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34. 懲りない人々

 翌朝になり皆で朝食を取ることになった。

 アティさんについては、表向きとある高貴な血筋の方、ということでVIP待遇が約束された。貴族には変人も多いし、というか変人の質では学院に勝るものはないのでそこらへんは総スルーされた。


 ノインが再び妖精化していたことについても「あらかわいいわねぇ」のマーサさん筆頭とするおばちゃん軍団により全面受け入れされた。カワイイは正義である。これは異世界でも曲がることの無い真理らしい。


 てなわけで今日は簡単な朝食トーストとコーンスープとサラダを頂いて、場所を学院長室に移しての会談である。 昨日の関係者全員が出そろうことになったが、バートランド先生のお姿ロリだけが違和感を放っていた。なぜかピンクのワンピースに黄色い花の髪留めという清楚スタイルである。どう考えても学院長さんの趣味全開という気しかしませんほんとうにありがとうございます。でも調子狂うし普段着のボディとかないんですか?


「戦闘目的じゃないなら10日程度でできるはずだ。本体は貧弱だからあんまりこの姿で出歩きたくないのは事実だけどな」


 むしろご褒美ですとかいってすりよってくる人が多そうなのでできるだけ早く改善されるようにお願いしてみた。


「僕の魔獣装甲なら君の肉体スペックを完全に再現できるよ? その外見も込みですぐにだ。せっかくだし用意しようか?」

「虫を着るとかどんな変態だよ。意味わかんねぇ」

「自分の体であんな物を作るよりも圧倒的に効率的だと思うんだが、おかげでこんな有様じゃないか」

「そのご自慢の虫も暫く使えないんだろ? 効率が悪いのはお互い様だ」

「ぐぬぬ」


 いやぁ、朝から仲がいいなぁこの二人。


「先生方には学院を守るためとはいえかなりの負担を強いてしまいました。改めてお礼申し上げますね」


 学院長さんがいい感じで間を取り持つ。伊達に長い付き合いではないってところかな。



「さて、率直に申し上げて今回の被害については、まぁ災害に近いものがありますのでどなたにも非は無いということにしようと思っています」


 魔族の襲撃とかちょっと想定したくはないからな。なんかエラそうだったし。実際強かった訳だけど。


「学院にも得るものが無かったわけではなりませんしね」


 壁に飾ってある黒い珠。幾重にも封印が成されていると言わんばかりに不規則に光りの帯が鳴動するように浮かんでは消える。こうして見ている分には綺麗なオブジェとしか思えないところが恐ろしい。


「もう一つだけ、できればお伺いしたいことがございます。アティリア様、よろしいでしょうか?」


「なんですか?」


「ホンジョーさん以下、当学院において習得不可能と思える技術、いえ能力を発揮した件について、アティリア様にお心当たりがあるかと存じるわけですが、いかがでしょうか?」


 まぁ当然の成り行きではある。学院で教えている魔力の使い方とは異なる力。魔力では検知できない未知の力を三人が揃って振るって見せたわけだ。不思議に思わない訳がない。


「それだけど、申し訳ないけど一切答えることはできないわ。私の一族の総意でもない限り、私の加護の無いものに伝えられることは多くはありません」


 なんとなく予想していたけどバッサリと切ったな。本来なら私に伝えることすらタブー視されていたことに感じる。


「……わかりました、誠に残念ではありますがこれについても不問とします。ただ、彼らが日常的に何かをしている様子を見ていることについては何ら咎められることはない、そう考えてもよろしいでしょうか?」


 アティさんがダメなら私達からってことか、案外学院長さんもしぶといな。まぁこっちは情にもろいとか思われそうではある。実際借りがあるし。どうしたもんだか。


「仮に彼らの行動や独断を黙認しろとお求めでしたら許可できません。『他に漏れる行為の一切を禁じる』ということは可能性がある行為を黙認することすら禁じているのですから。だから私に許可を求めるのなら全てを否定せざる得ません」


 これはあれか、やるなら聞くなってことか。


「……承知しました、この件に関してアティリア様に一切お伺いせず、また当学院内でアティリア様の行動や思惑の一切の制限をしないことをお約束します」


「ごめんなさい、迷惑な客になってしまったようで」


「とんでもありません。個人的にはアティリア様個人についてお伺いしたいこともありますので、お茶の間にでもお話頂ければと思いますが」


 ターゲットはドラゴン本体に移動したみたいですね。ここまで来ちゃと何もできない気がするな。うむぅ役立たずである。



「そういえばホンジョーさん。実は今朝になって任務完了の報告が届きました。というか完了報告より早い帰還って…… まぁこれについては問いたださないと約束したばかりでした、失礼。 こちらに無事完了の証とも言えるご本人がいらっしゃることですし、しばらくすればギルドからも報酬が支払われるでしょう」


 報酬? そんなものもあったのか。


「正直この任務にどんな価値があったのかと言われると、アティ……さんと知り合えたというのが一番の報酬ですし、できれば学院に『私やノインの学費』という形で納めてしまいたいのですが」


 これで足りるかわからないけど足しにはなるはずだ。何しろお金もってないしね!


「まぁそう仰るならそうでもいいのですが、実は貴方の取得した『オニギリ』のパテント収入がそこそこありまして、二人の学費には十分な額がたまっているのですよ」


 あれ? そんな大げさなことしてないつもりだったんだけどどういうことだ?


「携帯性と保存性の高い食料でありながら味もしっかりとしたものってなかなか無いのですよ。オニギリは長距離を移動する人にも好まれる良い食品だと評判です。まぁ流石に何十日も移動する場合は無理ですが、米を持ち込むことでその携帯性は格段に向上したといっていいでしょう。元が勇者の広めた食品でしたし、美味しく食べられるようになって皆喜んでいますよ」


「あれな、意外に腹持ちがいいのが良かったな」


 バートランド先生の意外なフォローである。今のこの人がデカいオニギリを口いっぱい頬張っているところとか想像するとなかなかほっこりできるな。


「そういう訳で、報酬は報酬として受け取ってもらう方が良いかと思います」


 そこまでおっしゃるのでしたら、といってもあれだよな。庭とかすごいベコベコになってるし。


「……できたら学院の修繕費に回すとか、そういう方向でも良いのですが」


 遠慮しすぎって気もしないでもないけど、どうせお金なんて使ってなんぼだし、みんなの役に立つならその方がいいに違いない。


「そこまでおっしゃるのでしたら、一部を学院修繕費として受け取りましょう。本当に欲がありませんね貴方は」


 なんか叱られてるんだろうが学院長さんの笑顔を見るとそういう気分にもなれない。たぶんいいことをしたんだからそう思っておこう。


「そういえばノインさんの人間体ホムンクルスとしての再生には時間がかかるとのことでしたけど、どれくらいかかるのでしょう?」


 そっちは特に重要だ。まぁ今回もなんとかしてもらえたからいいようなものを、いつまでも妖精体というわけには……当人気にしてないみたいだけどあんまりいいものじゃないだろうし。


「あぁそのことなんですが、今回からちょっと切り替えるべきかと思って、そのために余計な時間がかかります」


 ウィル先生がなんだがにこやかに話を切り出した。ま、まさかノインを魔獣化とかするつもりとか…… いやそんなことされたらまじ暴れるぞ?


「師匠…… まさか……」


「や、やだなぁ、僕だってそんな無茶はしないよ。やろうとしていることは単純だ。ノイン君をホムンクルスとしてではなく人間として再生するつもりだ」


 えっと、人体錬成ですか?



――



「人間の体が作れる、ってことですか?」


 こういう世界ではお約束で人間は作れないってことになってるのかと思ってたけど、どういうことなの?


「こんなに一人の個人に拘って調整し続けたことはないから汎用性は全くない。というかノイン君やホンジョー君くらいにしか応用できない技術ではあるんだけど、ホムンクルスのような制限を設けることなく行動できるようにしたいと考えていたんだよ」


 ノインが自由に動けるようになる……ってことか!?


「そこまで期待通りにいくかはわからないが、まぁ可能性の一端だな。あともう一つ」


 もう一つって?


「まぁこれも可能性だが、ホンジョー君との間になら子供も作れ「師匠何言ってるんですかっ!」


 こ、子供!? いやまってちょっとアレ? はい?


「やめなさいリジー。君だってホンジョーとはいずれ子供の一人や二人授かるつもりだろうに」

「そういうのはお互いの気持ちが大事といいますか」

「まぁリジーとの問題は無いだろうが、ノイン君とだと問題があったんだよ。なにしろホムンクルスは無性の存在だから子供を産めないし作れない。そこを改良したのが今回の実験だ」


 あの、ちょっと顔が真っ赤で真面目に考えるのが非常に危険な感じなんですがあのどういうことで……?


「ホンジョー君もどこか心理的なブレーキみたいなものがあったみたいだね。元々ノイン君の体だからとそういう機能が働かないと思い込んでいたみたいだが、実際に今の君は百パーセント男性として機能する。私が保障しよう」


 たまに身体検査とかされてましたけどどういう意味だったんですかぁ!

 まぁそりゃちょっと心配してましたよ? ちゃんと致せるのかなぁとかほら。(精神は)それこそ持て余す位な感じでしたし。

 しかし面と向かって言われると話は別だ。なんか盛ったサルを見るような眼で見られている気分になる。 ……逃げていいですか?


「当学院内での生徒間の恋愛についてですが……」


 学院長さんが口を挟む。さすがにこういう場面ではちゃんと窘めてくれるいい大人でいてくれてよかった……


「まぁ何を言っても結局は当人同士の問題ですから、子供ができても追い出すような無粋なことはしませんからご安心なさい」


 やべぇダメな大人筆頭だった! もしかして夜魔の血が言わせてるとかそんなこと考えてませんよね!?


「でもベビーラッシュみたいなことは避けていただけませんか? ここはあくまで学院であって育児施設ではありませんので」


 子供作ること前提かよ! いったいどんなピンク色の学園生活なんだよ! 学院って勉強するためのところじゃないのかよ! まぁ子供を持つと学ぶことがいくらでもあるっていうけど、学習効果ってそういうものじゃないよ! 知識より人生を優先する学校ってなんなんだよ!


「ホンジョー君が戻っていると聞いたのですがこちらに……いやぁ随分早いお帰りで、あれからまた色々と食材が届けられていたのですが、試して欲しいと突っつかれまくっているのですよ! 先ほどオニギリにしてきましたので一緒に評価していただけませんか! ……失礼お客様がお越しとは、これはまた失礼なところをお見せしてしまい申し訳ございません」


 スタックス先生の乱入がこれほどありがたいと思えたことはないよ! もう話題はそっちに切り替えるよ! 色気より食い気だよ!



 かくしてドラゴンのボケ退治とその後の三下退治というクエストは無事完了したのだった。




 ん? 猫? あぁいたねそんなの。あいつどうしてるかなぁ。


黒猫は不幸の印。つまり出番が不遇なのです。

本格的に出る可能性があるのは三章からですけど、どうでしょうかね?

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