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悪魔と悪魔

十一話です。

楽しんで読んでいただけると幸いです。

イシュイラの街に出たシャロンとアゼル、カインの三人。

まだ街に人がそれ程いないにも関わらず、三人は行く人々の目を集めていた。

人々は皆、カインを見ている。正確に言うと、カインに生えている翼だ。

「ねぇ、その翼、仕舞うとか出来ないの?」

とうとう、人々の注目に耐えられなくなったシャロンがカインに尋ねる。

目立ってしまうのは、シャロンとしても、カインとしても良くない事だ。

「出来ないな」

カインは首を振って言った。

「翼のない奴は戦いで切られたり、焼かれたりしてなくなったとか、生まれつきないとか、そういう奴だな」

「生まれつき翼がない人もいるんだね」

シャロンが、純粋に驚きを持って言った。

「人間でもあるだろ、生まれつき手がないとか、足がないとか。それと同じだ」

「へぇ......あれ? でも、貴方は元々人間だったんだよね? 翼生えるんだ?」

シャロンが、ふとした疑問をぶつける。

「魂から天使に変えられてしまっているんだよ。俺は、人間の頃の記憶はあるが、もう、完全に天使なんだ」

カインは自嘲気味に笑いながら言った。

人間が天使になった場合、ほとんどの場合に人間の頃の記憶はない。何故なら、下級天使にされてしまうからだ。

しかしカインは、上級の天使に、魂を変えられた。その天使が下級にしようとすれば、カインも記憶をなくし、動物以下の知能しかない下級天使になっていただろう。

「翼を隠したいなら、翼を出来るだけ小さくたたんで、上着で隠せばいいんじゃないのか?」

「あっ、それだ」

黙ってシャロンとカインの会話を聞いていたアゼルが言う。

ビアンカがいれば、外に出る前に指摘していた事だが、残念ながらこの場にはいない。

「窮屈だ......」

「変に目立つよりはマシだろ」

翼をたたんで、上着の下にしまったカイン。落ち着かない様子だった。

「大体これ、いざとなったら飛べないよな」

「バリッと上着を破けばいいだろ」

「うわ......何その、蝉が成虫になる瞬間的な、さあ」

アゼルの主張に、カインは顔を引きつらせる。

「その例えもどうかと思うよ」

シャロンは苦笑いしながら言った。

「やっぱり、翼にも感覚あるんだ?」

「ん? ああ、あるぞ。引き裂かれたりすると激痛が走るらしい」

シャロンに聞かれ、カインは背中をもぞもぞさせながら答える。

「落ち着かん」

「......シャロン、人目のないところに行こう。こいつうるさい」

「わかった」

「ひでぇ。でもありがとう」

アゼルの言い草に、カインは顔を引きつらせながらも、そう言った。

適当な路地に入ろうとすると、

「ん?」

「......何だ?」

アゼルとカインがピタッと立ち止まった。

「どうしたの、二人共?」

シャロンが不思議そうな顔で振り向く。

「悪魔、か?」

「そのようだ」

「! 悪魔がいるの?」

二人は悪魔の魔力を察知した。

だんだんいる場所に近づいているのか、強い魔力が注意しなくても分かる。

「ちょっと見てくる。カインはシャロンといてくれ」

「え、いや、俺が行った方が......」

アゼルの提案に、カインが焦ったように言う。

天魔の一族とはいえ、人間のアゼルに行かせるよりも、天使である自分が行った方が良いと考えたからだ。

「......蝉のごとく翼で上着を破きたいんだったらどうぞ?」

アゼルに言われてしまい、カインは何も言えない。

「シャロンがついてくるとか論外だからな」

「えっ、いやいや、そんな事するわけないよ〜」

シャロンはそう言ったが、

「じゃあ何で俺の後ろに引っ付いているんだ?」

アゼルの背中に引っ付いていた。

「これはついて行っている訳ではないよ。くっ付いてしまっているだけだ」

「......」

シャロンの屁理屈に、アゼルはヒクッと頬を引きつらせた。

隣でカインは、その手があったか、という顔をしていた。

「お前までこっちに来るな」

「シャロンが不可抗力でついて行くことになっているんだ。俺も行く」

カインがどうだ、という顔で言う。

アゼルは、ビアンカに絡まれているシアンの気持ちが少しだけ分かったような気がした。

「はあ、もういいや......」

アゼルが疲れたように言うと、シャロンはしてやったりという顔をした。


「......ここか」

この先の路地、悪魔がいる。しかも一人ではなく、二人いるようだ。

カインは、一人首を傾げていた。

「この魔力......あれ、もしかして」

「どうしたの?」

「いや、ちょっと......とりあえず行こうぜ」

そして、路地を進んでいくとそこには、

「えっ、は、ハロルドさん!?」

ハロルドと、一人の悪魔がいた。

「待て、お前は前に出るな」

飛び出しかけたシャロンを、アゼルが制止する。

ハロルドは、こちらを振り返り、驚いた顔をしていた。

「あー? お前かァ、聖女ってやつは」

悪魔がシャロンを見て言う。

「手出しはさせない」

「ははっ、しねェしねェ」

悪魔は笑いながら手を横に降る。

しかし、悪魔は口では否定しながらも、ハロルドに向けて黒い光を放った。

「......っ」

ハロルドはレイピアで振り払う。

その隙に悪魔は後方にいるシャロンたちの方に飛んだ。

シャロンの前に、カインが立ちはだかる。

「防護結界」

カインが言うと、黄色っぽい光が集まり、壁を作った。

悪魔は、壁にぶつかる前に止まる。攻撃魔法でないにしろ、天使の魔力は、悪魔にとっては良いものではない。触れただけで火傷のような痛みが走る。

「何だ、天使もいやがるのかァ。おもしれェ」

「.......」

悪魔の後ろに回り込み、アゼルが天魔の力を使う。

アゼルの背後からたくさんの魔法陣が浮かび上がり、大量の弾丸が悪魔に向かって発射された。

「おっ? こりゃやべェ」

光の弾丸は、地面も、結界もえぐっていく。

「おいこら、天使にも天魔の力は有効だという事を忘れてないか。結界が穴ぼこだらけだ」

「直せばいいだろ」

カインの文句に、アゼルはしれっと返す。

「ははっ、ははははははっ!! いいねェ、いいじゃねェかァ」

悪魔は、光の弾丸をくらっているにもかかわらず、心底楽しそうに言った。

「何だこいつ、ドMか」

アゼルが真顔で言う。

「多分違うと思うよ......」

シャロンが困った顔で言った。

「その悪魔はアズヴェルド。戦闘狂のクソ悪魔です」

アゼルの後ろから、ハロルドがそう言って近づいてくる。

「ひでェなァ、ハロルドく〜ん。それが旧友に言うセリフかよ? あ、これ何か前にも言ったかなァ〜」

悪魔、アズヴェルドがヘラヘラと笑いながら言う。

「私とお前はもう友人じゃない。人間に対し、あのような事をしたお前とは......!」

ハロルドが険しい顔で言う。その顔には、嫌悪が入り混じっていた。

「込み入った話があるようだが、後にしてもらおう、悪魔共」

そこに、アゼルでも、シャロンでも、カインでもない者の声が聞こえた。

路地の入り口付近、シャロンの後ろに、鎧を着た騎士が立っている。聖騎士だ。

「っ! シャロンこっち!!」

「あぁ!」

シャロンが聖騎士から距離を取るために、カインの方に近づく。カインは上着を脱ぎ捨て、シャロンを持ち上げると、飛び上がった。そのままアズヴェルドを飛び越え、ハロルドの横に着地する。

「もうちょっとマシな持ち上げ方とか無かったの......うえ」

米俵のごとく肩に担がれ、シャロンが口元を押さえる。

「悪い、気にしてる暇がなかった」

「何故我々から逃げるのですか、天使様。我々は、あなた方の為に聖女様をお連れしようと言うのに」

心外だという風に聖騎士は手を上げ、首を降る。前に教会に来た聖騎士とは違う騎士らしい。何処と無く軽薄な印象がある。

「悪いが俺は、他の天使共がやろうとしている事に加担するつもりはない」

カインはシャロンを地面に降ろした。

「私は、貴方たちの思い通りには動かない!!」

「困ったお方だ......一応言っておきますが、ここから逃げる事は出来ませんよ。私は一人で来ている訳ではありませんから」

聖騎士は、全く困った様子は見せず言った。路地のまわりに、他の聖騎士たちが待機しているのだろう。

聖騎士たちは、彼らが神と崇める者に加護を受け、悪魔を倒すことの出来る魔力を授かり、聖騎士となる。

しかし、いくら悪魔に対抗できる魔力を持っていたとしても、人間は人間。悪魔相手に単独で行動する事は死に直結する。

「弱い者は群れたがると言うがなァ......。邪魔すんなよ、人間ごときが」

ゾッとするような魔力が、アズヴェルドから流れ出てくる。折角楽しく戦えそうだったのに、邪魔された事、それに嫌いな聖王国の聖騎士ときた。機嫌は急降下である。

「おお、怖い怖い。......何故天使様と聖女様はそこの悪魔の隣にいるのです?」

口では軽い言葉を吐いているが、聖騎士の目は油断せず、アズヴェルドとハロルドを見ていた。

「ハロルドさんは悪い人じゃない。俺は一度も、この人が人間に害をなすのを見たことがない」

カインは断言する。

「私は、助けてもらったんだ。悪魔だっていうのは少し驚いたけど......」

シャロンも、真っ直ぐ前を見て言った。

「......そうですか〜。納得出来ませんね」

「だったらどうする、やるか?」

カインが剣を呼び出した。

「いやいやいや、私は天使様とは戦いませんよ。悪魔とだけです。天使様と聖女様が協力してくれないと言うのなら......」

聖騎士がアゼルの方を向く。

「天魔はどうします?」

「......あんたむかつくな」

「は?」

「正直な感想だ。......俺は俺の友人の味方だ」

身も蓋もない事を言われ、訳がわからないといった顔をする聖騎士。アゼルはそれに構わず続けた。

「だから、俺の友人の邪魔をすると言うなら、俺にも考えがある」

「天魔は人間には危害は加える事が出来ないのではありませんか? 一族の掟でしょう?」

「ふん、ただぶつけるだけが力じゃない」

アゼルはそう言うと、足元に魔法陣を展開させた。シャロン、カイン、 ハロルドの足元に同じように展開させる。

「えっ」

「何をする気です!?」

「待ってこれ俺大丈夫なの?」

「ガタガタ言うな。変なとこに飛ばすぞ」

三者三様に不安と驚きを漏らす三人を、アゼルは一蹴する。

「口閉じろ。舌を噛むぞ」

アゼルがそう言うと、四人の姿は光に包まれ、消えた。

「......なるほど、天魔の転移魔法ですか」

聖騎士がアゼルがいた場所を睨みつけ言った。

「ハッ天魔ってのはよほど魔法オタクらしいな。おもしれェ」

アズヴェルドは笑いながら言うと、高く飛び上がった。

「逃がすか!!」

「ははっお前らごときに捕まるかよ!!」

近くに待機していた聖騎士たちが集まってくる。しかし、アズヴェルドはさっさと屋根の上を走って行った。


また別の路地。アズヴェルドはさらに人気のないところに降りた。

「......おもしれェなァ。あいつらの邪魔が無かったらもっとおもしろかったろうなァ。......先に聖王国とやらを滅ぼすかァ?」

ニヤニヤと笑いながらアズヴェルドは言った。

「もし。悪魔様、ですわね」

「あァ?」

誰もいないと思っていたところに、フードを深く被ったローブの女が現れた。

「私を、貴方様と行動を共にさせていただきたいのです」

「誰だお前? そんでもって、俺は忙しいんだ」

アズヴェルドが言うと、女はクスリと笑って言った。

「私の事は、アカハと。......貴方様の目的の邪魔はいたしません。むしろ、貴方様にとって、都合の良いように事を進めますわ」

「......ほう?」

まだ太陽は出ているのに、この路地は暗い。異様な空間だった。

十一話でした。

シャロンちゃんがサラッとセリフで言ってしまっていますが、一応断言しておきます。ハロルドさんは悪魔です。悪魔です。

神父が悪魔ってどうなのって話ですが、シャロンちゃんと過去いろいろあったので、カモフラで神父やってました。

過去のお話についてはまた後日。

それでは。

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