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ロザリアは譲らない《六》

 老人が見たことのない魔法を使ったことで、ロザリアの中で老人の印象は「くそ爺」から「すげー爺」に変わった。


 その為か、朝食を食べはじめてもロザリアは老人にべたべたと引っ付いて質問を投げかけていた。


 あまりにも距離感が近すぎて、胸やら腰やらが当たっているが、彼女に老人を誘惑しているつもりはない。


 生まれてこのかた恋愛感情を持つ余裕のなかったロザリアは誰とも距離感が近いだけだ。


 ロザリアは老人に朝食を食べさせてやりつつ、目をキラキラさせて聞く。


「なあ! さっきのアレって結局どうやったんだ!?」


「溶かして、固めただけじゃ」


「いや、それは見りゃわかんだけどよ……まあいいや。アタイにも教えてくれよ! アレが使えればもっと死体あさりが楽になる! そしたらもっと生活もよくなる! だから――」


「だめじゃ」


 ロザリアに抱きつかれて鼻の下を伸ばしていた老人も、そこだけは真顔で言う。


 ロザリアは納得が行かず、老人の首根っこを捕まえてゆっさゆっさと揺らした。


「なーんーでーだーよー!」


「さーいーのーうーがーなーいーかーらーじゃー!」


 そうはっきりと言われてしまうと、ロザリアも納得はしないものの、反論などできず黙り込むしかない。


「全く……なんておなごじゃ……」


 目をまわしてしばらくむせていた老人が、むすっと口をへの字にしているロザリアに、まるで教師か何かのような丁寧さで、順を追って説明していく。


「魔法という物は誰もが扱える訳ではない。その上、扱える者であっても、得意不得意というのははっきりとしておる。火の魔法は扱えるが水の魔法は無理、とかいった具合にな。細かく見ていけば未だに発見されていないような属性を持つ魔法すらある。そんな中で、様々な属性を自在に操れるのは、ワシのように天才で学ぶ時間の多かった者のみじゃ」


 爺さんが天才ー? という不服そうな声が赤髪の少女からあがったが、老人は無視して続ける。


「そこで言うとお前さんは才能がない。いや、あると言えばほんのちょっぴりあると言えなくもないかなー程度にあるやもしれんが、一つの属性の魔法を極める程度じゃ」


 老人は簡単に言うが、自分の得意な属性の魔法一つ極めることができず寿命を迎える魔法使いが多くいる中で、「一つの属性の魔法を極める程度に才能がある」というのは実はかなり貴重な存在だ。


 しかし、老人が遠回しに誉めたとして一般的な魔法のレベルもよく分かっていないロザリアたちにそれが分かるわけもなく、彼女は頬を膨らませた。


「悪かったな! そよ風をふかす程度の風魔法しか使えなくて! 所詮アタイはカティと違って初級魔法もまともに扱えねーだめなやつだよ!」


「それは違う。だからお前さんは、全て間違っているというのだ」


「じゃあ、何が間違ってんのか教えてくれよ……」


「全てじゃ! ワシは全て間違っておった!」


 突然、老人の声色が変わった。正気を失っているのかロザリアと相対しているのに目の焦点は中空を捉えている。


 両手をふらふらとさ迷わせ、見えない何かを掴もうとする老人の様子を見てカティが子供たちを背中に隠す。何があってもいいようにその手には調理に使う錆びたナイフが握られていた。


 冷静に自分が打つべき次の一手を考えているカティと違い、ロザリアは深く考えない。


 老人の両手をとって、無理やり正面を向かせて叫んだ。


「しっかりしろよ爺さん! オイくそ爺! 何が間違ってたって言うんだ? 爺さんは何かを間違えたのか?」


 ロザリアと至近距離で見つめあっているというのに、老人の瞳にロザリアは写っていない。


 濁った瞳は何も写してはいない。老人の瞳と、死ぬ寸前の両親の瞳や死んだばかりの兵士の瞳が重なって、ロザリアは老人の死期が近いことを悟る。


「間違っておった……。ヤツを倒せば終わるなどと……。ヤツを倒せるなら死んでも良いと……。その心根がこの結果を生んだのじゃ…………。ヤツを倒した後も、生き残った者には人生が続いていくのだと、分かっておらなんだ……。自らの置かれた状況を自覚しておらなんだ………。自覚のない者にはそれなりのしっぺ返しがある。じゃが、しっぺ返しを喰らうのはワシだけで十分じゃ…………」


 喋る声に力を失い、その体からも力を失っていく老人。その様は老人にもたれかかられたロザリアに死ぬんじゃないか、と焦らせるほどだった。


「オイ爺さん!? やめろよ? アタイの腕の中で死ぬなよ!? 頼むからやめろよ?」


 その願いが通じたのか、しばらくして老人から穏やかな寝息が聞こえ始めてくる。


 老人を抱き締めて途方にくれるロザリアに、錆びたナイフを置いたカティが助け船を出す。


「私が足のほう持つから。ロザリアちゃんはそのまま頭のほうお願い」


「お、おう。頼む」


 老人を床に寝かせて、カティは手際よく乱れた衣服を整え、額に浮かんだ汗を濡らした布切れで拭き取ってやる。その手際の良さに何もすることがないロザリアは、老人の枕元で静かに正座をしている。


 白い髭で下半分の覆われた老人の顔には、いくつもの深い皺が寄っている。その皺の数がそのままこの老人の人生における苦悩の数のように思われて、ロザリアは訳もなく悲しくなった。


「なあカティ」


「なあに?」


「この爺さん。多分死ぬよ。一年か二年か……多分五年以内には」


「そうね」


「…………なあ、カティ」


「なあに」


「ただ家に帰してやるだけじゃだめな気がしてきた」


「ロザリアちゃんがそう言うなら、私は賛成よ」


「…………ありがと。でも、どうやったら家に帰してやる以上のことが出来る?」


「さあ……それこそ『自覚』しなきゃいけないんじゃないかしら?」


「ヘヘッ。そうかもな」


 ロザリアはようやく、老人の言っていた自覚について、考え始めるようになっていた。

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