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吸血鬼

初めまして、こんにちは。紅蜀葵です。

あらすじでも書きましたが、この小説はファンタジーです。

若干暗い話ですが、楽しく読んでいただけると幸いです。

私の中でのとんでも設定などありますので、少々読みづらいかと思いますが、よろしくお願いします。

悪業を成した者は死んだ後に吸血鬼になる。それは昔から伝わる話。

この世界に生きる者には、魂と肉体が備わっている。肉体が死んでしまっても、何もなければ魂は肉体に入ったままになる。

人間は人が死ぬと、葬儀を行う。これは、肉体を媒介として、魂を死後の世界に送る儀式である。

悪業を成した者や、魔の力を受けてしまった者には、肉体にストッパーがかかってしまう。ふつうに葬儀を行うだけでは、魂を死後の世界に送ることが出来なくなってしまっているのだ。

肉体は死んでいるのに、魂は肉体にある。魂は肉体を生かす為に、生ある者を食らうように命令する。ここに、人格などは存在しない。

血を啜り、肉を食らう......まるで吸血鬼だ。

だから、悪業を成して、吸血鬼になるかもしれない死体には吸血鬼封じのまじないをかける。

心臓に釘を刺して、熱いワインをかける。そうすれば吸血鬼は封じられる。

もし、まじないをかけなければ、吸血鬼となった死者が災いを呼ぶだろう......。


「はあっ、はあっ」

「逃ゲテモ無駄無駄ヨー」

少女は狭い路地を逃げていた。追いかけてきているのは天使。身体が小さく、知能があまり高くないのか、すぐ壁にぶつかっている。どうやら下級天使のようだ。

しかし、下級天使であろうが、天使は天使。人間とは違う。ぶつかってもすぐに体制を整え、追いかけてくる。だからといって、捕まるつもりはないが。

「っこの」

少女は走りながら、ローブの下から大きな銃を取り出し、天使に向けた。

「ンー? 何々?」

天使には普通の銃は効かない。どんなに強力な弾を使っても意味は無い。

しかし、天使にのみ効果を発揮する魔弾が存在する。

少女は魔弾を、天使に向け撃った。

バンッと大きな音を立て、魔弾が天使に当たる。

魔弾を当てることは簡単に出来ることではない。反動が大きすぎて、大の男でもまともに撃つことは出来ない。

そもそも相手は空を自由に飛んでいるし、動体視力だって人よりも優れている。

特別な訓練を受けている者ならば話は別だが。

「イ、イギャアァァァァッ」

耳障りな奇声を発し、天使はドチャッという音と共に地面に落下した。

「あ、当たった......」

少女は肩で息をしながら、ズルズルとその場に座り込んだ。

肩が痛い。銃の反動のせいだ。

少女は護身術として銃の撃ち方を学んでいた。しかし、魔弾を撃ったことは無く、肩を痛めていた。

それでなくても、今までずっと一人で逃げてきていて、体力は限界だった。

しばらくどこかで休憩しよう、と少女が立ち上がり移動しようとした時、

「おいおい、なんだよ、ボロボロじゃねぇか」

悪魔が少女の前に現れた。

悪魔は、地面に倒れる天使を見て、フンと鼻で笑った。

「ざまぁねぇな、天使様よ。人間にやられるとはな」

「......悪魔ヲ認識」

天使は悪魔の声に反応し、また動き始めた。しかし、そこに意思はなく、機械的だった。

魔弾に身体をグチャグチャにされたので、首だけがぐりんっと動き、悪魔を見た。

「おーおー、気色悪ぃな」

悪魔はそれでも笑いながら言った。

「現状戦力デハ排除ハ困難ト判断」

天使がそう発すると、天使の身体からラッパが出てきて、音が鳴った。

「フン、いくら来ようと変わらねぇよ雑魚共」

天使が鳴らしたラッパは、仲間を呼ぶための物だ。これからここにはたくさんの下級天使が集まってくる。

少女は急いで逃げなければ、と焦るが、そのためにはこの悪魔をどうにかしなくてはならない。

少女がなんとか逃げ出せないか探っていると、悪魔が、

「おい、お嬢ちゃん」

と、少女の方を振り向いて言った。

「俺はお嬢ちゃんを殺すつもりはねぇよ」

「!? え?」

「他の連中はお嬢ちゃんを殺したがっているが、俺はそんなのには興味ねぇ。俺が殺してぇのは天使共だからな」

そう言って、悪魔はまた天使の方を向いた。

「さあ、どんどん集まってこいよ。全部殺してやる!」

少女は、よくわからないが逃げるチャンスだ、と思い、また走り出した。

少女が路地から出た時、ドカンという大きな音がして、黒い炎が見えた。


アシュディード帝国、帝都ディアーラ。

この国で何かをするためには、ギルドに所属する必要がある。普通に住む分には関係ないが、何か商売をしようとなると、ギルドに所属しなくてはならない。

物を売りたいなら、商人系ギルドに。自慢の腕っ節を売りにしたいなら、戦闘系ギルドに。自身の研究を進め、なおかつ金を稼ぎたいなら学者ギルドに。

帝国には、広い国土に散らばるようにしてギルドが存在している。大抵のギルドは帝都にあるほうが便利だから、と帝都に本拠地を作るが。

そんな、帝都ディアーラの隅にぽつんと存在する戦闘系ギルドに、入っていく青年がいた。

中に入ると、そこは酒場になっていて、昼間から呑んだくれている男がたくさんいた。

そのうちの一人が、青年が入って来たことに気がついた。

「お! シアンじゃねぇか」

「おう、おっさん。今日も呑んだくれてんな」

青年ーシアンは軽口で答えた。

「ハッハッハッ今日はもう十分働いたんだよ!」

「そう言って昨日も朝から呑んだくれていたじゃあねぇか!」

「うるせぇ! お前らも同じだろうが!」

男の言葉に、他の酒を飲んでいた酔っ払いが揚げ足をとる。

ここにいる男たちは、根は悪い人たちではないとシアンは思う。だが、他に仕事がないから、仕方なくこのギルドにいるという考えがありありと見える。

天使を排除するという目的があるシアンにとっては理解出来ない考え方だった。

「で? 今日の守備はどうよ? エンジェルキラーのシアンさんよ」

「......今日は、遭遇しなかった」

「じゃあ今日は収穫なしか?」

「いや、近くにいた賞金首を捕まえた」

「お前、本当運いいよな」

シアンは、天使を排除するために、帝国の隅っこにある、小さな村から飛び出し、帝都まで来た。そして目的を果たすために、戦闘系ギルドである、このギルドに所属した。

それから一番最初に天使に遭遇したのはギルド所属から二週間後のことだった。

遭遇したのは初めてではなかったが、戦うのは初めてだった。

ギルドのメンバーからも、絶対に無理だと言われていた天使殺しをシアンは初戦でやり遂げた。

その後も、遭遇したら必ず殺し、遭遇出来なかったら、賞金首を捕まえてくるということを繰り返した。

いつの間にかシアンはエンジェルキラーと呼ばれるようになっていた。

ギルドの酔っ払い共には運がいいだけだと何度も言われた。今も言われている。

それだけ、天使と戦うというのは大変なことなのだ。シアンは腰のホルスターに下げた銃を撫でた。そもそも、奴らには魔弾でなければ致命傷は与えられないのだから。

「その運を俺にも分けてほしいぜ」

「......前線に出ないでここで呑んだくれている奴にそんなもんいるか?」

「こりゃ手厳しい」

シアンと男たちがそう話していた時、酒場のマスターがシアンを呼んだ。

「シアン! お前にお客さんだ」

「あぁ、今行く」

シアンが酒場のマスターのところに行くと、そこにはローブを身につけている女がいた。

「貴方が噂のエンジェルキラーさん?」

「そうだ。......天使殺しの依頼か?」

「えぇ、そうよ。上級天使だから、私一人では手が出せなくて」

女は薄ら笑いを浮かべながらそう言った。

シアンは、この女は多分魔術師だと思った。そして、シアンを囮にして自分でトドメを刺そうという算段だろう。

「わかった、受けよう」

しかしシアンは、自分が囮にされようとも、天使を殺すことの方が重要だった。

「! おいおい、シアン! いいのかよ、上級天使だぞ!?」

話を聞いていた酒場のマスターは慌てて言う。シアンはギルドにとって重要な存在だったからだ。

ギルドは依頼を受け付ける場合、仲介料を取ることが出来る。有名なギルドほどたくさんの依頼が来て、仲介料もたくさん取れる。つまり儲けられるのだ。

このギルドにはまともに依頼をやろうというやつが少ない。だから、依頼を受ける数少ないメンバーの一人であるシアンは、ギルドとしては失う訳にはいかない人材なのだ。

ギルドマスターではない酒場のマスターではあるが、ギルドの経済状況は把握している。

「関係ないさ、天使は何であろうと消す」

そう言ったシアンの目を見た酒場のマスターは、

「......そうかい。なら、いい知らせが来ることを願うぜ」

諦めたように手を挙げ、そう言った。

そしてシアンと女は外へ出て行った。

「おいおい、マスターよぉ。いいのか、行かせて」

酒場で飲んでいた男の一人が酒場のマスターにそう質問する。言われたマスターは、

「良くはねぇよ。だが......」

言いながら身震いし、

「俺は酒場にいるから、いろんな奴を見る。だからわかるんだ。あいつの目は、やばい奴の目だ。ゾッとするほど殺意がこもってやがる。暗殺ギルドでもあんな奴はなかなかいねぇだろうよ」

二の腕をさすった。


「で? その天使とどこで戦うんだ?」

シアンは、外に出てすぐそう切り出した。

しかし女は、クスッと笑うと、

「そう焦らないで、ね?」

と言った。口元は笑っているが、目は笑っていない。完全にこちらを信用しているわけではないようだ。当然、こちらも信用するつもりはない。

「その天使が必ず来る場所と時間があるの。そこを狙うわ」

さすがに殺そうとしていることだけはあり、情報は集めているらしい。

「その時間までかなり余裕があるの。だから、一旦ここで解散しましょう。貴方も、消耗品を補充したいでしょう?」

女の言葉にシアンが頷くと、なら三刻後に時計塔の前でね、と女は言い去って行った。

残されたシアンは、とりあえず女の言葉のとおり、消耗品を補充しようと、自宅に戻ることにした。


シアンの帝都での自宅は、パン屋の上の空き部屋である。

帝都に出たばかりのシアンにはそこまでお金が無かったので、安い貸し物件だったここに住むことにしたのである。

朝、パンの焼ける匂いで起きるというのはなかなか良いものだなとシアンは最近思った。依頼をこなしている間は、大体家には帰ってこないが。

「おぉ! シアン君、おかえり」

「ただいま、です」

店の入り口にはおばさんがいて、シアンをそう迎えてくれた。

「今回は早かったわね〜。あんまり無茶しちゃ駄目よ?」

「はは、大丈夫ですよ」

おばさんは笑いながらそう言った。つられてシアンも少し笑いながら言った。

このパン屋の人はみんな朗らかで、あたたかい。偶然上の部屋を借りたシアンにも家族のように接してくれる。シアンにとって、つかの間の平穏である。

「え! あぁ! し、シアンさん!」

「おーや、ジーナ、おかえり」

ジーナというのは、パン屋の一人娘で、帝国で一番大きな魔法学校に通っている。

その学校の生徒は基本的に寮で生活をしているのだが、家が近いジーナはよく家に帰ってくる。

「こんにちは」

「こっ、こここっ、こんにちは!」

シアンが挨拶すると、ジーナはどもりながら、返した。それを見たおばさんは大きな声で笑っている。

「もう! 笑わないでよ、お母さん!」

それにプリプリとジーナは怒りだした。

「いやいや、青春だねぇ。シアン君、いつでもウチに婿に来てくれても良いのよ?」

「あぁ、いえ。俺は仕事が仕事ですから」

正直、シアンにはそういうことに興味がなかった。

ジーナは、おばさんの言うことに真っ赤になっていたが、シアンの返答を聞くと少し落ち込んだ顔をしていた。

「......そうだよね、シアンさんは仕事一筋だもんね......」

ジーナのつぶやきは、おばさんやシアンには届かなかった。

「あ! そうだ、シアン君! 新作のパンがあるのよ! ちょっと待ってて」

おばさんがそう言って店の中に入って行った。店の外にはシアンとジーナだけになる。もちろん、通行人はいるが。

そしてジーナが何か言おうと口を開けた時、

「......っわ!?」

シアンは誰かとぶつかった。

「す、すいません......」

ぶつかったのは、深くフードを被った人物で、声を聞く限り、女性のようだ。

女性はシアンに謝った後、後ろを振り返ったり、辺りをきょろきょろと見回した。

よく見ると女性の身につけているローブはボロボロで、怪我もしているようで、フラフラしていた。

「あんた、大丈夫か?」

「だ、大丈夫です......それより早く行かないと......」

女性はそう言って歩き出したが、すぐにへたり込んでしまった。

「ちょ、大丈夫じゃないじゃないですか!」

ジーナが女性の方に駆けつける。

「......っはぁ」

「待ってください、無理して動かないで!」

立ち上がり歩き出そうとする女性を、ジーナが必死に引き止める。

「そうだぞ、あんまり無理して動かない方が良い」

シアンがそう言って、女性が走って来た、パン屋の横の路地に立った。

奥から、壁にぶちあたりながら飛んでくるものがある。

「ウケッウケケケケッ」

「天使......」

飛んで来ているのは下級の天使だった。奇声をあげながら近づいてくる姿は、神聖さとは程遠いものだった。

「消えろ」

シアンは憎悪のこもった声でつぶやくと、腰のホルスターに下げた銃を取った。そして天使に向け、魔弾を撃った。

「ウ、ヴヴゲッ」

耳障りな声をもらし、天使は地面に落ちた。

「し、シアンさん?」

ジーナが不安そうな顔でシアンを見る。

「い、今、天使を......?」

女性も、驚いた様子でシアンを見た。

シアンは二人をチラッと見ると、

「まだいるかもしれない。ジーナ、そいつを店に匿ってやって」

と言い、路地に入って行った。

「は、はい......あ!」

女性は慌てて立ち上がり、シアンの後を追いかけた。

「待ってください! ......もう!」

ジーナは止めようとしたが、あんなにボロボロだったのに、女性はあっという間に路地に入って行ってしまった。ジーナもその後を追い、路地に入った。


シアンは地面に落ち、落下した果実のように潰れている天使を飛び越え、奥に進む。

耳をすましてみると、壁にぶつかりながら近づいてくるのが、もう一体いるようだ。

「あ、あのっ!」

ふいに後ろから声をかけられた。シアンが振り向くと、そこには先程の女性がいた。

「っ!? あんた、なんでここにいるんだっ?」

「貴方、さっき天使を撃ち殺したよね!?」

女性は、興奮した様子でシアンに質問してくる。

「あ、あぁそうだが......っ!」

シアンがそう答えたその時、シアンの視界に天使が入ってきた。

色々なところにぶつかりながら、近づいてくる。ジグザグと動いているので、狙いを定めにくい。

だが、天使はまだシアンたちの存在に気がついていないようだ。これを逃す手はない。シアンは銃を構えた。

「ここから狙って当たるの?」

女性の問いは、疑わしく思っているというよりは、そんなことも出来るのかと、感動しているように感じた。

「当ててやる」

バァンッ

魔弾は、天使に命中した。ベチャッという音と共に天使は地面に落下した。

「す、すごい......」

そう言った女性の方を、シアンが振り返ると、女性のフードは外れていて、顔が見えていた。

その顔は、女性というよりは、まだ幼さの残る、少女といったような顔立ちだった。

「あ、あの!」

そしてその少女は、目をキラキラと輝かせ、

「私と結婚してください!」

と言った。

「......は?」

シアンは一瞬何を言われたのかわからなかった。十秒くらい固まって、やっと言葉を絞りだした。もしこれで戦闘中だったなら、死んでいてもおかしくない。

「何言ってんだ、あんた」

「聞こえなかった? 結婚してくださいと言ったの」

「そういう事ではなく......。何故そうなるんだ」

シアンに言われた少女はさも当然のように、

「運命を感じたからだよ」

と言った。それを聞いたシアンは空を仰いだ。そして、人の話を聞かないタイプだ、こいつと思った。

「運命を感じたら、誰にでも求婚するのか、あんたは」

「何? 嫉妬?」

「違う」

少女の問いにシアンはムスッとして言った。

「冗談だよ。運命を感じたら、ガンガン自分の気持ちを伝えなさい、と母様から言われていたからね。これがまさにその時だと思って」

「......はぁ。あんたの母上様はおかしいんじゃないのか」

「母様はおかしくないよ。感性が独特なだけだよ」

「......はぁ」

シアンはまたため息をついた。

「大体何で俺なんだよ......」

「それはね.......もごっ!?」

「しっ! 静かに」

シアンは、少女の口を手で塞いだ。少女が質問に答えようとした時、路地の、さらに奥の方から音が聞こえてくることに気がついたからだ。

「? むごっもごもご」

「あ、悪い」

少女の口を塞いでいた手を離す。

「何かの、曲かな」

「......前に聞いたことがある。天使が奏でる音楽だ」

シアンは路地の奥を見据えた。この先にいるのは多分、先ほどの下級天使共とは訳が違う天使だろう。そう、おそらく中級から、上級の天使だ。

「あんたは来ない方がいい。天使から逃げているんだろ?」

「え、うん。そうだけど......あっ」

シアンは少女を置いて、路地の奥に向かって駆け出した。


四つの羽の天使が、路地の奥にはいた。その天使が持っている、ハープを奏でる度に、キラキラとした光が舞う。幻想的だった。

天使が嫌いなシアンだったが、この天使は、他の天使とは違う気がしていた。それは、下級だとか上級だからとかいう事ではなく、根本的に何かが違うと感じていた。

シアンがどうしようかと影に潜んでいると、

「隠れているのはわかっています。出ていらっしゃい」

天使が、シアンの潜んでいる方を見て言った。シアンが沈黙していると、今度は、

「何もしませんよ」

と天使が言った。逃げても逃げきれないと判断したシアンは、大人しく天使の前に出た。

シアンの顔を見た天使は驚いた様子で、

「おや、貴方は......」

と言い、嬉しそうに微笑んだ。シアンには、その理由はわからなかった。

「あんたは、俺を知っているのか? ......もしかして、5年前に俺の村に来た天使か?」

最後の方は、シアンの声は低くなって、敵意をはらんでいた。

天使は目を伏せ、言った。

「ええ......リオドラ村......でしたね。確かに私はその村に行きました」

「......!!」

シアンは、天使の言葉を聞いて目を丸くした。まさか天使が自分たちの、人間の小さな村の事を覚えているなんて思わなかったからである。

「じゃあ、あんたの連れて行った俺の友達は......? カインはどうなったんだよ......?」

「カインは......」

天使がそう言いかけた時、紫色の光がシアンごと天使を貫いた。

「......ゲホッ」

シアンの口から赤いものが出た。シアンには赤い花が咲いたように見えた。そして、地面に倒れた。

「っく......天魔の力ですか......」

「ええ、そうよ」

紫色の光を放った人物は、そう言って建物の影から出てきた。それは、シアンに天使殺しの協力を依頼してきた女だった。

天魔の力と言うのは、天使にかなりのダメージを与えることができる力のことだ。天魔の一族にしか使うことができないとされている。

「......すいません、シアン......。天魔の力を当てられた私に貴方の傷を塞ぐことは出来ません......せめて、死後の世界で安らかに」

天使はそう言い、シアンに光の花を握らせると、高く飛び上がった。

「逃がすと思って?」

女はそう言うと、背中から魔法陣が浮きあがり、そこから翼が生えた。黒い翼だった。そして天使の元まで飛び上がる。

「......ふふ、自慢ではありませんが、逃げるのは得意なんですよ」

天使は女の放つ、紫色の光を避けながら飛んでいく。女も追いかけるが、得意というだけのことはあり、天使はどんどん離れていく。

「チッ......仕留めそこなったわ」

帝都から大分離れた荒野で、女は一人呟いた。


一方、物陰から一部始終を見ていた少女は、呆然とした様子でフラフラと倒れているシアンに近づいていった。

「......そんな」

何度見ても、シアンの顔には生気はない。死人のそれだ。

少女は一筋、涙を流すと、その場を立ち去った。


しばらく後、通りかかったギルドのメンバーに死体は発見され、シアンは帰ってきた。死者として、生まれ故郷であるリオドラ村に。

しかし、シアンの両親はすでに死んでしまっている。引き取り手がいなかった。だが、シアンが幼ない頃からお世話になっていた教会の神父がシアンを引き取ると名乗り出た。

そうしてシアンはリオドラの地に眠ることになった。


その日の夜。静かな村を、月明かりが照らしていた。

その中から、ヒソヒソと、二人分の話し声が聞こえてくる。村の牛飼いの二人だ。最初は違う話だったが、いつの間にか話題はシアンのことになっていた。

「まさかシアンが死んじまって帰ってくるとはね......」

「あぁ、だけどもギルドとかいうのに所属して色々戦ったりしたんだろう? それじゃあいつ死んでもおかしくねぇだろうよ」

「あ? そういや、吸血鬼封じのまじないはしたのか?」

片方の牛飼いの疑問に、もう片方の牛飼いは、しかめっ面をして答えた。

「してねぇよ。あのお人好しの神父様がシアンはそんな悪いことをする子ではありませんって言って押し通したんだ」

「でも、人を殺したりはしてないだろうけどよ、戦ったりしてたんだろ? 天使か何か、殺したりしたはずだよな?」

「あぁ、ちげぇねぇ」

二人の牛飼いがそう話していると、不意に近くの茂みが揺れた。

「何だ、鳥か?」

今まで死者の話をしていただけに、緊張気味に片方の牛飼いが言う。

「そうに決まってんだろ......」

もう片方の牛飼いがそう言うが、茂みの揺れは収まらない。何かが、こちらに来ている。

恐怖を感じた牛飼いたちは、

「も、もう寝るか」

「そ、そうだな、明日も早いし」

と言い、走り去った。

片方の牛飼いが後ろをちらりと振り返った。

そこには、誰かがいたような気がした。

最初の話から主人公が死んだことに関しては反省はしていますが、後悔はしていません。そうしないと何もハジマラナイ......。

この世界では基本的に天使も悪魔も人間の敵です。敵多いです。それでも国は成立するぐらいには人間は繁栄しています。あとは獣人とか、死神とか......色々住んでます。

これからどんどん増やしていく予定です。

それでは、またのお越しをお待ちしております。

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