13. 伝わらなかった一通の手紙
とにかく大急ぎで帰る必要がある。籠は置いていくことにしたが、手紙だけは拝借していくことにした。ここに来た証拠でもあるしこれについて龍神様に伝えるべきことがありそうだからだ。
来た時の反省で、鳥居をくぐるときは浮いた姿勢で突入した。
予想通り、御山の鳥居の魔法陣の上に到着。普通に突入していたらまたクッション代わりにされるところだった。
「ノイン、この柱をこの形のまま起き上がらせて欲しいんだけどできるかい?」
「はい、おまかせください。ついでに倒れないように補強もしちゃいますね」
物体操作はノインに任せておけば安心だろう。なにやら集中しだすと、地面から岩が隆起。徐々に鳥居を持ち上げて立ち上がらせることに成功した。ついでに補強の柱がたてられてしっかり地面に縫い付けられたようだ。
歩いて鳥居に近づくと目の前に魔法陣が現れた。機能も問題ないみたいだし、これなら通っても大丈夫だろう。念のために手を出したりとか一応往復してみるが問題なさげだ。
既に昼を過ぎているようだ。まだ明るいが時間が惜しい。すぐに飛んで戻ることにした。村長宅の裏庭へ急降下だ。多少騒がしくなったが勘弁してもらおう。
「何事ですか皆さん! あれ? 戻ったと報告は来てなかったと思いますが……」
そこまでいいかけてあわてて口を塞ぐ。なんか隠し事できないんじゃないかこの人。追及している時間が惜しいのでそのまま要件を伝えよう。
「龍神様にお会いできませんか、今すぐです。とても大切なお話があります」
何事かと問い詰められたが、こればかりは龍神様に直接伝えなければと頑なに拒み続け、次第にしぶしぶ了承を得た。本来なら屋根の穴から強襲したいくらいだったがそこまですると村長さんのメンツが立たないし仕方ないね。
慌てて二階に駆け上がる。ノックもそこそこに龍神様のいる部屋に入っていった。
「なんですか騒がしい、どうかしたのかい?」
よかった、龍神様ははっきりしてるっぽい。
一緒に遊んでいた姉妹には事情を説明して退席してもらった。
「あぁそうだ、コレは返しておくよ。ありがとう。これが無かったらどうしょうもなかったよ」
「そうなの? 良かった役にたったのね」
「うん、約束守ってくれたのね!」
そういって部屋を出ていく二人を見送りながら、改めて龍神様へと向かい合う。
「あら。あの子達はどうしたの? それに貴方達だけど、どこかで見たような」
意外にしっかりしてないようだ。まぁ仕方ない。早速用件を切り出そう。
勝手に拝借してきた手紙をちゃぶ台の上に出しだす。
「先ほど勝手にお邪魔して持ち出してきた物です。まずは無礼をお詫びします」
深々と頭を下げる。龍神様は驚いたようで声も出ない。
「この手紙ですが、貴方宛てのものでよろしいのですよね? アティ様」
ゴクリと息を呑む音が響いてくるようだ。
「アティ…… そう、あの人は私をそう呼んでいたわ……」
先ほどまでの雰囲気が少し変わったように感じた。やはりこれは彼女宛て間違いなのだろう。
「この手紙、どうしても読めないのよね…… あの人も故郷の字で書かなくてもいいじゃないって思ったものよ……」
非常に残念そうに、深々とため息交じりにそう語る。多分彼女も解読しようと相当努力をしたに違いないと確信していた。一緒にあった日本語メモは綺麗にまとめてあったのに、龍語とおもわしきメモはちらばっていた。メモを読めればそこまで苦労はしないだろうにと思っていたが、ただせさえ日本語は難しいというのにテキストも無しでは無茶というものだ。
「今から手紙を代読したいと思います。勝手ですがご容赦下さい」
ちゃぶ台の上から手紙を取り中の紙を広げて見せる。
やはりこちらも綺麗に折りたたまれていた。内容はこうだ。
~ ~ ~ ~
アティへ。
恥ずかしくて語ることもできなかったが、最後にこれだけは伝えておきたい。
ありがとう。お前を愛している。死してもそれだけは変わらない。
本庄清次郎。
~ ~ ~ ~
読み終えると、龍神さま……アティ様は両目に涙を浮かべていた。
「あの人が…… セイジロウが…… 本当にそう書いてあるのですか……?」
いつにない真剣な眼差し。どんなことをしてでも知りたいと思ったであろう手紙の内容だけに、彼女の表情は真剣そのものだ。
「はい。間違いありません。これは日本語で書かれています。私の国の言葉です」
「そう…… ありがとう。本当にありがとう。あの人はとうとう口にしてくれることの無かった言葉だけど、書き残してくれていたのね……」
手紙を手渡すと両手で抱きしめる。
「お願い、貴方の名前を教えてくれないかしら? 恩人の名前を知らないなんて悲しいことをしたくは無いわ」
涙を拭いて少し落ち着いてからそう口に出した。
「はい、私はホンジョー……」
いや、ここでこの名を名乗るのは失礼だろう、ちゃんと本名を名乗ろう。素性も含めて。
「いえ、私の名前は本庄孝明。 清次郎の地球での孫です」
――
「セイジロウの孫!? しかもかの地の!? どういうことなの!?」
やはり両手をガッチリとホールドされてしまった。
しかも今回はリジーまで一緒だ。
「ちょっと待って! ホンジョーって名前は嘘なの!? タカ……ってなによ!?」
すいません落ち着いてください二人とも。
しばらくしてノインの仲裁もあり二人が落ち着いたあたりで話を切り出した。
「筆跡がどうこう言うわけではありません、確証があるわけでもないんですが、やっていることや色々と書き留める癖。それにあの達筆っぷりは多分間違いなくうちの爺ちゃんです」
子供の頃にしか合ったこと長いのであまりハッキリとは覚えていないが、よく物を書いていたりしていた。読書家なのか色々と本を集めるのが好きで新しいことを試すのが趣味だった。やたらかっこいい文字だなぁって関心してたんだ。
いつだか酒を造ってみたいと色々調べていたり、その為に色々と手配していたのを手伝わされたと親父からグチされた記憶がある。そう考えればあのメモの束の知識にも納得がいく。麹の正体についても知っていたんだろう。ただどうやって作るかについては知らなかったんだろうけど。
「爺ちゃんの葬式の時ですけど、親戚が噂してたんですよ。棺が空だったって」
実際のところは失踪したってことらしい。子供の頃だったしこの話題については誰も教えてくれなかったのでちゃんとは解らない。既にお婆さんも亡くなっていたのもあってなんの未練も無かったんじゃないかとか噂されてた。
元々親戚筋、それも何故か男性とはあまり仲が良くなかったらしい。若い頃はそうとう遊んでいたために色々なところで要らぬ恨みを買っていたとか。そんな性格だが女受けは何故かよかったみたいだ。おかげでこういう集まりで相手をしてくれるのは親戚でも叔母さんとかお姉さんばかりだった。ちょっと恥ずかしい思いをしたことを覚えている。
「もしかするとこちらの世界に転移してきちゃったんでしょう。まさか私までコッチに来ちゃうとは想像もしてなかったと思いますけど」
こちらが説明している最中、龍神様がしきりに匂いを嗅いている。
「う~ん、日本語を読めることやセイジロウの事を知っているところから疑いようもないのだけど、貴方の血の匂いって、ちょっとセイジロウとは違うのよね…… でもちょっと似てるかしら?」
「あぁ、元々このノインの体なので…… 私は魂だけ召喚されてしまったんですよ」
「魂だけ?」
なにやらジッと見つめられている。目の色が文字通り変わって金色に輝いているのがわかる。
「……あぁ! ホント! セイジロウにそっくり!? 間違いないわね」
「そんなことよりホンジョーって本当の名前なのよね?」
リジーが我慢できずに口を挟む。う~んやっぱり嘘じゃないんだけどなんか気が引けるな。
「当然嘘じゃない。でも全部じゃなかったんだよ。ゴメン。騙したみたいになっちゃって」
「ホンジョー様を責めないであげてください。迂闊に本名の名乗るのはよろしくないからとのご判断で……」
いやそんなこと言っちゃうと君だけ知ってたってバレバレじゃないですか!
「う~~ん、まぁいいわ。ノインちゃんは記憶を共有してたんだし仕方ないけど、ちゃんと教えて。なんていうの?」
胸倉掴まれてまで問いただすことなんだろうか、ちょっと前後にゆするのまではやめてください。
「あ、はい。本庄孝明。家族にはタカとか呼ばれてた」
「そう、タカねタカ。うん。覚えた」
やっと動きが止まり手を放してくれた。ちょっとどころかかなり苦しかったんですが、ちょっとくらい非があるので我慢しよう。
「あ、でも人前ではホンジョーで通してくれない? リジーにはともかく他の人にまで教えるつもりはないんだ」
「そ、そうよね。こういうのは信頼できる人くらいにしか教えないものよね。うん。わかった」
いや、恥ずかしいのはこっちなんだけどなぁ。まぁいいや。
「ほんとうにセイジロウの孫ね~。あの人ソックリ」
なんだかものすごく飽きれたような、それでいて優しい目になった龍神様がポツリとつぶやく。
「あの人もね、結構優柔不断な癖にイザって時は結構ちゃんとするのよ? でも勇者とか言われるのは嫌いでね。年を感じ始めてからは二人であそこに籠りきりだったのよ」
というかいつも以上にシッカリしてるな。もしかするとボケが止まったか? 思い出作戦は意外に良好だったみたいだ。
「まぁそろそろこの年恰好もしなくていいかしら。ちょっと待ってね~」
立ち上がって目を閉じる。途端に周囲に赤い光がこぼれ……気が付くと長髪の美女に姿が変わった。
……
で、でかい。
――
腰まで伸びた艶やかな赤い髪、身長は170くらいだろうか、自分より二回りは確実に大きい。キリッとした目じりとほんのり引かれたリップのピンクがナチュラルな感じで、一言で言って美人だ。これまであった中でも一番じゃないか?
そしてデカイ。百cm余裕で超えてるだろ。服の上からこぼれそうになってて非常に魅力的で、って二人の視線が怖いからこれ以上は頑張って見ないようにしないと。なんて難しいクエストなんだ。
「セイジロウに合わせて同じような年に姿を変えてたんだけど、なんか外見に引っ張られちゃったのね~。最近あんまり考えがまとまらないか変だと思ったのよ~」
変身してたらボケまで進むとかどんな魔法だ!
ってあれ? もしかしてクエスト完了? やほう! これで帰れる!
……いやダメだろ。あの黒いの、レジデスといったか、について報告しなければならんはずだ。
「すいません、実は、お宅にお邪魔している時に……変なヤツが出てきたんです……」
中で出会った謎の魔族。そして奪われた宝石らしい物について説明した。
「あら…… う~んちょっと困った事になったかもね~」
「やっぱりかなり貴重なものだったんでしょうか?」
「あぁそっちは大丈夫。あの宝石は私の魔力の一部を封じ込めてみた試作品みたいなものよ~」
あの魔力の塊が試作って、どんなパワーの持ち主ですか。
「対策、っていうか対策ってほどのものでもないわね~。ちょっと待ってて~…… えい!」
右手で作った握りこぶしに力を籠めてなにやら呟く。
どこかでポンと小さく音がしたような……?
「うん、これでOK。魔力を暴走させて爆発させたからもう使いようが無いわ~」
盗まれるくらいなら爆発させちゃうってどういう……
「思考がまともじゃなかった時なら訳もわからず放置してたんでしょうけど、まともに戻ったならちゃんと対処するわよ~。そもそもあの家にすら入れてないし~。というかタカはどうやって入ったの~?」
鱗の髪留めを借りて鳥居を潜ったことを説明する。
「あぁ、あの子達のを借りたのね~ それなら良かった。あの手段以外だとかなり面倒になったはずなのよね~。せっかくだし貴方にも渡しておきましょ」
というと懐に手をのばしてなにやら取り出した。鱗の指輪かな? 正面が鱗のようだが透明感のある赤でルビーにも似た光沢を放っている。あまり大きすぎない上品な感じの指輪だ。
「鱗を渡されても困るだろうし指輪にしてみたわ~。これを付けていてくれれば問題ないはずよ~」
といって手渡してくれた。なんか指輪コレクションがどんどん増えるな。
「しかし、爆発させたってことはもう問題は無いんじゃないですか?」
紛失しても問題ないなら他の問題があるってことだろうか?
「問題は、むしろ貴方の事なの」
えぇっとつまり、大変なことになっているのは私の方ってことですか?
「聞いてると、ちょっと変な相手に顔、というか名前を知られちゃったんじゃないかと思うのよね。魔貴族とかだったかしら~? よく知らないけど上位の魔族だと思うのよ~。つまりそういう存在に目を付けられた可能性があるってことかしら~」
えっと、それってかなぁり面倒なことに…… ノインやリジーまで巻き込まれることになったら本気でヤだな……
「まぁ私のせいみたいなものもあるし、ちょっとウチに来てくれない? なんか対策考えるから~」
ウィンクしながらそう言われると断りようが、いやそれ以前に断ったところで有効な対策なんて考え付くはずもなく、素直に提案を受けさせて頂くことにした。
うん、絶対に胸をガン見したせいじゃないんだ。ホントなんだよホントだよ。だからリジーさんノインさん、そんな目で見るのはやめてくだちぃ。
というわけで実は異世界転移ものなんですよね。
ホンジョーのお爺ちゃんがなんですけど。
ちなみにアティさんが巨乳なのはお爺ちゃんが巨乳派だからです。
ホンジョーの信条は「人にはそれぞれ似合うサイズがある。大小など二の次」という、つまり節操無しです。




