歯車の狂い........。
初投稿です。
少年の瞳に映る人間は少年には灰色の存在としか映らない。
「だから僕は人間への希望を捨てたんだ…」
正しくは少年が人間への希望を抱く事が出来なく成り、捨てるという選択しかできなかった。
「希望を持てば何でも出来るわけもなく、何が可能に成るわけも無い…そんなものに希望を抱く意味がわからない」
希望が無いと感じた少年は自分の心(世界)を守る為に全てを投げ打って捨てる。
友も愛しい人間も感情も…。
そうすれぱ傷つき苦しい事も無く、傷付かせ自分と同じ気持ちになることもない。
傷付く事は自分の心(世界)に踏み込まれる事と同じ事だ。
少年は部屋に引き篭り、近くに置いてあった机の上、その上にあるカッターを逆手に持ち、そのを大きく振りかぶった後、勢い良く腕に突き刺し、突き立てた所から真っ赤な血が自らの腕を伝って流れた。
ポタッ、ポタッと肉と肉が切り裂かれた間から生暖かく赤い血が。
少年は自分の手首から流れる血にそっと手で触れ、それを見た少年は乾き切った大地のような笑みを浮かべる。
しかし、その笑みは何処か淋しさがあり、同時に壮絶な孤独感が漂う。
暗い部屋でただ独り呟く少年。
しかし、この呟きを聞かれることはないだろう。
「一度傷負えば古傷となり、二度傷負えば古傷は開き、再び苦い記憶を思い出す事となる…」
少年は部屋に有る窓に近付いて開けると満天の空に出ていた月と星を眺め、目尻から一粒の滴を流す。
この少年が受けた傷は決して癒えるものではない。
それほど傷は深く苦いものだった。
思い出というには辛辣で残酷な記憶。
二度と思い出したくないのに何時も脳裏から離れられない記憶。
少年は未だ涙が流れる瞼を閉じると昨日の出来事のように脳裏に繰り返される。
まるで癒される事を許されない傀儡のようだ。
繰り返された数だけ古傷は深く裂け治すことが出来なくなる。
その代わりに残されるのは絶望だけ。
傷は傷で深くなり、希望は希望で大きくなり、絶望は絶望で大きく広がる。
その絶望に勝てるのは本当に強い精神を持った人間だけだろう、と。
だが、少年は言う。
「僕はそんな強い精神を持った人間じゃない!!」
夜風が吹く中、涙を流しながら叫ぶ。
少年自身は弱く脆い。
それは、この少年だけではないだろう。
他にも数多くいるはずだ。
だからこそ、少年は人間への希望を捨てた。
窓から入り込む風に少年の黒い髪が靡き髪で隠されていた少年の瞳がその間からチラリと覗く。
少年の瞳は、かつてない絶望を味わったそれの瞳だった。
「……この傷は僕の精神の弱さだから…」
そして、人間は矛盾しその矛盾が人間を傷つけ、矛盾と矛盾が交錯する。
それこそが、人間を灰色の存在にする。
いや、人間こそが灰色の塊だ。
少年は世風が吹くなか思う。
そう思う中、外の風は先程よりも冷たくなり雨が降り、その雨は白い結晶に成った。
少年の瞳に映る白い結晶。
天使の翼のように真っ白な雪が地面に振り、その雪は徐々につもり辺り一面が真っ白になった。
少年は振り続ける雪にカッターで手首を切り、その手が真っ赤に染まった手を伸ばす。少年の手に振り降りた雪は少年の手の熱と少年後の熱で決勝は溶け水と化し血と共に流れ落ちた。
その光景はまるで希望が絶望へと変わる瞬間のように少年の瞳に映った。
手の熱と血の熱で何度も繰り返される結晶が結晶で失くなるほんの短い間の出来事。
伸ばした手を坪のように丸めると溶けた結晶が水と成りその水は壺状にした手の中に流れ込みそれが手のひらでなく湖であれば水が溜まる事により絶望が絶望を溜め、どす黒い塊のように感じられた。
だけど、水はいずれ蒸発しなくなる。
だが、絶望は消えることはない。
時がどれほど流れても、時が止まっても絶望が消えるコトは何があろうとないだろう。
それが絶望という重く辛く苦しく希望を失ったものの末路。
そして、絶望は誰の中にでも隠れ住む存在。
その絶望の大きさで人の人生は大きく変わる。
これが灰色(矛盾)とは違うもの。
違いの大きさが全てを物語る。
少年は雪が降る中、家から出た。
静かな街を一人歩く。
少年が雪の上を歩く度雪がギシギシと音を立てる。
その音はまるで歯車が軋むような音だ。
だが少年の精神の歯車は軋み歯車の歯はボロボロに成っている。
少年は薄着で目的地に向かう。
カッターで手首を切り裂いた切り口からポタポタと真っ赤な血が流れる。流れた血は真っ白に積もった雪に垂れる。垂れた血は一粒の決勝が吸い込み他の結晶にもそれが伝わり真っ白な雪は汚されたように成った。
そして、流れた血は少年の目的地まで垂れ続けた。
少年が目的としていたのは少年に絶望を与えた場所。それは、学校だ。少年の精神を傷つけ古傷を開かせ絶望へ貶めた場所……。
そして、全ての原因。
少年の友人であった者。
少年は校舎の窓ガラスを容赦なく大きな音で割り、手を伸ばし鍵をカチャリと開け窓を開ける。そこから侵入すると軽い踏み込みでその場に留まった。
少年は屋上へと上がる階段を登る。
外は雪風が吹き少年が吐く息は白く吐き出される。
「寒いな……」
そう言いながら少年は屋上の扉を開ける。
雪は先程より風が吹き荒れ、少年の髪も乱れる。
荒れながらも少年は屋上にあるフェンスに手を掛けるとフェンスの外側に乗り込む。乗り込んだ後に残ったガシャガシャと鳴る音と共に再び屋上の扉が開く。
「オイ!こんな時間にこんな場所に呼び出して何の用だよ!!」
少年の次に屋上に来たのは金髪の青年だった。
少年は青年のほうに瞳を向けると、絶望の瞳が青年と合う。少年の瞳にゾッと感じる青年。少年と青年は小学生の時から知り合い今の高校までずっと一緒だった……。だが、青年は青年に二度の絶望を与えた存在。
一度目は誰もいない廃校者の屋上から突き落とされ命に別状はない軽い怪我で済み大好きなサッカーが出来なくなることはなかったが、二度目にこの現在通う高校の屋上で突き落とされ、一度目のような軽い怪我で済まず足はサッカーが二度とできないものになり全てを奪われた。
少年と青年は同級生だが少年の方が幼さが残る顔立ちで青年は少し大人びた顔立ちをしている。
二人が揃い少し時間が経ってまた風と雪は益々酷くなった。
「もう、遊びはやめようか……」
少年は希望を捨て希望を持つことをやめた。
「はぁ?!」
青年はわけがからず眉を八の字にする。
「僕は人間への希望を捨てたんだ……」
少年は絶望の瞳で話始める。
「始めは勿論信じて希望を持っていたよ....…けど、君に裏切られ、大好きだったサッカーを奪われもう希望が持てなくなった……。君にはわからないだろう?僕の全てを奪い君は何も気にせず生活を行う........だけど、その間僕は病室で一人絶望を味わっていた........けど、君はどうだい?」
「はっ!お前から何を奪ったって何もかわらねぇ〜だろうが!」
青年は分かっていなかった........この後初めて青年が後悔というものを味わう事に成ろうとは........。
そして、取り返しのない事に初めての感情を味わう。
「そうだろうね........だからもう僕の心(世界)に踏み込まないでくれ」
少年が手に掛けていたフェンスに雪が積もり少年の手にも雪が積もり赤みを帯びていた。
「だから、踏み込んでねぇ〜だろうが!」
青年は少年の言葉の意味を分かつていなかった。
「これ以上僕の古傷を掘らないでくれ....絶望を与えないでくれ....」
徐々に少年の手がフェンスから離れていく。
「だから、そんなもんお前の勝手だろうがっ!」
青年がそう叫んだ瞬間....少年の手がフェンスから離れた。
少年の手は短いながらも雪に埋もれた手は真っ赤になっていた。だが、手首から流れていた血は今も流れ続けてその血は一体どれだけ流れていたのだろうか?
少年が倒れるにつれ青年の瞳が徐々に見開からていく。
「だけど........もう、会うことはないだろう....」
「は?」
青年の困惑の声が漏れる。
「僕は絶望も希望も無い世界に逝くから........」
少年の姿が見えなくなり青年は急いでフェンスに近づく。
「はぁはぁ....」
青年の呼吸は真っ白で雪のようだ。
フェンスの外側の雪には先程まで少年がいた為雪は荒れ乱れていた。
だが、そこにはもう少年の姿はない。
代わりにあるのは少年から流れていた血だけ。その血は、少年の足元を囲い込んでいると錯覚するほどの地が流れていた。青年は恐る恐るフェンスの外の下を見る。
いつも見る屋上からの景色は美しいものだった。だが、今この瞬間美しいと言う言葉の単語は消え、残酷という単語が脳内を埋め尽くした。それが青年の初めての取り返しのつかない後悔をした瞬間になる。だが、青年にとってその瞬間は瞼を閉じる度に繰り返される。
フェンスの下には青年の姿があり、動く気配が感じられず、少年の体に雪が徐々に積もりだす。その雪はまるでタンポポの綿毛の様だ。
青年は初めての感情に涙する。
ボロボロと止まることをやめようとしない涙に青年は何度も何度もその涙を拭くが止まらない。拭く度に目元は赤くなり、チリチリと痛みが増す。
青年は涙を流しながら校舎から出ると少年の元に向かう。涙は今だ流れたまま。
青年の過ちは少年の人生の歯車を狂わせ人生を終わらせる事になった。
そこは青年が望む世界、灰色の存在も何もない世界........。
初ゆが降ったその日の深夜、少年こと黒瀬昴はたった一人の世界に旅たった。