秘書のように静かに予定を告げるのが聞こえて、

「また会議?どうせ、十人委員会の報告聞いておわりじゃない」

愚痴る。がヴェロニカは何も言ってこなかった。

教室の扉を開け、中に入るとすでに魔術課の生徒数人が席に着いて魔術書を開いているのが見える。今日は一限目から制御魔術の講義があるため、皆緊張しているのかもしれない。凍太は何となくそう思っていた。

(すこし、読み返しておこうかな)

そんなことを考えながら――――魔術書を開き、読み進めようとしたところで、

「おはよう。凍太」

隣から声が掛かった。

「おはよう。アナトリー」

声をかけて来たのは同じ特務員を務めるアナトリー・ヘイグラムだった。

アナトリーは耳長族のせいか最近すっかり背が伸びて耳の鋭角度が増し、4年前よりもさらにやせた感じになった。

(具合、悪そうだなぁ。ヒョロヒョロじゃんか)

「なあ、アナトリー、ちゃんと食べてる?」

「しっかり食べてるよ?」

そんなことを話していると、遠目からアナトリーと凍太を見て、遠くで女子たちがきゃいきゃい言っているのが聞こえたが、気にしないことにした。

アナトリーと凍太は魔術でも人気でもトップを競い合う様になった。

女子からは――――「氷帝」と「金髪王子」と呼ばれ、それなりに人気があるらしいことも分かっていた。2人とも顔はきれいで、少年になってシャープさが増していた。

若干冷めた感じの凍太とほんわかしているアナトリー。この組み合わせが女子の心にグッとくるのだというが、凍太もアナトリーもそこらへんはさっぱりわからない。

「――――おはよう。みなさん」

最後に扉から入ってきたのは一限目の講義をするシシリー・マウセン教師だった。

場の空気が引き締まって、そのまま講義となった。



「お互い二人一組になって、羽を落とさないように構成を組みなさい。一人は上から押して、もう一人は下から持ち上げなさい」

シシリーが指示を出すとアナトリーと凍太は配られた羽を宙に浮かべる構成を互いに編み出した。

アナトリーは上から下へ、凍太は下から羽を押し上げるイメージで。

「ぐぅ・・・・」

羽が少しずつ上に上がっていくに連れて、アナトリーの眉根にしわが寄っているのが見えた。凍太は気にせず、集中したままで羽を上へと押し上げて行った。

やがて――――天井に着くくらいまで羽が舞い上がると。

「負けた」

アナトリーは軽く手を挙げて降参を宣言する。

「これで10勝2敗3分けだね」

「凍太はずるいよ。シシリー先生の弟子じゃないか。敵うわけないよ」

アナトリーが口をとがらせる。これもいつもの光景だった。



4年たって、昼食時は食堂にアナトリー、皐月、ミライザの3人が一緒にいることが多くなった。無論ヴェロニカと時と場合によっては、ハンナ・キルペライネンや最近はカレル・ノヴァクなどの特務員が追加で一緒に昼食を取ることも珍しくなくなっていた。

外のテラスに6人から7人で円卓に座り、日を浴びながら昼食を取るのはここちがいい。

「凍太ちゃん。氷入れてちょうだい」

ハンナがカップを差し出してきながら要求するので、仕方なく氷をカップに無詠唱で出してやった。

「んっありがと」

「自分でやればいいじゃない」

「自分で出したものと密度が違うのよ。凍太ちゃんのは固くていつまでも冷たいんだもん。この氷じゃなきゃ、やあよ」

ハンナは飲み物を注ぎ、次いで一口すすると『ぷはー』と息をついて見せた。

(おっさんくさいなぁ)

最近のハンナは妙におっさん臭さが行動に出て来ていてしまっていたが、口に出すことはしないでおいた。

「なぁ、今日の午後は定例会議だろう?」

最近、月狼国の港町が襲われることが頻発している。そのことで月に1度の報告会が開かれることになっていた。

「犯人は南の大陸の海賊団だ。ズイブンと急ぎ働きをするらしいぜ」

カレルが芋を租借しながら言った。

急ぎ働き――――それは強盗殺人だと誰もが分かっている。

「騎士課からは今回も皐月と俺が選ばれた。科機工はどうだ?」

「科機工はエンリケ先輩は他の用事で出れないにゃ。アタシはまだ何も言われてはいない」

ミライザがチュルボをナイフで切り分けながら報告した。

「魔術課は?」

「凍太クンと僕はたぶん確定でしょうね。あとはシシリー先生しだいです」

アナトリーが優等生らしく付け加えた。

「医療課は?」

「たぶんアタシは出るんじゃないかしら?まだ何も言われてないけど」

「けっきょくいつものメンバーか。安定だな」

カレルは感慨もなく呟いた。

ここ4年で、新たな特務員は出てはいない。理由は簡単。アナトリー、凍太、ハンナ、カレル、エンリケの五人が都市間交流戦で優勝をキープし続けているためである。

「最近じゃブックメーカーが嘆いてるって噂よ?賭けにならないんだって」

ハンナがパンを指でちぎっては口に頬りこんだ。

「でも、去年は危なかったじゃない。雪花国にギリギリだったし」

「あー。あれは見ていてしびれましたなー。相手方のイリス選手がかっこよかったでござる」

皐月が思い出しながらイリスの事を上げるとカレルは憎々し気にワインを飲み込んだ。

「たしかにあのダークエルフはかなりヤリ手だった。今度は油断しねぇぞ」

前回大会でカレルはイリスに銃で肩を打ち抜かれ、窮地に立たされた。

「ミライザは銃使いとしてどうで御座った?」

「確かに狙いも正確にゃ。でも、あれは銃の性能であって使い手の腕の差じゃない。だからエンリケ先輩がたおしたじゃないか」

ミライザが言う通り、カレルの肩を打ち抜いたまでは良かったが――――そのあと

イリスは遠距離からエンリケに足を打ち抜かれ敗退した。傷はハンナがふさぎ後遺症や傷はなくなっている。

「まぁとにかく――――特務は午後一で十人委員会のじい様方と月狼国のお偉方合わせての会議だ。とくにハンナ。寝るんじゃねえぞ?」

「分かってるわよ。最近小言が増えたんじゃないの?」

カレルの注意に対して、ハンナはぷくぅと頬を膨らませて見せたのだった。


▼▽▼▽▼▽▼▽


「――――以上が今回の月狼国で出た被害です」

手元に配られた報告書を見ながら各自が被害の内容を把握する。

潰された港。3港。同じく潰された街も3つ。

人的被害はどの街も全滅。金品、武器、弾薬の類はもちろん、攫われた街の人々もいることが、報告書には書かれていた。

「ずいぶんなやられ様ですな。南部の主要な港はほとんど潰されているわけですか」

十人委員会の一人が渋面を月狼国の役人へと向けた。

「我が国も北部、中部までは防衛線を敷いておりますが――――南部はその―――」

「切り捨てた。訳ですな?」

「いいええ。切り捨てたわけではないのですよ。少し対応が遅れただけで」

「残る1港。南吠の港も危ないわねぇ」

十人委員会の一人がつぶやく。

「そうです。ですから、早急に南吠の防衛をお願いいたしたく――――」

役人の声が一層悲壮感をましてこだまする。

「いかがいたしますか?議長」

議長と呼ばれた老人が白くなったカイゼル髭を撫でながら、唸るのが聞こえた。

「まぁ、飲むしかあるまいな。ことは窮を要しておることじゃしの」

「では!」

役人の言葉が明るくなった。

「じゃがな――――今回は月狼国の失態によるところが大きい。兵は出せぬとしても経費はかさみますぞ?」

「仕方ありません」

役人は声のトーンを落とすしかなかった。

自国の兵を損失させずに、金でことが解決するなら――――妥協点として上にも報告できるというものだ。

「では、月狼国への出兵の採択を行う。反対の者は挙手を!」

号令が飛ぶ。

15人の出席のうち――――6人が手を上げていた。一人は十人委員会。残りは特務員全員である。

「ほう。特務全員が反対とはな。理由をきこうか?」

「はい。南吠を守るのは構いません。ですが――――自国の兵士を一人も出さないのならば、この依頼は受けるべきではありません」

ハンナが役人を睨みながら、机をぱしんと叩いた。

「ああ、そのとおりさ。こいつは自分の手を汚さずに、俺たち王国の手でことを終わらせようとしてる。そんなものに俺は賛成できないね」

カレルはばかばかしいと言った感じで呟いた。

「俺も同意見だ。もしも、俺たちに動いてほしいならば、お前らの兵を出すべきだ。その上でなら協力してやろう」

エンリケは低い声で役人を威嚇した。

「僕も納得できないです。同胞を守るのはその国の仕事です。それを放棄するような人たちに僕は協力したくありません」

これはアナトリー。

「ねぇ。本当におじさんは陛下に話を通してるのかな?僕はどうもそうは思えないんだけどな」

最後に呟いたのは凍太だった。

「きっと、陛下はこのことを知らないはずだよ。あの国の陛下は『賢君』だもん。港を見捨てろ。民を見捨てろなんていわないと思うんだ。きっと、その下の人たちが決めてるんじゃないの?」

「なにを勝手なことを――――」

役人の顔が青ざめる

「もし間違いなら怒鳴って構わない。でも、王国から陛下に書簡で確認すべきだと思う。これで確認が取れれば動けばいい。違うかな?」

役人は何も答えず、ただじっと黙っているだけだった。

「まぁ――――こんかいの定例会はここまでとしましょう。まぁ月狼国王陛下にはそれとなく確かめてみることにしましょう」

会議はここまでで解散となった



「しかしまぁ、最近随分とキナ臭くない?」

「ああ、どこに行っても小競り合いや、戦が多発してるな」

「王国」の食堂でハンナとエンリケ、そしてアナトリーが顔を突き合わせて話をしている。

先ほどの会議が終わってすることもないので、午後の講義はサボることにしたのだ。

外は晴れ。穏やかな午後の日差しはとても気持ちよく、三人をだらけさすにはちょうどいい具合に温かい。

「南の大陸が荒れ放題ですからね。難民も増加の一途みたいですね」

アナトリーは冷やしたお茶を飲みながら、呼んでいた新聞をテーブルに置いた。

新聞の記事には各国の情勢や、動きが細かく書かれてはいるが、大半を占めているのは「戦乱」「争い」「混乱」などの文字が圧倒的に多い。

ここ4年間の間に、南の大陸にすむ蛮族等、亜人種の動きが活発化してきており、月狼国、ローデリア、それに連なるものも、日々の侵攻に対する水際対策で忙しい。

王国からもアリシアをはじめとした特務員がローデリアと南の大陸の戦線に調停役として駆り出されている。

「アリシア頑張ってるかしら」

「きっと大変だろうさ。アッシア海峡は最前線の一つだからな。凍太もホントは行くはずだったんだとさ」

「へぇ。凍太ちゃんもなんだ。ほんと人材不足よね。やんなっちゃう」

「さすがに、シシリー先生がとめたらしいですよ」

「でも、氷雪系の魔術を得意とする奴らは少ないからな。特に海戦となれば奴らの独断場だ。特に凍太の魔力の大きさは戦局をひっくり返せるしな。派遣してほしいだろう」

「まぁねー。氷雪系がいれば、海だとやりたい放題だからね。」

ハンナは人ごとのように、呟いて見せる。

「お前だってあと少しで出発だろう?今度は――――」

「フローリンデ家。ローデリアの豪商よ」

「そう。そこの子供が難病に掛かってるらしいじゃないか?」

「そ。お金積まれちゃったんだって。『医療魔術士』としては人命第一だし。それに『宣伝効果』ってやつもあるみたい」

「確かに、難病を直したとなれば、王国の知名度もアップするしな。良かったじゃないか『聖女様』」

エンリケは面白そうにくくく・・・と笑って見せた。

「もう。やめてよ。この頃どこ行っても『ハンナ』じゃなくて『聖女様』って言われるんだから。恥ずかしい」

ハンナは顔を覆って下を向いた。

最近、『治療魔術士』の仕事は特に増えた。

戦地はもちろん、今回のような豪商に金を積まれて呼ばれることも増え、ハンナのスケジュールは過密になる一方だった。

「エンリケ先輩も今度は講師で月狼国へ行くんでしょう?」

「ああ。30日程な。ま、銃の製造に関しての講師をしに行く。まだ月狼国は銃は作り始めたばかりだしな」

「アナトリーも忙しいでしょう?確かランドルフ先生の道案内役でしょう?」

「そうですね。まだ先ですけど、『西の樹海』を案内する予定です」

「うへぇ・・・めんどくさそう。ランドルフ先生一人で行けばいいじゃない」

「樹海は危険ですからね。「契約魔術」で「精霊の声」が聴ける人物がいないと迷っちゃいますから仕方ないです」

こんな具合で特務員は日々、特務員は仕事を王国から割り振られ――――その実力を王国の『外貨獲得』の為に役立てる。凍太は最年少でまだ11歳になったばかりの為に、師匠であるシシリー・マウセンが許可を下ろさなかった。

曰く――――

「収穫の時を焦ってはダメ。成熟の時期は私が良しと言ってからよ」

だそうだ。

王国の一部のマスメディアはこれを甘えとして糾弾した記事を掲載したが―――

街の世論がこれに反対をする抗議文を送っており、いま、記事を書いた新聞社はその件については何も語ってはいなかった。




当の、凍太は、というと。

日々、学園に通い、シシリーやヴェロニカによる特別授業を受ける毎日で、スケジュールはいっぱいだった。

「なあ凍太ちゃん。そろそろ時間だろう?もう上がんなよ」

「うん。もうちょっとで今日の仕込みが終わるから、これ終わったら上がるよ」

厨房の大鍋の煮え具合を確認ながら、スープの出具合を見る。

お玉に少しスープを入れ、味見をして――――

「まぁ。良いかな」

頷く。野菜のスープは今日もいい出来だった。

今作っているスープは夜のお客の為に使われる「ベース」となるものだった。

最近の凍太は、王国からの仕事を斡旋され、王国の3番地区にある小さな店の厨房で昼間の間、働く毎日を送っていた。

特務員として本来は外貨を獲得する所を、まだ幼いという理由で働かせてはいない。もし特務員として派遣する場合は、特務員1人以上と同行の事。という制約が付いて回る。

数が少ない特務員を二人以上派遣する案件など、4年前の「リヴェリ」の件以外には発生してはいない。今、王国は、日々、各方面から流れて来る案件を一件でも多く処理したい立場にあって、一件の案件に特務員を二人も使うなど無駄と考えている。

あと1年我慢すれば、凍太は12歳。規定上は特務員として大っぴらに活動できるのだから、これを待つ方が得であるとの結論を王国は出した。

特務員として働けない代わりに「銀の錫杖亭」での放課後の労働が「王国」から与えられた今の凍太の任務というわけである。

「できたかい?」

店の主人、エリオットが厨房を覗いてくる。

キツそうな感じがする中年の男だったが、意外にも気さくな人物だった。

「きょうもいい出来だと思うよ。味見して」

「よっしゃ。どれどれ」

小皿に入れたスープを渡され、エリオットは一口、口に含んで目を瞑りながらごくんとそれを飲み干した。

「うん。いい味だ。分量と時間は覚えたみたいだな」

「ありがとう。これで安心して開店できるね」

凍太はエリオットに満足げに頷いて見せた。

「ああ。そうだ。今日も二人が来てるぜ―――早く行ってやんな」

「もう来たんだ。早いなぁ」

凍太はエプロンを取って手を洗い、いそいでと客間へと向かう――――とそこには

いつもの二人。ヴェロニカとシシリーが椅子に座って待っているのが見えた。

「お待たせ」

「良いスープは出来た?」

「うん。今日も合格だって」

「そう。それは良かったわ―――エリオットさん今日もありがとう」

シシリーが少し大きめにお礼を言うと、カウンター席を拭いていたエリオットは

「俺は何にもしてませんよ。全部、凍太坊のおかげです」

そう言う。これもここ最近の決まった形だった。

「今日も、食べてってくださいよ。良い肉がはいったんです」

エリオットはこれまたいつものように、シシリー達に夕食を進める。

「まぁ、悪いわ」

そう言いながらも、シシリーはカウンター席を引いてよいしょと座り、ヴェロニカと凍太もそれに続いた。

夕暮れの開店前のカウンター席の一番端からシシリー。凍太。ヴェロニカの順に座る。

「じゃあお任せで頼むわ」

「はい。毎度あり」

エリオットはそういうと、厨房へと引っ込んで調理を始めた。

(ああ―――いいなぁこういうの)

雪花国の雪熊亭のおばさんを思い出す。料理を一生懸命作ってくれるのを見るのが凍太は好きだった。厨房から流れて来るおいしそうな音も、においも。感じることで心が躍る。

この時間が最近の凍太のリラックスタイムの一つでもあった。

「今日は何が出て来るんでしょうね。ヴェロは楽しみです」

ヴェロニカは冷静な顔つきながら、生唾を飲み込んでいるのが見えた。

しかし、こんな穏やかな時間が長く続く猶予は長くはない。

戦乱の足音はすぐそこまで迫っているのだから。

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