16. 龍のお宿の天空風呂
「で、あなた達は結局~どういう関係なの~?」
アティさんが真顔で突っ込む。まぁ普通に考えてもバランスのいいパーティって感じじゃないし、外見的に考えても子供2人に引率のお姉さんだし。
「といわれても、今の所は魔法学院の生徒グループって感じですね」
「ふうん、ならある程度~は使えるわけよね~? 魔力~。どんな風に使うことにしたの?」
デモンストレーションをしろということだろうか。流石にドラゴン相手では自慢にすらならない気がするが、ちょっとやってみるか。
立ち上がって深呼吸。少し落ち着いたところで魔力剣を呼び出す。
『ソード』
ちゃんと使えるようだ。流石にこれは練習したからな。
「なるほど~、案外理に適ってるわね。それしまえる~?」
「はい、問題なく」
魔力剣を元通り吸収する。放出しちゃう系じゃないので元に戻すのも簡単だ。
「ふ~ん、それなりにいい感じね~。そこまで使えるならあとはバリエーションをいくつか覚えれば実戦向きになりそうね~。多分だけど『剣』より『カタナ』の方が貴方向きだと思うわ。そっちの方が斬れそうな気がしない?」
たしかに刀だと何でもバッサリ斬れる気がするな。斬○剣みたいに。
「セイジロウも言ってたけど、剣筋っていうの~? なんか構えとか斬り方とか、サムライ~みたいな感じの方が馴染があるとか。まぁ私は~よくわからなかったけど貴方なら納得できるんじゃない?」
「えっと、こっちにはサムライっていないんですか?」
「いないわよそんなの~。だから納得しろ~と言われても困っちゃうのよね~」
世界が異なれば当然いないのかもしれない。まぁ日本の成り立ち自体が結構奇跡的な立地条件な気がするし。
アティさんが何か考えていたようだが、ポンと手を叩きこちらを見つめる。
「まぁ大体のところは解ったわ~。貴方の魔力量も想像はついたし~、それに合わせて練習場~は準備しないといけないから、本格的な訓練とか対策は明日にしましょ~。三人ともそれでいいかしら~?」
「わ、私たちもご一緒していいのでしょうか?」
ちょっと意外そうにノインが問いかける。リジーもちょっと予想外な感じだ。
その様子を見ながらニヤリとした顔でアティさんが続ける。
「当~然でしょ? というか貴方達がタカから離れる気~があるなら別だけど~ どうせそんなつもり無いんでしょうし~?」
「当然です! どこまでもご一緒すると決めましたから!」
「一緒にいないと困るんですよ。大切な私の魔力供給減ですし」
うん、リジーが身もふたもないことを言ったぞ。
「まぁ事情はどうあれ、タカと一緒にいるってことは~大なり小なり魔族~と関わるってことだし、それ相応に鍛えておかないとダメ~ってことよ~」
なんだかレジデスってのと関係無しに面倒には巻き込まれるの確定なんだろうか。
「魔族に目を付けられるのは~間違いないわね~。というかその指輪~だと思うけど、それでかな~り気配を抑えてるから、普通~に暮らしてる分にはほとんど可能性は低いとは思うけど~」
逆を言えば今でも可能性があるってことか。あんまりうれしい状況じゃないかな。
「まぁここはいわゆる結界~ってヤツの中だから安心して。たぶん使い魔~っぽいのもいたけど掃除しちゃったし~」
もしかしなくとも着地前にしていたアレだろう。知っていたというより習慣みたいなものかもしれないけど。
「でも、ここの場所が誰かに知られているってことじゃありませんか?」
「あぁ、場所がバレててもいいのよ~。入れないんだし~」
魔力の供給さえあれば許可のない物が立ち入ることができない仕組みらしい。よっぽどここの防御に自信があるのだろうか。どういう仕組みかはわからなそうだが。
「ここを出ても平気~になるのが一番。解ってはいると思うけどね~」
正直にいうと解っている気はしている、というあたりか。命の危険って程のことは……あったのかなぁ…… 自覚が無いあたりがダメな気はするな。なんと言っていいのかわからずに「はぁ」と曖昧な返事しかできないが、いずれはちゃんと考えられるんじゃないかと思う。
――
という訳で風呂である。檜としか思えない良い匂いの広々とした風呂である。ここはどこかの旅館か何かなのか? と疑いたくなるほどに立派なお風呂である。大きさにして十m四方はありそうだ。しかも露天である。空には満天の月、なんとも至福のひと時であろうか。
「セイジロウが是非~っていうから作ってみたんだけど~、貴方もお風呂、好きでしょ~?」
日本人で風呂が嫌いなのは結構なレアというのは思い込みも甚だしいと言いたいところだが、やはり風呂はいい。ダラダラできてしまう。こんな風呂は日本でもなかなかないぞ。
「ふぅん。これが本当のお風呂なのね。こんな量のお湯なんてどこから用意したんだか」
「あぁ、そこをひねると出てくるらしい。ホント万能すぎるよこの施設……」
うん、少し予想してた。
リジーが体を隠すように直ぐに湯船に飛び込んでくる。いやいや風呂に入る前は……まぁいいかそんなこと。
食器の片付けをしているから先にどうぞと言われたので、早めに上がるつもりだったんだがどうやらのんびりしすぎたようだ。やはり風呂は邪悪の権化か。思考が鈍る。
「大丈夫ですホンジョー様、お背中をお流しするくらいですから……」
体をタオルで隠しつつもノインも入ってきた。人様の家なのにこんなにフリーダムでいいのか俺ら?
「アティ様が一緒に入れと仰っておりましたので、なんでもお湯がもったいないとか」
やはりこれだけの量のお湯を作るのは大変なんだろう。簡単にやっちゃってる館があるけど。風呂焚きの手伝いはさせてもらわないとちょっと悪いとかのレベルじゃない気がする。などと言っていたらノインも隣に入ってきた。目のやりどころに困っていたのにこれでは正面以外見ることができないじゃないか。ヘタレですし。
「それと、お爺様のお話を少し伺うことができました」
「あ~、うん、結構遊び人だったみたいよ~」
やっぱりその話題か。そのせいで色々あったらしいという噂しか知らないのでなんとも言えないけど。
「でも最後には私を選んでくれたってアティさん凄い嬉しそうでしたね」
「最後まで生きてたって意味じゃなきゃいいんだけど」
もしそうだとしらた、どんだけ壮絶な人生歩んでたんだと言いたい。まぁ勇者とか言われちゃ勝手するのも難しいんだろうけど。
「色々と自分に厳しい方だったと伺いました。結果が出るまで諦めない方だとも」
「でも凄い優しいとも言ってたわよ?」
「あまりベタベタするのは好まれないとも仰ってましたね」
「そうね~ そのへんどっかの孫も一緒なのかしらね~」
いなくなってからそうとう美化されてなきゃいいんだが、というか二人で会話してるなら私を間に挟まないで頂きたい。
「ま、まぁ今後もお手柔らかに頼むよ。こんなことになった原因が私にあるのは自覚してるからできるだけ要望には応えたいと思うけど……」
「じゃぁ!」
ガバッと立ち上がってこちらに向き直る。リジーさん隠して隠して!
「いや、できることとできないことがあるから、あんまり恥ずかしいのはダメだから」
反射的に左手で顔を隠して見ないようにする。うん隙間から見えちゃうのはまぁアレとしてほらやっぱりね? 年頃の娘さんは慎みというかなんというかそういうのがさ。
「あのね~、そんなこといってコロッと死んだりするのが世の常ってものよ? 好きな時に好きな事をしないでどうするのよ?」
不満げに口を歪めながらデコピン一発。ちょっと痛いっすよ、お湯もかかるし。
「悪いけど簡単には死なないつもりだし、二人とも死なせるつもりもない。一緒にいてくれる限りってことになるけど。何しろこの世界についてほとんど何も知らないんだ、今のところはこの程度で勘弁してよ」
これ以上一緒に入っているとのぼせて大変なことになりそうだったので早々に引き上げる。
「あぁ、お背中流しますよ~!」
「いいから、あ、でもあんまり長湯してのぼせないように注意してね~」
と振り返りもせずに風呂場を後にした。
――
流石に熱いかな。ちょっと長湯だったのか少しのぼせ気味だったので夜風にあたれそうな、広間の方まで戻ってきた。ちなみに寝る場所も事前に聞いているのでそっちに行ってもよかったんだが、あまりに月が綺麗だったのでよく見えるそうな場所を探していたというのもある。
広間から中庭を望む窓が大きく開け放たれていた。ちょっとした縁側っぽい感じだな。そこでアティさんが一人月を眺めていた。
「どうだった~? 我が家自慢~の風呂は。なかなかでしょ~?」
「はい、良い風呂でした。あそこまで本格的なものとは思いもしませんでしたよ」
「でしょ~! セイジロウと精魂込めて作った特製~の風呂だから。明日からタカに掃除とかしてもらうから覚悟~しておいてね~?」
シシシと聞こえてきそうなくらいに豪快に笑うアティさん、なんかカッコイイな。ちょっと頬が赤いところを見ると酔っているのかもしれない。
「あぁ、タカもいく?」
とぐい飲み風の小さな徳利みたいなものを差し出してくれた。お断りする理由もない、一献頂こう。
大きな瓶から継がれる無色透明の液体。トクトクトクと音が出そうだ。おっともったいないちょっとこぼれそうだ。ついもったいなくて口ですすってしまう。想像していたがこれは日本酒だな。爺ちゃんどんだけ頑張ったんだか。
「セイジロウの酒。特にこれは良くできたものってことで、とっておきなの~」
あまり呑む方ではないが、これは結構キツい方だと思う、いわゆる辛口というタイプだろうか。日本酒は辛口でとか言う人もいるが楽しめればそれでいいと思うんだ。だから好んで飲むのは甘口のばかりだったんだが、これが爺ちゃんの酒か。そう思うと感慨深い。かなりキツいんだろうか、風呂上りな上に体は子供だから、そこそこにしておかないと後で大変そうだ。
一般にドラゴンは酒好きとよく言われている。彼女もその類に漏れない酒好きだとすると、普通だと飲みきってしまいそうなもんだが取って置きってくらいだし相当大切にしていたに違いない。なによりあの美味しそう、というか嬉しそうな笑顔だけで一杯いける、そんな雰囲気だよ。爺ちゃんもいい女に惚れられたもんだなぁ。
「飲むのは死ぬ時くらいと思ってたんだ。でもね~、うれしいじゃない。セイジロウの孫と会えるなんて~。こんな嬉しい日に呑まないなんてもったいないし」
こっちに来ただけでこんなに喜んでもらえるなんて思って無かった。それだけ爺ちゃんが愛されてたってことだろう。ちょっとだけど爺ちゃんが羨ましいとか思ってしまった。
「まぁこれもタカが新しく作ってくれると思えばのことよ?」
いきなり高すぎるハードル設定されましたけどどういうことですか~!
「なに、百年とか余裕で待つから安心してね~♪」
すいませんそんなに時間かけらんないと思うんですよ、人間の寿命的な意味で……
――
「ところで一つお願いがあるんだけど、いいかしら~?」
改まった感じでこちらを向いたアティさんが言葉を切り出す。
「はい? 何でしょうか?」
「簡単、記憶を見せてくちょうだい。まさか記憶が無いとか言わないでしょ~?」
本来なら脳に記憶ってあるんだろうけど、なんか記憶って魂と一緒にいるみたいなんだって。このへんあまり考えて無かったけど。特に記憶の欠落とかはない。流石に子供時代の記憶には自信がないがこれとは無関係だろうか。
「そりゃまぁ昔のことまでと言われると自信ありませんけど」
「ならいい、ちょっと失礼するわね~」
何か反応する前に、既に彼女の顔が目の前にあった。更に迫りより、ついには……
「む、むぐ!」
下あごを掴まれ強引に唇を重ねられつつも抵抗ができない。重ねた唇から舌がのび、混乱した私の舌をからめ取って執拗にねぶりまわす。お酒を飲んだせいか思考がはっきりとしない。だが口といわずアティさんから漂うなんだか甘い香りにしびれたように身動きができない。なんだか頭の中をかき混ぜられているような、口から何か流れ込んでくるというか、なんか体ごと吸い取られているような。言いようのない気持ち良さが全身を支配していた。
「……んっ! ハァ…… うん、ありがと~♪」
時間にしてどれくらいだろうか? 五分くらいか? いやもっとか? 実際には短い気もするが。呼吸をするのを忘れるくらいに気持ち良かったことしか覚えていない。
「いやぁ地球では結構ゾンザイな扱いだったんだね~セイジロウ。やってる事を考えたら当たり前~なんだろうけど、地球の女ってのは案外度量が狭いのかしら?」
遊んでたことについてだろうか? 日本は比較的平和だからこちらよりも家庭に重きをおいているって話だと思うんだよな。
ってあれ? そんな事話してないけど、いわゆる記憶を見たって奴ですか?
「そういうこと。ちょっと楽しませてもらったけど~」
そうおちゃめにウィンクしてみせる。うむ、可愛い。
いやいや誤魔化されてどうする。
「すいません、できればああいうのは避けて頂けると……」
「あれ? もっと直接的な方がよかったかしら~? なんならセイジロウ仕込みの業を……」
興味はあるんですが勘弁してください。いや興味はあるんですけど。
「すいません、そういうのは、せ、先約がありまして……」
「そうそう、私達が先なので。こればっかりは譲れません」
風呂から出てきたんだろうか、ちょっと上気した肌が色っぽく見えて色々やばい。
「まだ手を付けてないみたいね~ まぁセイジロウも最初は何もして来なかったのよ? で、どうやったか知りたい~?」
「はい! 是非!」
「……お願いします」
ホントにもうその辺で勘弁してください! 何でもはしませんが。




