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決意

「この子はやはり、言葉が理解できています」

茶の間に呼ばれた私は町長まちおさの発表を聞いて唖然とした。

と、いうよりも、信じられなかったというのが正しいかもしれない。

まだ生後、5か月ほどの赤子が、言葉を『理解』しているという。おいそれとは信じるわけには行かなかった。

もちろん言葉を教えてもいないし、文字だって、絵だって教えてはいないのだ。

「無論、キツネ付き、モノ付きの可能性も、否定はできないわ。でもね? この子ははっきりと私の問いに答えたのですよ。これは何よりの証拠ではないかしら?」

町長はそういうと抱っこっしていた凍太に目配せをして、言った

「凍太。もしお前が言葉を理解しているのなら、手を二回叩きなさい」



「言葉をりかいしているのなら、手を二回叩きなさい」

おばあさまはそういった。

すでに、おばあさまにばれてしまっているここに至っては、嘘をつくことは無理だろうし、なにより昨日の言いつけを破りたくはなかった。

この世界で嘘はつかないで生きていこう。俺は泣きつかれてはいたけれど、昨晩、しっかりと心に決めたのだ。

だから、誰にも聞こえるように、「ぱん、ぱん」と、大きめに二回手を叩いて見せた。



凍太は二回手を叩いた。

間違いやミスではありえない。しっかりとした音が響いた。

「なんてこと・・・」

紗枝もその光景を見て驚いている。 無論、凍子もそれは同じだった。 

「本当に・・・私の言葉が分かるの?凍太」凍子が問いかけると、こくんと頷いて見せる。

「・・・・・!」

どうやら間違いなかった。凍太は自分の意志でうなづいたことが凍子には理解できていた。

無論、キツネ付きではないかという懸念もある。が、今の凍子にはそんなことはどうでもよかった。

自分の言葉を凍太が、我が子が理解してくれている!その喜びのほうが懸念の何倍も、大きかった。

「凍太!お母さんよ!わかる?」

こくん----としっかり凍太は頷く。

「おめでとう。凍子。お前はこの子の母親です。しっかりとこの子はお前を認めたのですよ。良かったわね」

町長はそういうと、凍太を母親へ抱かせた。

「ありがどう・・・ございます・・・」

涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、凍子はそう口にしていた。



涙でぐしゃぐしゃになったトウコさんを見ながら俺はすこし、悪いことをしたなと感じていた

この人は俺の母親として人知れず頑張ってくれていたのはわかっていたし、お乳が出ないことで、少し悔しい思いもしていたみたいだった。

俺が汚したおしめや、着物を紗枝さんと一緒になって洗い、お腹が空いて泣いていたときも一番に気が付いてくれて、駆けつけてくれたのはトウコさんだった。嫌な顔もしないであやしてくれたり、もちろん、自分が眠い時や休みたいときもあったはず。なのにこの人は、母さんは、俺に献身的に尽くしてくれている。今もそうだ。

言葉を理解している子供なんて、普通の大人たちから見ればホラーな光景なはずなのに、トウコさんは怖がったりしないで喜んでくれている。

(・・・・ごめん。トウコさん 苦労掛けて)

転生前では思ったりしなかったことだが、目も前で泣いている母替わりの人を見るとどうしてもそんな事を考えてしまう。と同時に俺のために泣いてくれる人がいることがとっても嬉しい。

(この人が恥ずかしくないような、しっかりした生き方をしないといけないな)

そんなことを考えて、言葉をかけてあげたい気持ちとお礼を言いたい気持ちでいっぱいになって

「かあたま」

初めての言葉をを呟いていた。



「!」

「しゃべりました!いま!聞きましたか?」

「かあさまって呼びましたよ?!」

紗枝さんがびっくりしていた。

「! 母様かあさまと確かに言いました。めでたいですね」

町長も、嬉しそうに笑ってくれた。

「そう! かあさま! かあさまよ! もう一回、がんばってみて? ねっ?」

私もしっかりと凍太が「かあさま」といったのが聞こえた。

天にも登りそうとはこのことだろうか。幸福感でいっぱいになった。凍太にもう一度呼んでもらいたくて、急かしてはみたけれど、結局聞けたのは後にも先にも一回だけだった。ちょっと残念だけどしょうがない。

これから何度でも聞くことができるだろうし、諦めることにする。楽しみは後に取っておくのがいいのだ。

(この子のかあさまとして、私は絶対この子を育てて見せる!)

同時に決意を新たにした。


ともあれ-----この日、私はこの子の「かあさま」にやっと、なることができたのだった。















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