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勝ったら・・・・

「都市間交流戦」の最終日の朝。

シシリーマウセンの家の前でイリスは深呼吸をした。

これから重大発表を凍太に伝えるためにここに居るのだから。

(もし、「雪花国魔術教導院」が今日の試合で勝ったら、凍太ちゃんと結婚の約束をしてもらおう!)

分の悪い賭けではあるが――――凍太の周りの状況を鑑みるに、もう迷ってはいられない状況なのはイリスにも分かっていた。

今のところ一番危険なのは皐月とミライザの二名。あの二人に凍太を取られるわけには行かない。そのためには何としても今日の試合に勝って約束を取り付けるのがいいとイリスは昨日ベットの中で悶々と考えていた。

(でも、あの狐もやっかいよね)

今のところ危険ではないが鳳麗華も凍太に気がある様にイリスには思えてならなかった。

「あら、お客さんかしら」

上から声が掛かって――――見上げると3階のバルコニーに老婦人の姿が見えた。

「あの!「雪花国魔術教導院」のイリスです。中に入れてもらえませんか?」

大きめに言いながら、要件を伝えてみると、ひとりでにドアが開いた。

「はいってらっしゃいな」

老婦人――――シシリー・マウセン――――はにっこりと笑いながらイリスに中に入る様に伝える。

イリスが中に入ると、ドアは静かに閉じて上から、シシリーが階段を下りてくるのが見えた。

「おはようございます」

「はい。おはよう」

にこりとほほ笑みながらシシリーはイリスを3階まで案内し自ら、紅茶を入れてもてなした。

「それで、今日はどんな御用?」

「あ・・・あの・・・・凍太ちゃんにお話があって・・・」

「あらあら」

「合わせてもらえないでしょうかっ」

「ええ。もちろんいいわよ」

シシリーはすんなりとイリスの要求を受け入れ、凍太を起こすように1階へと降りていき、暫くすると――――ねぼけたままの凍太が現れた。

「おはよう。凍太ちゃん」

「あれ・・・・イリスちゃん・・・?」

ぐしぐしと目をこする凍太。もじもじと凍太を見るイリス。

そのよこで孫を見るかのようにニコニコするシシリー。3者3様の姿がそこにはあった。



「で?どうなったの?」

選手用の控えテントの中でハンナは嬉しそうに目を輝かせながら言った。

「どうって・・・・今日の試合に勝ったら『彼女』にしてほしいって・・・・」

「やったじゃない!あ・・・でも・・・」

「そうだよ。『王国』は負けるわけには行かないって返すしかないじゃないか」

「まぁ・・・・そうよね」

結果として――――あの後、イリスに「勝ったら彼女にしてほしい」と言われた凍太だったが、『王国』としての立場上返事を返せはしなかった。

シシリーがイリスを宥めて、送り出した後にやはりと言うべきだろうか。

「負けてあげるなんてことはしてはダメよ」

そう言われてしまっては凍太は何も言い返せなくなった。

「シシリー導師のいう事はもっともよね・・・・イリスちゃんにはかわいそうだけど、やっぱり負けるわけには行かないわ」

「だよね」

「さぁ。泣いても笑っても、これが最後よ。今年も勝って終わるわよ。いいわね!」

ハンナはそう言ってテントからグラウンドへ歩き出す。後には4人が続いた。

(勝ったあとで、イリスちゃんに話をしよう)

凍太もテントを後にしながらそう―――心に決めたのだった。



(絶対!勝つもん・・・・)

イリスはグラウンドに並びながらフンスと鼻息を荒くした。

「随分気合はいってるわね」

隣からミサの声が掛かって、

「うん!絶対勝つの!アタシの未来が掛かってるんだもん」

イリスは嬉しそうに握りこぶしを胸の前で握って見せた。

「そうね。相手は「常勝」。でもここで負けるわけには行かないわよね」

「その通りよ!アタシたちだって強いってところを奴らに見せつけてやるんだから!ねっ!アリアナ!」

「うん」

リリアナ、アリアナの姉妹も楽しそうに頷いて見せた。

「あんたもしっかりやんのよ?」

「わーってるよ」

ヘイルダムだけは気だるそうに返事をして見せたに過ぎなかったが――――その目は剣呑に光っている。

いつものように、実況が今回最後のアナウンスを始めた。

「さぁぁぁぁてぇぇぇ、今年の都市間交流戦っ最後のメンバー紹介を行いまっす!!

まずはだれがここまで上がってくることを予測していたでしょうか―――――

「雪花国魔術教導院」のメンバーから―――――!」

「端から参ります!まずは、「雪花国魔術教導院」の守りの要!アリシア!」

「お次はアリシア選手のお姉さん。雪花国魔術教導院の火の玉娘!リリアナ!」

アリシアは軽く手をふり、リリアナは大きく手を振った。が、心中では変なあだ名をつけられたことに憤慨していた。

「3人目は雪花国魔術教導院の切り込み役、ぜひ、カレル選手との剣劇を見てみたい!ヘイルダム!」

「4人目はミサ!恐らくこの人が私的には一番注目する所です!今回はどんな戦術を見せてくれるんでしょうかっ」

「そして最後!今大会の注目株!!かずかずの場面で活躍してきた姿に会場の内外でファンが出来つつある―――――イリスちゃん!」

最後のイリスの紹介が一番歓声がおおきくなり――――一番驚いたのは当の本人だった。

「さぁ!お次はグラウンド向かって右側!「我が『蛇の王国』の紹介です!」

ひと際大きな歓声があがるのは、やはりここがホームだからだろう。

「まずは一人目!今回の大会ですっかりおなじみとなりました!「魔術課のホープ」アナトリー・ヘイグラーーーム!」

「お次は騎士課の「残忍王子」カレル・ノヴァァーーク!」

「3人目は科機工課より、エンリケ・グローーーッソーー!」

「隣は、『蛇の王国』の司令塔。ハンナ・キルペライネン!」

「そして最後は、こん大会の一番の注目が集まっております!凍太選手です!!」

アナウンスが鳴り終わる。各人は戦闘位置に付き始めた。

「さて、決勝戦!はじめてください!」

実況のけたたましい声が空に鳴り響いた。



グラウンドに散らばるような形で、各々が自分の相手を見定めていたように動き出す。

最初に仕掛けたのは雪花国魔術教導院のミサであった。

グラウンドの真ん中を単身で駆け上がり、ポールフラッグの守りを担当していたハンナへと突撃していく。他のメンバーはそれを見てまるで分っていて、ミサの突撃を援護するかのように、動き出した。

(ふぅん?各個撃破って訳ね?おもしろいじゃない)

ハンナは向かってくるミサを見ながら、自分の身体に魔術式の展開を行い始めた。

どうせ決勝戦なのだ。派手に最初からやるのも悪くないだろうとそんなことも考えてはいた。


「遣り合おうぜ。なぁ?」

ヘイルダムはロングソードをだらりとおろしたままで、前にいるカレル・ノヴァクににやついて見せた。

「・・・・ああ。いいだろう。僕もちょうど――――そのつもりだった」

カレルもまるで分っていたかのようにサーベルを抜き放つ。

「うれしいぜぇ。あんたみたいな奴と遣れるのは久しぶりなんでな」

「楽しめるといいけどね?」

御互い軽口を叩き合いながら、一合、二合と剣を交えて見せて、同時に顔をにやつかせる。

「なかなか、重い打ちをするじゃないか」

「やっぱり、剣ってのはこうじゃねぇとな」

呟きながら、さらに――――3、4合打ち合いが始まった。


「行かせないよ」

アナトリー・ヘイグラムは空に舞い上がりながら翼人種リリアナのまえに立ちふさがった。

「なぁに?アタシに勝てると思ってんの?」

リリアナは空中に仁王立ちの格好でアナトリーに問いかけた。

「勝てるさ。勝算があるからここに来たんだよ」

「生意気じゃん」

最初に動き出したのは――――アナトリー。得意の雷撃をリリアナに向けて放電して見せたが――――リリアナもそれを軽々と避けて見せた。

「そんなんじゃ当たんないよ」

余裕を見せるリリアナに対して、もう一度、アナトリーは雷撃を放つ。

(当たるまでやるだけさ)

アナトリーとリリアナの対決が上空で始まる。

一方――――凍太は――――

「おっと!」

「あっぶ――――」

イリスの操るオオカミ型のゴーレム3体を相手に回避を続けていた。

「んっもう!避けないでよ!」

「そんなの――――無理だって!」

多方向から襲ってくるオオカミ型ゴーレム3体に加えて時折、イリスの放つ魔術弾が凍太に向かって発射される。

それを、凍太は移動速度を速めながら――――自らも炎弾を飛ばして牽制を行っていた。

(ゴーレムの動きが組織的だな)

まるで本物のオオカミのように群れで得物を捕まえようとする動きが、凍太を窮地に追い込んでいた。等間隔で攻めより、波状攻撃をする。凍太が炎弾を放っても避けながらまた、元の体制に戻るのはやり難い。

(いいよ!オオカミさん!そのまま、凍太ちゃんを足止めするの!)

イリスはゴーレムに戦闘の意志を伝えながら、凍太を他の仲間に合流させないことを徹底した。

(ここで勝たなくちゃ!)

イリスは卑怯と言われようが負ける分けにはいかない。自分の好きな人をとられるなど、我慢できる筈がなかった。

(イリスちゃんを吹っ飛ばす分けにはいかないけど)

こうして逃げていられるのも限りがあることを凍太は知っていた。

平面的な動きでは追い付かれる。ならばと、足裏に圧縮空気の層をつくり膨張させて、ほとんど爆発に近い勢いで上へと飛び上がった。

「トウタ選手空中経飛び上がった!高いたかぁぁぁい!」

「逃がさないんだから!」

上に逃げた凍太を追うように、イリスはしたから高射砲さながら、魔術彈を放つ。

トウタはしたからくる魔術彈を風の障壁で防御しながら次の一手を考え初めていた。


同じころ、エンリケ・グロッソはポールフラッグの前に立ちふさがるアリアナをどう退かすのか――――と考えながらスコープをのぞき込んだ。

見た目は何の害もなさそうな普通の翼人種だが、これまでの戦いを見る限りいづれはハンナと同じくらいの実力を持つのではないかとエンリケは危惧していた。

確かに目立つ動きはしていない。が、前の戦いで見せた魔術障壁の厚さは大人2人でやっと作れるくらいの強度はずっと保たれていたことをエンリケは見抜いていた。

アナトリーや凍太のような目立つタイプも怖いが――――目立たずに地道な仕事をする奴ほどのさばらしておくと後々厄介な存在になることも分かっている。

「その障壁が――――どれくらいまで持つのか。試させて貰おうじゃないか」

渇く唇を下で濡らしながら――――グラウンドの中央まで一気に走り込むと、

マスケット銃で狙いを定めて魔術弾を撃った。

ドンっ

と銃声がなり――――一発の魔術弾がアリアナめがけて飛んでいき―――――

魔術障壁とぶつかって横にそれた。

「もうちょい出力上げていくぞ!嬢ちゃん!」

二発目は一発目よりもさらに魔力密度を上げた魔術弾を打ち出す――――が

これも1枚目の魔術障壁を打ち破っただけでかき消えた。

アリアナも即座に魔力を注ぎ込み、破損個所を修復。さらに強化を行うが、

エンリケの攻撃は雨あられのように、威力を増しながら魔術障壁を穿つ。

撃っては、修復される――――そんなやり取りはアリアナの魔力の如何にかかっていた。


「随分と動けるのね」

「それはどうも!」

ハンナが召喚した蔦で出来たクリーチャーの一撃を打ち払いながらミサはやけくそ気味に叫んだ。

ハンナを一撃で仕留めてポールフラッグを奪う予定だったのだが、ここにきてハンナの召喚した蔦の化け物に足止めを食らう結果になっていた。

(砕いても、砕いても―――生えて来る!さては回復させてるわね)

氷の矢で蔦を凍らせ、メイスで打ち砕くが――――あとから際限なく再生する蔦にミサは手を焼いている状態だった。

「どうしらのかしら?疲れちゃった?」

ハンナが余裕そうに言うが――――目は全く笑わず、ミサを見続けたままだった。

(油断してるわけじゃない・・・あれは”誘ってる”)

ミサもそれが分かるために攻めあぐねているのだ。

「ミサ選手!ハンナ選手の召喚したクリーチャーに攻めあぐねておりまぁぁぁす!いったいどんな攻めを見せてくれるのでしょうかぁぁぁぁ!」

加えて、実況がこの状況をうるさいぐらいにわめき立てているのもミサの神経を逆なでていた。


「随分苦戦してるようだ。無理もない。相手がハンナだからな」

カレルはヘイルダムと力比べをしながら――――にたりと笑って見せて――――

相手に『指がらみ』を仕掛けていた。

「あぶねぇことするじゃねぇか」

ヘイルダムも握っていた指を折られそうになりながらなんとか「指がらみ」を振りほどいて見せたが――――痛みは指に残ったままだった。

しかたなく、痛みのないほうの腕に剣を持ってヘイルダムは間合いを話すと同時に、カレルに向かって2発がほぼ同時の突きを放った。

カレルも分かっていたのだろう、身を低くして突きを躱すと、下から剣を跳ね上げた。

「騎士課に伍する腕だな」

「そりゃどうも」

言いながら、二人は再び間合いを離して向きあい、構えを取る。

決着はまだ先に成りそうだった。


「ああっと――――ついにアリシア選手の魔術障壁が破られたーーーー!!」

実況が大声を上げると、観客の目は一点に――――アリシアのいる雪花国魔術教導院のポールフラッグ付近――――集中した。

アリシアは肩口を抑え、しゃがみ込みながらいまだに3枚あった最後の魔術障壁を維持しようと懸命に持ちこたえていた。

これを見た雪花国魔術教導院の各員はそれぞれの判断を見せる。

第一に姉であるリリアナは、いち早くアナトリーとの戦闘から離脱して妹の所に向かおうと反転したが、アナトリーの雷撃が戻ることを許さなかった。

イリスもオオカミ型ゴーレムのうち一体をアリアナの救援に向かわせようと群れから離脱したところで、凍太の放った魔術弾の餌食になった。

ヘイルダムはカレルとの闘争に夢中になっており、ミサは――――あえて戻ろうとはしなかった。

「さすがの判断だわ。今あなたはアタシを倒せばポールフラッグに一直線。エンリケが残り一枚の魔術障壁を破壊するより、もしかしたら早いかもしれないわ」

ハンナはふふんと笑って見せたあとで

「でもね―――あなたは前にも行けないし――――行かせもしないわ」

そう言って、魔術式の展開を新たにもう一つ増やして見せて、蔦のクリーチャーを一度その場から消して見せた。

「何のつもり?」

「だって決勝戦なのよ?そろそろ本気出そうかと思って」

「舐めてるわね。接近戦じゃ分が悪いんじゃないの?」

「どうかしら?試してみたら?」

明らかにハンナは挑発を繰り返す。ミサはそれに乗るつもりはなかった。

相手の魔術式はまだ展開中で、いつでもあの蔦のクリーチャーは出て来るだろうと予想できる。ならば――――ミサのとる行動は一つ。

「イリスちゃん!フラッグに向かってゴーレムを突っ込ませて!」

ゴーレムによってポールフラッグを奪い取る――――それだけだ。ルール上は人がとらなければいけないということはない。クリーチャーやゴーレムによる奪取も立派な戦法の一つなのだが、

「凍太ちゃんはゴーレム一体なら余裕じゃないかしら?」

そう、3体いたゴーレムの一体をポールフラッグに走らせるならば、おのずとその数は1体まで減少する。

そして、その戦力分散の隙は凍太の好機に変わった。

オオカミ型ゴーレムとイリス本人の二人の戦力であれば、つまり、数の優位差ささえなくしてしまえば――――

もう凍太をその場にとどめておくことは出来なかった。走り出したオオカミ型ゴーレムに追随するようにして走り出し、射程圏内に収めたところで、電撃の筋を一直線にオオカミ型ゴーレムへとつなげる様にイメージを構成し、顕現させる。と、

凍太の伸ばした掌から一直線に放電現象が起こってゴーレムに到達、黒焦げにした。

(うまくいった!)

アナトリーの得意技である雷撃の魔術式をこの競技の間何度も見ていた凍太は構成を理解し、自分の中に落とし込むことが出来ていた。使えば、使えるだろうと思ってはいたが――――案外にうまく行ったことに凍太は内心喜びの声を上げていた。


「もう・・・・・駄目だよう・・・・」

必死に最後の魔術障壁を維持しながら――――アリアナは魔力の枯渇を感じ始めていた。間断なく打ち込まれる魔術弾にもう、障壁の維持が難しくなってきていることをアリアナは感じ取った。

もうすぐ、魔力が尽きてしまう。――――魔術障壁は消えて、相手にポールフラッグを奪われてしまうだろう――――と思った矢先に、視界がシャッターを下ろすように暗くなって行く。

(だめ・・・・)

そう思ってみたところで、身体はいう事を聞かなかった。魔力切れを起こした身体は地面に倒れる様にして――――アリアナ本人を気絶させた。

それとほぼ同時に

「―――――!」

エンリケは油断なく銃を構えたまま――――後ろから何かにぶつかられ――――体制を崩していた。一体のオオカミ型ゴーレムがエンリケの肩に噛みついていたのだ。

痛みが走り、振りほどこうとするが――――ゴーレムは食いついたまま離れようとはしない。エンリケは銃の台尻をゴーレムの頭を砕くべく叩きつけたが、強度を保ったままのゴーレムはなかなか壊れてはくれない。


イリスはアリアナを助けに自らも踵を返して自陣へと走った。

(アリアナちゃんを助けなきゃ)

懸命に走りながら――――魔術弾を打ち出す用意をしておく。狙いはもちろんエンリケだ。

ゴーレムに噛みつかれたエンリケは地面に組み伏せられた状態で動けず、すぐそこまでイリスが走り込んできているのを横目で見やりながら、感じ取る。

(ちっ!ざまぁねぇな・・・)

このままではらちが明かない。そう判断したエンリケは、ゴーレムを引きはがすべくイリスの魔術弾を受ける覚悟をした。

恐らく無事では済まないだろうが――――あとは仲間に任せることに決めて自分は魔術障壁の盾をごく薄く最小限な限度でくみ上げゴーレムもろともにふっ飛ばされる覚悟をして身構えた。

「魔術弾がエンリケ選手に襲い掛かります!これは一発で決まりでしょうかぁぁぁーーーー?」

ほどなくして魔術弾が雨あられのようにエンリケに降り注ぎ、周りを焼き尽くした。

1発、2発では済まない数量がエンリケに降り注ぎ、すべてが降りやんだころには

エンリケが吹き飛ばされ土の上に転がった。

「エンリケ選手。ダウンです!ピクリとも動きません!!」

イリスはぜえぜぇと荒い息を付きながら、吹き飛んだエンリケを遠目から確認をした。動かないエンリケはともかく、今はアリアナを助けられたことでイリスは頭の中がいっぱいだった。

(一刻も早く、倒れてるアリアナちゃんを助けなくちゃ)

次にやることは分かっている。自分がアリアナの代わりに魔術障壁を張らなければいけないことも。だが――――

「行かせないよ」

後ろから声がした。凍太の声だったが――――ひどく冷たい声で寒気を感じた。

次の瞬間、イリスの四方から氷の壁が出現し、彼女の視界を遮る。

(閉じ込められた)

無詠唱で出現した氷壁に気づけなかった――――というより気が付いた時には壁に囲まれていた――――と言うのが正確だろうが。

ともあれ、凍太は一瞬でイリスを無効化することに成功し彼女を氷壁の檻の中に閉じ込めた。氷壁の厚さはかなり分厚く作ってあるため、ちょっとやそっとの攻撃では打ち破れないだろう。

こうなってしまえば――――あとは結果は分かり切ったもの。

もう邪魔するものはいない。あとは一刻も早く、ポールフラッグを奪って勝利することだけだった。


「どうにか勝ったわね」

ハンナは事の成り行きを見守りながらにたりと笑って見せた。

ミサはハンナのつぶやきを聞いて振り返ると――――凍太がポールフラッグを地面からひき抜いて両手で高々と掲げるところだった。

「やられた・・・・!」

御互いが相手を引き付け「囮」役を演じることで――――戦線の伸びきった所を各個撃破する――――使い古された手だったが、完全に封殺された状態ではアリアナの助けは無理だった。

「でも――――実際、エンリケを倒すなんて思ってなかったわ」

魔術展開を解いたハンナは伸びをしながら――――以外そうに言う。

「お世辞なんていらないわよ」

ミサはそう言ったが

「お世辞なんかじゃないわ。あのダークエルフの子は自分の力で「蛇の王国」エンリケ・グロッソに勝った。それは胸を張って言っていいことだもの」

「それよりも・・・・大丈夫なの?彼・・・・動かないけど」

「大丈夫よ。きっと魔術障壁を張っていただろうし。こうなることもエンリケなら計算済みだわ」

「随分、分かってるのね」

「そりゃそうよ。変人、奇人の集まる「蛇の王国」のまとめ役をやるなんてのは――――そうねぇ。アタシくらいじゃないかしら」

そう言ってハンナは笑う。それを見て―――――

(かなわないわね)

ミサはそう心の中でつぶやいたのだった。



「都市間交流戦。今年の優勝は―――――「蛇の王国」!!」

歓声が沸き起こる中、両都市の代表選手は御互いにがっちりと握手を交わした。

「そして――――準優勝は――――「雪花国魔術教導院」!」

実況が高らかに校名を叫ぶのをミサをはじめ5人は「次は負けまい」と心に誓いながら聞いていた。

グラウンドには上空から花や紙吹雪が撒かれ、優勝ムードをもりあげている。

優勝校の「蛇の王国」のメンバーの周りにはすでに実況席から来た生徒が写真機を構えて写真を撮るのを今か今かと待ち構えているのが見える。

セレモニーが終われば、優勝校の胴上げが始まる事になっていた。


「あーあ、負けちゃったわね」

「仕方ねぇさ。実際、強いんだからよ」

隣でヘイルダムは満足そうに頷いている。いい仕合が出来たことを喜んでいるのだろう。

自分たちはグラウンドを後にしながら――――ふと前を見ると――――

雪花国町長の雪乃が立っているのが見えた。

「申し訳ありません・・・・・」

「何を言っているのです?実に見事な試合だったですよ?」

ミサが頭を下げると――――雪乃は笑いながらそういってのけた。

「でも――――」

「なぁに――――勝負は時の運です。実にいい試合運びだったと婆はおもいます。それに――――」

「それに?」

「次こそは勝てばよいのです。精進なさい」

「はい」

5人は一斉に返事をした。


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