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20. お爺ちゃんの日記

 アティさんが案内してくれたのは二階にある一室だった。あまり広くはない。たぶん6畳くらいの広さの部屋だろうか。正面には大きな窓、手前に机があり、ちょうどいい場所に座布団のようなクッションがある。机には筆記用具と照明と思える器具が置いてある。何枚か紙が置いてあったが白紙だ。だが3冊ほど本のようにまとめられたものが置いてあった。

 入口から見て右側の壁一面に大きな備え付けの棚があった。そこには居間に置いてあった籠と同じものが6つ。中身はなんとなく察しが付く。


「そう、あの人の部屋~。読んでもらいたい物~はここにあるメモなのよ~」


 そういいながら部屋に入っていった。机に置いてあった本を取り出して中を見つめる。

だがすぐに閉じてこちらに差し出してくる。


「とりあえずこれ~を読んで欲しいの~。たぶんあの人の日記~だと思う」


 どうやら寝る前など思い出した時にたまに書いていたらしい。毎日書く趣味はなかったらしいが、そんな量があったらたまったもんではない。抜粋だとしても随分の量がありそうなのが怖いが……


 とりあえず差し出された本を手に取る。青い表紙の表面に文字通り『日記・十六』と書かれていた。少なくとも十六冊はあるってことか。了解した。


「表紙に『日記・十六』と書いてあるので、こういうのがまだあると思うのですが、他はどこかわかりますか?」


「やっぱり日記だったのね~、一番書いてたもの~だからそうだと思ってたのよ~。っていうかこれに何を書いてたか~だけはいくら聞いても教えてくれなかったのよね~。多分この机にある以外~はどこか別の場所にあるか、捨てられてでもしてるんじゃないかしら~?」


 ここにあるのはここで書かれた日記が基本らしい。この世界に来た頃のものは紛失したらしい。どこかで古文書になっているか、それとも腐り落ちているか。どちらにせよ手元にない以上それについて考えるのは今はやめておくべきだろう。まずはこの本からだ。


「それでは、最初からでいいんですよね?」


「えぇ、お願いするわ~」


 こりゃ大変そうだ。って何故か後ろから抱きかかえられているスタイルである。まるっきり「絵本を読んでみせるお子様」っぽい構図なのが気になるが、こうじゃないとどこを読んでいるかわからないからだそうだ。まぁ慎重差もあってまるっきり邪魔にならないんでしょうけど、二人がいなくてちょっと助かったよホント。



――



 日記の内容は想像よりも普通……というか日々の雑感やその日に起こった珍しいこと、といっても日常的な範囲のものばかりだったが、いわゆる『他愛のない日常』という奴だった。その半分くらいはアティさんのことで占められていた。料理を焦がしたとか、本を読む邪魔をしたとか、一緒に空を飛んだとか。色々なところへいって色々していた様子が描かれていた。龍と魔族はこの頃も仲が悪かったらしい。魔族の使い魔がいたみたいだがアティさんが許さなかったので連れてこれなかったことを詫びていた。

 一行読むごとに「あぁ、あの時はそういう意味だったのね~」といちいち相槌を打ってくるので随分とゆっくりなペースで読み進んだ。まぁこんな感じがこの日記の前半だ。


 後半は一転して自分のいなくなった後についての心配や後悔といったもので占められていた。この頃から自分の研究した成果を書物に残すことを考え始めたらしい。米麹の作り方というか苦労話なんかをまとめたとか書いてあったので間違いないだろう。


 爺ちゃんはこの本をこちらの言葉に訳する努力もしてみたらしいが、どうも細かいニュアンスを伝えきれずに断念したらしい。何も残らないよりはということで日本語で残すことにしたようだ。


「そんなこと一言も言わなかったのに…… あの人って結局一人でなんでもできちゃったから人に頼るのが苦手だったのよね~」


 しみじみと、深いため息と共にそう漏らす。そうとう優秀だったに違いない、なんていうと怒りそうだな。できるまでやっただけだとかなんとか。


「ほんとそう言うのよね~。誰でも出来たら世話ないわよ」


 ちょっと寂しそうな笑顔だったが、けしてイヤな感じではない。信じてたんだろう。本当にダメなときはちゃんと頼ってくれるって。



 終盤になると、自由の利かない体を龍気によって動かしていたらしい様子が描かれていた。文字が少し乱れていたのはコントロールが難しかったからだと思う。酒が助けになったとも書かれていた。単に飲みたいだけだったのに最後には文字通り『命の水』となったのだろう。


 そして最後のページが切り取られていた。たぶん最初に見つけた手紙だろうか。手前のページにはこのように書かれていた。


~~~


 この日記を読む者へ。

 もし彼女がこの言葉を理解できなかったなら、

 挟んでおいた封書の中身をあていに読み聞かせてほしい。


~~~


「セイジロウってね。この封書はだけは絶対無くすなって言ってたのよ~。だから別にして保存してたんだけど、これと一緒じゃないとあんまり意味無かったみたいね~」


 大事にしろと言われたら、大事にするために分けておくのも仕方ないかな。特になんと書かれたか解らない文章なら余計に。この家から外に出なかった分ヨシとすべきだろう。


「あんまりシンミリとしたくないし、次はもっと前のを読んでちょうだいな」


 と差し出したのは『日記 四』となっていた。ここにあった最初の日記だろうか。たぶん表紙が一番汚いからこれが一番古いと判断したんだろうか。結局全部読むことになりそうだし、どんな順番でも大して意味はない。ってなことで素直にそちらの日記を朗読することになった。



――



 二冊目の日記を読み終えることには、すっかり日も落ちて周りが暗くなっていた。この部屋は自動的に明るくなる仕組みらしく、日記を読むには不自由しなかった。おかげであまり気にならなかったんだがちょっと意外に時間が流れていた事実にビックリだ。


「ありがとう。ほんと助かるわ~。今日はもう遅いしこんなものにしてご飯にしましょうか」


 このまま徹夜で読み続けるのかと少し覚悟していたがそんな無理を押す人?でなくて助かった。さっきっから頻りにぎゅ~っと抱き付かれたまんまだったんだが、やっと解放されそうである。


「人に無理をさせてもかえって効率が落ちるだけ~ってのは、セイジロウで学習済よ?」


 いったいどんな事させてたんですか。いや怖いから話さないでください。

 まぁそういうわけで、昨日よりも遅い夕食となった。ちなみに今日出てきたのはなんと刺身である。つまり醤油だ。ワサビっぽいものまである。どこから出てきたんだ?


「このショウユっていうのはセイジロウの作ったものね~。秘蔵の品だから感謝してよ? 魚はそのへんからテキトウに。このワザビもどき、あぁ、セイジロウがそう言ってたんだけど、川に生えている水草を煎じたものよ。結構珍しいらしいけど、意外にどこの山にもあるから後で教えてあげるわね~」


 いわゆる草ワザビってやるだろうか。こちらの世界にもそういうのがあったのが驚きだ。

 刺身は赤身と白身の二種類。どんな魚だかわからないが普通に刺身であった。赤みだが、マグロというかサーモンみたいな感じだった。これはこれでいいんじゃないかな。白身の方は、なんというかイカっぽい歯ごたえのある感じだった。普通に噛み切れたし別に変ではなかったのでよしとしとこう。


 綺麗に切り分けられていたせいか、ノインもリジーも最初はこれが生魚とは理解していなかった様子だ。


「生で魚を食べるなんて…… でも美味しいですね」

「あらほんと、この感じだと海の魚なのかしら? 川魚だったら火を通さないと怖いから教えてよね」


 川魚を生で食うのは危険なのはこちらでも一緒らしい。海のものだから安心て訳でもないが、川のに比べれば全然だと思う。鮮度がよければだけど。


「大丈夫よ~、ちゃんとセイジロウに聞いて大丈夫だったヤツしか出してないから!」


 爺ちゃんマジ実験動物扱いである。まぁ仕方ないか。改めて頂きます。




 食事を終えた後にアティさんが日記を持ってきた。また読んでくれと言われたのかと思ったがそうではなかったようだ。


「ここんところにあるこの部分~が私の名前でいいのかしら?」


 たぶん先ほど読み聞かせた内容を覚えていて、見返しながら記憶と照合していたんだと思う。よほど集中していたんだろうが、あんだけ朗読した内容を聞いただけで覚えておくとかすごい記憶力だなぁ。

 といっても微妙に(1ページほど)ずれていたので訂正しておく。指示されたのは『トイレが汚い』と怒っているシーンだったのは黙っておこう。


 実際、時間は飽きるほどあったので随分と読む努力をしていたそうだ。だが他に内容を理解できる人もいないために完全な想像での解読作業は全くの手詰まり状態だったらしい。酒等の醸造指南書を手本にすれば? と思ったそうだが、基本的に任せきりだったので内容を把握していなかったみたいだ。

 そこに理解できる人間が現れたのだから、解読というか理解が一気に進んだというわけだ。


 そんな様子をみてリジーがちょっと変な質問をしてくる。


「でもアティ様、理解できない内容を読み上げているホンジョーが『正しい』ことを伝えているとどうして確信しているんですか? もしかすると貴方にとって不都合なことを隠している可能性とかあるのでは?」


 自分が言っていることは真実ですって言っても、信じてくれるかは相手次第だし、少し考えがまわる人ならこの内容を取引材料にするとも考えたのだろう。そんな心配を抱かないほど信用してもらえているかと言われるとちょっと自信はない。


「あら、そんな心配してないわ、だってセイジロウの孫なんだもの~」


 ってなんですかその人に言わせれば根拠の欠片も無いですよ?


「いや、アティさん。信頼してもらえるのはありがたいですけど、もしかしたらとか考えてなかったんですか?」


「してないわよ~。というか嘘とかデマとか伝えてないでしょ?」


「はい、書いてあることを読んだだけですし」


「ほら、問題ないじゃない」


 こればかりは爺ちゃんへの信頼がこちらの信頼を引き上げていると理解しよう。というか現時点でアティさんに対して嘘をつくメリットも無い。嘘とばれた時のデメリットの方が遥かに多い。第一そんなことをしてまで得たいアドバンテージなんてものはない。ただ一点を除いてだが。


「でも、いい機会なのでお願いというかお伺いしておきたいこともあります」


「あらなに~? 改まって」


「はい、日記やメモもそうですが、明らかに読み聞かせるには心苦しい内容が書かれていた時、必ずお伺いしてから伝えるか、無視するか選んで頂きたいと思います。それくらいはいいでしょうか?」


 場合によっては知りたく無い内容の可能性だってある。自分が信じた人が自分を嫌いと書いていたら誰だってイヤだろう。そんなことは伝えずに済むなら伝えないでおきたい。


「そんな心配いらないわ~。ゼ~ンブ教えて。教えて欲しいと頼んだところはね~」


 なんか凄いいい顔で言われてしまった。そこまで信頼しているなら、あとは私が爺ちゃんのことを信じるしかあるまい。ほんと、変なことは書かないでおいてくれよ……



――



 朗読については今後もある程度進めていくことで話がついた。そのうち自分で読めるようになるのが目標だそうだ。漢字部分が難解だろうからしばらくかかりそうだけど、アティさんならなんとかしちゃうに違いない。ただし漢字辞書的な何かを用意させられそうで怖いが、そこについても要検討だろうか。そこまでさせられると面倒だなぁ。

 それよりもそろそろこちらについてもお伺いというかお許しを得ないといけない。ついでに協力も。


「お願いというか了承というか許可というか協力してもらいたいことがあるんです」


「あらあら、今日は随分お願いが多いのね~」


「はい、『米麹』を増やしたいので協力してほしいんです。というか『味噌』とか『醤油』とかできたら『日本酒』にも挑戦してみたいんです」


 テキストがあってもできるとは限らないが挑戦しないと食べられないし! うん、我ながらなんと個人的な欲求なんだろう。お酒はオマケだけど。たぶんアティさんを説得するにはそれしかないし。

 ある意味ものすごい必死に頼んでしまったんだが、引かれる様子もなくニコッと笑顔でお返事頂いた。


「そんなのOKに決まってるじゃな~い。っていうか作れるのは多分貴方だけだから、断ってもやらせるつもりだったのよ~? まぁ十年くらいは余裕で待つから安心して♪」


 既に勝手にいじっていたんだが、ちゃんと許可が頂けたので少し安心だ。これなら正式に協力して頂くことができる。今更だけど許可は大事だ。なにしろあの不思議な機械。「時間加速機」の使い方をちゃんと教えてもらえれば研究が加速度的に進むに違いない。なんかテキトウにやったからダメだったんだと思う。目盛とかよくわかんなかったし。


「あの機械は魔力で動いてるのよ~。だから使い方を覚えれば結構簡単よ? 後でちゃんと教えてあげるからしっかり覚えてね~」


 でも自然にやるのが一番らしい。風味とかそういうのが違うそうだ。よくは解らないが、少なくとも米麹増産の目星とか、味噌や酒の製法を確立させるための実験に使うのはいいんじゃないだろうか。ひたすら実験を繰り返すことになりそうだが、自然に任せたやり方では十年たっても成果は出せない可能性が高い。あまり長いことご厄介になっても迷惑だしね。


「そんなこと気にしないでいいのに~。っていうかできたら最初に味見するから覚悟しなさい? セイジロウの味を再現するのよ~!」


 すいませんそれはマジで十年程度じゃ無理だと思います……


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