都市間交流戦 選抜
都市間交流戦に向けて学園内が騒がしくなった頃、廊下に張られた一枚の紙に生徒たちは釘づけだった。
学舎側の推薦選抜者が発表されたからである。
同時にこの張り紙が出されたということは――――今日から立候補による都市間交流戦のメンバー選抜も始まるということだと誰もが知っていた。凍太以外は。
朝、シシリーとヴェロニカに付き添われる形で登校する凍太はまず、真ん中の共同練を抜けることになるのだがそこで人だかりができているのに気が付いた。
生徒が壁の掲示板の前に大量に群がり、廊下をふさいでいるのが当目に見ても明らかだった。
「なんだろう」
「ふふ。やっと都市間交流戦の推薦枠が出たみたいね」
「ええ。やっとです」
呟く二人。何かを知っていそうなそんな感じがしたが、どうせろくなことではないんだろう と思っていた矢先だった。
「あ、凍太クンだわ!」
一人の女子生徒が凍太を見つけ声を上げた。
「?」
わけもわからないまま、今度は生徒の視線が凍太にふりそそぐ。最初に感じたのは好機の目線、そして次に感じたのは嫉妬の目線だった。
「大注目ですね」
ヴェロニカがつぶやく。
「見てごらんなさいな。ふふ。きっと驚くわ」
そう言ったのはシシリーだった。
掲示板の前に行き人だかりに紛れる様にして、発行物を見ていくとすぐにそれは見つかった。
「都市間交流戦 推薦枠」
と書かれた一枚の紙には5人ほどの生徒の名前が書かれていて――――そのなかの最後に凍太の名前があった。その横には推薦人の名前が書かれてあり、「シシリー・マウセン」「ヴェロニカ・アリトフ」「ランドルフ」の3人が乗っていた。
「なんで・・・?」
口を尖らせながら、二人に抗議して見せたが――――答えは返ってこなかった。
(やられた・・・)
まさか学舎側の推薦枠に入るなどとは思ってもいなかった。
思えば、ヴェルデンベルグに会った時には布石がされていたのだと知って、少しだけ怒りがこみ上げた。
(出場の許しを請いに行った、あの時には本決まりだったんじゃないだろうか?)
そんな風に思えるが、真相は闇の中だ。しかし、そう外れてもいないと、凍太は勝手に決めつけた。
推薦枠と立候補の違いは何か。
それは、挑戦権があるか、無いかである。
推薦枠にある者は、立候補者からの挑戦を受ける義務が課せられ、都市間交流戦の前までそれが続く。と紙にもしっかり明記があったし、推薦枠を辞退することは、推薦者の信用問題にかかわるという理由から、認められてはいない。
(いやだなぁ・・・)
午後の講義を受けながら、凍太は心労を感じていた。なぜならこの午後の講義の後から、立候補者の挑戦を受ける時間帯に突入するのだから。
できれば誰も来てほしくない。いっそ、本気を出さずにわざと負けてしまおうか とも考えたが――――やはり推薦者の顔を汚すわけにはいかないし、自らも負けたくない気持ちはあった。
(出来るだけやるしかないかな)
結論を固める。
こと、ここに至っては――――逃げられそうもないのは分かりきったことだし、と意識を再び授業へと集中させていった。
ぽふっ
手袋が投げつけられて――――推薦者の一人である『カレル・ノヴァク』は手袋の持ち主へと向きなおる。
「やれやれ。今日は君で3人目の挑戦者だ。忙しいね」
歳のころは20を過ぎたあたり、茶色いくせっ毛に眠そうな目をさらに眠そうにしてカレルは自分の手袋を相手に投げつけた。
「おお!挑戦が成立したぞ!」
周りの群衆が騒ぎ立てる。カレルの相手は「科機工」の課章を胸に付けた中年の男だった。
「毎年、出場は飽きたろう?カレル」
「そうでもないさ。ジャンセン」
剥きなく、ローブの下から一本のサーベルを抜き放つカレル。
ジャンセンと呼ばれた男はマスケット銃を構えた。
「おやおや、『科機工』の新兵器かい。そんなもんで僕に勝とうっていうのかい」
「お前こそ、時代遅れのサーベルなんぞでやり合うつもりか?」
「騎士課ナイトコースに身を置くモノの矜持と言ってもらいたいね」
「ふん。馬鹿らしい」
御互い憎まれ口をたたき合いながら、相手の出方をうかがう。
先に動いたのはカレルだった。
腰だめに構えたサーベルごと相手へと突進。自分の体には『風の防御』を掛けてあるが故の強気の攻めだった。
ジャンセンも負けてはいない。
間合いを詰められないように「土壁」を出現させ、その後ろには人型ゴーレムを呼び出した。
サーベルが土壁を切り裂いたところで、ゴーレムが土壁ごとカレルを殴りつける。
ドゴォン
という激突音が鳴り響く中土壁が砕かれ、カレルへとゴーレムの一撃が迫る。が、
カレルはいとも簡単にそれを避けて見せた。
「ちっ、『風の守り』か」
銃口を定めて、1発。やはり、風の守りの影響なのだろう魔術で作った弾丸はカレルに当たりはしなかった。
弾丸をイメージして装填を行う間も、カレルはジャンセンへ近づこうとするが、ゴーレムがそれを阻止する。
そんな頃、凍太も一人目の挑戦を申し入れられて、グラウンドで対峙していた。
放課され、人もまばらの筈のグラウンドに凍太と挑戦者のコトノハが対峙していた。
「今回の申し出受けていただきありがとうございます」
上は白い道着、下は紺色の袴姿に、ローブを羽織ったいで立ちでコトノハは頭を下げた。
「どうしても、やらないと駄目なんだね?」
「どうしてもです」
再三の説得に応じないコトハに凍太は最後の質問を投げるが、答えは同じだった。
騎士課のコトハは2年前に翁石国から入学を果たした生徒であった。
成績は上位で必ず上位20名に名を連ねるであろう、実力の持ち主で年のころは17歳になったばかりの女生徒だった。
獣人族であり、背は160センチほど。長刀なぎなたを主な武器として戦う勇敢なタイプだと、皐月がグラウンドに移動する途中で説明をしてくれていた。
「仕方ない。受けるよ」
意を決して、呟く。
「忝い」
「立会人は上級補佐官のヴェロニカ・アリトフが執り行います。両者、よろしいか?」
両者の真ん中に立つようにして、ヴェロニカが立会人を務めている。
「いいよ」「はい」
「では・・・・はじめ」
静かな声と共に――――ヴェロニカの両手が交差して、戦いの幕が上がった。
鉄扇を引き抜いて構える凍太に対して、コトノハは長刀を中段に構えたまま動かない。
御互いに出方をうかがっているのだろう。ややあって、コトノハが動きを見せた。
一足飛びから、柄尻での左側頭打ち。続いて、顔面への柄での突き―――から右肩への長刀の打ち下ろし。コレを凍太はことごとく鉄扇で受けきった。
「まだまだっ」
コトノハは一歩下がってから中段に構えようとした――――その時だった。
ぞくりと怖気がコトノハの背中を駆け抜ける。
自分の前に風刃を練り上げた凍太がギラリと目を光らせていたのが見えて、一瞬躊躇した。
中段の構えに戻るのをとっさに諦め、柄で相手を吹き飛ばそうと横から殴りつけようとして――――逆に長刀の柄が当たる瞬間に、音もなく柄尻が切り落とされる。
「!」
危険を感じて、一歩後ろに下がろうとしたが、出来ない。凍太に足の甲を上から踏み抜かれ、その場にとどめ置かれて、次の瞬間には飛び込んでくる凍太の体が見えた。
柄尻を風刃で切り飛ばし、相手の足を踏み抜いて、続いて横蹴りを相手の腹へと打ち込む瞬間に風を自分の背中に展開して、そのまま飛ばすイメージをくみ上げる。
(思ったより長刀が厄介だな)
相手は自分よりも体が大きく、素早いパワータイプだと予想して過去の経験から
一撃で仕留める必要があると判断しての攻撃方法だった。
「風よ!」
鋭く叫んで背中にためていた風を解き放つ。と爆発的に背中に加速度が生まれた。
相手の腹部との差はおよそ20センチ余りだったのが一瞬で差が無くなり爆風で吹き飛ばされた凍太の蹴りがコトノハへめり込む。
道着の上から伝わる肉の感触を飛び越えて、内臓、骨へ達する感触が足に伝わるのと同時、コトノハは凍太の放った蹴りの威力をまともに受けてはるか後方へと転がった。
「へぶっ」
突風に舞い上げられ、凍太はから中空から――――べしゃりと落下した。
コトノハはダウンした状態から立ち上がろうとするが、片膝をついたままで、
はぁはぁと荒い呼吸を続けているが、動けるような様子ではなかった。
「そこまで!」
コトノハの様子を見て取ったのだろう。ヴェロニカの制止がかかった。
「この勝負、凍太の勝利!」
勝ち名乗りがなされると――――コトノハはそのまま、気を失うようにして地面へと倒れ込む。
すぐさま、ヴェロニカがコトノハへ駆け寄り、治癒魔術を掛け始めた。
「ええい!うっとうしいな!」
一方、カレルとジャンセンは場所を町の中心地の広場に移しながらも、戦い続けていた。
「足元がお留守だぜ!カレル!」
膝を打ちぬくようにして、ジャンセンが弾を放つ。それを、カレルは跳躍して躱し、上から剣風で造った遠当てをジャンセンに返す。
「守れ!」
ジャンセンが指示すると2メートルほどの石でできたゴーレムがジャンセンの前に割って入り、剣風をさえぎる。が無傷ではなかった。ピシリと――――皹が入るのを見てカレルが動き出す。同時にジャンセンはカレルの額に銃口を向けた。
ドンっ という破裂音が一瞬早く鳴り響き、銃弾がカレルへと飛ぶが、カレルはその玉をサーベルで切って、凌ぐ。
「化けもんが!」
再度リロードをしようと、弾をイメージしたが、その時にはカレルの姿がゴーレムを飛び越すような形で中空に舞っていた。
そして――――間もなく、のど元に切っ先を突き付けられたジャンセンは降参を宣言した。
「大丈夫?」
凍太はコトノハの顔を覗き込みながら聞いた。
「平気です」
コトノハはまだグラウンドに座ったままで凍太に返事を返した。
「よかった・・・」
ほっと溜息をもらす。とコトノハが不思議そうな顔をした。
が、すぐに、「勉強になり申した」と言って頭をさげた。
「僕も危なかったよ」
と凍太も返すと、コトノハは苦笑いをしていた。
「ぼくも危なかったよ」
そう言って私の目の前の男の子は笑っていた。
実際に歯が立たない強さだったので仕方がないが、多少悔しい気持ちもあった。
いままでここで学んできたのをあっさりと抜かれてしまったが、この子の強さは確かなものだと、自分の身をもって確認したので仕方がない。
(あきらめよう。また来年挑戦すればいい)
素直にそう思える、結果に私コトノハの心は晴れていた。
風刃で長刀はもう使い物にならないくらいになり、私の体は蹴りを食らってまだ完全ではない状態で、しかも、この子は突進力を生むために、迷いなく自分の体ごと魔術で吹き飛ばしたのを思い出す。
普通の生徒であれば、恐ろしさが先に立ってそんなことはしない。怪我をするのが分かっているからだ。
だが、この凍太と言う子は、勝つために手段を択ばず、最適解を出して実行して勝った。よほど、怖いもの知らずなのか、それとも、まだ小さいがゆえに魔術の怖さに気づいていないのかとも思えたが、負けた私にとってはどうでもよかった。
「しばらく休養を取りなさい」
治療魔術を施してくれた立会人の人が助言をしてくれる。
言われなくても、そうするつもりではいた。実際身体にダメージが残って、動かすのも億劫だった私はそのままグラウンドに横になったまま青い空を見上げた。
「もうやだ」
帰宅してベットに突っ伏した凍太が悲鳴を上げた。
グラウンドでの戦いの後、2戦ほど戦いを挑まれて体力と集中力の限界に達して逃げる様に足早に帰宅したのがつい先ほどだった。
さっきから体はだるいし、考えもまとまらない。浮かんでくるのはネガティブな思考ばかりだった。
「推薦者とはそういう立場にあるのです」
ヴェロニカは近くの椅子に座ってそう説明にもならないことを言っているし、シシリーは
「きっと見た目が幼いから、組みやすい、やりやすいとも思うんでしょうね」
と言っていたのを思い出す。
正直こんなことが毎日これから続くのかと思うと――――正直泣きたい気持ちになる。放課されたあとは、日が沈むまで『自薦者』からの挑戦を受ける時間が続くのだから。
「なんで勝手に推薦なんかしたの?」
「シシリーさまとランドルフ先生のご指示でしたので」
ヴェロニカの答えは少しすまなそうに、凍太には聞こえた。
と――――上からシシリーの呼ぶ声がする。
夕飯の時間なのだと気が付いて、もぞもぞとベットの上で寝返りをうって起き上がろうとすると、ヴェロニカが抱きかかえて凍太を抱っこの状態で抱えた。
「?」
「お疲れでしょうから、私が運びます」
「うん・・・・ありがと」
ヴェロニカに甘える様に胸の中で目を閉じる。と凍太の意識はそこで途絶えた。




