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契約

二話になります。

相変わらず見にくいですが、最後までお付き合い願います。

帝国領土内の辺境。リオドラ村は隅っこにある。

魔法を使える者は教会の神父くらいしかいない。

帝都に比べれば、とんでもないど田舎で、昔ながらの生活を続けている。

犯罪などは起きない平和な村なのだが、その村には今、異変が起きていた。

死んだはずの一人の若者が、夜の村を徘徊しているのだという。

目撃した村人たちは、牛の血を啜っていただとか、鳥を丸呑みにしただとか様々なことを語り、吸血鬼になってしまったに違いないと口々に言った。

だが村人たちは、動き回る死人を恐れ、墓場に近づこうともしなかった。

そして今日も、死人は、吸血鬼は、夜の村を動き回る。


穏やかな昼下がり。私はこっそり屋敷から抜け出して、大きな木の下で本を読んだり、空を眺めたりしていた。

「シャロン様!」

暖かい陽だまりで私が微睡んでいると、懐かしい声が聞こえた。あれ? ずっと一緒にいるはずのロイドの声を、どうして懐かしいと思うの?

「シャロン様!」

ここよ、ロイド。あまり大きな声を出さないで。バレちゃう。

私はロイドを手招きした。でも、ロイドはこっちに来なかった。

どうしたの、ロイド?

「シャロン......様」

突然さっきまで青々と茂っていた草木は消え、焼け野原になった。

ロイドは、ボロボロで......。

「早く、お逃げください......」

血がいっぱい出てて......皮膚が所々焼けていて......。

「奴らが来る前に、早く!」

私はポロポロと涙を流した。貴方を置いていけない。

「いいんです、シャロン様......私はもう......私は、シャロン様に生きていてほしい」

涙で滲んでロイドの顔が見えない。

貴方は今、どんな顔をしているの......?


少女が目を覚ますと、荷馬車の屋根が最初に見えた。

目をこすると、手が濡れた。どうやら泣いていたらしい。

「おう、嬢ちゃん。そろそろ着くぜ」

「あぁ、ありがとうございます」

御者席から声がかかる。

少女は荷馬車に同乗させてもらっている。リオドラ村に行くという、商人たちに頼んで乗せてもらった。

「......リオドラ村で合ってるよね」

少女は、シアンの所属していたギルドから拝借してきた、書類に目を落とす。

シアン・グラントー、出身ラーツ地方、リオドラ村。

ギルドに所属する際に提出する書類だ。そこには、出身地も書いてある。少女はそれを当てにしてここまで来た。

ラーツ地方には昔からの言い伝えがある。悪業を成したものは、死んだ後に吸血鬼になると。

リオドラ村では今、死人が夜な夜な歩きまわっているという噂があると、少女の耳にも届いていた。

時期的にも一致しているし、もしかしたらそれはシアンかもしれない。

もしそうならば、人間としては無理だが、シアンを生き返らせることが出来るかもしれない。

少女には、罪の意識があった。あの時、シアンにぶつかっていなければ、シアンは死んでいなかったかもしれない。

「自分勝手と思われるかもしれないけれど......」

少女は心に決めていた。


村に着き、少女はここまで運んできてくれた商人たちにお礼を言い、村を探索し始めた。

探索といっても、そんなに広い村でもないのだが。

「お嬢ちゃん、こんな村に何のようだい?」

「噂を聞いてきたのか?」

「はい、そうです」

少女が答えると、村の人々は、

「やめたほうが良いよ、食われちまう」

と言い、少女に帰るように促した。

「いえ、私には用事があるので」

少女に、帰るつもりなどない。帰る場所などない。

少女は村の奥に、教会があるのを見つけた。神父なら確実にシアンのことを知っていると考えた少女は、教会に入っていった。

教会の中は、小さいながらも、しっかりとした造りで、手入れが行き届いていた。ステンドグラスから入ってくる光が美しい。

もし、こういう状態ではなかったなら、少女は歓声を上げていただろう。

「おや、どうかされましたか?」

背の高い神父が入ってきた少女に問いかける。

「あの、私はこの村にいるっていう、シアンを探していて......」

「あなた、シアンのお友達ですか?」

「まあ、そんなところです」

本当は違うけれど、と少女は心の中で続ける。本当は、求婚したので、フィアンセと言いたかったのだが、深く追求されると面倒なので、言わなかった。

「残念ですが、シアンは......お墓に案内します」

「......はい」

村の人々には、行くのはやめろと言われたが、神父には言われなかった。まさか噂を知らないわけがないので、シアンがそうなるはずがないとでも思い込んでいるのか。

シアンが眠る、墓石の前に立つ。

「............」

少女は少し目を閉じて前に佇んでいた。しばらくして、踵をかえす。

「あなたは、これからどうするのですか?」

「今日は、この村にとどまっているつもりです」

「なら、教会に泊まっていってください。空き部屋がありますので」

そう言った神父の言葉に、少女は頷いた。

「はい、ありがとうございます」


夜。少女はカンテラを持って、教会から抜け出していた。昔はよく、複雑な造りの建物から抜け出していたので、これくらいなら簡単に出来る。

少女が目指すのはシアンの眠る場所。噂が本当なら、そろそろ動き始めているかもしれない。

少女が墓地の入り口に立った時、何か動く影が見えた。

シアンだ。

長くなった髪の毛に隠れて、顔はよく見えないが、少女は、あれはシアンだと直感した。

「シアン!」

名前を呼んでも反応しない。ただ、そこに佇んでいる。

少女が近づいていくと、やっとシアンは少女を見た。いや、目は隠れているから、本当に少女を見ているかはわからないが。

「シアン、名乗り忘れていたけれど、私の名前はシャロンっていうんだ」

シアンは何も言わない。

「とても身勝手なこととは思うけれど、私は、貴方に生き返ってほしい」

生き返る、という単語に、シアンが少しだけ反応した。

「だから、私は貴方と契約する」

少女がそう言って、両手を前に出した。すると、足元から魔法陣が現れ、光が溢れだした。

シアンは魔法陣から出ようとする。しかし、少女はシアンの腕を掴み、外に出られないようにする。

「シアン!」

「.......う?」

初めて、シアンから返事が返ってきた。少しだけシアンの目が見えた。その目は少女を、シャロンを見ていた。

「私は、シャロン、シャロン・ログレイ。今から貴方を取り戻すために、契約する」

「け......いや......く......」

一層光は強くなる。

「そう。私はシャロン、貴方はシアン。私はシャロン、貴方は」

「シアン......」

シアンがそう口にした瞬間、魔法陣の光がシャロンは右手、シアンは左手に、吸い込まれていった。

光が収まった後、シアンはそのまま倒れてしまった。

シャロンも、疲れてその場にしゃがみ込んでしまった。

「流石に、疲れた......」

異種族との、魔術的契約には自分の本当の名前をさらすことと、相手に自分が言った名前を認めさせること、それに加え、ある程度の魔力が必要だ。

シアンは元々人間だったが、一度死に、吸血鬼となっているので、魔術的にはもう人間扱いはされていない。

元から種族名くらいしか名前のないものには、契約主が名前を与え、相手がそれを認め、言ったなら契約は成立する。

シアンは死んでしまっていて、名前はあってないようなものだから、シャロンが新しく名前を与え、契約することも出来た。

しかしシャロンはそうしなかった。シャロンが生き返らせたかったのは、シアンだったからだ。

「......ふふっ」

シャロンは、自分の右手の甲を見て笑みを漏らした。そこには、花のような模様のついた契約印。

「私、本当にやったんだ......」

「ええ、流石ですね、聖女様」

「............っ!?」

シャロンが後ろを振り返ると、そこには神父がいた。

「まさかここで聖女様にお会い出来るとは思いませんでした」

シャロンは、しまったと思った。神職についているものは、大抵が一度は聖王国に行っている。

当然、聖女と呼ばれているシャロンのことを知っているということだ。

そして、シャロンが今、見つけ次第捕まえるべき対象だということも。

シャロンが神父をただでは連れて行かせないと睨みつけていると、

「そう構えないで下さい。私は貴方を聖王国に送るなど考えておりませんから。もちろん、貴方を追いかけてくる者も呼びませんよ」

神父はそう言った。

「何故ですか?」

シャロンが何か企んでいるのかと思いながら、そう言うと、

「聖女様に、シャロン様にそんなことは出来ませんよ。私は、貴方の光に救われたのですから」

貴方は覚えていないでしょうけどね、神父はそう言うと、倒れているシアンを見た。

「それに、シアンも助けてもらいましたから」

「............」

「さて、話は明日にするとして、今日はもう休みましょう。シアンは私が運びます」

「ありがとう、ございます」


神父はシアンを背負って歩き出した。シャロンも後を追い、歩いて行った。


一方、帝都にある戦闘系ギルド。シアンの所属していたギルドだ。

「は!? シアン死んだの!?」

「お前、そんな大きな声で言うことじゃないだろ......」

二人の男女が酒場のマスターにつめよっていた。いや、正確に言うと、つめよっているのは女の方だけで、男の方は外を見ていた。

「何で!!?」

「天使にやられたみたいだがな。どうもおかしいらしい」

酒場のマスターがそう言うと、今まで外を見ていた男が、

「例えば、魔力の残留は感知出来るのに、それがどういう魔法か分からない、とかか?」

と尋ねた。

「お、おお。正にその通りだが......」

「ふぅん......じゃ、やったのは天魔かもね」

女は興味無さそうに大きな猫のような耳をピコピコと動かしながら言った。女は獣人だ。

「あぁ、匂いがする。だがこのやり口だと多分......しかし、あの悪運強そうなシアンがやられるとはね」

「ええ、本当よね〜」

男は天魔だ。天魔は魔力に対する感覚が鋭い。男は匂いとして、魔力を感じ取っていた。

「これからどうする? ビアンカ」

「う〜そうね」

ビアンカと呼ばれた獣人の女が考え込む。

「......シアンの生まれ故郷にでも行ってみる?」

「行ってどうするんだ」

ビアンカに、酒場のマスターが呆れたように返す。

「何となく行くだけよ。何もなかったら何もないで別に構わないし」

そしてビアンカは、ん、と手を突き出し、シアンの書類を要求した。

「......はいはい」

酒場のマスターは書類がまとまっているところを探し始めた。

「そういえばアゼル。死人が歩きまわってるって噂、知ってる〜?」

「......一緒にいればそりゃ知ってる」

アゼルと呼ばれた天魔の男がそう言うと、そうだね〜と軽くビアンカは返し、

「天使殺し、また手伝ってくれるかねぇ?」

「さあ?」

ビアンカとアゼルは、シアンとは、標的の天使が被ったことによって出会った。

シアンは、天使が殺せれば何でもいいと言ったので、二人とシアンは仲は悪くない。

それどころか、時々協力を頼むほどの仲だ。シアンは人間だが、銃の扱いに長けていて、彼の支援があるだけで戦闘の効率はぐっと良くなる。

しかも、なかなか悪運が強いのか、もしかしたら死んだかなーということになってもギリギリ避けていたり、自分が殺される寸前で天使を撃ち殺したり。生き残る力が強かった。

「ねぇ、ちょっとー? まだなの?」

「......悪い、ここにあると思ったんだが」

「ふぅん? もしかしてパクられちゃったんじゃない?」

「はあ? 何の根拠があって言ってんだよ」

「女の勘」

ビアンカは考えた。シアンの書類をパクって行った相手は、確実にシアンの生まれ故郷に向かっただろう。しかし、何の目的があって?

そもそも盗まれたという証拠はないのだが、ビアンカは確信していた。

「ビアンカ、俺シアンの生まれ故郷、死人が歩きまわっているっていう村だと思うんだけど」

「............」

アゼルの言葉に、ビアンカは目を見開き、言った。

「それだ!! 盲点だった!! よく気がついたアゼル!!!」

ビアンカはいつも聡いのに、時々こうやって抜けているところがある。それを支えるのが相棒であるアゼルの役目の一つだった。

「なら、ここにはもう用はない。行くよアゼル!」

「おう」

ビアンカとアゼルは入ってきたギルドメンバーを突き飛ばしながら外へ駆けて行った。

二話でした。サブタイまんまですね。

これでシアン君とシャロンちゃんはまあ主従関係みたいなのになった訳ですが。絶対主従っぽくはならないですね。シアン君は絶対敬語使わないし。

今回出てきたビアンカさんとアゼル君は騒がしいです。主にビアンカさんが。シアン君と一緒に仕事していた時はシアン君にうるせえって目で見られていたと思います。いつかこの話も書けるといいなあと思います。

それでは、またのお越しをお待ちしております。

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