表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/13

悪魔

第九話になります。

楽しんで読んでいただけると幸いです。

濁った黒い空、草も生えない不毛の地。アクドゥニアとは少しずれたところにあるこの暗黒の世界は、悪魔の世界。

あちこちに大きな城が建てられ、世界自体が大きな要塞のようになっていた。

その城の中枢。悪魔の王が住む、一際大きな城。

王たる者が座る玉座に、一人の、大きなツノをもった悪魔が座っていた。

この悪魔は、王ではない。いや、正確にいえば、王ではなかった。

彼の足元には、先代の悪魔の王だった者の肉塊が転がっていた。

「あぁ、暇だァ」

悪魔は頬杖をつきながら、暇そうに座っていた。

彼は戦いが好きだ。壊すのが好きだ。

だから、王を殺した。彼にとっては何てことはなかった。

王になれるということは、強い奴で、戦ったら楽しそうだと思っていた彼は、失望していた。暇つぶしにもならなかった。

「アズヴェルド様」

そこに、アズヴェルドと呼ばれた悪魔の従者である悪魔が、一つ、提案をした。

「御暇ならば、アクドゥニアに参るのは如何でしょうか。天使共が盛んに動いているようですし」

それを聞いたアズヴェルドは、

「何だ、何だ? 天使共は俺たちと戦う準備でもしてんのかァ?」

と目に狂気じみた光を浮かべ言った。口元は楽しげに歪んでいる。

天使がアクドゥニアで動くということは、同族を増やそうとしているということ。

何故同族を増やそうとしているのかといえば、悪魔と戦う為だろう。

数を増やせば、悪魔に勝てると思っているのだ。

悪魔は基本的には群れないし、統率も何もない。

ただ、悪魔たちは破壊するということに関してのみ、恐ろしいほどに統率がとれる。

「あー、待ちきれねぇなァ」

アズヴェルドはそう言い、玉座から立ち上がると、外に向かって歩き出した。

「行かれるのですか?」

「あァ、当然だろ? お前は留守番な」

「御意」

アズヴェルドは門を開き、アクドゥニアに飛び込んだ。



帝国にある魔法学校。

ここでは、魔法使いの素質がある者、魔力を持っている者の教育を行っている。

帝都にあるこの魔法学校は、帝国内で一番のエリート校だ。

高度な魔法技術が身につけられるが、授業に付いていくのは大変で、年に何人もの生徒が辞めていく。

しがないパン屋の娘、ジーナは何とか授業に付いていっていた。

魔力が特別高いわけでもなく、頭が特別良いわけでもない。

それでもジーナは、自分の好きな人の役に立ちたいと、頑張っていた。

「......ナ! ジーナ!!」

「はえっ?」

「前!!」

「えっ、うわっきゃっ」

今は実技の時間。ジーナは飛んできた火球を慌てて避けた。

「集中しなさい」

「すいません......」

今の実技の授業は、防御魔法を中心に行っている。今日は、前回までに教わった魔法を使い、教師の放つ魔法を防ぐという内容だ。

ジーナは特別才能があるわけではないが、他の何の魔法よりも、防御魔法が良くできた。

「......ジーナ、最近何かあった?」

「え?」

授業が終わった後。ジーナは、心配そうな顔をした友人からそう聞かれた。

「ううん、何でもないよ......」

「そう?」

ジーナは、無理矢理笑顔を作って言った。本当は、彼女にとってとても悲しいことが起きたのに。

ジーナはずっと、シアンと肩を並べて仕事をしたくて、魔法学校で勉強してきた。彼に、振り向いてもらえるかもしれない、と下心もあったが。

しかし、そのシアンは死んでしまった。

何をすればいいか、分からなくなった。

ジーナは、あの日から止まったままだった。

その日の帰り道。途中で花を買う。家に帰る前に、隣の路地の入り口に立った。この先で、シアンは死んだ。

ジーナはギュッと手を握り、奥に入って行った。


ここは昼間でも暗い路地。

前に天使も出たし、あまり来たくはない場所なのだが、どうしても来てしまう。

ここに、シアンがいるのではないかと思ってしまう。

ジーナが花を置いて、しばらくぼーっと立っていると、

「あー? 何をしてんだ、お前?」

と声をかけられた。驚いたジーナが後ろを振り返ると、そこには期待した人物ではなく、悪魔の男が立っていた。

大きなツノも、羽もある訳ではないが、人間とは思えなかった。

「お前人間だな......んー、ここら辺に強そうな天使がいたと思ったんだが」

悪魔は顎を撫でながら言った。

「お前、何か知らねぇか」

悪魔がジーナの方を見る。ジーナは恐怖で固まっていた。震えが収まらない。

「おいおい、そんなビビらなくてもよ」

悪魔はため息を吐き、呆れたように言った。

その時。

「その子から離れなさい!!」

「おっ?」

赤い獣人の女が、悪魔に向かって突っ込んだ。



時は少し遡る。

シアンとビアンカは、帝国内に入っていた。もちろん関所は通っていない。

「シアンくんさ、本当足速くなったよね」

「それについてくるお前もお前だろ」

「いっや〜。私一応獣人だし? そりゃそれなりに走れるよ」

馬を使う、という手もあったのだが、二人は何故か馬を気遣って走ってきていた。曰く、山などの悪い道を走らせたくない、と。

「そういやシアンくんさ、天魔の力使えるようになったんだよね? その後どう?」

「ん? あー、そうだな」

走りながら、シアンは自分の手のひらを見る。

ちょくちょく練習はしていたのだが、実戦で使えるというところまでは来ていない。

「アゼルにコツとか聞いてみたんだが、感覚的過ぎてよく分からなかった」

「あー......」

ビアンカは苦笑いしながら頬をかいた。

「アゼルは才能はあるけど、コミュ力の方はね......」

「ビアンカと出会えてなかったら、あいつ旅とか出来てなかっただろ」

ビアンカはうーん、と考えた。

「一応、初めて会った時までは、一人旅だったらしいんだけど」

「それまでどうしていたんだか」

シアンも苦笑しながら息を吐く。

「そろそろ帝都だな」

「うわ〜私達足速いね。馬より速くね」

「まあ、散々山登ったりして近道したしな」

シアンとビアンカは、ここまで三日で来ている。

ハロルドが運転していた馬車で行って五日かかった道だった。


「で? こっからどうすんの」

帝都に入り、二人は物陰に身を隠していた。

「家に戻って魔弾やらを回収したい訳だが......あー、残ってるかな」

「うわ、無駄骨は折らせないでよ」

ビアンカが嫌そうな顔をして言う。だが、どこか楽しそうだった。

「ていうか、お前まで隠れなくてもいいんだぞ」

シアンが言うと、

「ふふん、面白そうだからね!」

ビアンカはニヤッとして言った。

側から見れば、ただの怪しい二人組である。

「そうだ、シアンくん。これ」

「ん? 何だこれ」

「頭に巻いて、顔を隠せば良いよ」

「あぁ、ありがと」

ビアンカにお礼を言い、シアンは布を巻きつける。

「ぶはっ怪しい〜怪しい奴だ〜」

「......つけろっつったのはお前だぞ」

確かに顔は隠せたが、シアンの見た目はとても怪しかった。

シアンは息を一つ吐くと、

「さっさと行くぞ」

と言い、先に飛び出した。

「あ、待って〜」

その後を、ビアンカが追いかけた。


下の階のパン屋の人に気がつかれない様に、シアンとビアンカは部屋に入った。

「......全然いじられてないな」

「えっ、そうなの? ふ〜ん」

シアンの部屋は、本棚と机、ベット、大量の箱やら銃が転がっていた。

「シアンくんさ、せめて銃はしまおうよ」

「あー、あの時は直前まで作ってたんだっけな......」

呆れた顔でビアンカは言う。シアンは頭をかきながら言った。

「じゃ、とっとと回収してかえ......ん?」

「言われなくてもそうする。どうした?」

シアンがガタガタと箱を開けて、中を探していると、ビアンカが入り口の方を見て止まった。

「ん〜? シアン、何か感じない?」

「あ?」

ビアンカに言われ、シアンは外に意識を集中させる。

「なんか、変な感じがする」

外に変な気配を感じたシアンが言うと、ビアンカは納得したような顔をして言った。

「だよね。ちょっと見てくるわ」

「分かった。俺も回収したらすぐ行く」

ビアンカはひらひらと手を振って外に出て行った。


外に出たビアンカ。

「悪魔、かしら」

外に出ると、匂いがよく分かる。悪魔の近くに人間がいる事も。

ビアンカは警戒しながら路地を進んだ。

襲われていたなら、今更ビアンカが行ったところで、人間は助からないだろう。

だが、もしまだ無事なら。助けられるかもしれない。

少し歩くと、少女の姿が見えた。少し、パンの焼ける匂いがする。時々シアンからもした匂いで、あのパン屋の娘かな、とビアンカは思った。

近くに、悪魔がいるのをビアンカの目は捉えた。

ツノも翼もないが、あれは悪魔だ。そんな匂いがする。

ビアンカは、大きな爪をだし、飛び出した。

「その子から離れなさい!!」

「おっ?」

ガッ。

ビアンカの最初の攻撃は防がれたが、ビアンカは更に蹴りを入れ、少女から悪魔を遠ざけた。

「貴女、大丈夫!?」

「へっ? あ、はい!」

少女は最初、呆然としていたが、ビアンカが言うと、途中で気を取り直してそう言った。

「俺は何もしてねぇよ」

「どうだか。あんたは何でこんなところにいる訳」

ビアンカの問いに、悪魔は満面の笑みで答えた。

「俺は強い奴と戦いたいだけだぜ。......あんた、強そうだな」

「......!!」

悪魔から一気に溢れ出す黒い魔力に、ビアンカは油断せず構えた。

ジリジリと、悪魔がこちらに近づいてくる。

ビアンカは、後ろにいる少女をどう守るか考えていた。

このままだと、確実に少女に怪我をさせてしまう。

「......ふっ」

ビアンカは、自分から飛び出した。

「おーおー、そっちから来るのかよ! いいねぇ!!」

悪魔は瞳孔を開いて、歓喜した。

ビアンカが爪を振るう。悪魔は防ぐ。

ビアンカは魔法が使えない。悪魔は魔法が使える。

魔法を使われたら、形成が一気に悪くなる。ビアンカは至近距離で攻めた。

「はははは」

「笑ってんじゃないわよ!!」

悪魔は楽しそうに笑っている。ビアンカにはそんな余裕は無かった。

「今度はこっちな!!」

「くっ」

悪魔の拳や蹴りを、ビアンカはすれすれで避けていく。速い。避けるのが精一杯だ。

もしビアンカが人間であったなら、既に拳か蹴りに当たって死んでいただろう。

「ははははっまだ行くぜ!!」

「うっ......このっ」

ビアンカは防戦一方だった。ビアンカは悪魔に致命的なダメージは与えられない。

「ビアンカ! 伏せろ!!」

声が聞こえて、ビアンカはとっさに反応した。

バァンッ。

「あっ?」

大きな銃声が聞こえて、悪魔の右腕が吹っ飛んだ。

シアンが部屋から持ち出した魔弾銃で悪魔を撃ったのだ。

「おー、俺の腕が吹っ飛んだ」

悪魔は危機感が全く無いように言った。

「大丈夫か?」

「ええ、まあね」

シアンは持っていた狙撃銃を投げ捨て、ビアンカの方に走ってきた。もちろん、悪魔に魔弾銃を向け、油断はしていない。

シアンの問いに、ビアンカは息を吐いて答えた。少女の方を見ると、呆然としてはいるが、怪我はなさそうだ。

「すげぇな、お前。んでもって、何でそんなフザけた頭してやがんだ?」

関心したように悪魔は言った。

「色々事情があるんだよ。お前には関係ないだろ?」

シアンは魔弾銃を構えながら言った。

それに悪魔は大笑いし、

「確かにそうだな。俺には関係ねぇ」

と言った。

「お前、噂の天使殺しか? 人間だって聞いていたが」

悪魔が笑いながらシアンに問いかける。悪魔の目には、シアンの魂が見えていた。めちゃくちゃに歪み、人間のものには見えない。

「それこそお前には関係ないだろ?」

シアンもニヤッと笑いながら答えた。内心は、全く余裕は無かった。

「ははっ、そうだな。......お前強いな。そんで面白ぇな。俺はヴァンだ。お前は?」

「......シアンだ」

「そうかそうか......また戦おうぜ」

そう言って悪魔、ヴァンは飛び上がり、屋根の上を走って行った。

「シアンくん、普通悪魔に本名名乗るかね」

「......あっ」

盲点だった、という顔で言ったシアンに、ビアンカは頭を押さえた。何でアゼルといい、シアンといい、こんなに危機感がないのか。

「あ、そうだ、君、大丈夫?」

少女の存在を思い出したビアンカが言うと、少女は驚いた顔でシアンの方を見ていた。

「シアンさん、なんですか......?」

「......ジーナ?」

狙撃銃を拾いに行っていたシアンも、少女、ジーナの方を振り返って、驚いていた。

今は布を巻いているせいで、顔はほとんど見えなかったが。

第九話でした。

布を巻いて顔を隠していても、ジーナさんにはシアンくんだとわかるんです。愛ゆえに。

でも実際、巻き方も下手くそだと思うので、最初見た時は何だこの人ってなったと思います(笑)。

それでは。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ