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彼は再び目覚める

三話目です。

最後までお付き合いして頂けると幸いです。

手入れの行き届いた大きな屋敷の中。少女が本を抱えて走っていた。キョロキョロと周囲を見回したり、人がきたら隠れたりしているので、どうやらこっそり抜け出すつもりらしい。

俺は、そんな少女の様子を近くで見ていた。この屋敷に見覚えはない。

この少女は、どこかで見たような?

やがて少女は、屋敷の裏に出た。そこには大きな木が生えていた。

少女は木陰に座って、本を読み始めた。俺だったらすぐに寝てしまっているな。なんというか、平和だ。

そこに、

「シャロン様!」

と言いながら走ってくる青年が来た。剣を下げているので、護衛かなにかだろうか。

少女は、彼に向かって手招きをする。しーっと口の前に人差し指を立てながら。

「シャロン様!」

......シャロン? どこかで聞いたような気がする。

二人は木の下で楽しそうに話している。嬉しい、楽しいという感情が流れ込んでくる。

突然、場面が変わった。屋敷が、あの木が、燃えている。

「シャロン......様。早くお逃げ下さい」

先ほどの彼が、ボロボロになり、地面に倒れながら言った。

少女は泣きながら動かない。悲しみ、不安と言った負の感情が俺の胸を締め付ける。

「奴らが来る前に、早く!」

奴ら? 何のことだろうか。

俺は、この世界には干渉できないようで、少女を逃がそうにも、彼を助けようにも、見ていることしかできなかった。

急激に、世界が遠のいていった。


シアンが目を覚ますと、最初に見えたのは木の天井だった。

「......どこだ、ここ」

シアンは起き上がって、部屋を見た。リオドラ村の、教会の部屋のようだ。

だが、俺は帝都にいたはずで......そこまでシアンが考えたところで、シアンは思い出した。

「そうだ俺、なんか光に刺されて......死んだんだ」

しかし何故生きている? と思いながらシアンは自分の胸元を見る。そこには穴など空いていない。確かに自分を貫いたはずなのに。

シアンがふと自分の手を見ると、爪が長くなっていた。何故か髪の毛も伸びている。そして、左手には花のような紋章。

「あれから、一体どれだけ時間が経ったんだ......?」


シアンは部屋からでて、礼拝堂に入った。中には、神父とシャロンがいた。

神父はパイプオルガンの前に座り、シャロンは長椅子に座っていた。

「ハロルドさん、それに......」

「あっ! 起きたのね!」

シャロンが勢いよく立ち上がってシアンの方に来た。

神父、ハロルドもシアンの方に体を向ける。

「一体何がどうなって......」

「ひとまず貴方は爪と髪を切りましょう。それから朝食ですね」

ハロルドに促され、シアンは動き始めた。


「もとのシアンになったね」

髪を切って、爪を切って、ついでに体を洗って戻ってきたシアンに、シャロンはそう言った。

「? そうか? というか、シャロン、何でここに......あれ?」

シアンは自分で言って首をかしげる。自分はこの少女の名前を知っていただろうか。

「......ふふっ」

名前を呼ばれたシャロンは少し嬉しそうに笑った。

「何だよ」

「いいえ、別に」

そう言いながらシャロンはまだ笑っている。

シアンは釈然としなかったが、どこかでシャロンの名前を聞いたような気がするので、まあいいや、と考えることをやめた。

「それでこれは、どういうことなんだ?」

シアンは一番気になっていたことを聞いた。

シャロンはシアンの方を向いて、真面目な顔になった。

「貴方は、一度死んだことは分かってる?」

「......あぁ」

確かにシアンは一度死んだ。それはシアン自身が一番よく分かっている。

「そしてこの村に戻ってきて......」

「貴方は、吸血鬼になったのですよ」

「......!」

ハロルドの言葉に、シアンは目を見開いた。

この村には確かに死んだ後に吸血鬼になってしまうかもしれないという伝承がある。しかし、まさか自分がそうなるとは思っていなかった。

「でも、何で俺は今、自分の意識を持っているんだ?」

「それは、私と貴方が契約したから」

少女は自分の右手の甲をシアンに見せながら言った。

シアンはなるほど、と思った。シアンは魔術的なことはさっぱりだが、それでも何となく分かった。

シアンがシャロンの名前を知っていたのは何故だったのか、左手の紋章は契約印で、あの夢は......。

「それで? 俺が死んでからどれくらい経った?」

「一ヶ月くらいですかね。貴方が村に戻ってきてからは」

ハロルドの含みのある言い方からすると、村に戻って来る前に何週間かは帝都で安置されていたのだろう。

「......貴方は怒らないの?」

「は? 何で」

シャロンが不安そうにシアンに聞いた。シアンは何故シャロンがそこまで不安そうなのか分からない。

「だって、私が貴方にぶつかっていなければそもそも貴方は死んでいないし......勝手に復活させちゃったし......」

「何だ、そんなことか。俺は天使を殺すために動いて、油断ならないあの女にぶっ刺された、それだけだ」

シアンは別に、シャロンに怒りは覚えていない。シアンが死んだのはシャロンのせいではないし、むしろここに居られるのはシャロンのおかげだ。

「俺を、俺として復活させてくれたのはあんただ。俺は感謝してるくらいだぜ」

「あ......」

シアンは笑顔で言った。シャロンは初めてシアンの笑顔を見た。

「そんな風に笑うんだ......」

ボソッとシャロンはつぶやき、ぱっと笑顔になると、

「夫の新たな一面を見れて私は嬉しいよ!」

と言った。

「おっ......」

「何だよ、まだそれ続いてんのかよ」

「当たり前でしょ」

ハロルドがシャロンの発言に驚き、シアンは呆れ顔になった。

確かに死ぬ前に求婚はされたが、受け入れた覚えはない、とシアンは言おうとしたが、一つの事実に気がついた。

シアンとシャロンは契約を結んでいる。シャロンが主で、シアンは従わなければならない。

「はあ、結局拒否出来ないじゃないか」

「はははっ、これで逃げられないな〜」

「はあ、わざとじゃないよな」

「当然だよ」

シアンはもう諦め気味だ。この事に関してはもうどうとでもなれ、というのが本音である。

「シアン、変わりましたね」

「そうか?」

ハロルドがシアンに言う。シアンの返事にハロルドは、そうですとも、と頷いた後、

「村を出る前の貴方はそんな風に笑いませんでしたから。元に戻ってよかったですよ」

と言った。確かに、村を出てからは天使を殺す事しか考えていなかったし、あまり人と心から話した事はない気がする。

そういえば、とシアンは自身の相棒の事を思い出す。

「俺の銃はどこに?」

「あぁ、それなら......ちょっと取って来ますよ」

ハロルドは礼拝堂から出て行った。礼拝堂には、シアンとシャロンの二人だけになる。

「そういえば、シアンはあの天使からルドニアの花を貰っていたね」

「ルドニア? ......あぁ、あの光る花のことか」

「そうそう。そのお陰で多分、シアンは村の人たちには何もしなかったんだと思う」

まあ、牛とかの血は啜ってたみたいだけどね、とシャロンは続ける。

ルドニアの花は光の花。死者の魂が、再びこの世界に戻って来れるようにと死者に持たせるお守りのようなものだ。ただしこれは、一部の地方の習慣で、この村にはない習慣だった。

「あの天使に感謝しないとね」

「そうだな」

「......!!?」

「何だよ」

素直にシャロンの言葉に頷いたシアンを見て、シャロンは驚愕を顔に浮かべた。

「え、いや、だって貴方、天使大嫌いでしょ?」

シャロンは知っている。彼が天使を撃った時、低い声で恨み言を言っていた事を。

「ん、まあ正直好感は持てないな。だけどあの四枚羽は別」

気持ちの悪い声を出しながら飛んでくる、下級天使に好感を持てと言うのは無理な話だ。

「何か、初めて会った時と本当に変わったね。最初はもっと、なんて言うか暗かったし」

シャロンの言葉にシアンは苦笑する。初めて会った奴にも暗いと思われていたとは。

「一度死んだせいか、それともカイン......俺の友達の事が分かったせいか、色々吹っ切れたんだよ。俺の中で」

「へぇ〜。うん、そっちの方がいいよ」

シャロンはにこにこしながらそう言った。

「そういえば......」

シャロンが何か言いかけた時、外が少し騒がしくなった。

「何だ?」

シアンがそう言った時、ハロルドが少し焦った様子で礼拝堂に戻ってきた。その手にはシアンの銃を持っている。

「二人とも、早く奥の部屋に隠れて下さい」

「何故?」

シアンが銃を受け取りながら言った。

「聖王国の聖騎士たちです。シアンは吸血鬼とバレたら殺されますよ。それに、シャロン様は......」

「また死ぬのはごめんだな。シャロン、行くぞ。......おい?」

シアンは先ほどから入り口のドアを見つめて黙っているシャロンに声をかけた。しかし、シャロンは外に意識を集中させているようで、気がついていない。

シアンに肩を叩かれて、ようやく気がついた。

「あ、え? 何?」

「奥の部屋に隠れるぞ」

「え、あ、うん」

ぼうっとしたシャロンの様子に、シアンは首を傾げながらも、今は隠れる事の方が優先だと、何も聞かなかった。


「............」

シャロンは、礼拝堂を出た扉のところで立ち止まった。

シアンは、もっと奥で、いざとなったら出られるところに行こうとしていた。しかし、シャロンが動かないのを見ると、シアンも立ち止まる。

「どうした? 奴ら、知り合いか?」

「いや、違うよ。私、あいつらに追いかけられているんだ」

「......どういうことだ?」

そういえばシャロンは、初めて会った時も、天使に追いかけられていたようだった。

シアンがシャロンを追求しようとした時、バァンッと大きな音がした。それからガチャガチャと鎧の当たる音が聞こえる。

どうやら聖騎士たちが教会の中に入ってきたらしい。

二人は息を潜め、礼拝堂での会話に耳を澄ませた。


「何かご用でしょうか?」

ハロルドは、乱暴に扉を開けて入って来た聖騎士に、努めて冷静に言った。

かなり乱暴に扉を開けられたので、立て付けが悪くなってしまったかもしれない。

ハロルドが怒っているのはそのことだけではないが、この教会を気に入っているハロルドとしてはこのような扱いには憤りを覚える。

「我々は聖女様を探している。お前は何か知らないか?」

「知りませんねえ」

ハロルドには素直に答える気持ちなどない。惚けたようなハロルドの返事に、聖騎士たちは苛立ちながら追求する。

「本当だな?」

「おや、私を疑うと」

「ふん......」

平然とした態度をとるハロルドに、これ以上はもう意味がないと判断した聖騎士たちは、教会から出て行こうとした。

しかし、ガタンッと奥の扉から聞こえてきた音によって、聖騎士たちは立ち止まった。

そして音のした方に向かい始める。

「ちょっと、勝手に入らないでください」

「何だ、聖女様がいるわけでもあるまいし、何をそんなに慌てている?」

「............」

聖騎士の言葉に、ハロルドは何も言えなくなってしまう。

聖騎士は、扉を開けた。

そこには、誰の姿もなかった。


「おいバカ、何やってんだよ」

「! ご、ごめん......」

廊下の奥の部屋の中。シアンとシャロンはそこにいた。

シャロンが、ハロルドと聖騎士の会話を聞いて後ずさり、廊下の壁を蹴ってしまった。

足音がこちらに近づいてくるのを聞いたシアンは、シャロンを引っ張り、部屋に飛び込んだ。

そして今にいたる。

言いたい事はまだあるが、聖騎士はまだ廊下にいる。シアンはジッと聖騎士が出て行くのを待った。

「......この奥か?」

しかし、聖騎士はシアンたちの隠れる部屋に近づいて来ているようだ。

「そこには怪我人しかいませんよ」

「ふん、だったら尚更入っても構わないだろう」

更に足音は近づいてくる。シアンは、自分の愛銃を構えた。

「......ここから撃つの?」

ヒソヒソと、シャロンが言う。

「入って来たらな」

「でもそれ、魔弾しか撃てないよね」

シャロンの言葉にシアンは頷く。

「殺す必要はない。逃げるために使うからな。まあ、建物は一部壊しそうだが」

シアンは、残り弾数を確認しながら言った。建物を壊しそうだと言っても、あまり壊したくはない。

魔弾は、天使たちの再生を阻害し、殺すことができる物で、魔法のような物から、小さなミサイルのような効果のある物まで、たくさんの種類がある。

今シアンの手にしている魔弾銃は、魔弾銃の中では少し大きめの口径で、対象や、物に当たると、爆発を起こす、ミサイル型だ。室内で撃つとなると、確実に物を壊すことになる。

だが、これともう一丁、魔弾銃があったはずだ。シアンが死ぬ前に使った銃......どさくさに紛れて盗られてしまったのか、あるいは壊されてしまったのか。

もう一丁の魔弾銃の方は通常型なので、当たっても爆発するということはない。シアンとしては、そちらの方が良かったのだが、ないものねだりをしても仕方がない。

「いい加減にしてもらえませんか」

部屋の外から、ハロルドの声が聞こえた。かなり強い口調だ。

「......これは、どういうつもりか?」

カチャッと聖騎士の鎧の擦れる音が聞こえた。おそらく擦れたのは籠手で、剣に手を当てたのだとシアンは考えた。

かなり険悪な雰囲気なので、ハロルドは聖騎士に何か武器を向けたのだろう。

「......シャロン、三つ数えたら飛び出すぞ。先に出ろ」

「え、う、うん。......それ、やっぱり撃つの?」

「あぁ、目くらましくらいにはなるだろ。......行くぞ、一、二、三!」

シャロンが扉を開けて、外に飛び出した。その後にシアンが続く。

「走れ!」

奥の扉から出てきたシャロンとシアンに、聖騎士は目を見開いた。

「やはり、ここにおられましたか、聖女様」

そして、ニヤリと笑いながらそう言った。

ハロルドは、聖騎士の注意が自分から逸れたのを見て、向けていた銃を撃った。

しかし、それを読んでいたかのように、聖騎士は剣を抜いて弾丸を防いだ。

「止まるな! シャロン!」

「う、うん!」

弾丸を防いだ聖騎士に怯んで、立ち止まりかけたシャロンは、後ろにいるシアンからの言葉で、また走りはじめた。

元からそんなに長い廊下ではない。すぐに聖騎士にぶつかってしまう。このまま行けば、聖騎士に捕まってしまうだろう。

それに、礼拝堂にいる他の聖騎士たちも、音を聞きつけてすぐにでもここに来るだろう。

バァンッ

シアンが、魔弾を撃った。魔弾は聖騎士のいるところよりも斜め前の壁に向かって撃たれた。

壁に当たり、爆発する。凄まじい光が拡散した。視界が遮られる。

「ふっ」

しかし、聖騎士が剣を一振りすると、光は切り裂かれ、消えてしまった。

綺麗になった視界の中に、シアンとシャロンの姿は無かった。代わりに壁に大穴があいている。

後ろを振り返ると、ハロルドの姿も無い。どさくさに紛れて逃げたのだろう。

「オルバ様!」

礼拝堂から聖騎士たちが出てくる。

「聖女様は外だ。追いかけろ」

「了解!」

部下たちを先に行かせて、聖騎士オルバは、自身の剣を見た。

刃がボロボロになっている。ハロルドの撃った魔弾を防いだ時も刃が欠けたような音がしたが、シアンが撃った魔弾の爆発を切った事で、修復が出来ないほど刃が欠けてしまったようだ。

「あの男......ただの魔弾の使い手ではないな。何者だ?」

オルバの問いに答える者はいなかった。


「よ、っと!」

シアンはシャロンを抱えながら走っていた。

木と木を飛び移りながら、岩を飛び越えながら、シアンは村から遠く、離れるように走った。

後ろを振り返ると、点のように見える、おそらく聖騎士たちが追いかけて来ている。

さて、これからどうしようかな、とシアンが考えていると、二人の人影が見えた。まだ遠くにいる。

「あ? あいつらは......」

吸血鬼になったことで、視力が上がったらしいシアンには、二人の姿がはっきりと見えていた。見覚えがあった。

「えっ、おお? おっ?」

「あれ、シアン?」

赤毛の獣人女、ビアンカと、天魔のアゼルだった。

向こうも、シャロンを抱え走るシアンを視認したようで、こちらを見て目をむいている。

あっという間にシアンはビアンカとアゼルの横を通り過ぎた。

「何々、何してんのよ? 何でお姫様抱っこ?」

しかし、ビアンカとアゼルはついてきていた。二人は馬に乗っている。

「ていうか、あんたそんな足速かったっけ? それもう化けもんレベルよ」

質問攻めにしてくるビアンカの目は輝いていた。

「悪いが、質問は後にしてくれ」

「あ、追われてるのね〜。アゼル」

ビアンカに呼ばれ、アゼルがビアンカの隣に並ぶ。名前を呼ばれただけだが、アゼルには、ビアンカが何をしたいのか分かっていた。

「......俺が人間に出来るのは牽制ぐらいだぞ」

「構わないよ、やっちゃえ」

「分かった」

そう言うと、アゼルは馬の上で立ち上がった。そして、魔法陣を展開する。

バシュッバシュッと光の弾丸が魔法陣から発射された。弾丸は、聖騎士たちの足元を狙っており、地面を抉っていく。

しばらくすると、聖騎士たちはもう追いかけて来てはいなかった。

「おっ、お、おわっ!?」

「えっ、シアン!?」

シアンは止まろうとしたが、勢い余って転びそうになった。このまま倒れてしまったら、シャロンを下敷きにしてしまう。

シアンは、

「ビアンカ、頼む!」

と言い、シャロンをビアンカに向かって投げた。

「え、えぇぇぇええ!!?」

「ちょっ、何やってんのよ!!」

ビアンカは見事にシャロンをキャッチした。シアンは頭から思いっきり木に衝突し、木をへし折った。

「......シアン、大丈夫か」

「おう。頭ぶつけただけだ」

「頭ぶつけただけで済むの?」

ビアンカは引きつった笑顔でそう言った。確かにシアンから血は出ていない。

「............」

「あ、あのー、大丈夫かな?」

ビアンカに横抱きされたまま沈黙しているシャロンに、ビアンカは恐る恐る尋ねた。この人が金切り声をあげて叫びだしませんように、と祈りながら。

「い、今、ちょっと空飛んでた......」

しかしシャロンは目を輝かせ、感動していた。心配していたビアンカは、何だ、ただのおバカか、と呆れた。

「あ、下ろしてもらっても?」

「ん? あーごめんごめん。今下ろすわ」

ビアンカは馬から飛び降り、シャロンを地面に下ろした。

「シアン! 投げるなら投げるって言ってよ!」

そう言う問題じゃねぇよ! ビアンカは心の中で突っ込んだ。

「え? 言えば良かったのか?」

「うん! そうすればまだ心の準備が出来たのに」

「あー? 気をつけます?」

シアンも、何か釈然としない顔で言った。多分、ビアンカと同じような事を考えているのだろう。

「あんたたち、本当に何してるのよ......」

「あ? あー、それは」

シアンが言いかけた時、村の方から馬車が走ってくる音が聞こえていた。

「! シャロン!」

「う、うん!」

シアンがシャロンを自分の後ろに下がらせる。聖騎士たちがまた来たのかもしれない、と銃を構える。

聖騎士たちが馬車を使うとは考えられない。しかし、万が一ということもある。

シアンが様子を伺っていると、馬車が近くで止まった。

「シアン!」

「ハロルドさん!」

御者席から降りてきたのはハロルドだった。

「無事だったんだ!」

「えぇ、まだくたばる訳にはいきませんからね。それより、乗って下さい。村からもっと離れた方がいいでしょう」

言われて、シアンは先にシャロンを馬車に乗らせた。

「ふぅん......」

「ビアンカ、アゼル。お前らはどうする?」

シアンの様子を見て、何やら考えていたビアンカは、シアンの問いに、

「そりゃ勿論、ついていくわよ!」

と笑いながら言った。それはもう、ワクワクが止まらないと言う顔で。

「アゼル、馬を離すわよ」

「あぁ、もうやってる」

「ふふん、さっすが〜」

ビアンカとアゼル、そしてシアンが乗り込み、馬車は走りだした。

三話目でした。

もふもふ、赤毛ケモミミっ娘ビアンカと無口系男子アゼルくんが本格的に出てきます。

作中、シアンはシャロンちゃんをビアンカに投げましたが、あれはビアンカの方がアゼルよりも力(女子力物理)が強いからですね。

ヒロインを投げるなど、何て主人公なんでしょう。←書いたの自分です。

それでは、またのお越しをお待ちしております。


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