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首を盗め

「久しぶりね。ハンナ」

「吹雪」の二つ名を持つ、タチアナ ・ソコロフが集会所に入ってきながら――――軽薄そうに手を上げた。

痩身で金髪、きつめの感じがする人族の女でハンナの友人の一人でもあった。

王国指定のローブを身にまとい、背中には杖を袈裟懸けにして背負っている。

「あら、タチアナじゃない。援軍ありがと。もしかしてあなた一人?」

「いいえ。あと二人、医療課から連れて来たわ。あんたもそろそろ限界でしょ?」

タチアナは笑いながら言ってくる。

「アタシはまだ平気だけど――――正直、凍太ちゃんの方が心配かしら」

ハンナは治療の手を止めずに呟いた。

「ああ、それなら心配いらないわよ」

「え?」

「ここに来る前に、偵察がてら探ってきたら、あたり一面、氷の世界になってたわ」

「あら――――そうなんだ」

それを聞いて、ハンナは少し安堵した。

「あの分なら、デュラハンに後れを取っていることはないと思うわよ。それどころかあたしたちの出る幕はないわ」

タチアナはやれやれというように、首を振って見せた。

「でも、それだと――――」

「そ、あんまりにも薄情だから、アタシは『氷帝』に会いに行ってくるわ。残りの二人にはアンタの手伝いをするように言ってある」

「ありがとう。タチアナ」

「先輩としては、後輩がどんなもんだか見ておかないとね」

タチアナはそれだけを言うと、集会所から出て、一人、森の中へと歩いて行ってしまうのだった。



森を暫く進んで周りの気温が下がったことに気が付く。

乗っている馬が吐く息も白く煙っていて、相当に気温が冷たくなったことが知れた。

(ずいぶん派手にやってるみたいね)

一人ごちながら、タチアナは馬の背に揺られていた。

さらに奥へと進むと――――周りの景色が緑から白へと色が変わっていることに気が付いた。何もかもが凍っていて、音などはなかった。

やがて、一軒の小屋の前にたどり着くと、たき火で暖を取りながらスープを啜る少年の姿が見えて、タチアナは馬を下りた。

「だれ?」

少年がこちらを向く。タチアナは立ち止まって告げた。

「蛇の王国 魔術課のタチアナよ。増援に来たわ」

「ああ、そうなんだ」

凍太はそう言いながら、タチアナに握手を求めて来る。

「僕は凍太。魔術課です」

凍太と名乗った少年はにっこりと笑ってタチアナをたき火の前の切株に案内した。

「どおぞ」

スープが差し出されてタチアナはそれを受け取ると、手に温かい感触が伝わってきた。

スープを一口飲みながら、周りを観察すると手じかな所に、一体の氷漬けになった彫像が見える。

「あれがデュラハン?」

「だと思うんだけど」

凍太は半信半疑で答えて来た。

「?」

「だって――――本物は見たことないし」

「ははは・・・」

(なんて子かしらね・・・・確認もしてないのに凍らせたっていうの?)

タチアナは叱り飛ばしてやりたくなったが、ぐっと堪えて先を続けた。

もし、対象が違っていたりしたらどうするのだと思いながら――――

氷漬けの彫像の前へ行き、確認をしておく。

(やっぱりデュラハンだわ。でも――――女型のデュラハンなんて)

ほぼ見たことがない。男型の個体であっても相当に珍しい筈なのだから。

姿かたちが、女性のシルエットであることは間違いない。そして首がないことからもデュラハンであることは疑いようがない。だが――――

(首を持って無いってのは――――引っかかるわね)

ともあれ、凍りつけにされた彫像の見聞を終えて、タチアナは踵を返すとまた元の位置へと戻って

「どうやら、対象は間違いなくデュラハンだわ。良く足止めできたわね」

そこは褒めるべきだと、素直にタチアナは考えていた。

「でも――――頭はどうしたの?」

「最初から無かったよ?」

「?――――」

タチアナは眉根にしわが寄るのを感じながら疑問符を浮かべた。

「最初から首がなかったの?」

「うん」

凍太の目をのぞき込むが――――嘘を言っているようには見えなかった。




それから幾日かが過ぎて行ったある日の事。

オラフ教の信徒であるアルフレード ・レッキアは廃城から祈りを終えてリヴェリの街への帰路へついていた。

ランタンを持ちながら――――暗い夜道を歩き、進んでいくと――――あたりの景色が急に冬景色さながらに色を変えているのに気が付いた。

「なんだこりゃぁ・・・」

季節はまだ温かい筈なのに、周りはどう見ても凍っているどころか、寒気を感じた。

(魔物の仕業か?)

考えられる線は――――何らかの魔物の仕業で凍らされたぐらいしかアルフレードには思いつかない。

(それにしても、ガチガチだな・・・・)

コンコンと木の幹を叩いてみると、氷の硬い感触が伝わってきた。

アルフレードは薄気味が悪くなった。

一刻もはやくこの場から逃げ出したい。衝動に駆られて凍った森の中を進んでいくと

やがて一軒の山小屋を見つけた。

山小屋の付近からは――――何かを燃やしているような――――煙が見て取れた。

(誰かいるんだ。助かった)

アルフレードは寒さに負けて山小屋に一目散に歩く。凍えた体をどおにかして温めなければ――――とそれだけを考えていた。

山小屋に近づくにつれて、寒さが厳しくなっていく。

凍り付き具合はさらに増し、地面はガチガチで、凍った草は歩くたびにバリバリと砕けて行った。

(なんだありゃ?)

目の前におかしな氷の彫像が2体目にはいり、アルフレードは目を細めた。

人型に馬型。2体の首なし氷像が山小屋の手前に立っている光景は何とも不思議に見える、と――――

氷像に歩み寄る人影が見えた。

「ぉぉ――――」

声を掛けようとした時である。人影は何かを呟いた。と思った次の瞬間―――――

猛烈な凍気、寒気がアルフレードを襲い――――そこでアルフレードの意識は途絶えてしまった。



「大丈夫?」

気が付くと一人の子供と女がこちらをのぞき込んでいた。

ボンヤリとしながら身を動かす、と、ずきりと手足に痛みが走った

「っ――――」

「まだ動かない方がいいわ。軽い凍傷にかかっていたから、暫く痛むわよ」

そこまで言われてアルフレードは自分が凍り付いたのだと自覚した。

「ここは?」

「山小屋の中よ。アタシはタチアナ。蛇の王国の魔術師をしているわ」

「アルフレードです。リヴェリの街の住人です」

御互いに名乗ると、今度は子供の方が口を開いた。

「ごめんね。威力が強すぎたみたいで」

謝る子供の言っていることが分からずにアルフレードはぽかんとしていると

「貴方、この子の魔術で凍っちゃったのよ」

タチアナがやれやれと言った風に説明を補足した。

「――――?魔術で?ってことはこの、凍った景色はその、子供が魔術でやったっていうのか?」

「そうよ。この子がお構いなしに魔術を展開した結果」

(本気か――――?)

「まぁ信じられないでしょうね。アタシもこの子が蛇の王国の特務員じゃなければ信じていないわ」

蛇の王国の特務員、と言う言葉を聞いて、アルフレードはびくりと身をすくめた。

(こいつら、まさか、異端審問に来やがったのか?)

蛇の王国の特務員の中には、国に依頼されてカルト集団の殲滅などをする者たちがいると噂に聞いたことがあった。

オラフ教はほそぼそと続けて来た振興の宗教だが、世間からは邪教と蔑まれることも少なくない。

(もし、こいつらの目的が、オラフ教の殲滅なら大変だ・・・一刻も早く知らせに戻らないと・・・・)

アルフレードは頭の中で勝手に妄想を膨らませて行った。

「で――――あんなとこで何をしてたの?」

声を掛けられて、顔を向ける。と、タチアナが疑問を投げかけてきたところだった。

「えっと・・・・道に迷ってまして・・・」

アルフレードは窮して適当なことを口走った。

「あら、そう。リヴェリの街に帰るなら馬に乗せてってあげるわよ?」

(まずいな。このままリヴェリに帰るのは都合が悪い)

アルフレードは機転を利かせて、

「いいえ。ここまで来れば平気ですよ。明日の晩には出発したいんで」

「そう?傷も治ってないけど平気かしら?」

「少し痛いぐらいですよ。平気です」

『一刻も早く、廃城に居る仲間に知らせなければならない』

アルフレードの決意は固かった。たとえ少し位足が痛かろうが、オラフ教の仲間を皆殺しにされる前には些細なことだった。




「何か怪しくないかなぁ」

アルフレードが再び眠りについた後、別室で凍太とタチアナは向き合って、お茶を飲みながら話し合っていた。

「そうね――――怪我も治りきってないのに、急いで出発するなんてちょっと変よね」

「何か隠してるんじゃないかなぁ?」

「――――どうでしょうね?探ってみちゃおうか」

「うん」

二人はアルフレードの反応のおかしさに気づいて、逆に罠にはめる事に決めたのである。




次の日の晩にアルフレードはこっそりと山小屋を抜け出すことに成功し、一路、オラフ教のある廃城へと向かっていた。

一晩経って、だいぶ足は回復し、少し痛むが、何とか歩ける程度にはなっていた。

「いそがないとな・・・・」

元来た道を戻りながら――――ぶつぶつと自分を鼓舞するように呟いて――――山道をいそぐ。が、その行動はタチアナによって後をつけられていた。

(リヴェリとは反対方向じゃない。やっぱりおかしいわ)

木々の陰に隠れ、夜陰に乗じて、タチアナは後ろからこっそりと後をつける。

魔術で足音は掻き消える様にしてあるので、音でばれることはない。

(にしても、ずいぶん奥まで行くのね――――あら)

アルフレードが廃城の前で立ち止まり、門扉を開いて中に入る。

(へぇ。これは――――大戦期の城郭かしら)

朽ちてはいるが、恐らく大戦期の城郭で間違いないだろうとタチアナは考えた。

(追ってみるしか――――ないわね)

廃城の門扉を潜り抜け中に入る。

どうやら、罠の類は設置されていないようだった。

中へと続く通路の先にらせん階段が下へと伸びているのを見つけ、下へと降りる。

と、地下にはしっかりとした――――元は武器庫か何かだったのだろう――――

広めの空間が広がっていた。

空間の奥に祭壇と思しきものが設置され20人ほどの人間がその前に座り頭を垂れていた。

祭壇に一番近い所には――――司祭だろうか――――一人の長いローブ姿の人間が立ち、アルフレードがその司祭に何かを耳元で話しているのが見えた。

「なに?蛇の王国の異端審問官だと?」

「はい。数は二人。子供と女でした」

「ばかな!何処から洩れたというのだ。それより追手が来る前に逃げなくてはならん」

「アルフレード。至急、場所を移せ」

「はい。首――――いや「ご神体」はいかがしますか?」

(首?――――ご神体?)

陰で聞き耳を立てながら――――最も、大きな声でしゃべっているため丸聞こえだったが――――タチアナは訝しんだ。

「お前たち。これより集会は当分の間、休止とする!各自、街、村に戻り待機しておれ」

司祭が声高に命令を飛ばし――――信徒たちは皆それに従うように頭を垂れる。

こうして――――集会は急遽中止され、撤収が始まった。

信徒たちが大急ぎで、下に敷いてあった敷物や、祭壇の撤去に取りかかりはじめるなかで――――一人が「あっ」と声を上げ、手に持っていた箱を落としてしまった。

ガランと音を立てて金属製の入れ物が開き中から――――首が転がり出た。

「ご神体が!」

信者の一人が戻そうとするが――――首を持つことなどないのだろうおっかなびっくりで触れないでいる、と―――

「どけ。ワシがやる」

司祭の男が首を抱える様にして持ち、再び金属製の入れ物へと入れなおした。

「気をつけよ」

司祭はそれだけを言って入れ物を抱えてらせん階段を上って表に出て行こうと移動をはじめた。

(ふうん?アレが「親玉」ってわけね)

タチアナはほぼ事の全貌を把握し、再度今度は、司祭の跡を追い始めた。



「――――お疲れさま。で、どうだったの?」

昼頃に、小屋へと戻ったイリアナは事のあらましを話し始めた。

アルフレードが気味の悪い新興宗教の一員であったこと。また、その司祭は首をご神体として崇めていること。自分たちを「異端審問官」と勘違いしていること。

など、要約し凍太にわかり易く説明していった。

「―――――うーん。どうするのがいいんだろう」

「アタシは蛇の王国に伝えて、裁定をしてもらうのが一番だと思うわ」

「でも、害はないんでしょ?」

「害はなくっても、あんな気味の悪い首なんか祭ってる奴らなんか潰すべきだわ」

「まあ、そうだけど」

害がないのならほおっておいて、このまま時がたつのを凍太としては待っていたい。

そう思っていたのだが――――イリアナは一刻も早く教団を潰してしまいたいと訴えた。

「でも――――首を祭るなんて変なの。腐っちゃうじゃないか」

凍太がつぶやく。

「ううん。綺麗なもんだったわよ?」

「見たの?」

「ええ。昨日司祭が隠した後、探ってみたけど――――腐ってなかったわよ」

「嘘だぁ」

「ホントだって。女首だったし、結構綺麗な顔だったわ」

「へぇ。女首だったんだ」

「あら?――――興味あるの?」

「うん。少しだけね」

「じゃあ、持ってきてあげよっか?」

「え?」

「見たいんでしょ?」

タチアナが面白そうにつぶやく。

「まぁ――――王国に報告するにしても、「証拠」はいるわけだし。首貰っちゃいましょ」

―――――そういう事になった。



「ココなの?」

翌日の昼間を過ぎて小屋に伝令役の人間を残し、凍太とタチアナは首が隠されているという森の一角へ向かった。

地面に掘り返した後が在り、掘り跡がある前の木にはナイフで✖印が刻んであった。

「この✖。司祭が刻んでいたものよ」

間違いない。とタチアナは頷いて早速地面を掘り返し始めると、すぐにカツンと何かにぶつかるような感触が在った。

「在った」

地中から金属製の箱を取り出すと、タチアナは箱を空けて中を露出させる。

出てきたのは――――目隠し、猿ぐつわをされた女性の新鮮な生首だった。

「猿ぐつわまでされて可哀想だね」

凍太も案外と怖がりはしないで、生首の心配をするのは可笑しかったが

「そうね取ってあげましょ」

タチアナは猿ぐつわと目隠しを取ってやることにした。

猿ぐつわを取ったところで――――

「ぷはぁ!」

と生首の口が息を吸うためだろうか――――動いたのを二人ははっきりと見た。

「見た?」

「見た」

「こいつ動いたわよ?」

タチアナが恐る恐る凍太と顔を見合わせていると

「・・・・・はっくしゅん!」

今度は生首がくしゃみをした。

「やっぱり生きてる」

「おお・・・・どなたかは分からんが礼を言う。できれば目隠しも取ってくれないか・・・」

「どうする?」

「取らない方がいいと思うわよ?呪われたりするかも」

「そんなことはしない!我がデュラハン族の名に懸けて、誓う!」

「――――え?デュラハン」

「そうだ。我が名はマリー・クレール ・プラン。デュラハン族である」

そこまで聞いて――――ニヤリと笑ったのは、タチアナだった。

「へぇ?デュラハン――――ねぇ」

今氷漬けになっているデュラハンの首が目の前に在る。

このチャンスをタチアナが逃す筈がなかった。

タチアナは猿ぐつわを再度するように凍太に目だけで命じた。

「――――ん―――ぅ、な、んんん――――」

そしてガボンと再度金属の蓋を閉め、そのまま立ち上がって――――

「悪いけど、あんたは重要参考人だわ。このまま、ご同行願おうかしら」

金属の箱はがたがた――――と嫌だとでもいうように震えていたが―――――

ガンとタチアナが強めに殴りつけると観念でもしたのだろうか、揺れは収まった。

「さぁ――――帰って尋問ネ」

タチアナが発した「尋問」と言う声に反応してまた箱が揺れ始め――――ガン

もう一度、タチアナは箱を殴りつけるのだった。

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