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ロザリアは譲らない《四》

 一人加わったとはいえ、ロザリアたちの生活は変わらない。


 早めの夕食を食べて食器を片付ければ、寝る時間だ。それまでずっと洞穴の中を煌々と照らしていた光球をカティが消そうとする。


「みんなー、もう良いかしら?」


「はーい」


「いや、ダメじゃ」


 枯れ草の上に横になった子供たちから元気のよい返事があった。一方、老人の方からは反対の声があがる。


老人と子供たちの間に横になったロザリアが眉を寄せる。


「なんだぁ? 爺さんまだやることがあんのか? 只でさえ腹減ってるんだから早く寝かせろよ」


 ロザリアの声には耳を貸さず、老人は光球をまじまじと観察する。


「なにやってんだ? 目をやられるぞ? あ、頭をやられてたか」


「ちょっとロザリアちゃん!」


 という二人の会話も聞こえない様子でしばらく観察していた老人は、ふむ、と顎髯を撫で付ける。その姿はどことなく学者か老師のようで、ロザリアたちは老人が次になんと言うのか固唾を呑んで見守った。


 光球を様々な角度から観察していた老人が、


「面白い」


 と呟く。


 ロザリアたちは肩透かしを食らった気分で二人ともぽかんと口を開けてしまう。


「面白いな。これは」


「…………おじいさん、光の魔法の、初級も初級なのですけど……?」


 何か新発見でも見つけたかのような老人に、カティが恥ずかしそうに言うも、その声すら聞こえていないようだ。


「ほっとけほっとけ。寝るぞ! アタイは寝る!」


 ――何が世界最高の魔導師だ!


 とロザリアは構っていられないとばかりに横になる。


 子供たちも眠たげに目を擦っている。


「ええっと、リーさん? 消しますよ?」


「おお、これはすまんかった。じゃ、ワシも寝るとするか。お休み、ミニャさんや」


「カティです!」


 ――やっぱりただのボケたおじいさんだわ。


 早く家を見つけてやって追い出さないと、と思いながら光珠を消し、カティも横になった。




 翌朝、朝陽が地平線の向こうから昇るより先に、ロザリアは老人を連れて我が家を出た。


 魔の大森林から降りてきた朝靄が晴れるまでの数十分が、彼女にとって一番動きやすい時間だ。草原と朝靄が彼女の姿を隠してくれる。


 本当は老人を連れて行くつもりはなかったのだが、朝早くから起きていた老人が「食いぶち位自分で稼ぐ」と言い出せば、ロザリアとしても考えは同じだったので置いていく理由はなかった。


 それに、軽身のおかげで多少戦えるロザリアと違いカティや子供たちは暴力に慣れていない。万が一にもないとは分かっていたが、老人とカティたちを一緒にしておいて何かトラブルでもあったらと思えば、連れてくるほうがいいと彼女は考えた。


 勝ち気そうな美少女と見るからに金持ちのボケた老人が治安の良くない街の外をうろうろしているほうが危ないと気づかないのがロザリアという少女だった。


 老人を引き連れていつものように風の初級魔法で進行方向の草をどけながら、彼女は街道沿いの戦場跡に進んでいく。


 老人はロザリアの後に続きながら、興味深そうに彼女の使う魔法を見ている。


 あんまり熱心に見ているものだから、ロザリアの心に悪戯心が芽生えた。


「なんだ爺さん? この魔法も面白いって言うのか?」


 ――世界最高の魔導師を自称してるのに、そよ風一つふかせられないのか?


 という嘲りも含まれていたが、老人は何か残念なものでも見るような顔つきで首を横に振った。


「お前さんの魔法は間違っとるのう……」


「な、なんだとぅ!?」


 同じ初級も初級の、魔法を扱う人間なら最初に練習するような魔法なのにカティには面白いと言い、ロザリアには間違っていると言う。


 納得できなくて、ロザリアが憤るのも当然だ。


「アタイの魔法の何が間違ってるってんだ!」


「何がと言われても、のう? 根本から?」


「な! な! ななな! こっの……!」


 あんまりな老人の言い方に、ロザリアも爆発しそうになる。


 しかし、昨日カティに年長者が喧嘩をするなと言われたばかりだというのを思いだし、声をおさえた。


「…………わかった。喧嘩打ってんだな? くそ爺。買ってやんよその喧嘩。つっても爺相手に殴りあいとかアタイの名がなくし……そうだ。今からどれだけ金属を集められるかで勝負な」


「なぜそうなるんじゃ……」


「うっさい。良いだろう? どうせやることは一緒なんだ。死体から漁るのも良し、埋まっちまってる剣とかを掘り起こすのも良し、どんな手でもアリだ。あっ! でもあんま離れるなよ? 離れて何かあったら寝覚めがわりいかんな。はいじゃあ勝負開始!」


 一方的に言いきって、草原の向こうに消えるロザリア。


「一刻後に集合な!? あ、見回りの兵士には身つかんなよ! 見つかったら声を出せ? 助けにいっから!」


 草原の向こうから聞こえてきた声を最後に、ロザリアの姿が消える。


「なんなんじゃ……。ワシは追われてる身。こんなことをしてる暇は……」


 などとぶつくさ言っていた老人だったが、もともと負けず嫌いな気性のこの老人。最後はいそいそと足元を探り始めたのだった。



「ふっふー。今日は大量だったぜー」


 一刻後、ほくほく顔でロザリアは老人と別れたところに戻ってきた。


 彼女の持つ袋にはずっしりと剣や鎧の欠片、女性の写真が入ったロケットなどが入っている。これは勝ったと確信して草原に座っている老人に袋をつき出した。


「よう爺さん! 調子はどう……だ…………!?」


 意気揚々と声をかけたロザリアの顔が、老人の背後にある物を見て固まる。


 草原に座り込んだ老人の背後には、折り重なるように兵士やゴブリンの死体が山となっている。そのどれもが白骨となっていて、かなり以前に死んだものたちだ。


 そして、兵士やゴブリンである以上、その身には兜や鎧を身に纏っており、手には剣や槍を持っている。その総量はロザリアの集めた物を遥かに上回っていた。


 老人がロザリアの姿をみとめてニヤリと笑う。


「ワシの勝ちじゃのう?」


「嘘だろ!? どんな手を使ったんだよ!?」


「どんな手も使ったんじゃよ。なんでもアリ、じゃろ?」


 自分の言ったことを言質にとられてしまえば、ロザリアは何も言い返せず、敗北を認めるしかない。


「わかった! アタイの敗けだよ敗け。くっそーこんな爺さんに負けるとは」


 袋を投げ出して悔しそうに空を仰ぐロザリアに、老人は人差し指を立てて得意げに講釈した。


「魔法を扱うのであれば、自覚をせねばならん」


 その発言がロザリアとカティの魔法に対してだと気づいた彼女は、老人のすぐそばに座って先を促す。


「自覚って?」


「自覚とは自分が何者なのか知ることじゃ。自分のおかれた状況を含めてな」


「いやアタイが馬鹿だからってさすがに言葉の意味はわかるよ」


「自覚とは…………何を言おうとしてたんだったかのう?」


「知るかよ! もういいよ! こんだけの量は一気に運べないし、一旦アタイの分と爺さんが持てる量だけ持って帰るぞ!」


 ロザリアは大股になってずかずかと歩いていく。しかし彼女のいらいらは長くは続かず、我が家に帰る頃にはいつもより多い量が手に入ったことで、その足取りは軽くなっていた。


「たっだいまー」


 そんな彼女をいつも通りカティが迎える。ただ、いつもと違ってその額には青筋が立っていた。


「お帰りなさい。ところで……なんでリーさんを外に連れ出したのかしら? 私言ったわよね? 我が家でもてなすって?」


 ロザリアは昨日に引き続き正座させられて、昨日より長く説教されることになる。

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