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仙人の実力と雪乃の本気

「いやぁ――――旅って本当にいいもんですね」

ニコニコと雪乃の馬に同乗する形で街道を南進する。凍太は南進する間ずっと誰かの馬へかわるがわる乗せられていた。

今日は雪乃の馬へ乗る日なのだ。

(いや――――馬じゃないよな。これ)

馬と言ってもサラブレッドのようなスラリとした馬ばかりではない。

重量種と呼ばれる「ばん馬」のような2メートル以上もある馬がこの世界での標準であるのだから、凍太が乗れないのも仕方ない。

第一、足が鐙に届かない。主な原因はこれだが、野生種をそのまま、捕まえることが多いため気性も荒い。

「―――――凍太にも苦手なものがあったのですね」

雪乃は面白そうに凍太の頭を撫でて、至極の表情で馬に揺られている。

翁石国を出て、南進すること4日。そろそろ霊山が大きく見えてきている。

30人の行軍は街に泊まるごとに歓待され、同時に盗賊団を必ず撃退することを約束させられるのはどこの村でも同じだった。

今日は街道の一つ先の村で、一泊するらしいが、すでに訪れた村々の証言では2日まえに盗賊団が近くの村を襲ったとの噂もあった。

「ま、出てきても切り捨てるだけだけどな」

カレル・ノヴァクを初めとした騎士課の連中は腕自慢が多く臨戦態勢がとれている。魔術課の人員もそれは同じだった。


▽▼▽▼


楼花の街にほど近い街道で一人の人影が盗賊団と向き合っていた。

盗賊団はこの近くの林の中で村から逃げた村人を口封じのために山狩りを行っていたところに、一人の仙人――――心玲が通りかかっただけの事だった。

が――――心玲は追われていた子供と女を助け、代わりに追手の盗賊団3人を血祭りに上げた。

「討伐隊より、私の方が早かったみたいだね」

女子供を仙術で見えなくすると、一人草原にある岩の上で座り、岩の前には盗賊団の死体を転がしておいた。

近くに仲間がいるならば――――血の匂いに誘われて集まるだろうと、東の仙人は考えた。

「おめぇがやったのか?」

「ああ、そうさ」

程なくして、仲間をぞろぞろと連れた一団が草むらに集まり、心玲と向き合う。

その中には身の丈2メートルに届きそうな鬼の姿があった。

「なかなか強そうだ。あんた名前は?」

「鴻偉心玲ホンウェイ・シンリン。あんた等には「東の大仙」と言った方が通りがいいだろうね」

ざわざわと盗賊団がざわつく。

だが――――すぐにそれも嘲笑へと変わり、やがて爆笑へと変わった。

「なにいってやんでぇ。コイツ頭おかしいんじゃねぇのか?東の仙人だってヨ!ぎゃははは」

「黙んな」

鬼が睨みを利かせると、盗賊団はすぐに静かになった。

「ほう―――――ずいぶんな胆力だ。お前さん―――名は?」

「彩花」

「ふぅん。ズイブンと綺麗な響きだ。が、お客が増えたみたいだね」

心玲は岩の上に座ったままで、そう言った。

心玲の視線の先には――――武装を終えた蛇の王国の一団が馬から降りて抜剣を終え扇状に盗賊団を取り囲んでいた。

「追手か」

彩花は討伐隊を片目でにらみを利かせ、もう一方で仙人の挙動を探った。

「そこの鬼。お前がこの盗賊団の頭ですか?」

「お前は?」

「申し遅れました。蛇の王国所属 クラリーチェ = ディカニオです」

クラリーチェ が名乗ると盗賊団が一斉にどよめき始めた。

「お、おい!やべぇぞ。王国の討伐隊だ!」

「マジで来やがった」

口々にざわめく中で、続いて、一歩進み出たのはシシリー・マウセンと雪乃。

「まぁまぁ、ずいぶんなおびえようだ事」

「ふん。小物ですからね。あの鬼は面白そうですが」

その姿を見て、彩花は

「面白そう?言ってくれるじゃあないか。婆さん」

犬歯をむき出しにした。

「――――雪乃。それは私の相手です。取るんじゃないさ」

鬼の後ろから声が飛ぶ。仙人のモノだった。

それを聞いて、シシリーは眉根を寄せ、雪乃は面白そうに笑った。

「はははっ 心玲 あなたまでいるとは思いませんでした」

「それはこっちのセリフです。もういちど言いますよ?その鬼は――――いいえ彩花は私の相手です。引っ込んでいなさい」

「はん――――お断りですよ。そんな面白そうな相手を目の前にして退くなどあり得ません」

「交渉決裂ですね」

「ええ」

鬼を挟んで――――仙人と雪乃――――二人の戦士が笑う。

「アタシは両方が相手でも構わないサ。存分に楽しませてくれるんだろう?」

鬼も雪乃と仙人とに『かかってこい』と挑発して見せた。


▽▼▽▼


草原一帯が喧騒に包まれた。

クラリーチェ ・ディカニオとシシリー・マウセンの指示が無くても騎士課と魔術課の攻撃は確実に盗賊団を討伐していった。

一方で、鬼と雪乃、東の仙人――――心玲の3人は三つ巴の決戦を繰り広げていて、盗賊団もそれに乗る形で、仙人と雪乃に襲い掛かっていったが――――

「邪魔です」

「どきなさい!」

盗賊団は二人の動きの前に全く太刀打ちできず、一人は首を吹き飛ばされ、もう一人は貫き手で心臓を貫かれて絶命した。

仙人と鬼が打ち合えば、その合間を縫って、雪乃が参戦し、仙人を巻き込んで攻撃を繰り出す。

雪乃が鬼を追い込もうと走り込んだところに、仙術で作られた突風が雪乃の行方をさえぎる。

彩花は

「はははっ ああ―――――楽しい!楽しいねぇ!」

と二人を腕に着いた分銅で薙ぎ払い――――追撃を食らわせた。



「くそがぁ!」

しゃにむに突っ込んでくる盗賊団の一軍を騎士課が前に出て第一撃を止める。

返す手で盗賊団の首を撥ね、致命傷を与えて行った。

「はぁぁぁ!」

皐月も騎士課の一員の中で、相手の弓手の腕を切り落とし、半回転して後ろから迫った槍の穂先を切り落とした。

凍太も負けてはいない。

騎士課の脇を抜けて来た5人ほどの集団を地中から突如として生える氷の槍――――『逆さ氷柱』で串刺しにし、飛んでくる矢を炎の壁を作り出して焼き切った。

「――――今だよ!」

凍太が近くに居た騎士課に号令を掛けると―――

「俺に続けぇ!!」

「一人も逃すな!」

カレル・ノヴァクを初めとした騎士課は一斉に残った盗賊団を相手に突撃し―――蹂躙した。

恐慌状態に陥った盗賊団の生き残りも、逃げようとしたものも魔術課の放った魔術によって打ち倒されて草原には動くものが、鬼と雪乃、そして仙人だけが成った。

「鬼を囲みますか?」

「いいえ。余計な事はせず見守りましょう」

シシリーは魔術課の一人の提案をそっと却下した。



「残ってるのはアタシだけか」

鬼――――彩花―――――は自嘲気味に笑って眼前から迫ってくる相手を睨みつけた。右手側からは東の仙人が、左手側からは雪乃が迫ってきている。

(人族にこんな奴らがいるなんてね)

膝で雪乃を吹き飛ばし――――仙人を拳で迎え撃ちながら、彩花はどうしようもない高揚感を得ていた。

雪乃は一撃一撃が鋭く重い。対して、仙人は攻撃を往なされ躱される。

二人が反発、攻撃し合うときは決まって、御互いの前にどちらか一方が重なる時で、容赦のない一撃をお互いに浴びせている。

「邪魔ですよ。クソ仙人」

「お前こそ、目障りです。クソ婆ぁ」

お互いに向かい合って対峙する二人の横合いから

「よそ見してんじゃないよ!」

と今度は鬼が蹴りを叩き込んで、邪魔をする。

仙人は蹴りを霞のように躱し、逆に足をつかんで巻き込むようにして投げを打つ。

雪乃は鬼の懐に入って軸足を払って刈り取った。

ずずんっ

態勢を崩された彩花は右肩を地面に打ち付けて受け身を取れずに体を強打したが、構わず左足で雪乃を引きはがそうと蹴りを放つ。――――が足だけの蹴りでは雪乃にダメージは与えられずに踵を逆に腕一本で押さえつけられてしまった。

「取りましたよ」

そのまま雪乃は踵を脇に抱えて自分も地面に倒れ込んで「ヒールホールド」の体制に持ち込んで―――――極めた。

「ヒールホールド」は、一見地味だが――――靭帯(主に内側側副靭帯または外側側副靭帯)や半月板等を破壊する強烈な技なのだ。

「がぁぁ――――」

膝じん帯が悲鳴を上げる。

右足も仙人の投げ――――ドラゴンスクリューで感覚がなくなっていた。

「さぁどうします?彩花」

右脛を踏みつけながら、仙人が悠然と問いかける。

「アタシはまだ負けてない!かかって来い!」

「その意気やよし」

仙人はそう言うと――――左側に居た雪乃の方に向かって足を振り上げ―――――

ブゥン

雪乃の顔めがけて蹴りつけた。

「―――――っ!」

ヒールホールドの体制のままで雪乃は成すすべなく、仙人の渾身の蹴りを横面に食らい動かなくなる。

そして――――

「彩花。その足ではもう動けぬ筈。そうだろう?」

言われた通り、左足はじん帯がキレてしまっているのか、足先が動かない。

「殺せ。アタシはもう満足した」

彩花は大の字に寝ころんで目を閉じる。が―――――

「私は先の見えた勝負はしないのさ。楽しかったよ」

「――――そうか。アタシも楽しかった」

彩花は満足げにつぶやいた。

仙人はそう言うと、彩花の元から離れ――――シシリーの元へと向かった。

「あとはあんたに任せる」そう言い、今度は凍太の元へと近づいて

「雪乃に良い戦いだった。楽しかった、また戦ろうって伝えておくれ」

そう言って、草原から姿を消し、あとには鬼と老婆――――そして蛇の王国の討伐暖だけが残されたのだった。


▽▼▽▼


「あのクソ仙人め」

楼花に宿を取った討伐隊一行は、宿丸々1つを借り切って、討伐終了を祝う宴を開いていた。

その席に招待された雪乃は魔術で癒された首を擦りながら――――忌々しくつぶやきを漏らして、酒を煽った。

「『でも、あの人、良い戦いだった。また戦ろう』って言ってたし・・・・」

凍太がフォローをしようとしても

「随分、上からな物言いです。今度会ったらただじゃおきません。次に勝つのは私ですよ」

そう言ってまた酒を煽る。酒の減り方が早い所を見ると相当に機嫌が悪いことが知れた。

「いやぁ。すごい戦いで御座ったな」

一方、少し離れたところで、皐月は騎士課の仲間と酒を酌み交わしている。

魔術課は魔術課で凍太と雪乃を交えて静かに飲んでいると――――

「あああの、ウェルデンベルグ様と旅をしたことがあるって本当なんですか?」

魔術課の生徒が雪乃に質問を投げかけた。

「――――ええ、確かにあのくそジジイと仲間だったことはありますよ。それが何か?」

胡乱気に雪乃の眉が動く。

「そのときのお話し聞かせて貰ってもいいですか?」

「長くなりますよ?それでもいいなら――――」

(あ――――こりゃあ長くなるぞ)

凍太は雪乃の話が長くなることを察して、退避しようとしたが――――

「凍太にも話してやるとしましょうね」

雪乃がしっかりと凍太の腕をつかんで離さなかった。


結局―――――雪乃の話は深夜まで及ぶ事となったが

おとぎ話級の話は、凍太にとっても魔術課の生徒にとっても、興味深いものだった。

「――――雪乃。その話は少し違いますよ」

途中から酔っぱらったシシリーが横やりを入れ、細かい所を訂正して言ったが

大まかにはあっているので本筋は外さない。

話は「ウェルデンベルグとの出会い」から「シシリー、ランドルフとの共闘」「南の大陸での竜退治」「雪乃のオーガ殺し」など、多岐にわたった。が――――

どれも、ディティールが細かく語られるので、面白く、退屈しない内容で、

いつの間にか、酒場は講壇を聞くような場に代わっていった。

「――――オーガを倒したときはどうだったんですか?」

「ああ、あれはたしか50年近く前、南の大陸で修業をしていた時ですね」

「雪乃が鬼の住処で寝ていたのが切欠だわ」

ぎろん―――

シシリーのつぶやきに雪乃の目つきが荒くなる。

「まぁ――――大雨の中、ウェルデンベルグのジジイとはぐれた時がありましてね――――」

「あんまりにも雨がひどくて雨宿り場所を探していた時の事です。岩陰に洞窟がありましてね――――軽い気持ちで入った訳ですが・・・・中から何やらいい匂いがすうわけですよ。

何かと思って――――奥に進むと奥には酒が樽で置いてありましてねぇ。ちょっと拝借して飲んでみるとまぁ美味い訳です。首を突っ込んで飲みましたよ。―――――いやぁあれはいい酒でしたねぇ」

「この子は昔から酒に目が無くて困っているのよ・・・・」

隣でシシリーがやれやれといった感じでぼやく。

「それで、酔っぱらって、寝て起きてみると鬼が一匹、不思議そうに顔を覗き込んでいましてね――――いやぁ焦りましたね」

「それで、どうなったんです?」

「まぁ、後は鬼が何やらわけのわからん事をがなり始めて――――暴れてきたわけですよ。まぁもちろんブチ殺してやりましたが」

フフンと雪乃は鼻を鳴らした。

「信じらんないわよね――――ひとりでどっかに行ったと思ったら、いきなりふらっと帰って来て、片手には鬼の首を持ってるんだから。それも酔っぱらって」

「今回の相手とどっちが強かったですか?」

「――――今回のが何倍も上ですよ。おそらくあの鬼は、かなりの手練れの筈です――――おや?」

酒瓶が空になっているのに気が付いて―――

「酒が切れてしまったねぇ。酒がないんじゃ――――ここまでにしようか」

雪乃が一方的に話を止めてしまった。

「お酒がなきゃ話せないわよね・・・・フフフ」

「――――うるさいですよ。シシリー」

「はいはい。分かっているわ」

こうして――――酒の席で語られた昔話は、ひとまず終わりになったのである。

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