女子小学生二人がお絵描きする話(挿絵あり)
「ねぇ月子ちゃん、なんか暇じゃない?」
小学5年生の青葉がぼーっとしながら呟いた。小柄な体に短い髪がよく似合う、元気そうな子だ。
「確かにねぇ……なんもする事ないものね」
同じく小学5年生の月子もぼっーとしながら応える。青葉の方を振り向くと同時、長い黒髪が物憂げに揺れた。
ここは月子の自宅。月子の友人である青葉は休みの日は毎日ここに来るのだ。今は夏休みなのでつまりは毎日来る。しかし、することも無いのか、2人はソファーに寝転んでいるだけ。
「月子ちゃん、プリン食べる?」
「プリン体多いからいい」
「痛風気にする歳じゃないよ……」
ちなみにプリンにプリン体は含まれない。
「じゃあプリン体食べる?」
「意味わかんないわ……」
段々と会話が適当になってきた。
「しかし……本当に暇ねぇ」
今日もいつも通りグダグダと一日が終わるだろうなぁと思いながら、月子はテレビを付けた。
「……なんか前もこんな事あったわね…」
月子が独り言のように呟く。すると突然、青葉がぱっと立ち上がり、ガサゴソと自分のカバンをあさり始めた。青葉は何をやっているのだろう。ある程度静かになったと思ったら、今度は勢いよくカバンから何かを取り出した。
「じゃーん!」
「なにそれ、ノート?」
「図工の宿題だよー」
「あー、そういえばそんなのあったわね……」
たしか、指定されたものを書いて提出しなければいけなかった気がする。
「でも、宿題なんてまた今度でいいじゃないの」
「じゃあ月子ちゃん宿題進んでるの」
「進んでいる、と言ったら嘘になるわ」
「進んでないよそれ……」
月子は知的そうな見た目の割にその実、まったくそんな事はないのだ。
「……まぁ、時間もあるし少しやってみましょうか」
月子もガサゴソと図工のノートを取り出す。
「まずは……犬らしいわ」
「へー、簡単だね」
「ええ、見なくても描けそうね」
そう言って二人は、それぞれノートに犬を描きはじめた。
◆◇
「できたぁ!」
青葉が嬉しそうに声をあげる。
「本当、少し見せてくれないかしら」
「いいよー。じゃーん!」
青葉がノートをこちらに向ける。
「あら、可愛いわね」
「でしょー」
「ふふ、私も完成したわ」
月子も嬉しそうに笑う。
「見せてー月子ちゃん」
「良いわよ。ほら」
月子はノートを、青葉のほうに差し出した。
一瞬、時が止まった。
「月子ちゃん……これって……」
「ダックスフンドよ。どうかしら?」
ダックスフンド……? ダックスフンドと言うよりはむしろ……
「……ちんあなご?」
「ちっ、ちがうわよ! どうみても犬でしょ!」
「いや、でもこれを縦にするとさ……」
「ほら! ちんあなご!」
「やめて! 縦にしないで!」
「さらに、肉(?)を消して、しっぽの部分を土に埋めると……」
「ちんあなごだ!」
「……違うわよ…」
「違わないよぉ!」
「ぜっ、全然ちんあなごに見えないわ!」
「じゃあ、ちんあなごと並べてみようよ」
「ほらー! ちんあなごだ!」
「やめなさい青葉ちゃん! だんだん傷ついてきたわ!」
「ついでにこんなのも作ったよ」
「やめて! ちんあなごをコラージュしないで!」
「ちんあなごでしょ?」
「もうちんあなごでいいから……次の絵を描きましょう……」
◆◇
「うちのお父さん、だって」
「あら、ずいぶん簡単ね」
「……」
「なによ! パパなら毎日見てるし、流石に描けるわよ!」
「(月子ちゃんお父さんの事パパって呼ぶんだ……)じゃあ、取り敢えず描こっか……」
多分下手なんだろうなぁと青葉は思った。
◆◇
「出来た!」
「青葉ちゃん早いわね、見せて」
「なんか普通ね、普通過ぎて普通ね」
「無理に貶さないでよ月子ちゃん……」
「あえて言うなら青葉ちゃんのお父さん、顔が小汚いわね」
「私の塗り方のせいだよ!?」
「ふっ、そんな事を言っていたら、私も完成したわ」
「へぇ、一応見せて」
「毎日見る人の顔くらい、簡単よ」
月子はパサッ、と青葉にノートを向ける。
「……地獄?」
「違うわよ! パパの絵よ!」
「じゃあなんで背景が燃えてるの? 空襲?」
「ふふん、これは夕焼けよ」
「後ろを戦闘機飛んでない?」
「つばめよ」
「……後ろで人間が炭化してない?」
「右が私で、左がママよ」
ここまで来ると才能を感じる。
「なんか怖いよ……」
「そうかしら? まぁ、確かにパパが少し険しい顔をしているかもしれないわ」
「険しいとか険しくない以前の問題だよ……」
「でもほら、私と私のママは笑顔よ」
「笑顔! わかんないよ! 怖いよ!」
まずい。なんとかもう少し改良しないと、呪いの絵にしか見えない。
「月子ちゃん……なんかこれはマズイと思うよ……」
「そうかしら……私は完璧だと思うのだけれど……」
「じゃあさ、こういうのはどう?」
「ちんあなごを持たせたよ」
「やめて! 犬のイラストはもう忘れなさい!」
「うーん、でもまだ怖いよなぁ……。注意書き入れたほうが良いかも」
「ノンフィクションよ!」
「ノンフィクションの絵図じゃないし……」
戦争の悲劇、とか題つけて出したほうが良い気がする。
「……もう疲れたわ私。図工なんてまた今度でいいじゃない」
月子がダラダラと机に突っ伏す。
「確かに、私も疲れたよ……」
青葉も言いながら同じく机に突っ伏す。月子の絵を見ているとなんだか精神力が蝕まれる。
「……ゲームしよっか」
「……そうね」
二人はおもむろにテト◯スをはじめたのだった。