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12. 龍神様の御山

 装備は簡単に、『棒』と固定具だけにした。いちいち椅子に固定とかしなくても長距離の移動をする訳ではないし、サッといってガッっとやってパパッとしちゃった方がいいんじゃないかな。うんテキトウに言ってる。


 村長さんには村の周辺を調べてみると伝えておいた。知らないハズの『御山』へ向かうと言ってしまえば、彼女ら姉妹との『約束』を破ることになる。多少遠回りだが、森の奥から飛んでいけばそう変わらないだろう。


 出かけざまに何人かの村人とすれ違う。挨拶をしてみるが基本的に無口・もしくは敵意にも似た視線を向けられた。今まで来た冒険者の同類とでも見られているのだろうか。まぁ仕方ないね。


 森に入ってからしばらく歩く。方向は当然テキトウだ。まぁ意識して山の方は避けたけど。


「何人かつけて来てたけど、そろそろいい頃合いじゃない?」


 想像していたが見張りはついてたか。そのために森に入ったようなもんだし。腰に『棒』を固定して、二人は棒から直接ベルトを伸ばして固定させる。


「それじゃしっかり捕まって」


「はい!」


 次の瞬間にノインが抱き着いてきた。言った手前外させるのも厳しい。ちゃんと飛べるのかこれ?


「あら? じゃぁ私は……!」


 リジーも悪乗りして抱き着いてきた。だから首に手を絡めるんじゃありません!


「ホンジョーがしろって言ったんじゃない。だめなの?」


 これ見よがしに胸をずりずり押し付けてくる。お願いだから飛ぼうよね? いや気持ちいい的な意味じゃなくて。


「リジーさん、ホンジョー様がお困りですから……」


 ナイスフォローだノイン!


「……はいはい、じゃ、続きはそのうちね?」


 首に回していた腕は胸元に移動してくれた。んまぁこればかりは仕方ないか。


「じゃ、行くよ」


 コントローラを調節して木のちょっと上くらいの高さまで飛びあがる。一気に移動したので誰かが見ていても消えたようにしか見えまい。そのまま木の上スレスレを移動するように大きく旋回しながら『御山』を目指して文字通り飛びながらの移動だ。


 あまり高いところを飛ばないのは、この体制での飛行は慣れてないので万が一を考えてだ。木の上スレスレなら目撃される率も少ないと考えてだが、もうちょっと高くを飛んだ方が安全だっただろうか。

 まぁ誰かに見られても「大きな鳥」くらいにしか思わないだろう。たぶんだけど。



 しばらく飛行すると『御山』のふもとにたどり着いた。周囲をグルッと囲むように簡単な柵が覆っていた。立ち入り禁止の聖域なのだろう。そりゃ村人以外に伝えちゃいけないハズだわな。


 柵を飛び越えしばらく周囲を探してみるが、山腹にはそれらしい建物が見当たらない。


「あとは山頂ですね」

「それくらいよね。崩れてなきゃいいけど」


 二人もキッチリとしがみついた姿勢で周囲に目を配らせていたが、やはりこのへんには何もなかったようだ。

 結論も出たようだし、と一直線に山頂に向けて飛行を開始した。



――



 山頂手前で着地した。とりあえず二人には離れてもらおう、というわけでベルトも外させてもらおう。


 山頂には、祠というか鳥居のような形の大きな石の門?のようなものがあった。ただし倒れていたが。


「多分これが祠だと思いますけど、この岩の形に意味があるんでしょうか?」


「鳥居を作ろうとしたのかもしれないなぁ。地球のものだね」


「こんな風なの?」


「いや、色は赤いけどこ立てておくものなんだよ。今は倒れちゃってるけどね」


 自然に倒れたんだろうか。流石にこれではどうしようもない気がする。ノインにたのんで起こしてみてもいいかな。

 鳥居の状態を確認するついてで表面いに何か文字が見えた気がしたので埃を払おうと近づくと、胸元で何かがカタカタと音を立てていた。あぁ、あれか。懐から組み合わせブローチの鱗を取り出すと、一瞬光ったと思ったら鳥居のあったところに魔法陣が出現した。これが入口かな。


「ホンジョー様!」


「うん、これみたいだね」


 鱗を持っていないと一切反応しないんだろう。倒壊した状態でも反応するのが素直に凄いな。


「よし、飛び込んでみる」


「ちょっと待って危険じゃない!?」


 いかにも怪しげなという感じで警戒した様子のリジー。対照的にノインはなんだかおもしろそうな感じでのほほんと覗き込んでいる。本来ならちゃんと警戒すべきなんだろうけどね。


「なに、あの龍神様が子供に渡したものだ、危険とは思えないよ」


 むしろ安全だと思う。あの人、というか龍はちゃんと守るべきものを守ることを知っているみたいだし。あんな状態になっても村を守ってるんだ。


「それじゃ行くよ!」


 私は勢いを付けて魔法陣の中心に飛び込んだ!



――



「うがっ!」


 飛び込んだと思った次の瞬間、背中から地面に叩きつけられた。

 なんだこのトラップ! ちょっと息がつまる。もろに打ち付けたからな。


「わ~~~!」

「ホンジョー様~~!」


 二人の姿が自分の真上に突然現れた。当然下敷きだ。


「あたたた! ってホンジョーなにしてんの?」

「だ、大丈夫ですかっ!」


 うん、大丈夫じゃない。すいませんけどそろそろ上から、というか顔からどいてください。



 どうやらだが、移動するときに体の向きが変わっていたようだ。地面に浮かんだように見えたので特に変に思って無かったが、後ろを向くと同じ形の魔法陣が崩れていない鳥居の間に浮かび上がっていた。勢いよく飛び込んだおかげでスライディングの姿勢で転送されたみたいだ。あの鳥居は直さないとダメっぽいぞ。


 周囲は晴れ渡っていた。雲一つない晴天というやつだ。どこに移動したんだろうか?風もなくポカポカと暖かい日差しが心地よい。龍神様もここにいればひがな一日のんびりできそうなもんだが。


 正面を少し進むと小さい建物があった。石造りのその家は簡素な平屋、二階建てという感じだ。このサイズは間違いなく人間用のソレだな。周囲は大きく開けていて、たぶんドラゴンがここで寝っころがるとかそんな場所だったんだろうなぁという感じだ。


 玄関に扉は無くそのまま素通りできた。ここまで来てしまうとセキュリティもなにもないんだろうか。

 入ると広間だろうか、結構な広さの部屋に出た。

 あれ? この家って外見と中身のサイズが違くね? どんだけオーバーテクノロジーなんだここ。


 広間中央にはソファーとテーブルらしきもの、窓際には畳とちゃぶ台らしきものがあった。うん間違いない、この地にいた勇者は日本人だ。

 キッチンと思われるところがかなり散らかっていた。何か色々とやってみたような感じだろうか。所々にメモというか紙切れが飛び散っていた。


「えぇと、これはなんでしょうか。ちょっと読めないです」

「私もこんな字は知らないわね。ホンジョーは何かしらない?」


 落ちていた紙を手渡される。が、見当もつかない。何か複数の記号が重なったような印象はあるが、元になったものを知らなければ『複雑な幾何学模様』としか思えないだろう。この様子からすると龍神様のメモじゃないかな、多分だが龍語だと思う。色々と確かめていたんだろうか、かなり書きなぐってあるものもある。綺麗にそろえて書かれているものあるんだが、研究がうまくいってなかった頃のだろうか。


 部屋の隅にふと目をやると、なにやら箱のようなものがあった。

 大きさにして縦横一m、高さ四十cmくらいだろうか。木の皮で編んだであろうそれは、竹籠を思わせた。何かひっかかるな。


 その籠をそっと開けると、中には綺麗に整理された紙の束が置かれていた。紐でちゃんとくくられて、油紙のようなもので包まれていた。

 また、中には三十cm四方くらいの黒い箱があって、厳重に封がされていた。


「なによこの箱、こんなに厳重に閉まってあるってことはかなりのお宝?」


「待てリジー、それは開けちゃダメだ」


 ナイフを取り出して開けようとしていた彼女を止めて箱を取り上げる。危ない危ない。確かにこれはお宝だが迂闊に開けていいものではない。



 なにしろ箱の表面に『日本語』で『米麹』と書かれているんだから!



「えぇとつまりコレって相当貴重なものなのね?」


「中身を確認できるわけじゃないから何とも言いようがないけど、多分間違いない」


 一緒に入っていた紙を調べてみると、まず気が付いたのが全て『日本語』で書かれていたことだ。当然だがリジーには解らない。ノインにも『見たことがある』程度の認識しかないようだ。記憶が共有されていたとはいえ学習まで共有できないんだろう。


「とにかく何が書かれているか読んでみる。二人は他の部屋を調べて似たようなものが無いか探してくれないか?」


 二人に探索をお願いしている間にこちらはこちらの仕事をしよう。



――



 書かれていた物は『米麹』を作るまでの苦難を綴ったものだった。

 麹とは言ってしまえばカビや微生物といったものらしい。その中から食品に利用できるものを選りすぐったものだそうだ。

 普通に腐らせたものや、口の中の雑菌を繁殖させてみたりとこれでもかという感じでありとあらゆる努力の結果、満足のいくものを探り当てたらしい。実に三十年にも及ぶ研究の集大成だそうだ。

 流石は日本人、食へかける情熱は恐ろしいものがある。

 米麹の増やし方から始まって、味噌や醤油、酒の造り方までが示されていた。これはヤバい。この国が根底から変わりかねない。食文化的に。米はあったからオニギリの作り方くらいはまだいいだろう。だが味噌とか醤油とか、日本酒なんてものを持ち込んでしまったらどうなるのだろう?


 (まず間違いなく、生産責任者にされてしまう!)


 私は面倒は嫌いなんだ。自分で楽しむ範囲だけでどうにかできないか。うぐぐ。


 メモの最後に名前が書いてあった。ちょっと予想外だっただけになんだか一瞬判断がつかなくて混乱してしまった。龍神様に聞くことが増えてしまったな。



 籠の底に一枚、一通の手紙が出てきた。表に「あていへ」と書かれている。あていへ? …… あぁ、『アティへ』か。カタカナで書けがいいのに。もしかすると龍神様のことかな。勝手に見てはいけない気がする。


「ホンジョー! こっち来てよ! なんかあるんだけど!」


 裏庭だろうか? 外からリジーの呼ぶ声がする。

 風で飛び散らないようにちゃんと籠に戻して蓋をした後で小走りに駆けつけると、裏にはの隅に小さな柱が立っていた。


「コレ。なんだと思う?」


 柱には何か書かれているようだが、あいにくなんと書かれているかさっぱりわからない。だがこの状況から察するに誰かのお墓と考える方が自然だろう。

 自然に両手を合わせて黙とうする。最後を看取ってもらえたんだろうか。この様子なら一人じゃなかったんだろう。少し安心した。


「一通り調べたし、龍神様に聞きたいこともできちゃったし。戻ろうか」


「まぁまぁそんなに早くに戻らなくてもいいでしょ? お礼もしたいところですし」


 反射的に声のした方向へと顔を向ける。

 そこには、一人の黒づくめの男が立っていた。


「やぁ初めましてかな? このドラゴンの住処に入るのに苦労してたんだが、君たちのおかげでなんとか来れたよ! いやぁありがとうありがとう!」


 オールバックできっちりとまとめた髪、鼻眼鏡をかけたほっそりとしたいわゆるイケメンだ。だがその腕は異様に長い。その伸びた手を使って器用に帽子を取りこちらに挨拶してみせる。


「……あんた……魔族か?」


 二人が私の背後に集まる。目配せしてとっさの攻撃にも対処できるように臨戦態勢を整えさせる。


「いかにも! わたくしは魔族の中でも上位の存在であるところの魔貴族の一人! 名をレシデスと申します。貴方のお名前を聞かせて頂けませんかな?」


「ホンジョーだ」


 こちらの名を聞いたとたんに片目をキッと見開いた。何かとんでもないものを見つけた商売人のような感じだ。


「ほほう、ホンジョーを名乗りますか! ただの人間にしては魔力がおかしいとは思いましたがが、もしや勇者の血縁か何かかな? ちなみに名前をお聞きしたんだが、教えて頂けないのですかな?」


 む、苗字を名乗っているのがバれてるのか。もしかしてメジャーな名前だったんだろうか。だがここはシラを斬りとおす。


「ホンジョーだからホンジョーだ、それ以上でもそれ以下でもない」


 こちらの返事に目を細めて笑い始める。そんなにおかしいのかぉぃ?


「いやはや失礼、なにか勇者に縁のあるかたらしい。できれば殺しておきたいところだが、今日の私はとても上機嫌だ」


 レジデスが懐に手をのばし、中から大きな宝石を一つ取り出した。

 陽光にさらされて一層輝きを増したそれは、まるで小さな太陽のように眩しく周囲を照らし出す。よっぽど強力な魔力が込められているのだろうか、魔力を物体のとどめるのはかなり困難なはずなんだが、どういう原理かさっぱり想像もつかない。


「いやこんな貴重なものが手に入ったのですからね。今日は見逃して差し上げます。まぁ次にあったらどうなるかはわかりませんが、せいぜい頑張りなさい! それではさらばです!」


 一瞬ゴオッ!と風が舞い上る。あまりの風の勢いに目をとじてしまったが、次の瞬間にレジデスは姿を消していた。


「ホンジョー様……」


 ノインが見た目にも痛いほどに力を籠めて私の服を掴んでいたようで、やさしく手を握りながら放してあげる。魔法は使えても魔族と対峙するのは別問題だろう。しかも当人曰く上位存在らしい。いったいどんなバケモノなんだか、あまり想像したくないな。


「っていうかあの宝石って、間違いなくここから盗まれたものよね。どうするホンジョー?」


 どうするもなにも、龍神様に相談するしかないだろう。彼女がちゃんと話を出来る状態ならいいんだけど。

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