08. 村祭りの夜
慌てて逃げ出してきたので服も適当に掴んだだけだが、まぁ上下そろってるから問題あるまい。棒のコントローラーは置いてきてしまったけど逆にそっちの方が安心だし。
念のため財布を二つに分けておいたのが役に立った。これだけあれば少しは暇が潰せるだろう。えっと銅貨8枚に銀貨2枚か。十分すぎるな。しかし、下手にプレゼントとか買って帰っても逆効果かもしれない。いやぁもうどうしたものか……
宿の主人に挨拶をして外に出る。喧嘩でもしたのか? と声をかけられたが愛想笑いで誤魔化しておく。本当のことを言ったらなんと言われるかわかったもんじゃない。
外に出ると結構明るい。なんか夜店や屋台みたいなものが出ててお祭りみたいだ。なんだろう、こうちょっと楽しいっていうか、お祭りって意味も無くワクワクしてきて困る。
ちょうど小腹も空いたことにしてみるか、ってなわけで適当に屋台を散策していると串焼きを出しているところを見つけた。
「上手そうな匂いだね~ 何の肉?」
「これか? こいつぁサンソックの肉だ。脂身が少ないけどなかなか旨いぞ~」
よく知らないが鳥か何かかもしれない。フェイントでカエルって可能性もあるけどまぁ見たまんまって訳でもないからいいだろ。
「よくわかんないけど、おっちゃん一本くれる?」
「あいよ! 銅貨2枚ね!」
「なんか高くね? 二本買うからまけてよ」
「ん~、まぁいいか。子供は食わねぇとな! ほら二本で銅貨三枚だ!」
確かに外見は子供なんだよな。まぁしょうがないか。
ついでだしちょっとこのへんの様子でも聞いてみるか。
「しかしさ、今日ってなんかお祭りでもやってるの? こっち来たの初めてでよくわかんないんだけど」
「あぁ、今日なんだけど領主様の息子の婚約が決まってな。そのお祝いって訳だ。まぁあのドラ息子にゃぁ悪いがこれでちぃとは大人しくなってくれんだろ!」
へぇ、流石に領主の息子ともなるとお祝いせにゃならんのか。
「というかアレだな。ここんとこ良いニュースが無かったから、他の連中も鬱憤がたまってたんだろうさ」
「いいニュースっていうとアレですか? ジャングレア村の……」
と聞いたとたんに、こちらに手招きをして小声でしゃべりだした。
「そうそう、ジャングレア村のドラゴン騒ぎさ。あれのおかげで旅行者もさっぱり寄り付かないし。行商の馬車も来る回数が減ってほとほと困ってんだよ。こっちはまだ遠いからそれほどでもないけど、村の方まで行くとかなり寂しいことになってんぜ」
やはりドラゴン被害は解決していないみたいだ。どうやって対処したらいいのか見当もつかない。
「そのドラゴンってどんな奴かって、聞いたことありません?」
「そうだなぁ、眉唾もんだが体長二十mはあるでかいバケモンだとか、牛とか家畜が根こそぎ浚われたとか、村長の家の屋根が丸ごと吹き飛ばされたとか、そんな話は聞くな」
あれ? 死者とか出てないのか?
「怪我人の話はけっこう出てるけど死人てのは聞かないな、最初の頃は人を浚ってるって噂もあったけど、森で迷子になってるだけだったしな」
あれ? なんか脅威でもなんでもないんじゃね?
「バカ言っちゃいけねぇよ、『ドラゴンが暴れてる』ってだけで十分害悪なんだ。実際家畜の被害が出てるのは疑いようがないしな。そんなの追い払えるヤツなんてめったにいねぇ。本当なら軍隊が出張ってもいいくらいだが、あそこの村人は特殊だからな。どんなことさせる訳もねぇ」
ドラゴンになんか思い入れでもあるんだろうか? 宗教とかなにか。そのへん店主に聞いてみたけどはっきりとは教えてくれなかった。串二本では情報料として足らんか。
ダメなものは諦め、店主にお礼を言った後で串を食べながらブラブラとうろついてみる。
明るいといっても広場とその周辺の店だけのようだ。これだけの明るさを維持してるってのは相当の魔力を使っているに違いないと思ったが、このへんの屋台の店主等が協力して維持しているようだ。広場の中心にある大きな柱に時々人が近づいて手をついている。ああして魔力を供給してるんだろう。
行きかう人の波を道端でのんびりの眺めながらモシャモシャと串を食う。よくよく考えなくても一人で行動するのって久々だな~。
一本食い終わったのでもう一本と思ったら、既に半分ほど肉が消えていた。
超スピードとかチャチなもんじゃないんだぜ?
と後ろの方に悠然と立ち去る一匹の猫?の姿が目に入る。アレか。あれがやったのか!
黒猫だろうか、大きさは普通の猫と一緒に感じる。艶やかな毛並みが月明かりに照らされて青白く輝いていた。印象的なのはその目。オッドアイっていうんだろうか、左目の青と右目の赤がひときわ輝くように見えた。色系統が完全に違うってのも凄いな。
一言で言ってキレイ。二言でいって凄いキレイって感じだな。
黒猫がこっちを見ながら何か言いたげにしていたが、あいにくとネコ語は語尾にニャを付ければいいってもんでもないのでさっぱりわからない。
最初は串を投げつけて追い払おうかとも思ったが、肉が半分ほど残っているしなんだかもったいない。かといって自分で食べる気にもなれないので、黒猫に見えるように串の先端を地面に刺して置いていった。土まみれの肉を食いたくはないだろう。串を差し出しても大人しく食べると思わなかったし、こうすればなんとか食べるだろう。
立ち上がり二・三歩動いたところで後ろから「にゃぁ!」と鳴き声が聞こえてきた。たぶんお礼のつもりなんだろう。几帳面な奴だ。
まぁそれはさておき、そろそろ宿に戻ろう。
途中に酒場があったのでちょっと覗き込んでみたんだが、この外見のためか「子供は帰れ!」と追い返された。まぁ酒が死ぬほど好きって方でもないからいいちゃいいんだけどね。
帰り道に、思いのほか旨かったので帰りにまた串を二本買ってから戻ることにする。色気より食い気でうまく避けられるといいんだが。
――
宿に戻る扉を開ける前から二人の話し込んでいる声が聞こえてきた。流石に内容まではわからないが二人とも不仲ではないみたいで一安心だ。
部屋に入る前に一呼吸置く。流石に何も考えずにドアを開けられるほどいい度胸はしてないからね。一応ノックをしてからドアを開けた。
「おかえり~ ってどこいってたのよ」
「いきなり飛び出して行かれたから心配してたんですよ!」
ちょうど洗い物をしていたところだったらしい。野宿の時は不用心すぎてできないので宿にいる間に済ませるのが基本だそうだ。まぁ野宿でも必要があればするそうだが。お湯を二つ頼んだ理由でもある。体を拭いた後のお湯を使うそうだ。
手洗いした後で魔法を調節して乾かしている。完全に乾かすところまではせずに多少湿ったくらいであとは自然に乾くのを待つ方が布地が傷まずに長持ちするらしい。完全に乾かすとどうなるのかと聞いてみたが、カサカサに乾いてガビガビになるらしい。そりゃぁ気持ち悪いかもしれないな。
いつの間にか私の下着まで綺麗に洗われていた。まぁ脱ぎ散らかしたんでしょうがないけど。なんか無性に恥ずかしいなもう。
逃げ出したことについて何か言われるかと思ってたけどそんなに責められるわけでもなくちょっと安心した。多分だが気を使ってくれているんだろうか。このままこんな距離を維持してくれても、いやそれだとちょっと寂しいな。微妙すぎてはっきりしないが、今はまぁ勘弁していただきたい。
多少ぎこちなくお土産の串をノインに手渡しつつも、聞いてきた話を二人に放し始める。領主の息子の結婚話、ドラゴン被害のこと。こうやって情報を伝えることにすれば、食い気に頼りきるよりもより安全?でいられる気がしたんだ。いわゆる二重作戦って奴だね。領主の息子についてはほとんどスルー。興味も無いらしい。
「なんか想像してたのよりも面倒っていうかヤッカイな感じね」
「ドラゴン退治という感じでもなさそうですけど、どういうことなんでしょうか?」
二人とも想像と違ったって反応だが、まぁ予想よりは難しいことでも無さそうで少しほっとした感じだ。というか人死にが出てないと聞いて安心したのかもしれない。
「できればドラゴンとは会話で解決したい。村の近くに居座っているってのは何かやりたい、もしくはやらせたいことがあると思うんだ」
「単に人の食べ物を欲しがってる可能性ってのもあるわよ。家畜とか盗んでるみたいだし」
「だとすれば、村の家畜を奪いきったら移動して別の村なりに移動してるだろ。あの村付近にいたい理由があるはずなんだ」
これ以上はただの憶測だな。実際に村に行って聞いてみればいいだろう。
「しかし、そっちより気になるのはあんたが見たっていう『猫みたいなもの』の方よ」
「そう? 黒くてなんか綺麗だったよ?」
「黒くて赤い瞳でしょ? モロに魔族の特徴じゃない! よくそんな危険そうなもの見て綺麗とか言ってたわね」
そんなのがあるのか。特に指摘もされなかったし気にもしなかったな。黒猫が目の前を通り過ぎると不吉とか言うけどそれってただの偶然とかだろうし。多分猫を見入った人が事故って失敗とかしてたんじゃないかな。
「それに、目の色がそれぞれ違う猫っていうのも聞いたことありません。何かあっても困りますし警戒すべきじゃないでしょうか?」
ノインに言われるとちょっと気になるな。まぁどっかの野良猫だろうしもう会うこともないでしょ。
色々あったけど今日はこのまま寝ることになった。ちなみに一人ずつ別のベッドでだ。
二人は二人で、なんだか追い立てるのは良くないという結論に至ったらしい。有難いやらもったいないやらで色々悩んだりするが、まぁほらあれだ。ガッカリさせたくないし。
考えていても仕方ない、とっとと寝よう。明日は明日でまた長距離移動だ。
――
ぼんやりとしていた、なんだか夢見は悪くなかった気がするんだ。
ノインを助けてから以後、あまり夢らしい夢を見なくなった気がする。このへんは肉体との接触が関係あるのかとも思ったが別にそういうこともないらしい。きっとあれだな、新しい生活に慣れるために必死だったんだろうとか思ってみる。
そもそも夢に見たところで気軽にメモを取れる生活でもないから、というか何かしらあるわけでもないしどうしようもないか。夢に見るほど地球に帰りたいとかじゃなくて返ってよかった気さえする。
元の生活からは全く違う世界になっちゃったなぁ。自分で言うのもなんだけど、こんなアクティブな生活に耐えられるとは自分自身でも思っていなかったんだ。結構平気で野宿とかしてたし。あの時は必要に迫られてだったからしょうがなかった気がするけどね。
案外こういう生活に向いていたんだろうか。現代社会においてこんなサバイバルを前提とした人生なんて考えられないからなぁ。でもそろそろ漫画とかアニメとかゲームとかがちょっと恋しくなってもいる気はする。まぁ無理だよなぁゲームの再現とか。
等と寝ぼけた頭でぼにゃりと考えながら、うつらうつらと目が覚めてくるとなんだかいい香りがするのに気が付いた。うすぼんやりとした目でよくよく見てみると、ノインの顔がドアップで迫ってくるじゃありませんか! いや君は自分のベッドで寝とけよ!
思いの他に距離が近くて朝からドキドキしていると、心臓の鼓動が聞こえでもしたかのようにノインも目を覚ました。
「お、おはようございます……」
リジーを起こさないように小声でささやくように挨拶を交わす。なんかこういうのっていいな。まぁこうしててもいいんだがあんまりのんびりしていられないので起き上がろう。
ちなみにリジーの寝相は悪い。起きる頃には頭と足の位置が入れ替わってるなんてよくあるほうだ。緊張感があると全く動かなくても済むらしいが、ひとたび安全と判断するとダメらしい。ちなみに今日はベッドから上半身だけズり落ちていた。腹丸出しでひどい寝相だ。美人なのになぁ。
そのままにしておくのも可愛そうなので、ノインにお願いして起こしてもらった。自分は寝たふりだ、というか見ないことにしておいた方がいいだろう。ノインもベッドから移動させられるし一石二鳥だね。
ガタッと大き目の音が響いた後でしばらくごそごそ動く気配がする。そろそろいいかな? 物音に気が付いて起きてきたふりをするかな。
「お、おはよう! よく寝れた?」
「おなよう、今日も一日移動になるけど頑張ろうか」
「おはようございますホンジョー様!」
さぁ今日は忙しいぞ。
――
朝食は宿では取らずに移動中に頂けるものをと準備してもらうことにしておいた。早い時間に移動した方が、飛行移動を目撃される危険性が少ないと考えてのことだ。
「なんだ随分早いね、言われたようにお弁当は準備したけど何か食べてかなくていいのかい? 簡単なスープくらいなら出せるよ?」
どうやら朝の店番は奥さん担当らしい。朝食の仕込中だったのか、エプロン姿でお出ました。でも右手の包丁はしまっておいて欲しかったかな。
とりあえずもう出立するとの連絡をすると、せっかくだからとこちらの用意していた水筒にスープを入れてくれた。あんなでかい具のスープではなく普通のコンソメっぽいものだ。保温できればいいんだけど、移動中に温める手段を用意しとけばよかったよ。
帰りも寄りますと一言伝えてから出発する。まだ朝も早いせいで人影もまばら、今のうちと早々に街道へと向かう。
門を抜け、しばらく道なりに歩いた後で周囲を見回し誰も追ってきていないことを確認してから森に入る。森の中を三十分程進んでから飛行体制を整える。準備しながら朝食を軽く済ませるがスープはある程度残しておく。小休止の時に頂こう。
ちなみに飛行体制を取る時の手順だが、
1.倒れた丸太等の段差を見つけてよっかかるように中腰の姿勢を取る。
2.丸太の上を利用して椅子を準備。『棒』に固定して二人が椅子に座る。
3.椅子と棒と座っている二人が腰にベルトをまきつける。
4.準備が完了したら上昇を始め、姿勢が安定したら飛行を開始。
腰に巻いたベルトと棒の間には五十cmくらいの余裕があるので姿勢を変えるのは難しくない。このベルトは大人が三人くらいぶる下がっても平気だそうで、魔獣素材は色んな意味でチートだと思わせる。
どちらか一人が落下した場合は、バランス取りのためにもう一人は反対に飛び降りるようにお願いしている、が、そういう事態にならないようにしたい。
さて、今日の夕方までには村に付きたい。この装備なら文字通り一っ跳びだし、なんとかなると思うんだ。ただ飛びあがった時に森の中に見えた黒い影、あれってあの黒猫っぽかったんだけど気のせいかな?




