表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/68

05. いわゆる『勇者』という存在

※あらすじに明記していますがこの回はグロ表現があります。今更繰り返すことではないかもしれませんが、念のためご確認ください。

※時間で投稿なので更新前にタグを追加しています。なんだか違和感のあった方には申し訳ありません。

 魔力というものがどういうものか、正確に理解してはいないがなんとなく扱えるようにはなった気がする。この調子だと簡単に火の玉とか目からレーザーとか出せそうな気がするな。


「確かに君なら可能だろうが、しばらくはそういったことを考えることすらやめてもらえると助かる。実際問題として調節のできない膨大な魔力は危険極まりないのでね。しばらくは魔力の扱い方を学ぶことにしようじゃないか。なに生活に関する一切は私が面倒を見るので心配無用だ。こちらとしても君の存在自体に意義があるのだしね」


「そうそう、その『ただいれば良い』みたいに仰ってますけどどういうことなんですか? そもそもどういう目的で召喚されたのか非常に興味があるんですが」


 こういう研究者というのは自分の理論を実践するためだけに多大な投資をする可能性もあるので一概には言えないが、少なくとも自分の求められている条件というのは理解しておくべきだろう。今後の身の振り方もそうだが、もしかすると普通に元の世界に帰してもらえるかもしれない。


「まぁまぁそうがっつくな。ちゃんと順番に説明してあげるから」



――



「魔力が生きていくうえで欠かせない重要なエネルギーであることは理解してもらえたかな?」


 体を動かすどころか基礎代謝まで魔力が無いと働かないとあっては絶対的に必要なものなのだろう。


「うん、この世界に生きるものは魔力を前提として生きている。人々の生活にも欠かせないものとなっているんだ。そこでよく考えてほしい。魔力とはどこから来るものなのか。君には想像できるかね?」


 どんな力にも発生源というものがある。車を動かすためにはガソリンが必要なようなものだろう。車にとってのガソリンスタンドとは、人間にとってはなんだ?


「やっぱり日頃食べている食べ物から接種してるんじゃありませんか?」


「うん、それも一つだね。でも基本的な魔力は大気中に薄く存在しているものを取り込んでいるんだ。深呼吸をすると落ち着いたりするだろう? あれは大気中の魔力を体が取り込んだことによって体が落ち着いていっているんだ」


 そうすると、人口の多くなった都市部では空気中の魔力量が少なくなるということだろうか?


「そういう側面もあるね、といってもそんな気にするほどではないよ。敏感な人が多少気にするという程度じゃないだろうか。でも都会育ちの人間が過疎地に出向くと空気が良いとか思っちゃうのはそのへんが理由かもしれないね。さて話を戻そう。空気中の魔力はそのほとんどが『無意識に放出される魔力』の集まりだ。人口が増えれば確かに魔力の消費が増えるが同時に魔力の放出も増える。結果ある程度のバランスが取れるんだ」


 よく考えればその通りなのかもしれないが、何かひっかかる。吸収されるのと同等の量が都合よく放出されるんだろうか? エントロピーが云々とかのあれで徐々に減少していくのが当然と思うのだが。


「うむ、実によい指摘だ。というか実際にその通りだ。人がというか生き物が生きていく限り魔力の総量は減少を続ける。それを避けるために、人は霊脈と飛ばれる魔力の集まりやすい土地に住み、世界を流れる魔力の大きな流れの中にいることで局地的な枯渇を避けるすべを学んでいる」


 霊脈の流れる土地は緑豊かで作物も豊かに育つため自然と人が集まるという。そうすることでそこに生活する人々は無意識ながら豊かな魔力の流れのなかで生きているそうなのだ。だがそれでも疑問は残る。大局的に見れば魔力の総量が減り続けていることに変わりは無いのではないか?


「やはりごまかせないか。その通り、結局魔力は減り続ける。魔力の豊かな流れの中で生活していると意識することもできないことだがね。結局のところこの世界は緩やかに死に向かって歩み続けている」


 そんな問題、自分にどうにかできると思えないんだが……


「だがそれにすら解決策がないわけではい。正確にはあったというべきかな。それがいわゆる『勇者』という存在だ」


 やっとそこにつながるのか、随分回りくどいこと言ってるな。



――



「いや済まないね、この話を理解してもらうためにはこれまでの話をする必要があったと判断してなんだが、ついてきてもらっているかな?」


「多分大丈夫じゃないかと、で、どうやってその勇者が世界を救うんですか?」


 手に持ったカップに口をつけ、一息ついてから話を続ける。あれだけ話し続けて疲れてそうな気もするんだが特にそんな様子も見せずにニコニコしている。本当にこういうのが好きなんだな。


「世界を超えてきた存在というのは例外なく大きな魔力を持っている、と言ったことは覚えているかね?」


「はい、ほとんど最初に言われたことですし。殻とかそのへんのことでしたっけ?」


「そうだね、合わせて過去に何例かの『異世界からの来訪者』がいたことも話したと思う」


「英雄でキングな人でしたっけ?」


「うん、そういう人のことだ。こういった存在は実は世界が魔力を維持し続ける最後の仕組みではないかと私は考えている」


 この来訪者と呼ばれる存在は定期的に表れていたのではないかとエディさんは推察していた。何しろ生き物が生きている限り魔力は消費されているのだ。微量かもしれないが確実に消費されていくエネルギー。どこか外部から補給されねば枯渇するしかないわけだ。


「そこで現れるのが、魔力の塊のような存在、つまり来訪者。つまりは勇者と呼ばれる存在だ。彼らが現れてその者がふりまく魔力により世界は癒され、潤いを取り戻すサイクルが作られていたと思っているんだ。想像の域を出ないが百年に1回程度で行われていたと考えている。だが来訪者の記録だが、実はここ三百年ほどその記録が無い。もしかすると記録に無いだけで来訪はあるのかもしれない。だが近年になって魔力の枯渇によると思える事象が数多く発見されている。霊脈の流れが変わり、森や湖が消え、その結果村や都市が消え始めた」


 霊脈の存在は重要だ。都市の維持そのものに直結しているといっても過言ではない。都市や周辺の生き物の命そのものを支えている文字通りの命綱だ。それが魔力の流れが弱くなったり途絶えたりしてしまえば、1・2か月もしないうちに周囲の森は枯れ、泉は濁り近くに住まう動物は一斉に姿を消すことだろう。作物は腐れ落ち使い物にならない痩せた土だけが残される。領民は土地を捨て難民として少しでも豊かな場所をめざし移動を始める。そういう光景を見たことがないのでなんとも言えないが、飢えの苦しみは耐え難い苦痛となるだろう。何しろ1日食わないでいただけでもひどい苦痛を味わうはめになる。腹がぎゅるぎゅると鳴っているのに何も食べるものが無いときの絶望感は異常だ。


「君の無意識に発散する魔力は、普通の人間で例えるなら約百人分にも匹敵する量になる。君が勇者として活躍すればその力はさらに高まるだろう。意識して力を発揮すれば正に一国を支えるほどの力になるに違いない。要は君がいてくれるだけでその国には安泰が約束されるようなものだ」


 つまりあれか、俺の存在はエンストした車に繋ぐ緊急用バッテリーみたいなもんか?


「その喩は意味がわからないが、あれだな。魔力の井戸というべきだろう。土地からではなく君自身から湧き出るという点が違うところだな。君が存在するだけで周囲はその恩恵を受けることができる。意味的には救世主と呼ぶほうがふさわしい存在なんだ。しかし不思議なのは君の魔力だ、その源はどこにあると思うかね?」


 私の持つ魔力の量はそれはもう結構なことになっているらしい。それについてはそういうものだと理解するしかない。問題はその魔力がどこからきているか?ということだ。これだけの魔力を周囲からかき集めてしまうと、いっきに枯渇するとは言わないが確実に悪影響が出るという。だがそうはなっていない。つまりどこか別のところから持ってきたということになる。どこから来たんだ?


「これについては諸説ある。私自身が観測したわけではないのではっきりはしない。君に協力してもらうことで解明の糸口がつかめると期待している。よろしく頼むよ」


 わからないことを聞いていたのか、こっちもわからないんだからどうしょうもないと言いたいところだが、解っていないと怖い要素ではある。色々と協力してもらおう。


「さて、『来訪者』が定期的にこの地に訪れていたということは間違いない事実だ。そうでなければこの世界の魔力はとっくの昔に枯渇してしまっているよ。だがある時期を境に途絶えてしまった。待っていれば再びやってくるかもしれない。だがそんな不確定なものに頼るつもりは私にはない。できることをできる限りやらねば気が済まない。来訪者がやってこないのなら自分たちで呼べばいい」


 そうしてエディさんは来訪者を人為的に呼び出す研究を始めたという。元々は自分を地球へ戻すための研究だったのだが、スポンサーの意向もあってまずはこちらに召喚するための方策を模索することになったそうだ。ってたしかこの人貴族じゃなかったか? お金に困るようなそぶりは見て取れなかったが。


「貴族といってもいろいろだよ。私は親から領地を継承しただけで、戦で功を成したわけではない。だが地球時代の発明をこちらで再現することで領民や土地を守った功績が認められたのは事実だ。現在は国防技術開発室の室長を拝命している。国王直属の独立組織だよ」


 なんかサラリととんでもないこと言ってますよこの人。オーバーテクノロジーとか導入しちゃったんですか? まじチートじゃないですかそれ~!


「概念を理解していても実際に使えるものは多くなかったよ。ヘリコプターを作ってみようと思ったが、魔力で飛んだ方が早いと言われてしまったしね。まぁそこらへんのことは後でゆっくり教えてあげよう。つまり私のスポンサーでもある国王陛下のご命令なんだ。『何としても来訪者をこの地に呼び寄せ魔力の枯渇した大地に潤いをもたらせ!』ってね。実際には各地をめぐって魔力を行使することになるだろう。そう難しく考えなくとも大丈夫だよ」


 ますます自分という存在はどうでもいいのか。でも戦力として期待されていないならありがたい。この世界の各地を漫遊していればいいだけっぽいし。随分気楽な任務のようだ。さしあたって危険が無さそうなのでちょっとほっとした。


「当面の間は君には魔力の使い方と、合わせてより大きな魔力を作り出すための訓練をしてもらおう。あと国王との謁見に備えて礼儀作法も一通り身に着けてもらうよ。これといって猶予があるわけではないが焦っても結果は得られない。まずは魔力を扱う基礎からじっくり学んでいこう」


 というわけで、しばらくは勇者見習いとしての訓練の日々になるようだ。やはりなんか魔法っぽく使えるようにないたいしね。



――



 私はホンジョーに予定していた説明を一通り終わらせる。さしあたって危険が無いと考えてくれたようで幾分安心している。昼まで休憩ということで今は客室に下がらせた。彼が話の通じる文明人で助かった。感情だけで判断する未開人だったらどうしようかと心配していたんだが、いろいろと策を講じていたが特に必要無いものだったらしい。これから先も使うことの無いよう願おう。


 彼に語った枯渇した魔力の回復方法だが実際にはあと1つ方法が残っている。禁忌とされる方法だが、国を維持するためには仕方なしとして過去にも執り行われてきた方法だ。実際問題として二百年もの間に魔力回復の方法がなければ世界は確実に死滅する方向に動いていただろう。魔力の枯渇だけが人々の死亡原因ではないのだから。


 ホンジョーはかなり平和な世界で暮らしていたようだ。礼儀正しさや柔らかな物腰、得体のしれない相手でも一定の敬意を払うことを忘れない態度からそれは知れる。だからこそ彼にこの方法は伝えてはいけない。きっと私たちのことを嫌ってしまうだろう。


 来訪者とは別に、本当に稀にだが特別な子供が生まれることがあった。この子供は魔力を持っていたが発することができず、忌み子として嫌われることが多かったようだ。だがこの子供は特殊な能力を持っていた。発することのできない魔力をひたすらに体内に封じ込めつづけ、臨界に達すると命を糧にため込んだ何倍もの魔力を放出することができたのだ。そう、来訪者とは違った『魔力を産み出す者』。時に巫女と呼ばれ神格化された扱いを受けたそうだがそんな例は稀だ。

 魔力を扱えない、だが生きていくうえで魔力は消費する。役立たずどころか世界に害をなす罪悪として周囲の罵倒と共にあらゆる不幸を一身に浴びて周囲を呪いながらその生を閉じる者が多いと伝えられている。実際、死にぎわに放たれる魔力は『呪い』とも呼べる災害をまき散らすこともあったそうだ。最後の最後で意趣返しをする形になるのだろうか? 呪いと言っても魔力は魔力。大地に溶け込み霊脈の流れに乗れば自然と浄化され大地の潤いの一部となったことだろう。


 この巫女を人工的に生み出し国土を豊かにしようと考えたものがいた。千五百年ほど前の国王、俗に<狂王>とよばれたその男は、失われた魔力を取り戻すために幾多の命を食いつぶした。時に敵兵を、時に捕虜を、時に奴隷を、時に領民を。一切の手心なく無慈悲に轢殺し殴殺し斬殺した。幾度か繰り返すうちに「感情の高ぶった瞬間に命を絶たれた時ほど人は多くの魔力を産み出す」と結論付け、それからはただ殺すのではなくいかに残虐に殺すかということに重点が置かれ始めた。爪を剥ぎ皮を削ぎ、むき出しの神経に塩を塗りこむ。その男に妻や娘がいれば目の前で犯し食らい、最後に男の両目を潰し女の断末魔を聞かせた後で殺した。ある兄弟は親を救うためと称してお互いを殺し合わせ、勝ち残ったものの心臓を親の目の前で取り出し食わせた。『最後の晩餐』と称されたこの処刑は文字通り血の涙を流し狂い死ぬ者も現れ、狂王を大いに満足させた。正に悪魔とも呼べる所業は、来訪した勇者によって鎮められるその時まで続いたという。


 人が減れば魔力の浪費は減る、しかも追加の魔力が生み出される。一見合理的に思えるが欠点もある。人口が減るということは国力が減るということでもあるのだ。人は自然に増えるとはいえ戦争状態の時と変わらぬペースで人が減るのは避けたい。国を維持するための最低限の人数というものがいる。それに国のためとはいえ文字通り命を捧げてくれるものは存外に少ない。最終手段として考える価値はあるが国力の低下の一点だけでも取るべき方法ではないことは解る。


 実際、私が当初取ろうとしていた手段は『来訪者として召喚したものを殺すことで魔力を得る』方法だった。これなら国力を衰えさせることも無く、最低の損害で最大の効果が得られるはずだった。彼の命を奪った時にあふれる魔力の暴走で例え山が一つ消えるようなことがあっても仕方がない損失と受け入れることもできただろう。だが私の予想に反してホンジョーは無限ともいえる魔力を持って現れた。そんな来訪者の例はどんな記録にも存在しない。もしかすると本当に無限の魔力を持っているのかもしれない。そんなものが命を絶たれた時、周囲に放たれる『呪い』がどんな影響を与えるのか? 考えるだけでも恐ろしい。ならば彼を存続させ、その魔力を国の為に使わせるよう教育すべきではないか? 私はそう結論づけることにした。


 なぁに、彼は理解ができる人間だ。利を諭し論を持って説得しよう。焦ることは無い。魔力は操られた意志には反応しにくいので彼の意思を縛ることはしたくはないが、最悪の場合にもどうにか言うことをきかせる手段はある。まずはこちらに従順な『勇者さま』として育て上げることだけ考えよう。すべては私の目論見とこの国の繁栄のために。



 これからのことを思いエディはククッと笑った。彼の思惑通りに物事が進んでいるように思える。すべてはこれからだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ