33. バートランド先生の秘密
駆けつけてくれたアティさんに無事を伝える。
リジーもノインも酷い目にあったが今は無事だ。
「……そう、本当に迷惑かけたわね」
いつもの甘ったるい口調とは違った落ち着いた感じでアティさんが語りかける。こっちの方が美人度アップでいい感じだと思うけどなぁ。ちょっともったいないかも。
「いえ、アティさんに色々教わっていなければこんな風にいられたかも疑問です。最初の襲撃で全滅してた、もしくはアティさんに今以上のご迷惑をおかけしていたでしょう」
これだけ大きな借りを作っておいて今更だが、アティさんの助けが無ければ生き抜けていなかったであろうことは事実だ。まぁそれよりこっちかなぁ。説明しないといけないことが多すぎる気はするが。とにかく休みたい。もう滅茶苦茶だけど。
幸いにして我らが居城「変ベータービル」は健在だった。どうやら周囲に被害が及ばないようにと学院長さんが尽力してくれたおかげらしい。戦闘で目立たないと思ったがこんなところで活躍していたとは、さすが学院の長。
休むところといったらここくらいしかないけど、アティさんは「ドアノブ」を使えばすぐに戻れるしいいか。とにかく細かな説明は後日ということになった。
リジーは意識を取り戻すとすぐにウィル先生に詰め寄っていた。まぁあの様子だとノインの人間体の方をどうにかしてくれと詰め寄っている気がする。どうして事情を知っていたかはわからないが、リジーだしなんか知ってそうな気はした。有能だからな。
「という事情もあるので、今日のところは家にお引き取り頂いて明日もう一度来て頂ける……ってのはダメですかね?」
まぁぶっちゃけるとアティさんを寝泊りさせられるほど立派な部屋なんてないし。一緒に寝る訳にもいかないですし。
「んまぁ私はどこで寝てもいいのよ~ あの人と一緒のときは野宿とか結構あったし~?」
口調戻ってますよアティさん。
かといって他の人(先生たち)が許してくれるとは思えないんですよね。倫理的にも、世界均衡的にも。
――
そうそう、先生たちのその後がどうだったかを簡単に説明しよう。
ウィル先生の切り札、召喚魔獣「ヘレクレス」シリーズは消滅してしまった。
「いやぁ、あれは本当に切り札みたいなものでね。一度の戦闘で消耗してしまう上に再び作り上げるのに一年はかかる非常にコストの高い装備なんだよ」
使い切りで再使用不可の一発武器だそうだ。アレが量産できればどんな軍隊にも負けることはないらしいが、ウィル先生にしか使いこなせない彼の専用装備らしい。一応量産体制も取れなくはないのだが、召喚用の特殊管理槽に入れておかなければならないため、準備しておける数にも限りがあってなかなか数を揃えるといった真似ができないそうだ。
というわけで学院を守る切り札の一枚は少なくとも一年は使い物にならないことが解った。
アティさん(ドラゴン形態)を落ち着くまで抑え込むことに成功したバートランド巨人先生は、事態が収まったのを知覚したとほぼ同時くらいに白い煙をもうもうを上げてどんどん縮んでしまった。
最後には直径一メートルくらいのシワシワの肉の塊みたいになったと思ったら、縦一直線の切れ目が走り、中から全裸の幼女が現れた。
繰り返して言うが、間違いなく幼女だ。ストロングパツキンツルペタの青いおめめがクリクリッとしたロリっ娘だ。しかも全裸だ。最重要なので付け加えておくとかなり可愛い。私がロリコンなら問答無用でペロペロしたいと哀願しただろう。
つい見とれてしまったが胸から下を見ようとした瞬間リジーに目を防がれた。もうちょっと待ってくださいせっかくですし?
私の視線に気が付いたのはリジーだけではなかったらしい。ウィル先生がどこからか白衣を取り出して着せてあげていた。
「あれか? まぁあれはいつも使ってる私の肉体を強制的に暴走強化させた決戦状態だな。まさか本当にドラゴンと組み合うことがあるとは思ってなかったが、想定したスペックは発揮できただけよしとしよう。問題はまた一から培養しなきゃならんから少なくとも半年から一年は使えないことか」
バートランド先生は肉体操作が専門である。だが肉体が損耗している状態では万全を維持できない。というわけで「自分の肉体を強化」する方法の一つとして、いつでも切り離せるように調整強化したものが普段のバートランド先生の体だそうだ。まだ試作モデルらしく一体しか作成されていないとのこと。
普段の行動は基本的にあの肉体任せて本体の方は消耗を極力抑えた形態にするためにこのような小さな体になっているらしい。全くけしからん。
そういうわけで、学院を守る切り札のうちもう一枚が、やはり半年から一年は使用不可となってしまったのだ。
……どないすんねんこの学院。
「私だけでも大丈夫、といいたいといころですが少し不安が残りますね。ここは是非ともアティリア様にご助力頂きたいところではありますが……」
既に自己紹介も終えているようで、ドラゴンとか龍神とかいう呼び名ではなくなっていた。まぁ被害の原因ともいえなくもないところが多少はあるし、学院に出た損害を考えると引け目を感じざるえないのも事実ではある。
「……少しくらい手伝うのはいいのだけど条件があるわ」
「はい、何なりと」
「タカ…… ホンジョーと一緒の家に住みたいわ。部屋を用意してもらえない?」
「……承知しました」
えらくあっさりと承認したものだが、ドラゴンの協力を得られるなら安い代償と、言えるんだろうか?
「ホンジョーさん。あの建物の四・五階は使っていませんよね?」
「はい、使用不能な機械で占拠されててそれどころじゃありませんでしたし」
「ならば結構。いまからそちらをアティリア様の私室に改装してしまいます。それでよろしいでしょうか?」
「うん、お願いね」
というわけで善は急げと学院長さんが駆け出して行った。
バートランド先生は新しい体の調整準備に。ウィル先生も新しく準備を始めるそうだ。当然ノインの体の方だが。
「そろそろ次のステップに移るべき頃合いだからね。ちょっと面倒だが考えていたことがあるので試してみるよ。あ! 髪の毛くれるかい?」
結構持ってかれた。ちゃんと気を使ってくれたのか、先端部分だけだけど。
ついでといって爪も持って行かれた。どんな風になるのかちょっと怖いなもう。
――
高い天井。これが同じ室内かと思うとちょっと羨ましい気がしてくる。流石に二フロアぶち抜きの大きな私室が出来上がるとは想像もしていなかった。どこの王室だここは。
「これくらいはさせて頂きませんと、仮にもドラゴンをお迎えする部屋ですし」
学院長さんもなかなかご満悦のご様子である。いやほんとこの人無駄に凝り性なんだからしょうがない、といいたいところだが、この豪勢な飾り付けを見れば納得というところだろうか。
五階の床を全面排除したために大きくとられた四階、室内という圧迫感を一切感じることもない。これならドラゴン形態になったアティさんでも入れそうな気がするな。
用意されたベッドも上質な感じがする。天幕つきのお姫様仕様だ。
白を基調として支柱や天板に金の細工が美しい。要所要所で赤のアクセサリが目に付くがいいアクセントになっていて全体として非常に上品な雰囲気を醸し出している。巻き付いた蔦を意匠としたのだろうか。突き出た赤い薔薇を象ったものがルームランプのような働きをするらしい。なんだろう本当にうらやましいなこれ。
上質なテーブルとソファーも設えた正に逸品というべき家具類に囲まれ、二フロアぶち抜きの大きな窓は夜景を綺麗に飾りたてる。これが同じ建物かと思えるほどだ。
「浴槽の準備はここでは狭すぎて難しいので、申し訳ありませんがしばらくお待ちください」
「いいのよ~ タ……ホンジョーの使っているものがあるのでしょ? そちらを借ります」
あの風呂は意外に広いけどアティさんが使っていいものなんだろうか?
「いいのよ。貴方の普段使うものも見てみたいし」
と仰せなので問題ないだろう。一緒に入れと言われなければだが。
「ところでアルフさん。もう一つお願い、というか許可が頂きたいのだけどいいかしら?」
アティさんが学院長さんに話しかけている。これ以上何かあっただろうか? ドアノブ常設か? いやあれは秘密にしろって言われてたし……
――
てなわけで変ベータービル屋上である。何もないところだが、朝日を見るにはいい場所なので結構気に入っている。そのうちテーブルでも置こうかと思ってたんだけど。
「ここに『門』を設置したいの。いつでもここに来れるように。許していただけるかしら?」
お願いというのは、ジャングレア村の禁足地にもあった「鳥居」、つまり門の設置だった。どうやら数は限られるがいくつかをアティさんの家に繋ぐことができるらしい。
「誰でも通す訳にはいきません、私が認めたもの以外は通れない門。というわけで悪いものは通さないと約束しますが、どうでしょう?」
「アティリア様がそこまで断言される以上、学院に害を及ぼさないと認識し認めるとします」
「ありがとう」
そういうと、アティさんが胸元から小さな鳥居の模型みたいなものを取り出した。そのまま屋上のフチあたりをながめつつこんなもんかなぁ的な表情で設置する。なにやら難しい、正確には何を言っているかよくわからない言葉でブツブツ?とつぶやくと、鳥居の模型は立派な鳥居に変化した。村にあったものと違って緑色だったけど。
「これでよし。みんなはそのまま通れるから心配しないでね~」
いやぁアティさんが楽しそうでなによりです。
「まぁそういうわけで今日はちょっと疲れたし寝ましょうか。説明は明日でいいかしら?」
「はい、明日の朝食の後にしましょう。それまでにこちらも細かい後処理がありますので」
「あらごめんなさい、そちらの事はよくわからないからお任せするわ。何か手伝えることはあって?」
「いえ、今の所の脅威は。特にアティリア様が姿を現して頂けたおかげでまともな魔物は近寄れすらしませんし」
ドラゴンがいる所に攻め込めるバカはいないということか。
おかしい、学院の防御力は下がるどころか最強レベルじゃないか?
まぁそこまではいいとしよう。あまりいい気はしないが。それより重要なことがあるし。
「すいませんアティ……リア様、お伺いしたいことが」
「アティでいいわよ。でないともっと恥ずかしい呼び方させるわよ~?」
「……えっと、あの、ジャングレア村の方はいいんでしょうか? こっちに来ちゃうと向こうで何かあったら大変なことになりそうなんですが」
元々あの辺一体を守護、というか縄張りにしていた感があるわけだし、村の守護みたいなことしちゃってたわけで。そのアティさんがいなくなったら村はどうなるんだ?
「あぁ、そっちなら問題ないわよ? 年に一・二回戻って魔力を補充すれば魔除けの結界も維持できると思うし。なにかあっても『門』があるから行き来は簡単だしね~」
偉く軽く話をされてますけどそんなんでいいんだろうか? まぁアティさんがOKっていうならそうなんだろうけど。
「とにかく色々あって疲れたわ。タカ! 風呂に入るわよ!」
お願いします無茶振りはかんべんしてくだしぃ。
てなわけで、無事リジーに役目を押し付けて難を逃れたのでした。めでたしめでたし。
「私もお手伝いしますっ!」
ノインはそんな体で無理しないの。大人しくしてなさい。
――
もう既に全員が休憩、って訳にはいかないだろうか。先生方に事後処理はお任せになってしまったがとにかく疲れたしとお休みを頂いていた。
あぁ風呂? もう大変でしたよマジでアティさん来るんだもん。恥ずかしいを通り越してどうにかなりそうなのでさっさと逃げました。まぁアティさんもマジで捕まえる気はなかったみたい。ドラゴンが本気になったら逃げるなんて不可能でしょ。
てなわけでこんな日くらはとゆっくり休めるかなぁって思ってたら何やらドアを叩く気配が。
「ホンジョー。起きてる?」
夜中に私を呼ぶ声がする。見るまでも無い、リジーが来たみたいだ。
「……どうしたんだよこんな夜中に」
ちなみにノインは例のフラスコごと私の寝室に一緒だ。といってもよほど疲れたのか熟睡していて起きる気配はない。
「ちょっと話がしたいの。付き合ってよ」
なんかいつもとは違った少し真面目な表情に、明日にしてくれとは言えずにリビングまで付き合うことにした。
――
リビングのテーブルに二人で座る。何か用意しようと思ったのだが遠慮されてしまった。何の相談なのか解らないがふざけて聞ける話ではなさそうだ。
少しの間、ちょっと気まずいというかなんだか喋りにくい空気が場を支配していた。だがそんなものをバッサリと吹き飛ばしてリジーは話し始めた。
「結局のところ、私がレジデスの攻撃を受けたのがきっかけだったのよね」
アティさんの所を出てからすぐの遭遇戦でリジーは手傷を負った。単純に負傷としてしか見ていなかったがあの段階でレジデスの布石は始まっていたんだろう。あの傷からリジーの体内に忍び込みアティさんをも欺いて見せたわけだ。
「つまり、私の油断が全ての原因な訳。みっともないわね。いつも偉そうなこと言ってこのザマよ?」
下を向いたリジーが絞り出すように弱音を紡ぎだす。本来の自分ならありえない事だとでも言いたげに。そこまで完璧じゃなきゃいけないのか?
「まぁそういうわけで、私は貴方から離れるべきと思ったのよ。というか思ってたのよ」
はぁ!? リジーがいなくなる? いったい何の冗談だ。
「私はね、油断してたの。貴方の力を手に入れてから間違いなくだけど強くはなった。でもそれだけ。力に振り回された挙句の果てにこのザマよ? みっともないッたらありゃしない。そんなヤツのどこに価値があるのよ。そういうヤツが貴方の近くにいちゃいけないとそう思ってた」
<ガシッ!>
あれ?
反射的にリジーの手を握っていた。
え~~っとこれはどういう。 たぶんだが自分の手が勝手に動いたとしか言いようがないんだが。
「……何よ。私をどうにかするつもり?」
悪戯っぽく、だが妙にうれしそうなリジーの声が響く。あぁうん凄い勢いで心臓の鼓動が暴れまくっております。なんだよこの状況!
「……だ、だめだよ! リジーだって俺から離れたら力が弱まるって知ってるんだろ?」
「うん」
「そうしたら今より危険じゃないか! 元に戻るならいいけど前より弱くなっちゃうってんだろ?」
「うん」
「じゃぁダメだろう! どうしてそんなリジーを放っておけると思うんだよ! そんなの俺がイヤだって知ってるだろ!?」
「うん」
「じゃぁなんで!」
俯いていたリジーが正面から私を見つめる。なんて透き通るような澄んだ目をするんだろうか。
「私だってね、貴方の側を離れると思ってなかった。まぁ何かあれば二・三日は離れるとかあるかもしれないけど、こんな風に二度と会えないかもとかそんなこと考えてすらいなかった」
「じゃぁ余計になんで!」
「一緒にいるってのはね、強くないといけないの。特に貴方みたな人といるってことは。でも私は弱くなった。昔の私の方がまだマシ。……だから離れるの」
あぁ確かにリジーは弱くなったのかもしれない。だって泣いてるんだもん。ボロボロと両目から宝石みたいに綺麗な涙が毀れ続けてる。
どうしてこの世界の女はこう意地っ張りなんだろうかね。
ノインだってそうだ。私を助けるため、とか自分を持ち上げるつもりはないが、少なくとも自分が犠牲になれば周りの人は助かるなんてそんな事考えてたに違いない。
「あのさ、リジー。ちゃんと言っておくけど」
力いっぱいリジーの手を掴む。ゴメンでも今の自分程度の腕力なら平気だと思うし。
「俺は、リジーを手放す気はないよ? 弱くなった? 使えないだって? 誰かそんなこと言ったんだよ! リジーは有能で、優秀で、美人で、綺麗で、凄いじゃないか! そりゃぁちょっとだらしないところもあるけど、そういうのはどうでもいいんだよ! 一蓮托生とか言ってたのはなんだったんだよ! というかリジーがいなくなったら他に誰を頼ればいいんだよ!」
「……ほら、アティさんとか」
「アティさんは爺ちゃんのことがあるから構ってくれるだけだよ!」
「……ノインちゃんとか」
「ノインは俺のこと全面的に認めてくれるけど、リジーみたく叱ったり止めてくれたりしないよ! 俺が何か間違ったらどうしてくれんだよ!」
「……じゃ、じゃぁ」
「リジーが止めてくれよ! リジーが考えてくれよ! 一緒に! 俺バカだし……」
……
ぐ、何言ってるんだ。もうなんだか滅茶苦茶だな。
リジーの腕が細かく震える。あれ? なんか泣かすようなこと言ってしまったんだろうか?
「……ふふふっ! あはははっ!」
あ、腹を抱えて笑ってらっしゃる。
「はははっ! ホント、タカってバカよね、こういう場面ならもっとちゃんと説得してみさいよ。何が『俺バカだし』よ!」
何がツボったんだ意味がわからん。正直に言っただけなのに。
「こういう時にこそ言うべきでしょう? 『リジーは俺んだっ!』ってあれ」
……き、聞いてたの?
「聞こえたのよ。幻聴かと思ったけど学院長にも師匠にも確認したから間違いないわ」
……う、うぐ。
「どうしてこ~変な時に変なセリフを持ち出すのよ、っていうかこういう場面で使いなさいよ」
め、面目ありません。
「……まぁいいわ。ほんとバカなんだから」
両の目の涙を吹き払い、サッパリといった表情でリジーが私の手を振りほどいて立ち上がる。
「ど、どこに行くの?」
「部屋。もう寝るのよ。明日から大変そうだし」
それって?
「タカのバカが治るまでは離れたくても離れられないって思っただけよ! 言っとくけどバカが治るまでだからね!」
そ、そうか…… それなら良かった。
バカは死んでも治らないって言うし。
――――――――――
ちなみに。
ホンジョーの手を動かした人:アティさん
その様子を見て顔を真っ赤にしながら慌てて寝床に戻った人:ノインちゃん
その様子を見て「青春だわ~」と身悶えていた人:学院長さん
でした。
やっとバートランド先生のネタバレですた。いやぁ長かった長かった。
そしてリジーさんまじヒロイン。普段気の強い女性がボロ泣きとか破壊力バツギュン過ぎて色々捗ります(?)




