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ウェルデンベルグの秘密

「やれやれ・・・・」

ウェルデンベルグは一人王国の自室で、お茶を楽しみながら新聞を読みふけり、ため息をついた。

「蒸気機関がついにできおったか」

顎鬚を撫でながら、天井を見上げる。

(この世界にきてからもう何年がたったんだろうか・・・・)

そんなことをふと考えた。

ウェルデンベルグ自身も転生したものの一人だった。が、周りにそれを行ったことはない。

彼が飛ばされたのは――――1811年のロンドンからだった。

新聞に再び目を落とすと、彼がそれとなく原理を教えた『蒸気機関』がローデリアの研究機関で試験運用を終えて、正式に運用が開始されることが一面を飾っていた。

ガス灯は採用されなかったが、新聞や蒸気を伝えられたのはイイ事だったように思うのだ。まぁ―――銃は教えるべきだったかどうかは迷ったが。

それこそ、人々の暮らしは貧しく、戦争や紛争が横行し、各地の王族、豪族たちが力を誇示していたのを、ウェルデンベルグは1800年代の知識と見よう見まねで覚えた魔術を使って、各地の紛争、戦争に参加してはそれぞれを終戦、停戦へ仕向ていった。

(そのおかげで――――問答無用のウェルデンベルグなんて呼ばれたことも在ったのう)

第三勢力として、紛争を魔術で根こそぎ、文字どうり力ずくでとめる内についたあだ名が「問答無用」「厄災」「災害」などだった。

その嬉しくない二つ名のおかげで、どの町からも居づらくなった彼は、隠遁するようにこの島に居を構えることにし――――今では、『蛇の王国』という最高学府として存在するまでになり―――――最近は平和に暮らし、退屈な毎日を送る様になっていたのだが。

(この間の雪女との戦いは面白かったのう)

久々に、戦いに参加したことで、ウェルデンベルグの血は熱く沸き立った。

久々の仲間との共闘。阿吽の呼吸。そして久方ぶりに放った魔術の威力に自らも感心しまだまだ現役で行けると再度実感したほどだった。

(あの子は元気じゃろうか――――?)

あの場に居た凍太の事を思い出す。そして、

(おそらくあの子も『転生者』に違いない)

ウェルデンベルグには、確信に近い予想があった。なぜなら、『魔力量の多さ』も『規格外の魔術の強さ』も以前は自分が同じ境遇にいたのだから。

(もういちど合ってゆっくり話してみるか。それに―――――確かめたいことも在るしの)

そう思うと、心が躍るのが分かる。

もう老人だというのに――――ワクワクが止まらず、自然と笑みがこぼれた。


▽▼▽▼▽▼


「さてと――――それじゃどのくらいできるようになったのか見せてちょうだい」

会合が終わり、3日が過ぎた朝。

朝食を食べ終えたシシリーがお茶を飲みながら凍太に告げた。

凍太は20日の間、朝は蹴り込みを行い、午後はひたすらに制御魔術で雪玉を作っては投げる作業を繰り返していた。

その結果、制御魔術の精度は格段に上がり、雪玉を通り越していまはレンガを積み上げられるところまで行っていた。

庭に先に山積みになったレンガ置き場に移動すると、4日前から始めたレンガ積みの作業を始める。

まずは、レンガすべてに魔力経路をつなぐ。一つは左手から。もう一つは右手から。

20個ほどあるレンガに魔力経路をつなぎ終えたら、魔力と実行命令をレンガに流し込み準備状態に移行させてから――――

「組みあがれ」

実行命令を流す。すると―――― 

がこん―――かこん。

一人でにレンガが浮き、まるで意識を持っているかのように動き出して、人の手を介さずに勝手に積みあがっていった。

(並列に処理を流せるようになったのね)

シシリーは一人でに積みあがっていくレンガではなく、凍太の命令の出し方に着目し目を細めた。

(レンガの重さをまるで苦としていない。なんてことかしら)

「そこまで」

積みあがったレンガを見ながらシシリーは止めの号令を静かにかけ、凍太の作業を中断させた。そして――――

「よく頑張ったわ。見事な成果です」

そう言うと、凍太に笑い掛けた。

「合格かな?」

「ええ。合格ねぇ。それに――――まだ、隠していることがあるんでしょう?」

シシリーは凍太の顔にまだ余裕があることを感じ取り、カマを掛けてみた。

すると、

「うん――――実はね。いま薪割の練習もしてるんだ」

凍太ははずかしそうにしながら告げて来る。

「見せてちょうだい」

「駄目だよ。まだうまく割れないんだから」

「いいから」

嫌がる凍太を押し切る形で促すと、渋々と言った感じで庭先の茂みの中から、薪と鉈を用意し、地面へと置いてから―――制御魔術で割りだした。

もっとも――――鉈が薪にうまく刺さらず、そのまま薪が倒れてしまうのだが。

「凍太ちゃん。鉈だけ操作するんじゃなくて、薪も操作するのよ」

シシリーが助言をすると、凍太は少し考えてから魔術構成を今度は鉈と薪の両方へ掛け始めた。

鉈は上から下へ。逆に薪は下から上へと動くように。

「いくよ――――それ」

魔術で鉈を振り下ろすと同時に、薪を下から持ち上げる。すると、

カコンッ

小気味いい音を立てて鉈が薪を両断した。

「!」

「出来たわねぇ」

嬉しそうに凍太が顔を明るくし、シシリーもそれにつられて笑顔になっていた。

(物を操れるところまで来ている。これは次の段階まですすんでもいいかもしれないわね――――でも、教えてしまっていいものかしら)

シシリーは凍太の進見具合を確認して背中に冷や汗が伝うのを感じた。と、同時に

次の段階まで進ませることが出来るのを素直に喜びたい気持ちもあった。

次の段階は、実際に相手の魔術を『乗っ取る』技術を教える段階でもあり、制御魔術の根幹をなす技術を体得せねばならないが、今の凍太にはいくぶん早すぎる段階でもある。

(先生に相談した方がいいかもしれないわね)

シシリーは少し考え込んでから、答えに迷い、ウェルデンベルグに意見を聞くという棚上げ案を出差ざるを得なかったのである。


▽▼▽▼▽▼


やがて極寒期が開け、再び王国へ機関の為に、凍太、シシリー、彩花の三人は船に乗って一夜を過ごすことになった。

夜中だというのに、目が覚めてどうにも寝れない。

仕方なく甲板に出て軽く運動を行うことにした。客室からデッキの上に出ると人の姿はすでになく見張りがマストの上に立っているだけ。これなら多少動いても問題ないだろうと凍太は判断して――――『型』を繰り返すことにした。

シュ―――シュ――――と息を吐く音だけが甲板上に聞こえる。

ときおり、跳躍から蹴りを放ち、また拳、貫き手を闇夜に放る。やがて型の最後まで来ると―――――「花郎ファラン」とだけ小さく呟いて元の体制へと戻った。

「やっぱり――――あの婆さんの血縁者。大したもんだね」

声がしたほうを振り向くと、酒をラッパ飲みする大鬼――――彩花の姿が見えた。

「見てたの?」

「ああ――――きれいな動きだからね。いい肴になったサ」

(困ったな。彩花の目が笑ってない。火がついちゃったかな)

凍太は彩花から目を離すようにして停泊する『翁石国』の街の明かりを見やった。

「そう警戒しなくてもイイさ。あたしは戦う気なんてない。両足の腱は治ったが伸びちまってて――――もう以前のような無理な動きは出来ないらしいことは治療師から聞いてる。だから少し話をしようじゃないか?」

彩花はそんなことを言いながら――――やがて凍太の横まで来るとどっかりと腰を甲板上に落ち着かせた。

彩花の身体が大きいからだろう。座ってもなお、彩花の頭は凍太の顔と並ぶほどだった。

「お前はアタシに似てる――――昔のアタシにそっくりだよ」

彩花は一人語りを始める。

「何かに失望したかのような目。有り余る力。――――お前、なんか心に思う所があるんだろう?ん?」

彩花は酒を飲みながら凍太に質問を投げて来た。

「寝れなくなっちまったのも、寂しさだけじゃない。もやもやする物が頭から離れないからサ」

彩花の声音は静かだった。

「幸いここには、アタシとお前だけだ。誰も聞いちゃいない。聞いてやるからサ――――しゃべっちまいナ」

「お酒――――ちょうだい」

「あん?」

「お酒でもないと喋れないよ。少しでいいからさ。僕にも頂戴」

「ハハハ―――お前行ける口かい。いいよ。ホレ」

彩花は飲みかけの酒瓶をそのまま凍太へと渡してきた。

ぐぃ―――と酒に口を付けて一口飲みこむと中に入っていたのが葡萄酒だと知れた。

「おいしいね」

「ああ――――いい酒サ」

暫く――――無言になってから、凍太はぽつり、ぽつりと話し始めた。

「仲間が居たら楽しいだろうなって思うんだ」

凍太が最初に切り出したのはそんなことだった。

「でも――――魔力が強すぎて、仲間を作るのは難しいだろうって言われちゃって、いま少し考えちゃってる」

「続けな」

「王国に戻れば、力量が同じような子がいるとは思ってるけど、正直、不安なんだよね―――彩花さんはそんなこと考えたことある?」

「似たようなことはある。アタシの場合は『馬鹿力』だったね――――」

「寂しいよね。仲間を作るなら同じような力量じゃないと仲間が苦労するってさ」

「ああ、そうだな――――でもその意見は会ってる。それだけは間違いないナ」

「へぇ――――そうなんだ」

「手下どもがアタシから離れて戦うのは常でね――――何のことはない。アタシの攻撃に巻き込まれちまうからサ。こればっかりはどうしようも無いことだけど」

グイ。

彩花は凍太から酒瓶を受け取ると――――一口酒を飲み込んで、

「まぁ――――今から思うと、あいつ等は大変だったんだろうなって思うね」

「やっぱりそうなんだね」

凍太がつぶやく。どこか寂しく、そして不満げに。

「僕の場合でもそうなっちゃうのかな?」

「――――ああ、間違いなく――――『ナル』ね。周りの人間どもは恐らく二通りに分かれるハズさ」

「一つは媚びを売るヤツ。二つ目は――――遠巻きから見てるだけの奴サ。媚びを売る奴らは無害だが、遠巻きに見てるやつらには注意しな。アイツらはあることないことを言って回るからネ」

「そっか――――気負付けておくよ」

「そうするといい」

その後、彩花は何も喋らず黙ってしまう。凍太もそれにつられるように何もしゃべりだすことはしなかった。


▽▼▽▼▽▼


「それで、ワシの所に来たわけか」

ウェルデンベルグは自室の椅子に座ったままシシリーにニヤリと笑いかけた。

「ええ――――次の段階まで教えていいものかと」

「そうじゃなぁ。一度、ここに呼んでみてはどうかの?ワシ自信、話してみたいことも在ることじゃし」

シシリーは怪訝そうな顔をする。

「そんなに不思議かの?なに―――すこし茶をのみながら会話を楽しむだけじゃよ」

嘘は言ってはいない。もちろん、次の段階に進むかどうかも判断するつもりではいるが――――ウェルデンベルグは凍太の素生を問うつもりで居る。

「わかりました。凍太ちゃんには伝えておきます。日取りはいかがします?」

「そうじゃなぁ――――3日後の午後にココに来るように言ってくれんか。いろいろ用意もあるしの」

「わかりました。ではそのように」

そういうとシシリーはウェルデンベルグに一礼し、部屋を出て行った。


▽▼▽▼▽▼


「しつれいします」

「Please come in」

中から返答が返ってくる。それは―――――間違いなく英語だった。

ドアを開け中に入るとウェルデンベルグが続けて

「――――よく着たの。とりあえず座りなさい」

ティーテーブルに凍太を案内した。

今度は英語ではなく、ローデリア語で。

「あの――――ウェルデンベルグ先生。それで何の御用時ですか?」

「まぁ――――その前に茶をどうかね?」

ウェルデンベルグは指をぱちりと鳴らすと、ティーテーブルの上に一瞬で、ティーセットが用意された。

(まただ――――以前ココにあった事象を呼び出したな)

凍太は油断しない。

「紅茶は好きかね?―――」

(紅茶?あるのか)

あるのならば飲んでみたい。凍太は好奇心に揺り動かされて――――つい

「じゃあストレートで」

と注文してしまった。

「やはりな――――凍太クン。君は『紅茶』を知っておるね?」

(しまった)

そう思っても遅い。ウェルデンベルグの顔は楽しそうな表情を浮かべていた。

「やはりな。そう、警戒するでない。同じ転生者通し仲良くやろうではないか」

「!」

「何で知っているか?かの。いったじゃろ。『転生者同士』と、ワシも遥か昔こっちに飛ばされた一人よ」

ウェルデンベルグはにやつく。

「どうやら英語がわかるらしいところを見ると、お前さんも地球から飛ばされたな?イングランドかな?」

「日本――――ジャパンですよ」

「ほ!JAPANか!」

また英語がウェルデンベルグの口から出る。どうやら聞き間違えではなさそうだった。

ウェルデンベルグは新聞の一面をとんとんと指さし

「ところで――――こいつを知っているかね?」

「ニュースペーパーですか?」

「いいや。この記事に書いてあることじゃよ。」

良く見れば新聞の一面には大きな見出しで「蒸気機関」の事が書かれてあった。

「蒸気機関――――知ってます。もちろん他の事も」

「ウェルデンベルグ先生。貴方が教えたんですか?蒸気機関の仕組みを」

「ああ―――そうじゃよ。もちろんこれだけではないがね」

凍太の問いにウェルデンベルグは紅茶を啜りながら答えた。


▽▼▽▼▽▼


「なかなかに博識じゃな。それに――――魔力もずば抜けておる。まぁ『飛ばされた者』としては当たり前じゃがな」

ウェルデンベルグはしばらく、凍太と話しながらそんなことを言いだした。

「確かに、雪乃がお前さんを『脅威』と感じるのもうなずける。凍太クン――――

君はこの世界ではワシと同じく『規格外』じゃ。そう遠くないうちに、その力欲しさに人々が群がり、そして――――その力を恐れ――――操ろうとするだろう」

「なんで――――」

「なんで、か。ワシも同じような目にあったのだよ。助けた村からは最初はちやほやされたが――――そのうちに、ワシに出て行ってくれと言い出した。

なんのことはない。住民の一人がワシの力が『暴走』するんではないかと言い出しおったそうじゃ。そして――――そんなことはどこに行っても変わらんかった。

悲しい事じゃがな」

「それが僕にもおこるっていうの?」

「ああ――――まず間違いない。じゃから、『信頼できる友達』を作りなさい。ワシにお前の婆さん『雪乃』や『シシリー』『ランドルフ』がいたようにな。そうすれば――――心は折れずに済む」

「でも、同じ実力じゃないと仲間を危険にさらしてしまうって、聞きました」

「そのために、魔力をコントロールするんじゃろ?今はまだ魔力の流れをうまく操れんかもしれん。でも、心配するでない。シシリーちゃんについてもらっておるのはそういう意味もある。頑張ることじゃ」

ウェルデンベルグはそこで話を切った。凍太は紅茶の残りを飲み干し、しばらく黙考をして――――

「ありがとうございます。紅茶美味しかったです。勉強になりました」と続けてから

席を立ち―――――部屋を後にした。

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