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直轄地への道

こんにちは。ヒポポタマスです。

今回はいつもより少し長め。

おばあさん大暴れの巻きです。

「そろそろ、この子がここにきて12つき登宮とうぐう顔見世かおみせがあるのですが」

町長でもあり、この家の長でもある雪乃は皆を前にそう口を開いた。

午後のゆったりとした、空気の中で茶の間に少しの緊張が走る。

登宮とうぐうとはこの世界における、お宮参りにあたり、生後1年になろうという赤子と共に神前へと参じて、赤子の誕生の感謝とこれからの無病息災を祈る。その後に、顔見世かおみせと呼ばれる手続きを踏むために諸侯の支配下にある役所へと届けなければならない仕組みになっていた。


 雪花国から一番近い諸侯の直轄地までは、馬車で一日。運が悪ければ、三日はかかる道のりだ。雪花国は山の中腹にある為、馬車は山を下りてからでないと拾えない。馬では悪路が多すぎて登ってくることが出来ない為だ。

「最近は乗合馬車も野党に襲われることが多くなったといいます。危険ではないですか?」

紗枝が最近頻発している、乗合馬車襲撃事件のことを口にすると、隣では「うん、うん」と首だけで頷く、凍子の心配顔が見て取れる。

「乗合馬車の襲撃も、危険と言っては危険ですが----問題はその先。あのくそ忌々しい、卓舜たくしゅんの直轄地に出向かねばならないということですよ」

雪乃の眉根がよって―――ぎりっと歯ぎしりをする―――

「何度も、陳情をしてこっちでも役所を作る権利を与えるように、と言っているにもかかわらず、あのバカ。よほどうまい汁が吸えているのでしょう。役所は直轄地のみ許す 等という文を寄こしたきり。ああ、先代の卓玲たくれいが死んだのが恨まれます」


雪花国でも役所を構えてほしい。

そんな、願いが町長である雪乃にももたらされていた為、役目の上で直属の上司である卓舜たくしゅんへと、雪乃は書簡を送っていた。――――金一封まで添えて。だが、とうの卓舜たくしゅんは許可をいまのいままで出していない。

先代、つまり、卓舜たくしゅんの父親である、卓玲たくれいまでは良好な関係を築けていたのだが――――卓舜たくしゅんへ代替わりをしてからというもの、雪花国せっかこくへの風当たりを強く、はっきり言ってしまえば冷遇し始めた。

雪花国せっかこくは各諸侯の下に位置する、大きめの部族という位置づけなため、戦があった場合――――兵を町から諸侯へ送る義務があるのだが、雪乃は先代、卓玲たくれいにしたように、傭兵を雇うための金をいつもよりも多く支払った。

『雪人』は種族的に『女』が多く生まれ、『男』は少ない。という特異性があるので、『特例』が認められていたはずなのだが、卓玲たくれいの死後、その『特例』は、卓舜たくしゅんの元では無効になっているらしいことを雪乃は間者によって突き止めた。

「いわゆる、お飾りなのですよ」

そう言って、雪乃は手元に注いであった茶を飲み干した。

「最近はあちらの財政は目減りしていて、ついこの間、税を上げたのだそうですよ」

何を考えているんだか――――雪乃はそうとうにあきれた様子で席を立つとだいどころに向かって歩いて行った。


暫くして、手に小さな瓶を持って雪乃が帰ってくる。

左手には瓶と柄杓、右手には皿に盛った唐辛子の味噌づけをもって――――

「雪乃様!昼間から飲まれるおつもりですか?」

紗枝がとめに入ろうとする。だが、

「気分が悪いのです。飲まずに語れません」

そう言って雪乃は再び腰を落ち着けると、かめの紙蓋を開けて中の酒を器へと注ぎ始めた。

トクトクと3人分の酒が注がれる。周囲にはアルコールの匂いが立ち込めた。

「ええと、どこまで話したのでしたっけね」

一杯、くぴっと酒を飲みこんだ雪乃はとぼけたように、聞いて見せる

「役所がある『北央』(ほくおう)へ向かわねばいけないというところです」

凍子がすこしきつめに言うと

「分かっていますよ。聞いてみただけです。まぁ気は進みませんが、決まりは決まりです。行かざるを得ないでしょう」

「ですが、今『北央』(ほくおう)は治安が悪くなっております。そのようなところに凍太様を連れていくのは不安が・・・・」

「ふふん。今回はこのわたくしも行くのです。それでも不安ですか?」

「え?」

「ですから、今回はこのわたくしと紗枝、そして凍子の三人で登宮とうぐう顔見世かおみせに行くと言っているんです」

そこまで言うと唐辛子の味噌づけを指でひょいっとつまんで口に運ぶ。

「でも、それではここが留守に」

「なに。心配ありませんよ。こういう時にこそ、隣近所に頼めばよいではないですか。『雪人』は結束が強い。こんなお願いくらい、隣近所の皆に頼んでおけば、たやすいもんですよ」

そう言い終えると、こんどはくぴっと酒をさもおいしそうに――――飲み干して見せた。

 


それから、5ほどたった ある日。

「さあ、行きましょうかね」

きれいに着飾った、雪乃、紗枝、東子の三人が町の広場で集合していた。凍子のとなりには手を繋いで凍太がいる。

皆、漢服に良くにた服で着飾っており、さながらパーティーに行くそんな雰囲気にも見える。

もっとも凍太にとっては

(授業参観のときの親みたい)

そんな感じであったのだが。

「あとのことは任せます。よろしくたのみますよ」

雪乃の指示に、町の人々は笑って

「任せてください」

「ゆっくり楽しんできてください」

「お土産待ってます」

等と口々に返してくれる。凍太の目からは町長と人々というより、隣近所のおじさん、おばさんのような間柄なんだなあと認識できた。



 山道をゆっくりと進むと、途中からなだらかな道へと足場が変わる。ここまで、凍太はおぶられたままで、回りの景色を楽しんでいた。

(きれいな空だな。平成じゃみれない景色だな・・・・!!)

凍子の背中できゃっきゃとはしゃぐのが止まらない。

そこから少し進むと、山道が途切れて石で、舗装された街道がみえて、道の脇にはいなかでよくみるような無人の小屋がみてとれる。

ここまで、約1時間の道のりで、ここから、乗り合い馬車を利用するのが一般的な『北央』への行き方だ。

いつもなら、馬車が2、3台いていいはずの時間帯だったのだが、今日に限っていえば、一台の馬車も見えない。

「みんな出発してしまったんでしょうか?」

紗枝が小首をかしげる。

「まぁそろそろお昼です。持ってきたお弁当でも食べながら、待てばよいでしょう」

そういうと、雪乃はスタスタと無人小屋に向かって歩き出す。

「あっ、待ってくださいよぅ」

凍子は抗議の声を上げながら自分も小屋へと向かう。

(ほんとにのんきな方々なんだから・・・・)

声には出さなかったが、紗枝も内心であきれながら、小屋へと向かおうとした----その時だった。

「------っ」

風に乗って、何やら物音と共に声がした。

紗枝が耳を澄ますと---「ぎゃぁぁ」----悲鳴に近い声がしている。同時に何か暴れるような音も聞き取ることが出来た。

おそらくは----『襲われて』いるのだろうと確信すると、雪乃のそばへ駆け寄り「いかがいたしますか?」と立礼で頭を下げた。

命令を待っている紗枝に向かって、「食事の前の良い腹ごなしです。皆で行きましょうか」雪乃は、にやりと笑いつつそう言って、ゆっくりと方向を転換した。



「助けてくれぇ!」

逃げるように地面に這っていた男が後ろから背中を刺されて動かなくなった。

隣では、女がかれて----複数の男に囲まれている。

馬車が横転し、馬は殺され、御者であったであろう者は、首と腹から血を流して絶命していた。

 近頃頻発しているという----『乗合馬車襲撃』その現場だった。

馬車を襲ったであろう野党は、少なくとも10名はいる様に見え、紗枝達が駆けつけた時には、馬車の乗客はほぼ殺されているようなそんなありさまだった。

「おぃ!まだあそこに女がいるぞ!」

紗枝達を見た野党の一人が反応する。自分もおこぼれにあずかるつもりなのか、ニタニタと笑いながら、4人へと近寄っていった。

「へへっ女が二人に、ばばあとガキか」

人数を把握すると男は手に持っていた手斧で、雪乃を切り付けようとして、

「いぎゃぁ!」

無様な悲鳴を上げた。

「動きがなっていませんよ?このわたくしが教育してあげましょう」

鼻先を何かでしたたかに打たれたのか、男は顔を押さえて悶絶している。と次の瞬間、雪乃の蹴りが男の顎を的確に抉る。

「よそ見をしているからです」

フンと鼻を鳴らす。口調は穏やかだったが----その目はまるでオオカミのように鋭かった。

 最初は何が起きたのかわからずに、徒党たちは雪乃たちの行動を遠巻きから眺めていただけだったが----仲間が一撃で倒れたことを確認すると

一斉に押し寄せて行った。だが----次の瞬間。ごきっという音と共に、徒党の一人が倒れる。

「おい。どうし----」

後ろに続く仲間が声を掛けようとして、-----今度は、氷漬けになった。

「お見事です。凍子様」「紗枝さんこそ」

一人目は紗枝の掌打と肘で首を叩き折られ、二人目は、凍子の魔術で氷漬けにされ絶命した。

二人の女に、やられたのだとわかった所で、徒党の動きが鈍る。うかつに動くことが死に直結するのだと、男どもは感じたのか得物を構えて、硬直状態になっている。と-----

「おやおや、大の男が情けない」

今度は凍子と紗枝の後ろから、雪乃が進み出た。

進み出た、雪乃を中心にして放射状に徒党は陣取っていたが----気圧されているのか、誰も動こうとはしなかったのだが。

ばさりと雪乃が漢服の袖から一本の棒状の何かを取り出そうとしたところを、隙を突こうと、野党の一人が持っていた剣で突きに行く。

ところが、突きに行った筈の剣は棒状の物に力を流され----男はつんのめって、頭が前に出たところで、棒状のものを真上から食らい「ぐしゃり」とまるでザクロが砕けるように、頭を潰された。

「次はどなたです?」

そう言って雪乃は持っていた棒状の物を「ばっ」と広げる。棒状の物は一本の鉄扇だった。


(あの部屋に飾ってあった扇だ)

凍太は広げられた鉄扇をみて、ぞっとした。

以前、雪乃のへやにかざってあったあの扇に間違いない。

黒く細い板状の鉄が、何枚も組み合わさって扇となっているそれは----黒い半円状の盾の様にも見えた。

雪乃の手にある鉄扇は優雅にも見える動きで風を持主へと送る。

「おや、いささかやり過ぎましたねぇ」

コロコロと笑ってはいたが----相当な速度とインパクトで、棒状となった鉄の束が、がら空きの頭に振り落とされれば----頭が砕けるのは道理だろう。

もっと驚きだったのはおばあさまや母さん、紗枝さんの異常な強さ。

紗枝さんが相手の首を叩き折った動きは熟練者の動きだったし、母さんの魔術は人一人を一瞬で凍らせる。おばあさまに至っては、老人の動きではない。

(師範と同じか----それ以上の動きだ)

凍太は転生する前の人生では『テコンド-』を習っていた。それも、段位である黒帯のクラスまで修めていたのだが----仕事で転勤となって、辞めざるを得なかった。散々、トレースした師範の動きが頭の中で反芻される。が、その師範と同等か、それ以上の動きの素早さだろうと推測でき、凍太は、はっきり言って恐ろしくなった。身近に人を躊躇なく『殺せる』人間がいる。それも3人も。実力の程は明らかではないが、おそらくかなりの手練れに入る部類の人達だ。それが、普段、自分の家族であり親でもあると思うと----

(自分がチートなんじゃなくて、周りの人たちがチートな訳か)

凍太は心の中でため息をつきながら、改めて、この世界にきて、妙に納得した心持になった。



 昼間の街道に次々と死体が量産されていく。

或る者は頭を割られ、或る者は喉を潰され、そしてまたある者は、氷漬けになり絶命していく。

「さて、あなたが最後の一人です」

雪乃は鉄扇で口元を隠すようにしながら、足元は若干後ろ重心にとって、隙の無い体制を維持しながら、徒党の最後の一人にそういった。

「あれだけ人数がいたのに、骨のある者はいませんでした。せめて最後の一人くらいは楽しませてほしいものですが・・・」

「ババア。いい気になってんじゃねえぞ」

野党の最後の一人は、言いながら身構える。

手に持っているのは棒の先に鎖でつながれた鉄球がついている武器----フレイル----を持って。

「おや、いいでしょう」

言うと、雪乃は扇をたたみ、棒状にして自ら右半身を少し前に出して構えて見せた。

男が動く。初撃は打ち下ろし。それが寸前のところでかわされると、斜め下からの振り上げに変わろうとしたところで----トンっと軽く扇が男の肩口へ突き入れられる、その一撃で、フレイルの動きは止まる。続いて足元を、真上から踏み抜かれる。

「このぉ!」

男の攻撃はつづいた。今度は空いていた左手で掌底を雪乃の顔へと放つ。

慌てず、雪乃は扇で外側に払うようにして、掌の軌道を内側から一瞬でずらした。続いて二撃目が返す扇によって首に横から打ち込まれ、続いて耳を打ち、おまけに鼻まで打って見せて----相手がのけぞった所で----がら空きの顎へ、直下から使っていなかった左ひじによるアッパ-カットが叩きこまれる。

脳を揺らされて、意識がなくなったのだろう----男はそのまま膝から後ろへ仰向けに倒れこんだ。



「お戯れがすぎます」

紗枝さんはおばあさまに向かって渋い顔をしながら小言を言っていた。

「もう、分かりました。そんなに怒ることでないでしょうに」

「いいえ。雪乃様は大事な身なのです。私に指示いただければ-----」

はいはい とでも言いたげに、おばあさまはそこらのおばさんがやるような降参のポーズをして見せた。どうやら、本心から謝ってはいない。

それにしても、圧巻だった。

男の鉄球を左肩への一撃で止めて、下は足での踏み抜き、返す扇で攻撃をそらして、首、耳、鼻への連撃。そして最後の肘でのアッパー。

凍太おれの目からもきれいな動きだった。まるで、上段者の演武を見ているような、懐かしい感じが浮かんでくるのを感じて、柄にもなくウキウキとする。と----「それはいいけど」----母さんが俺をおぶったままで、こう言った。

「この死体どうするの?」と。

 

結局-----紗枝さんが町までいったん戻り、役人を連れてここまでくる事になった。

死体は、役人の手によって塚が作られて、埋葬されるのだと言っていた。

唯一生き残った、徒党の男は、役人に引き渡し、おばあさまと俺たち3人は役人が用意した馬で『北央』へと行くことになった。

役人が用意した馬はこの近くに住む、民家から急遽、徴用したらしい。

「このたびは、大変、お手を煩わせました。申し訳ありません」

役人の一人は馬を引き渡しながら、頭を下げた。

「この事件には我々も手を焼いていまして」

困ったような顔をしながら、役人は愛想笑いをして見せる。----家のかみさんがね----なんて言いそうな、そんな雰囲気がする役人だった。

「それに、ここだけの話ですが、どこぞの貴族の手で指示された----なんてうわさもあるくらいなんですよ。この事件」

役人は小声になりながら、そんなことを付け加えた。

「まぁ、起こってしまったことはしかたありません。が、さっき言ったことは、守って頂けるのでしょうね?」

紗枝さんはうたがわしい視線を役人にぶつけながら、何度目になるかの念押しをしていた。

「ええ、ええ。それはもう。しっかりと内密にさせていただきますし。もとより、その馬もお持ちいただいて結構です。持ち主にはそれ相応の代金を支払っておきますので」

役人はそういいながら、「道中ご安全に」なんて薄っぺらい言葉を投げながら、俺ら4人に手を振って見送ってくれた。----何か月か後に、「街道での戦い」として、歌や、噂話、果ては、貴族内でのゴシップの記事になる事件は、こうして幕を閉じたのだった。













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