帝都出発
第十二話です。
楽しんで読んで頂ければ幸いです。
天使の住まう、青く澄んだ世界。
高い塔の上に住む天使の元に、一通の手紙が届いた。
塔には2人の天使が住んでおり、片方の小さな天使が飛んできた手紙を受け取った。
「お師匠! お師匠に、フィグローズさんからお手紙ですよ!!」
小さな天使に師匠と呼ばれた天使は、大きな声で呼ばれ、眉間に皺を寄せた。
「やかましい。そんなに大きな声で呼ばずとも聞こえている」
「でもお師匠! この間は全く気が付いてくれませんでしたよ!!」
「やかましい」
キュッと師匠と呼ばれた天使が、小さな天使の頬を抓った。
「痛いです! お師匠!」
「何度言わせる気だ。やかましい。手紙を寄越せ」
師匠と呼ばれた天使は、手紙を受け取り、一通り目を通した。
その天使が顔を上げた時、先ほどよりも深い皺が眉間に寄っていた。
「フィグローズ、あのお人好しめ。面倒な事を言ってくれる」
「お師匠?」
師匠と呼ばれた天使は一つため息を吐いた。
「アルベル、使いを頼む」
「はい!」
アルベルと呼ばれた小さな天使は、元気に返事をした。
「どちらに何を届ければよろしいでしょうか?」
「手紙だ。アクドゥニアにいるとか言う、フィグローズの弟子に届けろ」
「フィグローズさんのお弟子さん? 誰でしたっけ?」
「......はあ」
物覚えの悪いアルベルに、お師匠と呼ばれた天使はため息を吐いた。
これからこの物覚えの悪い弟子に、目的地と届ける人物を覚えさせなければならない。ついでに伝言も。余計な事は伝えないでおかなければならない。この弟子は、余計な事だけははっきり覚えているからだ。
帝都にいるシアン、ビアンカの二人。
「本当にシアンさんだ......」
一先ず家の中に戻って、シアンは巻いた布を外した。
シアンの顔を見たジーナは、口元を押さえる。
「......シアンくんてば、隅に置けないね〜」
「は?」
ビアンカがニヤニヤしながら言うと、シアンは怪訝な顔になった。
「ど、どうなっているんですか? その、し、死んでしまったんじゃあ......」
「......詳しい事は話せない。だけど、ここにいる俺は、本当にシアンだから」
嬉しいと感じていながらも、ジーナは混乱していた。
確かにジーナは見たのだ。シアンの死体を。
しかし、シアンは今、ジーナの目の前にいる。生きている。
「んで? この子誰よ。パン屋の娘?」
ビアンカが床に胡座をかきながら尋ねる。下世話な笑みを浮かべていた。
「そう、パン屋の娘。帝都の魔法学校に通ってるエリートさんだぞ」
「へぇ〜。魔法学校なんてあるんだ」
ビアンカは言うと、ジーナを見た。
ジーナは、見られて居心地が悪そうにする。
「何でも、えら〜い予言者様が天使と悪魔にこの世界が侵略されると予言したらしいぜ。それに対抗する為に作られたんだと」
ずっと前からこの世界は天使と悪魔に侵攻されていると思うけど、とシアンは心の中で続ける。
「詳しいね、シアンくん」
「そりゃあな。俺は田舎モンだけど、色々調べたから」
人より頑丈で、強い天使を殺す為には、より多くの情報を知っておいた方が良い。
シアンは、魔法学校の出身者に協力を仰げないかと調べてはみたものの、同じギルドにはいなかった。
他のギルドを調べてみると、いたにはいたものの、自らの力を誇示するばかりで、とても役に立つとは思えなかった。
「そんな大層なものじゃないですよ、うちの学校。大半の生徒は自分の意思で入学した訳ではありませんし。ただ親が入れと言うから入った......って言う人、多いですよ」
ジーナが複雑そうな顔で言った。
「ふ〜ん。じゃあ、貴女は自分の意思で入ったんだ? つまりは......そういう事だよねぇ」
再び下世話な笑みを浮かべるビアンカ。他人の恋路は大好物である。
「ひえっべべべべつにそんなのないですよ!!」
「私はなーんも言ってないよ〜。ねぇ? シアンくーん」
「何の話かさっぱりなんだが。ほどほどにしてやれよ、ビアンカ」
「へ〜い」
ビアンカは楽しそうにしている。ジーナの反応が面白いらしい。
ジーナには哀れだが、ビアンカが気に入ったようだ。ビアンカに気に入られると、ちょっかいと揶揄いをかけられる回数が増える。しかし戦闘では頼りになるし、やる時はやってくれるのがビアンカだ。
「そんで? どうするよ」
「本当なら、さっさと帰っているところなんだが」
「そうなんだよね〜」
シアンとビアンカはジーナを見る。
「あ、あのっ私も連れて行ってください!」
そして、思った通りの言葉がジーナの口から出てくると、二人はため息を吐いた。ため息といっても、ビアンカは吹き出しただけだったが。
「駄目だ。危ないし」
「私、自分の身くらいは守れるようになりますから! いえ、少しは守れます!」
シアンが言うと、ジーナは必死になって反論した。
「ぶふっ少しって何それ。いやぁ、私としては面白そうだと思うんだけど、本当に危ないのよね」
ジーナの言い分に、ビアンカは吹き出しながら言った。
「ほら、付いて来たらこの獣人女にいじられ続けるぞ」
「何よ〜もう。え、ちょ、それで考えちゃうの? ちょっと傷ついた」
シアンに言われ、ジーナは少し考える。
ビアンカはわざとらしい仕草で言った。
「あっ、いえ違うんです......その、助けてもらった事は感謝してますし」
「お、おう。だよね、そうだよね! それ見たことかシアンくん!!」
「何が? そんな事より」
「そんな事!? シアンくんが酷い!!」
もごもご言うジーナに、ビアンカは声を大きくしてシアンに主張した。しかしシアンはスルーし、ジーナに言う。
「君を連れて行くことは出来ない。死ぬかもしれないぞ?」
「そうそう。ダメだよ、血なまぐさい世界に入って来ちゃあ。貴女みたいな子は、平和な世界にいるのが一番似合う」
「えっ......」
トンッとビアンカがジーナの首元を叩く。ジーナは気を失い、床に倒れた。
「ちょっと乱暴だけど、本当に連れて行く訳にはいかないしね」
「そうだな」
シアンは気を失ったジーナをベットに運び、申し訳程度に部屋を片付けた。
「シアンくんの部屋って本当汚いよね」
「うるせぇ」
二人は部屋を後にした。
十二話でした。
これからシアンたちはアークセイラーに戻ろうとするわけですが......。
ちなみに、シアンとビアンカがジーナちゃんとお話ししたり、なんやかんやしている時にアークセイラーでは悪魔と対峙したり、悪魔と判明したりしています。わかりにくいので、補足でした。
それでは。