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魔痛症

魔術コースへ編入が決まった次の日、凍太は魔術コースの講義を受けるべく教室へと向かった。

手にはヴェロニカ特性の朝食をもって。朝食を作ったヴェロニカは少し用事があると言って、先に凍太だけを教室へ向かうよう指示した。

「失礼しまーす」

小さく言いながら、教室の扉を押し開いて中に入ると、すでに何人かの生徒が各々が席に座って居るのが見えた。

凍太も空いている席に座り、準備を整えながら朝食を食べるべく、バスケットを開く。

中にはサンドイッチが二つ。サラダに果物が添えられていた。

(ずいぶんがんばったなー。あとでお礼言っとこう)

思いながら、サンドイッチに噛り付いた。一口、二口、結局さいごまで止まらず一気に最後まで食べ終わってしまっていた。

「いい食べっぷりだこと」

声がして顔を上げる。と、そこには、眼鏡を掛けた魔女が立っていた。

「おはようございます」ぺこりと頭を下げる。

「はい。おはようさま。あなたが凍太ちゃんかしら?」

前に立った魔女はあいさつをしながら、凍太に質問する。

「はい。凍太です。きょうからお世話になります」

自己紹介もかねて、通過儀礼としての挨拶を済ませると、

「丁寧にどうも。私が基礎の講義を担当するシシリー・マウセンです」と名乗った。


「今日はこの魔術コースに新しい同胞が加わることになりました。紹介しましょう。凍太殿です」

「よろしくお願いします」

教壇の前に呼ばれて紹介されると、頭を下げておいた。

「みな、仲良くするように」

威厳のこもった声でシシリーが告げた。


講義は基礎の強化。

入学のこの時期に必ず行われる講義の一つで、魔術の構成強化を目的とした講義だった。

「構成をしっかりと組み、魔力を魔素を通じて、具現化を行うこと。魔術とはこの一連の動作をいいます」

皆一様にシシリーを見ながら講義を受ける。

「炎よ。目の前に」シシリーは掌を上に向けると火の玉を出現させて見せた。

「やってみなさい」

20人近い生徒がシシリーに促されて、火の玉を掌にともしていった。が----

「んぅ?」

凍太はあまりうまく具現化できないのか、灯っては、消え、灯っては、消えを繰り返していた。

「魔力の供給量を抑えなさい。最初から強くするのではなく、ゆっくりと」

シシリーがアドバイスする。それに伴って凍太の掌に安定した炎が出現した。ただし、色が青かったが。

(魔力の総量の流し込みが強すぎて、現象が安定しないのね)

出ている炎の色が高温を示す『青色』を示している。凍太を見ながら、シシリーは構成を見た。

(魔力の注入が大きく、出力が小さい)

魔力の量の加減と出力がうまくできていないために火が付いたり消えたりするのをシシリーは構成から読み取る。

(それでも、いきなり青くなるなんて・・・)

魔力の密度によって炎の色が変わる。これを一般に魔力密度による炎色反応と呼ぶ。魔力の密度が薄ければ赤やオレンジに濃ければより紫、青、やがては白色へ近い色に変化する。この現象で入学したばかりの魔力密度を測り、各々の課題を講師が生徒へ与えていくのだ。

魔力の密度はどれだけ周りの『魔素』を効率よく体に取り込み、変換するかによって決まる。子供のころは

魔素を取り込む練習をすること、と、魔力を体内で練る練習、そしてイメージによる具現化によって放出させる練習をバランスよく行わないとならない。

どれか一つが偏っていると、うまく魔術が行使できなくなる。凍太の場合、『魔素の取り込み』と『練りこみ』はとてもスムーズに行えている。特に練りこみが極めて強く体の中で凝縮されたものを、イメージによって放出するのだが、凝縮された魔力は勢いが良すぎて、今の凍太では制御しきれていないのだとシシリーは見ていた。

「そこまで」

シシリーが声をかけて全員をストップさせる。

教室のあちこちから、はぁはぁと息の上がるような声が聞こえた。

「魔力を長く行使することはとても負担のかかる作業です。今のような訓練をずっと続けていけば魔力の生成もスムーズに行え、負担も減りますので各自時間のある時に試してみるように」

シシリーはそこまで言い終えると、凍太に呼びかけた。

「特に凍太ちゃん。あなたはもっと魔力を抑えなければ駄目。よく覚えておくこと」

「はぁい」

恥をかかされたように凍太の声は小さかった。



「どうなされたのですか?」

昼食はいらないといってさっきから暗い顔をしている凍太にヴェロニカは心配そうに問いかけた。

「魔力を抑えるのって難しくって、全然できないから先生に叱られちゃった・・・・」

「そうでしたか・・・」

ヴェロニカはそれきり何も言わない。気持ちの整理がつくまでそっとしておくつもりだった。

「担当は誰だったのですか?」

「シシリー先生」

凍太の返答にヴェロニカは眉をしかめた。『「制御」のシシリー』と呼ばれる構成と制御の専門家。蛇の王国の中でも制御に関しては5本の指に入る天才に凍太は最初の講義で叱られたのだという。が、ヴェロニカの知るシシリーは人前で叱りつけるようなそんな人物ではなかったはずなのだが----。

凍太の落ち込み方は少し以上だった。自信を喪失して、覇気が全くない。どんな叱られ方をしたのかヴェロニカは興味がわいていた。



「シシリー殿はいらっしゃいますか?」

ヴェロニカは夕方になってから、シシリーの研究室を訪ねていた。

「なんでしょうか?」

シシリーは部屋の隅で積み上げられた本に埋まるようにして、声を上げた。

「上級補佐官のヴェロニカです。すこしお聞きしたいことがありまして」

ヴェロニカは今朝の授業の様子を教えてほしいとシシリーに切り出した。

シシリーは今朝の事をたんたんと説明していった。特に凍太を叱った 記憶はないという。

「そんなに出来が悪かったのですか?」

「いいえ。イメージが強すぎ、無理やりに火を小さくし過ぎて、火消えていたのです。だから

魔力の供給の方ををもっと抑えなさいと言ったのですが」

どうやらうまく伝わっていなかったようですね とシシリーは困った顔をして見せた。

シシリーの理屈は通っていたが、どうも凍太の特性のことはあまり知らないようなので、知らせる と、

「-----なるほど、どおりで魔力の総量と密度が多きい筈ですね・・・さぞかし本人は難しいでしょう」

と納得したようだった。

ヴェロニカの言ったのは凍太の魔力の容量が常人よりも多いこと、そして、氷雪系の魔術以外はほとんど使ってこなかったこと。であった。

「そして、氷雪系しか使ってこなかったことで、他系統への無意識下での抵抗----つまり苦手意識がある」

現状を打破するには、一定の周期で火炎、氷雪、空風、大地の基本4系統を集中的に学ばせることで、苦手意識をなくすことこれが、恐らく一番早いでしょうね」

ヴェロニカはシシリーの推論を聞いて----その通りかもしれないと思い始めた。

無意識下で氷雪系しか「出来ない」と思い込んでいたら----そしてそのせいで魔力放出がうまくおこなわれていないとしたら----。

「もしこのまま、魔力の放出がうまく行われない場合----ため込んだ魔力で身体を害することも考えられますね」

ヴェロニカは推論から一つの答えを導き出す。

魔痛病まつうびょう

シシリーも考えは同じだったようで、ヴェロニカに頷き返す。

魔通病とは、魔素を体内にため込み、凝縮された魔力の塊が放出されずに一定期間をおいて体内に蓄積すると、血液と結びついて小さな棘となり、体内の各所に損傷をおわせることが分かっている難病の一つだった。

治療法はただ一つ。体内の堆積した魔力を放出することだけ。おもに魔術師は自ら魔術を一定以上使うことによって予防でき、また、一般の者は治療院に行って体内から魔素を吸う食魔植物を用いることで改善することが出来た。

「なんにしろ、早急に魔力の総量を抑えること、そして、溜まった魔力の放出をしなくては、彼の体が蝕まれます」

「ええ。手配をします。ご助言、感謝いたします」

ヴェロニカは言って礼をした後、急いで部屋を出て行った。

「私も、何か手を打ちましょうかね」

シシリーは何事かを考えながら、眼鏡をかけなおした。



「凍太様。闘技練習場にいきますよ」

次の日の朝、ヴェロニカは凍太が起きるとともに、今日の行動を伝えた。

「闘技場?講義は?」

「話は付けてあります。今日は特別レッスンをしますので闘技場に向かうのです」

貴族が話すような優し気な口調が、今日はすこし強めになって早口になっていたのを凍太は感じ取った。

なにかあるんだな。

内心で感づいていたが、おとなしく頷いておくことにした。

 

移動した先----闘技練習場に居たのは騎士コースの導師1人とランドルフの2名だった。

「おはよう。ランドルフ先生」

「おぃおぃ、ずいぶん他人行儀じゃぞ? 爺ちゃん と呼んでええと言うているのに」

「そういうわけには参りません」

ランドルフに挨拶を交わしていると、隣からヴェロニカが窘める

「導師なのですから、もっと威厳を」と説教臭いことを言っていた。

凍太はヴェロニカの説教を横目で見ながら、闘技練習場内を観察する。

訓練の為の石造りの部屋で広さはおよそ20畳ぐらいだろうと、凍太は計算した。

魔術などの防火措置の為か、部屋全体には「防火」の魔術が掛けられているほか、耐水、耐風圧の魔術の構成も認識できる。

部屋の側面には現代世界で博物館に並ぶような1体~10体ほどのプレートアーマーが在り、それぞれが自動で動く魔術を掛けられているようだった。

「おはようございます。凍太殿」

後ろから声がして、振り向くと----騎士の鎧を着て立っている、凍太も見たことのある女が立っていた。

「おはようございます。ええと・・・」

「カーシャです。カーシャ・スチュワート」

「そうそう。カーシャさん。ごめんなさい。魔術コースを選んじゃって」

カーシャに謝ると

「良いのです。あの時は性急すぎました」

と返答してくれたので、凍太も少し気が休まっていた。

「で・・・なんで騎士課ナイトコースのカーシャ講師がここに居るんです?」

凍太が小首をかしげながらきいていると

「そいつはの。お前の空風系くうふうけい魔術のコーチを買って出たからじゃよ」

顎髭を撫でながら、ランドルフは説明する。

「凍太。お前さん、氷雪系ひょうせつけい魔術以外がうまくできないそうじゃないか。んん?」

面白そうにランドルフが煽ると、凍太はぽつぽつとしゃべりだした。

「昔からなんだよ。氷雪系は簡単なのに、火とか空風系とか大地系の魔術はうまくいかないんだ・・・だからあんまり練習してこなかった」

「いかんのう。仮にも「蛇の王国ココ」にいるのじゃ。特に魔術コースの生徒は全系統が一通りこなせないといかん。とはいえ、お前さんはまだ7つじゃ。氷雪系はほぼこなせておるし、これから練習すればよいじゃろうと判断したんじゃよ」

「うん・・・でも・・・氷雪系以外を使おうとすると『ちくちく』するんだ」

「それは・・・・どこらへんですか?」

ヴェロニカが聞いてくる。凍太はときによってちがっていたが----指先が一番多いことを伝えた。

「魔痛症ですね」

カーシャ講師がつぶやくと、凍太以外全員が頷く。

「魔痛症?」

「体内で練りこまれた高出力の魔力が、血と結びつき、棘となって体の内側を傷つける難病です」

ヴェロニカが説明する。

「通常、煉られた魔力はそんなに高出力ではなく、血液とともに体中を駆け巡ります。しかし魔力には血中含有濃度が決まっているので、おのずと含有度を超えた魔力は血液に溶け込むことなく、身体をめぐることになりますが----何らかの原因で含有度を超えた魔力が棘上となり体の各部位に痛みとなって現れるのです」

「この「ちくちく」は『魔痛症』が原因なの?」

「おそらくは」

3人は同時にうなずいた。

(なにそれ・・・・痛風じゃん・・・)

まさかこの歳で痛風もどきにかかるとは思っていなかった凍太は顔をしかめた。

「どうやったらなおるの?」

「まずは魔力の過剰生成と練りこみを抑えることです。そして、うまくため込んだ魔力を放出すれば血中魔力含有濃度は下がります」

「氷雪系では痛みはないんじゃろう?」

ランドルフの問いに凍太は頷いた。

「火炎系の講義ではどうじゃった?」

「かなり痛かった。指先がしびれるし」

「間違いありませんね。文献とも一致しますし、症例にも挙げられている通りです。つまり今の凍太様の状態は氷雪系のみが体に適応した出力を出せている為に痛みはない。しかし、それ以外は出力がうまくできていないために「魔痛症」になっています」

ヴェロニカが症状を述べる。凍太は頭の中でヴェロニカの言った意味を繰り返していた。

「練習して、うまく他の系統も扱えるようになればなおるんだよね?」

「はい。間違いないでしょう」

ヴェロニカは頷いた。

(仕方ない・・・。治るならそれに賭けよう!)

「わかったよ。ぼく、やります」

凍太の決意を込めた声が闘技練習場にこだました。



「講師は空風系のコーチとしてカーシャ・スチュワート。大地系の講師が私、ヴェロニカが。そして、火炎系はここにはいまはいませんが----科機工コースより1名を派遣されることになっています」

「ランドルフ先生は?」

「ランドルフ様は特別アドバイザーです」

「なにそれ」

「暴発などしたときの緊急要員じゃよ。魔術の途中解除が出来るのはこの中じゃワシだけじゃもの」

ランドルフは少し自慢げに言った。

「いづれの講師も一級ですので、ご安心くださいな」

ヴェロニカは優雅にほほ笑んでいて、カーシャは力こぶを作るような動作をしている。

(うーん。なんか雪花国のときにそっくりだなぁ)

おばあさまと、凍子。そして紗枝に育てられた記憶がデジャヴのように蘇った。

「今日は空風系の初歩をここにいるカーシャと学んでください」

ヴェロニカは淡々と告げる。

「さて、やりましょう!凍太殿」

カーシャは張り切って伸びをしながら、凍太へさわやかな笑顔を見せた。

(うっわ・・・体育会系ぽいわ・・・)

凍太は同じような空気を知っている。大学の体育会系のサークルのノリが、カーシャのノリにそっくりだったのだ。



「まずは、見本をお見せします」

カーシャはそういって一本の剣を引き抜くと、フルプレートに向きなおって、剣を振りながら----「裂けよ!」---- と叫んだ。

フルプレートとの間は離れていて剣の届く間合いでは決してない。が、次の瞬間。ガアン!とフルプレートが

何かに当たった音がしてぐらりと揺れた。

「構成は見えましたか?」

カーシャは剣を下ろしたままの姿勢で聞いてくる。ハイ と凍太が答えると----

「では、ゆっくりでいいので今の構成を真似して」

命令口調で告げてきた。

構成は簡素だった。振り下ろされた剣の風圧が大きくって前に跳び当たる。それだけの事だった。

実践するために考えて----手で手刀を作って振りながら、風圧が飛んでいく姿をイメージ、そして

「風!」

と叫んだが---「痛っ」すぐに指先に痛みが走って構成が乱れた。

「まだまだ。諦めず続けて」

カーシャはかまわず、指示をしてきた。

(そうだ。痛くても、がんばらないと!)

その後も、延々と手刀を振りながら唱え続けたが----痛みが増すばかりで一回もフルプレートは音を立てなかった。

「そこまで」

はぁはぁと息を上げながら手を抑えてうづくまってしまった凍太を見てカーシャがやっと制止の指示を上げる。

凍太の額からは----痛みからだろう----汗が噴き出ていた。

「痛みで集中が途切れて、最後まで魔術式が完結しとらん。 まずは医務室にいって『食魔植物』による治療を受けてこい。話はそれからじゃ」

ランドルフが---はぁ---と嘆息した。

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