28. 正装無視の代償
今年最後の予約投稿。新年も相変わらず12時更新での予約投稿です。
お正月の暇つぶしにでもお付き合い頂けるとうれしいですね。
そろそろ山場ですし。
「いいのよ~? 本当に大変だったんだし、呼び戻しも嘘~だったんでしょ? もう少し回復~するまで休養を取るべきじゃな~い?」
朝になりそのまま出発することを告げるとアティさんが引き留めてくれた。体長も万全とは言えないだろう。といっても魔力だけは八割は回復している感じがする。いつもなら朝にはマックスが当たり前だったからかなり珍しい。
このように万全とは言い難い状況だが急いで戻るのは理由がある。学院に対して警告するためだ。
「レジデスは学院を偽って連絡してきました。逆に言えば学院の存在を知っているということです」
こちらが動く前に学院に潜入、罠を用意するなり学院に迷惑をかけるなりの策を張り巡らせていないとも言えない。魔力の監視では魔族の侵入を検知できない可能性が高い。対魔族用の警戒ががあるかもしれないが、無かったらどうなるかわからない。万が一でも被害のでる可能性は薄めておきたい。ならば急ぐべきだ。
「ま、まぁそういうなら、私が送ってあげてもいいのよ~?」
アティさんに送ってもらえるというのが一番安全なのはわかる。ここまで甘えておいて今更というのもあるが、自力でできることはやっておきたい。考えが足りないと言われるかもしれないが、アティさんに依存するような関係であってはいけないと思うんだ。
だがこんな我儘に二人を付きあわせる必要はない。
正直なところ一人で出かけたくはない。ここに引きこもっていたい。今更語るまでもないが私はヘタレだ。いままでよく動けてたと思うが一人だったら絶対無理だ。ノインを助け出す時は頭に血が上り過ぎて何も考えてなかった。レジデスとの戦いではリジーが主導してくれたからこそなんとかしのぎ切れた。
結局自分で決めて行動したことが無いんじゃないか。昨日寝ながらそんな考えばかりが頭をよぎった。もっと考えるべきだったんじゃないか。もっといい方法があるんじゃないか。もっと上手くやれたんじゃないか。って後悔ばかりだ。
うん、過去の事を悔やんでも仕方ない。それは解るんだ。解るけど考えを止めることはできない。仕方ないね、ヘタレだもん。
だからだ、足だって震えてるのを誤魔化すだけで必死だし、多分傍目から見れば、というか声を聞いただけでもバレバレだろう。なにしろ怖い。またレジデスと戦うことになる可能性が高いんだ。一人でやれば間違いなく負ける。というか勝てる要素なんて無い。あの時だって三人でやっとこ手傷を負わせることができただけだ。撃退できたのは横槍ならぬ横串のおかげなのは考えるまでもない。
次もあの手助けが…… というのはあまりに都合が良すぎる。単なる偶然に命を懸けるなんて怖すぎて話にならない。そんな偶然頼りにリジーやノインを付きあわせる訳がない。自分が盾になったところで一緒に貫かれるのがオチだ。
だから「今は戦わない」と決める。少なくとも勝てる見込みのない戦いはしない。レジデスの能力は未だに不明だ。正直対策も取れない。そんな戦いは挑むべきではない。ならばどうする? アティさんに頼るか? いや確かにあの人ならレジデス撃退くらいこなせるかもしれない。私より確実だし何より安全だろう。
そう、その「安全」って言葉が罠だ。この一回で全てが終わるならいい。だがレジデスのような輩がまた現れたら? あれ以外の魔族に目をつけられたら? この先どれだけここに居座ればいいんだ?
アティさんなら許してくれるかもしれない。事実じいちゃんと一緒に暮らしていたんだ。孫だと認められた今なら、そして外に危険な敵がいるとわかっている今なら……
うん、だからダメなんだ。「甘え」や「逃げ」の言い訳にアティさんを使ってはいけないんだ。そんな憐みに縋るような選択だけはしちゃいけない。
アティさんに乞われてじいちゃんの日記を読んだ。この世界に呼びこまれた時の苦労がつづられていた。解けないであろう謎があった。勝てないであろう敵がいた。けして一人では成しえない偉業の数々に一瞬だけ嘘でも書いてあるんじゃないかと疑ったものだ。だが書かれた事柄について、アティさんは思い出を語ってくれた。時に苦しそうに、時に嬉しそうに。
だからこそ解る。幾多に及んだその記述の中に、逃げの言葉は一つも無かった。
弱音があった、諦めの言葉もあった。だが絶対の危険にあって「逃げ」だけは無かった。どんなにみじめでも前を向いていた。常に最善の手を模索するあがきがそこにあった。
だから、そんな本庄清次郎の孫である私が、彼の愛した人の前で隅にころがりブルブルと震える姿をさらすわけにはいかないんだ。
……
一回見せた気がするがそこはスルーだ。
――
「ということで、一人で学院に戻ろうと思う。二人とも万全とは言えないから大人しく待っていて欲しいんだけどいいかな?」
「ご一緒します!」
うん、知ってた。
「今回はできるだけ早く移動したいんだ。私一人で移動する方が早く動けるのはわかるだろ?」
そもそも傷だらけのリジーや魔力が枯渇しかかったノインを連れ歩くなんて論外だ。そんなことは言われるまでもなく解っているはずなのに。
「足手まとい、かもしれません。でも盾になるくらいは……!」
必死に食らいついてくるノインの額に向けてチョ~~ップ!!
「きゃっ!」
うむ、そのちょっとビックリした顔も可愛いな。
「な、何をなさるんですかホンジョーさまぁ……」
解っているくせに解ってないふりはやめなさいノインさん。あぁ可愛いっていうかあざといぞこんちくしょう。だがここは心を鬼にして冷徹を装うのだ。
「ノインと一緒に行った先でレジデスと遭遇したとしよう。ノインはどうする?」
「ホンジョー様をお守りします!」
まっすぐな瞳が私に向けられる。その意志に迷いはなく心底思っているであろうことは察しの悪い私にだってわかる。そんなノインだからこそ危険だと解っていることをさせる訳にはいかない。ノインの提案は「分の悪い賭け」にすらなっていないってことを理解させるべきだろう。実際には解っているはずなのだが、感情が邪魔している今は余計にだ。
「でもまぁ現状だと適わないことは解っていると思う。追い詰められて二人とも潰されかねないよね? そんな状況になったらどうする?」
「ホンジョー様を逃がすために時間を稼ぎます!」
「でもそんな状況で一人で逃げ出すヘタレだと思う?」
いやぁイヤラシイ質問だなぁ。本来の私なら逃げだすだろう。ヘタレだし。いやぁ自分を知ってるってのはこういう時に寂しいね。でもノインはなんかいろんな補正がかかった目で見てくれちゃってるからこその説得。自分を信頼してくれる相手だからこそだ。まぁ実際のところ見捨てる選択肢はないんだけど。女の子に隠れて逃げ出すとかヘタレを通り越して人ですらねぇ。
「は…… で、でも! ホンジョー様をお守りするのが私の……!」
「うん、その気持ちは嬉しい。チョー嬉しい。でもダメなんだ。絶対後悔しちゃうから。じゃぁそうならないためにはどうするか。そりゃぁもう確実に逃げ切れる状態で挑んだ方がいいよね? さて、改めて聞こう。私は一人で行った方がいいかな? それとも皆で行って誰かを犠牲にする方がいいかな?」
うん、これまたすごいイジワルな質問だ。わかっちゃいるが気持ちだけで動いてもロクなことにはならない。今はちゃんとリスクを選んで行動すべきだ。
言いたいことを理解してくれたのだろう。釈然としない顔つきではあるがシブシブという雰囲気で下を向いたままノインが大人しくなってはくれた。
「というわけでアティさん。非常に申し訳ないのですが、リジーとノインを預かっていただけませんか? 私が学院についたら『ドアノブ』を通じてこちらに戻ります。その時一緒に移動したいので」
「まぁタカがそ~いうならそれでいいけど、本当に大丈夫~?」
「はい、セイジロウの孫ですから」
いやぁ恥ずかしいなこういうセリフ。でも絶対いい顔してた自信ある。うん、かっこつけないとな男の子だし。 ……外見だけだが。
「……流石にそのセリフを言われると止められないわね~。わかった、行ってらっしゃい! 早めに戻ってくるのよ? こっちは『地下室』で待ってるから~」
緊急時には逃げ込む算段だったんだけど、下手に逃げ込めないかな。転がり込むように逃げ込む様子を見せるとちょっとカッコ悪いよね。
理解はしても納得はしていないのだろう、あまり良い表情とは言えないがノインも何かを決意したようにじっとこちらを見つめていた。いやそんな心配無いと思うんだけどね。流石のレジデスも片腕無くした直後にまた暴れるなんて事をするとは思わないんだが…… まぁそんなタラレバだけで考えても仕方ない。とっとと動くに限る。
リジーに余計なアイデアを思いつかれる前に動き始める。少し躊躇したが、ここまで大見得切った以上はやり遂げるしかない。といっても学院に戻るだけなんだけどね。
「それじゃ、行ってきます!」
――
今回は『門』を通らず直接ここから移動を開始する。実はこの『浮島』、村のほとんど上空にあるらしいんだけど、実際には一定のコースを自動巡回しているそうだ。地脈の流れの上をある程度流れるように動いているとか。
今はどちらかというと宿場町付近の上空を移動中。つまり『門』を抜けるよりも早く帰れるってことだね。知ってればもっと早く戻ってこれたんだが……まぁいいか。
高度を下げてからの超高速移動だ。いやほんと景色が流れるってのはこういうことなんだろうな。なんかぐにょぐにょしてる気さえする。
長距離移動に際してアティさんから改めて助言を頂いていた。
「えっとね、丸くなってずっぎゅ~~~んってのもいいんだけどそれだと風の壁? なんだろう変な風に色々巻き上げて思った程スピード出ないのよ。こうなんて言ったらいいのかしら…… そうちゅるんっ!っていうかつるんっ!って感じになった気分で行くといいわ!」
うん、相変わらず感覚だけだが言いたいことはなんとなくわかった。カプセルだろうがボールだろうが物を投げつけるように飛ぶと「通過したところの空気」を押しのけて移動するので変な余波や抵抗が出て結果的に遅くなるみたいだ。つまり抵抗を減らし余波を生まないような、もっと極端に表現するなら「進路上の空気を軟化させる」ってことだと思う。空気を切り裂くんじゃなくて空気が退いてくれるってところか。そうでもしないとドラゴンが高速移動をした時なんてソニックブームで自分が壊れちゃうだろうしね。必然といえば必然の方法なんだろう。問題はそんな長距離・長時間の移動に耐えられるくらいの龍気が私にあるかどうか。ダメなら素直に『ドアノブ』に頼ろう。
流石にアティさんの別荘から学院の敷地までを繋ぐような距離を龍気で満たすなんて出来る訳がない。ので自分の通過するところを部分的にチューブに見立てた距離だけという省エネ法で乗り切ることにしてみる。なんかチューブ部分だけで飛んでいる気がしなくもないが、概念的には「部分を書き換えながら進んでいる」と表現する方が正しいに違いない。通過したところからどんどん元に戻っているし影響はないはずだ。というか影響があったらドラゴンの飛んだところが酷いことになるはずだし大丈夫だろう。たぶん。
ある程度の高さを飛んでいたせいで相対的な速度感が無くこれでスピードが出てるのか? と心配したが、二時間もしないうちに最初に野宿したキャンプの場所を通過した。川沿いの開けたところだったから確認できたが、こいつはやばい匂いがプンプンしちゃう移動速度だ。学院長さんに問われたらどう答えるべきなんだ。せめてアティさんに断りを入れてから行動すべきだった。まぁ学院についたら『ドアノブ』を使うと言っておいたしその時に説明しよう。
なんて呑気な事を考えてたら鼻先がムズムズしてきた。やばい鼻血か? こんなところでドラゴン・ハイになったらシャレにならない。もうそろそろ到着なんだか、なんとか間に合うかっ!
うん、ギリギリでした。 なんとか学院の上空にたどり着いたのでそのまま正面玄関へ降りる。
『訪問者よ! 名を告げよ! 知らせの無い者を受け入れる余地は無い!』
初回と一緒だな。確かえっとこのブローチがあれば問題ないはずだけど。
「ホンジョーです。えっと学院の生徒で、このブローチが証明になるはず……ですよね?」
手元に取り出しゴーレムからみやすいようにと上に掲げて見せてみる。だがゴーレムからの返答はこうだ。
『そのブローチは対になる制服と合わせて証明となるものである。正しく制服を着用し改めて来るがいい』
が、学院長さん…… いらん機能を付けてからに……
「い、今は緊急時なんですよ! そんなこと言わないで通してください! なんなら飛び越えて行きますけどいいですよね?」
『まぁブローチだけでもいい…… はぁダメですか? いやそれでは規則が…… というかあの服を着てくれないとダメ? はぁそう伝えます。 という訳で学院指定の制服を、特注品のプリティマント仕様? のあの制服が絶対義務、だそうだ、えっとはいはい、もっと可愛い感じでお願いしたら通してあげる? えっとすいませんがご主人、わたくしめにはその「可愛い」というのが今一理解しがたく…… え? 声が? あぁ失礼し……』
……うん、何言ってるんだかわかんないから飛んで行こう。もういいよね?
学院には外敵からの侵入を防ぐ結界が張り巡らせてあるそうだが、このブローチを持つものはスルーできる仕組みらしい。ちなみに制服にもその機能を持たせようとしてたそうだが時間が無かったので省かれていたそうだ。この学院には趣味人しかいないんじゃないかと思ったよ……




