リヴェリ復興計画
リヴェリの街の復興計画が決まって凍太達3人が行ったのはまず、嘆願書の署名だった。
嘆願書と言ってもたった4人だが――――この嘆願書には特務員3人が王国へ向けて発信する報告書でもあった。
「しっかり送り届けてね」
ハンナがフクロウの足に手紙を縛り付け呪術的な保護を施し、飛び立たせると――――フクロウは天高く飛び立って見えなくなった。
「これで、王国は動くわ。必ずね」
「はぁ――――そうでしょうか」
マデリーネはまだ信じられないといった顔で困った様子だった。
「心配いらないわ。送り先はランドルフ先生とシシリー・マウセン導師、それにウェルデンベルグ様にも直通で届くもの」
ハンナがエッヘンと胸を張って見せる。
「ウェルデンベルグ様!?ええぇ?」
マデリーネは名前が出た瞬間に聞き返す。
「うん。特務員は直通でウェルデンベルグ様に要件を伝えられる権限があるの。それに――――ハンナの先生のランドルフ。凍太の先生のシシリー・マウセン。この二人にも同時に要件が届くわ。少し卑怯臭いけどね。きっとあの二人ならこの状況をなんとかしてくれるはずよ」
「ひょっとして・・・・『隠者』ランドルフさまと『大魔術師』シシリーさまですか?」
「そうよ?おどろいたでしょ?」
「ええ・・・・伝説ですからね。
お二人はその、お弟子さんなんですね・・・・」
アリシアの言葉にマデリーネはぽかんと口を開けたままだった。
「え?・・・・シシリーおばあちゃんそんなに有名人なの?」
凍太がハンナに小声で問いかけると、
「あら?知らないかしら?大魔術師シシリー」
「いや・・・・知ってるけどさ。伝説って言い過ぎでしょう?」
名前だけは学園で聞いたことがあったのだが、正直、尾ひれがついた話だろう、と思っていたのだ。
「それがそうでもないのよね。あの人たち化けもんだもん」
「ああ・・・・アタシと凍太クンとタチアナも一般人からみたら十分、化物だからね?」
ハンナは笑って見せた。
報告がすぐに王国に伝わった翌日には、リヴェリの国債を肩代わりするという証書が発行され――――ローデリアの統治者へ届いた。
「何だこれは!」
驚いたのはその内容である。
「リヴェリの戦後復興国債をすべて「王国」がローデリアに代わって肩代わりをする。尚、この宣言書は届いた当日含め、3日の後、効力が発生するものである」
一方的すぎる最後通牒だった。
書面には透かしで王国の紋章が入れられており、偽物である可能性は皆無。
これを見た者達は、あわてふためいた。
「王国がなぜ、辺境の一都市のために動くのだ!?」
「王国に介入されてみろ。リヴェリにつぎ込んだ国債が紙くずになるぞ」
「これは、越権行為ではないか!今すぐ、王国に抗議の使者を出せ!」
等々、大騒ぎとなった。
ローデリアとしては国債の利鞘で甘い汁を吸おうと考えており、戦後復興国債から得られる資金を財政の一部として考えてもいたため、混乱が起こった。
「国債が消えてみろ!ローデリアの財政は大打撃を被るぞ!」
「回避する手段は――――」
それに加えて――――第二報として、王国から「騎士課」50名、「科機工課」20名の追加人員投入が発表された。
この王国からの異例の対処に対して――――大慌てでローデリアは緊急で会議を開かざるを得なくなった。
「リヴェリが融資元を鞍替えした」
「王国が後ろについているらしい」
リヴェリに貸し付けた法外な戦後復興国債をもとにした「乗っ取り」は立ち消えどころか――――おおきな怪物を呼び寄せる結果になった。
「急いでリヴェリへ使者を送れ。なんとしてもリヴェリの街に王国の介入を許してはならん。マデリーネを召還し、白紙撤回させろ!すぐにだ!」
もはや、残された手段はリヴェリ辺境候――――マデリーネから王国への白紙撤回依頼しか残されてはいなかった。
「いまごろ大騒ぎになっているでしょうねぇ」
手紙を見ながら――――シシリーはお茶を皐月、ヴェロニカと楽しんでいた。
「国債の肩代わりなんて、むちゃくちゃです。なんでこんな・・・・」
ヴェロニカも今回の王国の対象の仕方には驚きを隠せなかった。
「まぁ、そうね。相手の国債をすべて紙切れ同然にする「荒業」だもの。国債を買っていた人間は大変でしょうね」
「難しい話でござるなぁ。拙者頭が痛くなって来たで御座る」
「まぁ、簡単に言うとね。お金を貸していた相手から、全く、お金が返ってこなくなったって事よ――――国家レベルだけどね」
「マジでござるか――――ローデリアは大慌てで御座ろうな」
「大慌ても大慌て。たぶん国家予算が相当大変なことになるんじゃない?――――きっと近いうち、暴動がおきるわよ」
「恐らく商会は――――しばらく悲惨な状態になるものと」
「ええ。きっと商会は逃げることは出来ないわ。一番儲けていたのは国と商会でしょうから。責任を取らされて、取り潰されたりする商会も出ると思うわ」
「それにしても、マウセン導師はよくウェルデンベルグ様を止めませんでしたね」
「止める?なぜかしら?・・・凍太ちゃんが困ってるってわかって本当は私がローデリアを潰してやろうかとおもってたくらいなのよ?」
「はぁ・・・・」
「孫弟子・・・・いいえ、孫におばあちゃんはダダ甘なものなのよ」
そう言ったシシリーの顔はにこやかに笑っていた。
「おかえり下さい。マデリーネ様はご病気です故、召還に応じることは不可能です」
ローデリアからの使者を前にハンナはぴしゃりと言い放った。
「こまります!無理にでも来ていただかないと――――」
「「王国」特務員ハンナ・キルペライネンと「対立」するということは「王国」に逆らうのと同じことよ?」
目前の役人はハンナの眼光に動くことが出来なくなった。
特務員に逆らうということは――――つまりは「王国」の代理人に逆らっているということだ。
ただ、役人も引けはしない。
このまま帰れば、自分の身に何があるかわからないのだから。
「私達はローデリア本国から正式に召還命令を受けているのです!いかに「王国」と言えど、他国の内政干渉になりますぞ!」
「私たちは正式に――――ローデリアから派遣命令を受けてここに居るのですよ?これは、内政干渉とは言えません。もし――――私たちをどかせたければ、ローデリアに派遣依頼を取り下げて貰ってくれませんと」
ハンナは表玄関の階段に居座ったまま動かない。
どうしてもどかせたいなら――――ローデリアを通して、王国へキャンセル依頼を掛けろ――――と言っている。
(まぁ、派遣依頼の取り消しが来たとて、既に遅いのだけれどね)
既にこっちに「騎士課」50名が先行で向かっているとの情報を得ている。
騎士課の50人と言うことは―――――おそらく選ばれた50人にちがいない。これは、ローデリアから秘密裏に武力介入をされた時の抑止の効果を狙っての事だろうとハンナは分かっていた。
目の前にいる役人は、言ってみれば前哨戦に過ぎない。
(にしても――――騎士課50人って戦争でもおっぱじめるつもりなのかしら)
魔術を使える騎士50人は小国規模の小競り合いを鎮圧するためなどに投入される人数だった。
おおかた、王国は農地整備等と警備を行わせるための人数も入っているとみて間違いないと、ハンナは考えていた。が、いまはそんなことはどうでもよかった。
(おそらくは今夜がカギね)
今夜に荒事専門の傭兵や暗殺者などがローデリアから派遣され――――マデリーネを本国に連れ去る手筈で動きがあるはずなのだから。
王国からの猶予は三日。それまでに連れ去って、マデリーネから白紙撤回をさせるとしたら、明日では遅い。今夜がベストだ。
「しかし――――」
尚も食い下がろうとする役人。
だが、ハンナはニタリと――――笑うだけだった。
「病床に伏していて、召還には応じられないそうです」
「阿保か!手紙でも何でもよいと言ったろうが!」
「すでに「王国」特務員が辺境候の屋敷に居座り手が出せません・・・」
ローデリアの大会議室では、役人が怒号を浴びせられていた。
相手はローデリアの英雄のひとりである男だったが――――昔の面影は消え去り今はただの太った幹部の一人にすぎない。
「どうすればよいのだ・・・・特務員がいては動きが取れぬ」
悔しそうに幹部は呟く。
「まぁ――――仕方ないのではないですか?」
「なんだと?ウォーレン」
不意に聞こえた声に幹部は反応した。
「ことがここまで先手を取られてしまっては、仕方ないのでは?と言ったのです」
幹部に睨みつけられたままで、男――――ジャーディス・ウォーレン――――は
その細い面持ちを崩さずに続けた。
「すでに、私の配下の者に指示し、強制奪還を命じてあります」
「ウォーレン。貴様――――相手は特務員だぞ!ローデリアを潰すつもりか!」
「何をおっしゃっているやら。バレなければ――――そして負けなければよいのではないですか?」
すでに手は打ってある。
ジャーディス・ウォーレンは暗殺者としてできうる手を即座に打った――――
ただそれだけの事だった。
夜、寝静まるころになってから暗殺者たちはリヴェリの街へ侵入した。
依頼内容は「マデリーネ辺境候の誘拐とそれを邪魔する者の排除」だった。
(ここか)
マデリーネの屋敷に到達する。
大きめの屋敷だったが――――侵入することなど造作もない。いつも通りの手筈で暗殺者は二階の屋根へ飛び乗った。
煙突が見える。そこから中に入ることに決めると、身体を滑り込ませて行った。
同時に下の階には同じ暗殺者の集団が屋敷を取り囲んで、配置についており、対象が逃げるのを阻止できるようになっていた。
煙突を抜け、辺りを見回す。
「こんばんは。が抜けてるわよ?暗殺者さん」
横から声がして、暗殺者は無言でナイフを放った。
同時に、一足で前に移動し、そのまま天井の梁へ飛び乗る。
「随分、身軽じゃない。やっぱり本業は違うわね」
声がした方向を見やると――――女が一人話しているのが知れた。
「ああ、名乗っておくわね。私はタチアナ・ソロコフ。蛇の王国、特務員よ」
タチアナが名乗っている最中に――――暗殺者は梁から飛び降りて、ナイフを逆手に持ったまま頭上から振ってくる。ナイフの刃がタチアナを捉えた矢先、
「がっ――――!」
暗殺者は動きを封じられた様に、動けなくなった。
「しびれて動けないでしょ?」
タチアナは腕を自慢げに言って見せると、袖をまくって見せる。袖の下から白銀色の籠手が姿を見せた。
「コレが今あなたを縛っているものの正体。「科機工課」特製アミュレット。「雷撃クン」よ」
一見、ただの籠手にしかみえなかったが、触れさせることで雷撃が流れる仕組みだった。
タチアナはまだ体の自由が利かない相手の後ろに回り込み、膝裏を蹴りぬいて、膝をつかせると――――もう一度、「雷撃クン」を押し当てる。
「―――――!」
一瞬、暗殺者がびくりと撥ねたかと思うと、そのまま気を失い、うつ伏せに倒れた。
「いやぁ。すんごい威力だわね。コレ」
タチアナは背中に膝を乗せたままで相手のフードをはぎ取り、首筋に――――丸い点があるのを確認した。数は3つで横並びに配置されている。
(丸い点。やっぱりローデリア傘下ね。3はどこの符丁だったっけ?)
そんなことを考えながら、相手の奥歯を確認していくと差し歯が外れて取り出すことが出来た。
「在った在った」
差し歯を月明かりに照らすと紫色に変色しているのが分かる。中に毒が仕込まれており、思いっきり噛むと毒が中から漏れ出る仕組みになっているものだった。
「あとは、ハンナと凍太クンにお任せカナ」
タチアナは呟くと、もう一度月を見上げた。
ハンナが手を前に刺し伸ばすと放射状に伏せていた科機工課20名の銃口が火を噴いて――――屋敷の周りにいた暗殺者を葬った。
それと同時に、今度は凍太が草むらから立ち上がり、「突撃」の合図を指し示す。
合図が出ると――――草むらや、物陰に隠れていた騎士課25名が音もなく突撃していき、残っていた暗殺者を取り囲み、なで斬りにしていった。
組み伏せられ、心臓を貫かれる者、後ろと前から切られる者。
暗殺者は数の暴力の前になすすべなく、死んでいった。
「掃討完了!」
そのうちに近くにいた騎士課の男が声を上げて凍太を見る。
「お疲れさまでした。ありがとう」
凍太は男に頭を下げると――――騎士は膝をついて凍太の前に頭を下げた。
「いえいえ。なんの。騎士課50名お役に立てて光栄です」
周りもいつの間にか騎士たちが膝をついた格好で礼を取っているのをみて、慌てて凍太は立って、集まってもらうように男にお願いすると、散っていた騎士が一斉に屋敷の周りから姿を見せ、「整列!」の号令とともに凍太とハンナの前に10人5列で横並びになった。
「みなさん。ありがとうございます。これで当面の脅威は排除されました。これからしばらくはリヴェリの街の警護と復興に尽力して頂くことになります」
ハンナが一礼し、謝辞を述べると、騎士たちが胸のプレートを一斉に叩いて見せた。
「ありがとうございます。では、これにて解散です。後の処理は、フレッチェン殿に一任いたします」
ハンナはそういうと――――騎士の先頭に立っていた男―――――目配せした。
「了解いたしました」
フレッチェンは胸プレートを叩きながら、静かに了解すると、騎士たちに「死体処理」と「検分」を命じて行く。
その様を見ながら、ハンナは凍太に「おつかれさま」と呟くのだった。
暗殺者5名がすべて駆逐されたという報は、ジャーディス・ウォーレンの耳に明け方には伝えられることになった。
「そうか。やはりな」
ジャーディスはそれだけを言うと伝令を下がらせベッドに仰向けになった。
「やはり、5名ほどでは足らないか。そうでなくてはな」
分かりきっていたかのように呟いてニヤリとわらう。なんにしてもこれで、蛇の王国とは対立することになった。確かな満足感を感じながらジャーディスは再び目を閉じた。
2日が立ち、リヴェリの国債の肩代わりが半ば強引に「王国」の物となった報告は半日も立たずに、商人達を震撼させた。
同時に起こったのは商人たちの嘆き。中には、首をくくる自殺者まで出た始末になった。
これで、国債を買っていた商人たちの元手は帰ってこない事になった。
当然、利子もである。
「くそっ!当てが外れた!」
机を叩きながら、ローデリアの商人の一人であるヴェロッキオは悔し気に頬を引きつらせた。
「いくら損した?・・・・くそっ 「王国」の奴らめ!俺達の儲けをよくも台無しにしてくれたな・・・」
悔しくてたまらない。何とかして――――王国に一泡吹かせてやりたいとヴェロッキオは考えていたが――――血が上った頭ではうまく行きそうにない。
国債がつぶれ、今までの投資は戻ってこない。プラスに転じさせる方法はローデリアの側でなく、王国側に鞍替えするのが安全策だが、それでは王国に反撃は出来ない。
(今は一旦、我慢するしかない)
ヴェロッキオは硬く目を閉じ乍ら、一度落ち着くことを決めたのであった。
「ココを農場に作り変えようと思うんだ」
マデレーネの家の居間で騎士課の隊長を務めるフレッチェンと機工課を取りまとめるローラ ・ムニスを含めた6人で緊急会議を開いていた。
「それで?」
「農地を増やし、畑を増やし、リヴェリの食環境を改善していくことで病人を減らそうと思う。騎士課と科機工課の皆には荒地の開墾と不審者の取り締まりをお願いしたいと思ってますが――――どうですか?」
「私たち科機工課はウェルデンベルグ様から指示に従うよう仰せつかっているわ。騎士課もたぶん同じでしょう?」
「ああ。我らも異存はない」
「よかった。加えて、科機工課の皆さんの知恵を貸りたいなと思います」
「知恵?」
「うん。荒地でも育つ野菜類の選定を行って病気が起きても全滅しない作物を作りたいので」
「そういうことなら――――任せてちょうだい」
期間は僕たちがいられるのは、あと2か月です。2か月を過ぎると特務員はローデリアからの退去命令が出るそうです。残念ですが。その前に、打てる手を全部売っておきたい」
とうたの提案に、皆が頷き、意志が固まった。




