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都市間交流戦開幕 再開と因縁

「今年もこの日が来たわねぇ」

蛇の王国の導師職を現す、深い緑色をしたマントを羽織りながらシシリー・マウセンはドレッサーの前で化粧を行っていた。

「今年は思いっきり楽しませてもらえそうです。高揚します」

普段あまり感情を表に出さないヴェロニカも今日はローブの下はドレス姿に代わっている。

「ねぇ。これ動きにくいんだけど・・・」

凍太は余所行きの都市間交流戦のメンバーが着用を許される特別製のローブを着用させられている。

「とってもよく似合ってるわ」

シシリーはそう言って取り合ってくれないし、ヴェロニカも似たようなもの。

自薦者からの挑戦と言う名の追い回しが終わったのが役3週間ほどまえで、それからは王国の中は、祭りの準備で一気に活気づいた。

結論からいえば推薦者5人の名前は代わってはいなかった。

これは同時に推薦者を推薦した者の『人を見る目』が間違っていないのだと証明された瞬間でもある。当然、推薦されたものも推薦した者も王国から祝福を受ける形になった。

凍太も推薦者としての難関を潜り抜けたとして、王国の広報から大々的にその日の

新聞の一面を飾ることとなった。新聞が発行された日、王国主催の発表がウェルデンベルグの名において宣伝されると、街の最奥にある尖塔に大きなドラゴンを刺繍した旗が掲げられて――――一転して町から歓声が巻き上がった。

街のいたるところでハンドベルがやかましく鳴らされ、飲食店が在庫していた酒をあたりの客に無料で振る舞う。そんな光景が町のいたるところで見られた。

学園は午前で終了となり、午後からは王国主催でパレードが行われることになっているということで、推薦者達5人は一人一人が馬車に乗せられ街を周る事になった。

街の街道という街道に人があふれ、皆、祝福を推薦者に投げかけるとともに、

羨望のまなざしや、応援などの声も混じっているのが聞こえた。

馬車に揺られながら、凍太はびっくりし通しだった。

「いやぁ。今回の祭りも盛大になりそうですなー」

御者の男はそう言いながらにこやかに凍太に話しかけるのだが。

「うん。がんばるね」

としか凍太は返せない。

「もっと、周りの観客に手でも振ってごらんなさい。女共が黄色い声をあげますよ」

試しに小さく手を振って見せる――――と、あたりから「ワァァァァ」と歓声がとどろいた。

――――あの時の歓声は今でも忘れてはいない。

だがこの深青色のマントはどうにかならないものかとは思う。

これを祭りの間中、推薦者は着用を義務とさせられ、店に入れば、人に囲まれ、もてはやされる羽目になるのだから、ゆっくりも過ごしていられないのだ。

祭りの準備に明け暮れる街も過ごしにくかったが、学園内部も凍太に対する環境がひどくなった。

実際には広報に付きまとわれ、インタビューをせがまれたり、

今まで皐月ぐらいしか友達がいなかったのが、急に友達になりたいと集まってくるものが現れた。

それだけならまだいい。なぜだかは知らないが、負かしたはずの銃使いの女――――ミライザが弟子になりたいと凍太に申し出ているのは納得がいかなかった。

「凍太殿ー」

「師匠ー」

今日も玄関先で声が聞こえる。

前者はいつも道理皐月で、後者はミライザのものだ。

「はーい。ちょっとまってー」

言いながら玄関のドアを解除して開けると、二人の獣娘が今日もいがみ合っているところだった。

「ヴヴヴぅぅう」

「ニャヴー」

犬と猫が腰に手を当てた状態でにらみ合う。この光景は今日で10日目を数えていた。

「おはよう。二人とも」

「オハヨウでござる!」

「オハヨウございます。師匠」

「ミライザさん。師匠はやめてよ。弟子は取らないっていったじゃない」

「そんなぁ~」

ミライザは凍太に抱き着き甘えだす。

「あっこら!ずるい!」

そんなミライザをどけようと必死に凍太とミライザの間に手を突っ込む皐月。

そしてかならず

「おやめなさい!」

最後にはヴェロニカの静止が入って終わるのがここ最近のお約束だった。


「座って待ってて」

凍太は2階に二人を案内すると、自分の分も合わせて5人分のお茶の用意を魔術で行い始めた。

魔術で火を灯し、水を呼び出し、お湯を沸かしている最中に茶葉を空間魔術でテーブルへと移動させる。カップは落とすと割れてしまうので手で持って一個一個用意する事にした。

しゅんしゅんと音が鳴り始めたやかんを空間魔術でテーブルに移動させ、各人の茶葉を茶こしに分けて、準備が整ったところで――――

「ヴェロニカさーん。おばあちゃーん」

と声を掛けると、3階から二人がドレスアップを終えた姿を現した。

「きれいにゃー」

「お美事にござる!」

皐月とミライザは歓声を上げていた。

「お茶の準備もばっちりねぇ」

シシリーが褒めてくれる。褒めてもらえるのは素直にうれしかった。


学園に向かう道のりも、推薦者に決定してからというもの、騒がしくなった。

まず、周りの家々から「がんばれよー」とか「凍太ちゃーん」と名前を呼ばれることが多くなった。そして

「これ食べていきな」

通り道にある複数の飲食店から、朝ごはんを渡されるようになったのも変わった所だろう。

今日はツナと野菜のベーグルサンドで通りのパン屋のおばさんが渡してくれたものだった。

「ありがとう」

「いつもすいませんねぇ」

シシリーがやんわりとお礼を言うと

「いいんですよぉ!凍太ちゃんはこの地区皆の孫みたいなもんだし。みんな応援してるんです。明日の都市間交流でもこの地区の住人全員が応援に行きますからね!」

おばさんが景気よくわらうと、周りの住人達も「そうだ」と頷くもの、声援を掛けるものまでいる。

「がんばるね」

にっこり笑って手をふると、又、歓声が起こった。

「さすが師匠です」

「そこは同感でござるな」

二人の学友もいまはぴったりと意見が一致していて、凍太はくすりと笑いを漏らす。

「何かおかしいでござるか?」

「だって、さっきまで喧嘩してたのに今はもう、息ぴったりなんだもん」

「まったくね」

「はい。全くです」

こうして――――都市間交流戦初日の朝はなごやかな空気の中、開けていくのだった。


「やっと着きましたね」

船を下りてこきりと肩を鳴らしたのは、雪乃だった。

「凍太は!凍太はどこかしら」

きょろきょろとあたりを見回すのは凍太の母親の凍子。

「あまりきょろきょろしないでください。はずかしい」

横から窘めたのは、紗枝だった。

「おかあさん!すっごいよ。お城だよ!」

「うふふ」

後ろから船を下りてきてはしゃぐのはイリスとイアンナの母娘のダークエルフだった。

後ろにはイリスを最年少として、上は40歳くらいの外見の雪花国魔術教導院のメンバーが、正装姿である漢服姿で居並んでいる。

「でっけぇな」

「城砦だね」

波止場に降り立った面々が口々に感想を漏らしているところに

「さて」――――と口々に騒ぐ面々を雪乃が見回す。

一瞬で場に緊張が走った。

「お前たちは、我が雪花国の優秀な生徒であり、精兵です。各々、目に物を見せてあげなさい」

訓示が下ると、全員が手で拳と掌を胸の前で会わせて立礼を行って――――

「はい!」

と大きく返事をしてみせる。それを聞いた雪乃は

「さぁて。どでかい花火を上げるとしましょうか」

と不敵に呟いて見せた。



「はい!」と不意に大きな返事が聞こえて―――――狐娘――――鳳麗華ファン・リーファは耳をピンと立たせた。

「なにかしら、やかましいわね」

扇で口元を隠しながらじろりと雪花国魔術教導院のメンバーをみやってすぐに、「ふん」と目をそらせた。

「いいか。お前たち」

前に居る大人の教師たちが麗華たちを整列させて何かを言っている。が、当の麗華は

そんなことはどこへやら。敵意とやる気に満ち溢れていた。

(やっと、やっと突き止めたわ!待っていなさい!)

1ヶ月ほど前に月狼国魔導学院経由で参加都市のメンバー発表が行われた席で麗華リーファはやっと、にっくき相手を突き止めることが出来た。

月狼国の選抜のメンバーに1年生ながらも選ばれた麗華リーファの他は4人とも上級生で占められていた。

「各々、奮闘を期待する!」

「はっ!」

訓示が下ると、麗華も立礼にて頭をさげたが――――その顔はニヤリと薄気味悪い笑みが張り付いていた。



各都市の参加者が学園の野外に造られた大会場に一堂に整列する様はまるで甲子園の入場式を思わせた。

大きな各都市の旗が掲揚されてファンファーレが鳴り響く。

と周りから魔術で花火が打ち上げられた。

「今年もこの良き日に都市間交流戦を開けることを感謝する」

最高責任者であるウェルデンベルグが挨拶をすると――――会場から割れんばかりの歓声と拍手が沸き起こった。

「そして、各々の最高の技を持って――――戦い成長することを望む。以上の言葉をもって――――ここに都市間交流戦の開催を宣言する!」



開会式が開かれた後は、一転して街中がお祭りムードになった。

各都市の生徒と交流する者や、同じ都市同士で寄り集まって、飲み食いをするために会場を離れる者もいた。

街はこの五日の期間中だけ一般に出入りが許され、王国の内外から各国の要人や貴人だけでなく、傭兵や一般の民衆も年に1度行われるこの祭りの為に多くの人々が町に訪れる。そのため、街は5日間のあいだ、2倍近く人が増え、街に金が落ちていき

王国の街を支える一大財源ともなっていた。

「久しぶりですね。元気ですか?」

そう凍太に声をかけて来たのは――――雪乃だった。

「うん。元気です。おばあさま」

立礼をして挨拶する、と今度は凍子が泣きながら思い切り凍太を抱きしめた。

「凍太ぁぁぁぁあ。会いたかったよぉぉぉ・・・・」

服が汚れるのも構わず凍太に抱き着く凍子。凍太自身も凍子の感触を確かめる様にぎゅっと抱き着いた。

「元気そうですね」

凍子の肩越しに先を見れば、紗枝、イリス、イアンナの顔が目に入って嬉しさがこみ上げた。

「みんな。久しぶり」

軽く笑いながら挨拶すると、イリスが駆け寄ってきて、そしておもむろに凍太の顔を両手でつかんだかと思うと――――いきなりキスをした。

「な―――――」

驚いたのは凍太自身も含めてだが、皐月、ミライザ、ヴェロニカ、凍子の5人だった。

「何をしているでござるかぁ!」

「離にゃれろ!こんにゃろう」

「凍太ぁ!」

特に瞬時に叫びをあげたのは、皐月、ミライザ、凍子の3人で会場の空気が一瞬で剣呑な空気に代わってしまう。

「――――ぷぁ」

ちゅぽんと口が話されて、イリスがにっこりと笑う。そして

「お久しぶり。凍太ちゃん」

そう言ったのだった。



「うちの子がいきなりすいません・・・・」

イアンナが頭を下げることと、雪乃、シシリーの仲介で一旦事態の鎮静をみた一行は昼食の為、島の南側に用意された特設野外マーケットに敷設された椅子に丸テーブルを囲みながら昼食を取っていた。

「納得いかんでござる!」

「アタシもにゃ!」

「ふん。早いもん勝ちだもん!ああ~甘くておいしかったなぁ」

大きな丸テーブルを囲みながら、皐月は肉を怒りに任せてかぶり着き、ミライザはワインを煽った。事件を起こしたイリスはと言えば――――優雅に鶏肉のソテーをナイフで切り分けながら悦に浸っていた。

「ずいぶんとしわが増えたわね?雪乃」

「そっちこそ。しわくちゃではないですか?シシリー」

一方で、凍太を挟んで左右に隣り合う様に座るのは、シシリー・マウセンと雪乃の二人。この二人もまた憎まれ口をけん制し合っていて、間に挟まれた凍太は針の筵だった。

「ところで・・・・凍太?お前いまどこに住んでいるのです?」

雪乃からの問いにぎくりとする。

「ええ・・と」

「アタシの家で一緒に住んでいるわよ。ふふふ」

答えを凍太が言う前に、一瞬早く答えたのはシシリーだった。

「何ですって?」

良く聞こえなかったなというようにシシリーを睨み返す。

「本当なのかい?凍太」

「はい・・・」

睨みつける雪乃の眼光は冷たい。きんたまがチジミ上る思いだったが――――

「あなたの孫は私の家でしっかり保護しています。安心しなさいな雪乃」

シシリーが有無を言わさないように、静かに言い放つ。見上げると―――――

シシリーの目も尋常ではない冷たさだった。

(うぁぁぁ・・・・こぇぇぇぇぇ・・・・)

久しぶりに会うととてつもなく、雪乃の恐ろしさが分かる。

凍太はいまにもちびりそうだった。


一方で静かにだったが、腹の探り合いをする者たちがいた。

「紗枝」と「ヴェロニカ」である。

「紗枝さん・・・でしたっけ。お初にお目にかかります凍太様の監視役を務めさせていただいておりますヴェロニカ・アリトフと申します」

「ご丁寧にどうも。凍太様の養育を行った紗枝です」

「ところで、紗枝さんはどちらの国のご出身です?」

質問する。紗枝からの返答で自分の知っている人物と同一人物なのか――――ローデリアの技術者でもあり、暗殺ギルドがある「フランドル村」のギルド幹部の一員である「サエ・グロリア」本人なのかを探るつもりだった。

「雪花国へ流れた難民ですよ。故郷はもうありません」

紗枝も質問の意味が薄々は分かっているのだろう――――迂闊に答えたりはしない。

「ヴェロ。あんまりお客様を困らせてはだめよ?」

雰囲気を見て取ったのだろう。シシリーがやんわりと声を掛けた。

「はい。不躾な質問でした。ご容赦ください」

ヴェロニカが謝ることで、表面上の空気は和やかなものに戻すことが出来た。


鳳麗華は町の特設野外マーケットの中に凍太の姿を見つけていた。

づかづかと速足で歩き、凍太の後ろから扇で肩をぽんぽんと撫でてやる。と相手が振り返って――――一瞬だが眉根にしわが寄ったのが見えた。

(おそらく間違いない。こいつだわ・・・)

4年前の顔がフラッシュバックする。

3年たった今でもあまり、変わってはいないように見受けられた。

麗華は平静を装いながら、凍太に質問を投げかける。

「ごきげんよう。私は鳳麗華ファン・リーファ。覚えておいでかしら?」

顔が引きつるのが分かるが、何とか自制した。が、奥の方で紗枝が口元を抑えていたのをみて、何かあるなと麗華は勘ぐった。

「ええ・・・と、どこかで会ったっけ?」

「4年前の賢狼飯店。あなたにあそこでされたことはまだ覚えていてよ?」

「――――」

黙ってしまった凍太をみて、麗華は「やっぱりね」と呟いた。

「名前を名乗りなさいな」

麗華が凍太にいうと、凍太も決心したように向きなおって

「蛇の王国、魔術課 凍太。選抜メンバーの一人だよ」

そう静かに告げた。

「凍太・・・・凍太というのね。それも選抜メンバーの一人とは運がいいわ。私も改めて自己紹介するわ。月狼国魔導学院、選抜メンバーの鳳麗華よ。そして、

私はあなたに決闘を申し込むわ?いいわよね?」

「決闘?」

「そう。決闘よ。4年前の雪辱を払させて貰うわ。場所は都市間交流戦の舞台でどうかしら?」

麗華の誘いに凍太は困惑した表情のままで固まった。受けるべきなのか、と考えあぐねていると――――

「―――――よいですよ」

凍太の隣にいたシシリーが代わりに返事をしていた。

「へ?」

「良いでしょう。その決闘このシシリー・マウセンが承認しましょう。場所は明日行われる都市間交流戦で。凍太ちゃんもそれでいいわね?」

「でも・・・・」

「この娘は、正式に王国へ喧嘩を売ったのよ。だったら、凍太ちゃんも王国の代表者の一人として受けるのが筋だわ」

シシリーの言っていることは、分かった。筋だと言われてしまっては、この決定は覆らないのだろうとも分かっていた。それに、蛇の王国の一員として負けるわけには行かないという気持ちもある。

「分かった。この勝負、受けて立つよ」

「いい返事だわ。明日を楽しみに待っているわね」

にらみ合う。と麗華は反転して、人ごみの中へと消えて行った。

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