33. 一つの結末
※すいません今回も時系列がヘンテコで読みにくいかもしれません。ごめんなさい。
学院に戻って2日目の朝。
気怠いが少し心地よい感覚。あぁ俺、今から二度寝するんだ……
ぼんやりと意識が微睡む時を、フライパンを叩く甲高い音が残忍に切り刻む。
「起きて下さいホンジョー様! もう朝ですよ! いくら昨日まで大変だったとはいえ、学生として学ぶべきことはいくらでもありますよ! ほら早く起きて下さいまし!」
妖精ノインがふわふわと飛びまわり、私を起こそうと必死に訴えかける。
なんだろう。前より随分元気になった気がするな。気のせいかもしれないけど。
――
少しさかのぼろう。
ノインが意識を失った後、ウィル先生は残念そうにつぶやいた。
「申し訳ないがもうこの体はダメだよ。すっかり機能が破壊されてしまって、この状態では手のほどこしようがない」
それはノインの死を意味する。
思わずウィル先生の胸元を掴みかかってしまった。冷静では無かったとはいえ短慮なことをしたと思う。
「ホンジョー! だめよ! 師匠に当たらないで! まだ他にも策があるはずよ!」
リジーが必至に手を放させようとしてくれていた。でも自分は冷静に戻れなかった。
こんなに必死に頑張ったのに。どうしてノインを助けてくれないんだ。
そんな考えで頭がいっぱいだった。
騒ぎを聞きつけて学院長とバートランド先生も集まっていた。
だがそんなことお構いなしに私は叫び続けた。
「お願いです! お願いですからノインを助けて下さい! お願いですよ!」
息が苦しそうになって必死になにかを訴えかけてたような気がするんだが、そんなウィル先生の様子を見る余裕もなかった。
「というわけで一時的にノイン君の魂を妖精ホムンクルスに移そうと思う、それでいいかな?」
え?
「いやほら、人間体の方に入れておくと魂まで損傷しかねないからね。妖精ホムンクルスは幸いにしてまだ保存してあるから問題はない。というわけで君に異存が無ければすぐにかかるけどいいかな?」
た、助かる…… のか?
「はいはい、手があるならとっとと始めてもらいましょう、いいわよね? ホンジョー」
「う、うん。 お願いします。 ノインを助けて下さい!」
数分後、学院長がプラスコハウスごと妖精ノインを持ってきてくれた。
何やら装置やらケーブルやらを接続し、あっという間に準備が完了。念のため確実に魂を移送するために準備だそうだが、本来なら必要のない装置らしい。
妖精ホムンクルスの保管は、学院長たっての願いで彼女の部屋に記念に置かれていたらしく、いつもは見たことも無いようなフリフリのドレスを着飾った状態だった。
細々とだが私から魔力供給が続いていたおかげでこちらの体が維持されていたらしい。たまに例のネックレスを外していたおかげで結構微妙だったらしいんだが。
魔力の流れが繋がっていたおかげもあってか、精神的なチャンネルが繋げやすかったようだ。とはいっても実際にはかなりの綱渡りだったみたいで、エディ邸であそこまで状態が悪化していれば流石に妖精ホムンクルスへ転送することは不可能だっただろうし、奴隷契約が途切れた今、自分の体にノインの魂が宿る保障もなかったそうだ。ほんとに大ピンチだったんだな。
そんなわけで、翌日はノインノインと叫ぶ私の真似をするおばちゃんにからかわれまくったりと大変な目にあった。
ウィル先生には先にかけたご迷惑と合わせてとんでもないことをしてしまった。つい土下座までしてしまった。
「えっと、そういう謝り方は知らないんだが大きな誠意は感じるよ。まぁ任せてくれたまえ。3日もあればなんとかなるから」
ウィル先生も許してくれたんだろうか、単にリジーの視線が怖かっただけかもしれない。
まぁとにかくこれで一安心。ってことになるのかな。
――
結局そのまま倒れるように寝込んでしまい、次に目が覚めたのは昼過ぎになっていた。なんだか体がドロのように重い。単純な疲労ではないようだ。
「そりゃあれだ。体も魔力も酷使したからだろう。本当に無茶しやがったんだな」
『板』の扱いについて一しきり絞られた後でバートランド先生が教えてくれた。
よっぽど過酷な状況にでもならない症状だそうだ。まぁ無茶をした記憶はある。でも後悔はしない。
あまりにひどいので今日明日と2日ほどの休養を命じられた。
「こんな無茶、繰り返してると死ぬぞ? やっちゃったもんが仕方ねぇが、ちゃんと疲労を抜くのだけは忘れるな。今度は守らないとブチ殺すからな!」
いや殺さないでくださいお願いします。
「だがリジーから聞いたよ。あんまり時間が無かったわりにはよく工夫してたな。しかし聞いてる限りじゃちょっと効率の悪いものも多い気がした。今度はそこらへんを少し見直すことにしよう」
ここの先生たちは学院長さんも含めて非常に面倒見がいい。どうしてこんな得にならないようなことを率先して行ってくれるんだろうか。
「バートランド先生、少し伺ってもよろしいですか?」
「あん? 今から特訓とか禁止だぞ? いったばかりなんだからあせんなよ」
あわてて両手をふって否定の意志をあらわにする。流石に訓練はしばらく勘弁願いたい。っていうか殺されたくないし。
「いえいえ、そういうことじゃなくて、なんでこんなに親身になって教えてくれたりするのかと思いまして。ぶっちゃけ先生方にメリット無いじゃないですか?」
つい聞いてしまった。一方的に甘えっぱなしになっているのがとても気になっていたんだ。
「あ~、それだけどな。別に見返りとかそういうのはどうでもいいんだ」
少し真面目な雰囲気になってきたな。いつもの体育会系のノリっていうか空気じゃなくなってきた感じだ。
「俺の体もこうする前は色々あったんだ。それこそ周り中に散々迷惑かけてきた。特にウィルのヤツとかにな。んでも周りに教えてくれる人がいたらもうちょっといい方向に向いてたと思うんだよ。ヤツとももうちょっとはいい関係だったかもしれん」
先生の体はやっぱり何かあったんだろうな。この体型はあまりに人為的過ぎるし。しかしそうするとウィル先生と何があったんだろう?
「ま、過去の話はいいやさ。俺はもう後悔したくないしさせたくないんだ。見込みのいい生徒がいて、そいつが才能を使いこなせずに潰れていくとか見たくないんだよ。だから俺は厳しくするし激しく当たる。外でまともに生きていけるくらいにはしてやらんといかんし。それが俺のここでの使命だ。それが理由じゃだめか?」
色々と突っ込みどころはあるが、この先生に敵意も悪意もないことは解った。これからも厳しい指導をお願いしよう。いつか恩に報いるために。
――
そういう経緯もあってやっと初めに戻る。
いいかげん起きるからと言ってベッドから起き上がるとやっとフライパン連打をやめてくれた。魂インストール済だと行動制限がほとんどなくなるらしい。便利だけど頼りたくないな。気分としてだけど。
いつものように朝食を頂いていたところをウィル先生から呼び出しを受けた。みんなそろって来いとのことなのでちょっと期待して先生の書斎へ向かう。
「いやぁ待たせたね、なんとかノイン君の体の修復が終わったよ!」
あれからほとんど徹夜状態での作業だったらしい。どうりであまり見かねないはずだ。っていうかどうしてそんな事に……?
「いやぁリジーがしつこいんだよ、『一刻も早く元に戻してあげてください』ってな感じで一時間ごとに様子を見に来るもんだからもうウットオシクッテ…… いやはやうん。まぁ実際にはほとんど作り直しだったからもうちょっと様子を見て安定させてからの方がいいと言ったんだがね」
どうやらリジーの強烈なプッシュにとってウィルさんが強制労働を強いられていたようだ。
「大丈夫、師匠は優秀なんだから。サボるのが玉に瑕ってなくらい。だからあの人が『出来た』といったらちゃんとできてるの。心配しないでいいわよ」
ということらしい、すごい信頼だな。流石に師匠と仰いでいるだけはある。
では早速ノインを元に戻そうと、全員に実験室へ移動する。前と同じ地下にある例の部屋だ。
流石に二度も同じ失敗を繰り返さないようにか、今度のノインはちゃんと服を着ていた。布一枚みたいなもんだけど。少しガッカリである。
いえ、リジーさん睨まないでください死んでしまいます。
ノインと一緒にフラスコハウスも持ってきている。妖精ホムンクルスを改めて保管という名目で学院長に預けるためだ。絶対、学院長の趣味だと思うけど。
「それじゃノイン君はリラックスしてね。前にも転移させてるからそんなに難しいことはないはずだよ」
妖精ノインが目をつむる。
ガクッと力なく体制を崩した。意識が消えたのだろう。
咄嗟に抱えてフラスコハウスの中へ。いつの間にかベッドルームの横壁に扉が追加されてたのでかなり楽だった。たぶん学院長の細工だろう。
妖精ノインをそっと寝かせると、ほどなくして人間体ノインが目を覚ました。
「よし、安定してるみたいだね。お帰りなさいノインちゃん」
なんだかずいぶんアッサリと終わったな。今回は私が何かする必要すらなかったっぽい。そのうち自由に入れ替われるようになったりしたら…… いやいや、そんな道具を使うみたいな発想はやめよう。
ウィル先生の呼びかけにすこし恥ずかしそうにノインが頷く。ちょこっとお辞儀をしたあとで、おずおずとした感じで私の前にやって来て喋りだした。
「……ご迷惑をおかけしました、ホンジョー様」
もじもじとなんだか申し訳なさそうにしている。そんなこと言う必要すらないと思うが、何か伝えないと彼女も納得できないだろう。
「何も気にしなくていいんだよノイン。私に何かあったら全力で頑張ってくれるだろ? それと同じだよ。ノインは私にとって大切な仲間なんだから。既に奴隷と主人という立場じゃないし。というか契約は切れているんだ。だから私の前でかしこまったり、様付で呼ぶ必要すらないんだよ」
既に彼女は自由なんだ。方法がわかれば体を返すことだってしたい。まず今の態度がいかに無用かを説得してみる。
「でも、ホンジョー様はホンジョー様です。今だから正直に言いますが、私は奴隷だから貴方に従っていた訳じゃないんです。お願いですからこれからも一緒にいさせて下さい!」
泣きそうな顔で言わないで欲しいなぁ。どうせ断るわけないのに。
「うん、まぁちょっとわからないけど君に嫌われないうちは一緒にいよう。魔力供給についても今後は考えないとね。当面はいやでも一緒にいてもらう。それでいいよね?」
「はい! よろしくお願いしますねホンジョー様!」
なんだろうこの輝くような笑顔。こんな風に笑っていてくれるなら、いつまでも一緒にいていいのかもしれないとちょっと思ってしまうじゃないか。
――
元に戻ったノインと、なぜか服を掴んで放してくれないリジーと一緒に学院長さんのところへ挨拶に行った。
今回の顛末とかけた迷惑に対するお詫びのためだ。
「ふむ、魔族ですか、そういうことになるとは思っていましたが、対策はうまくいったみたいで何よりでした」
『ネット』の発案は実は学院長さんだ。影から出てくる特性を見抜き光で包んでしまえばということで効率的な方法を色々と考えてくれた。問題は明るくするだけで物理的な攻撃力は皆無になってしまった点だろうか。
「あれはあれで色々応用できますよ? もっと範囲をしぼって、相手を拘束できるくらいの強度を与えれば一瞬のうちに捕縛魔法として通用します。多分誰も破れないんじゃないでしょうか?」
なるほど、覆う範囲を『部屋』から『人』に狭めるのか。それなら魔力も少なくて済むな。余剰魔力で色々応用が仕込めるかもしれない。
「あとはあれですね。攻撃ばかりで防御・迎撃面が全く練れていないのが問題でしょう。攻防一体の万能タイプを目指すのが理想だと思いますよ」
必ず攻撃できる状況にいるとは限らない。防御に徹しながら相手の手の内を読み裏をかいての反撃! そんなテクニカルなタイプになれってことだろう。相変わらずハードルが高いなここの教師の要求は。
一通り魔力の使い方についてちょっとしたアドバイスをもらった後で、改めてここ数日の事態に対するお詫びをさせてもらった。
「ご迷惑のおかけどうしで大変申し訳ありませんでした」
3人一緒に頭を下げる。ノインなんか土下座しそうな勢いだ。
「いいのよ、貴方たちは私の生徒ですからね。手助けするのは当たり前です。むしろよく貴方たちだけで決着させました。そのことを誇りに思いますよ」
そう言われるとホッとする。今回の一番の被害者は学院長さんじゃないかなと思うし。
「しかし損害が出ていることは変わりません。そこで、何日か休養の後に、貴方たちには仕事をしてもらうことにいたします。ちゃんと稼いで返して頂きますからね?」
まぁそういうことになるよな。ある程度は覚悟してるけどどんなことをさせられるんだか……
ついお互いの顔を見つめあってしまったが、リジーやノインは特に何でもないって顔をしていた。もしかすると、オラ一人でやれってんですか?
「えっとね、なんでかわからないけど昨日あたりからやたらと依頼状が届くようになったのですよ。普通はこういう問題は『冒険者ギルド』が請け負うものなんですけど、そっちじゃ片付かない問題と判断されたのかしらね。ちょっと待って頂戴ね……」
机の裏に箱が置いてあるようで、それを持ち上げて中身を机の上に大きく広げた。羊皮紙かな? スクロール状にまとめてあるものや、いわゆる手紙のように丁寧におられまとめられているもの。中には随分と擦り切れた古臭いものまで、どうしてこんなにというくらいドッサリと用意されている。
「全部が全部やらなきゃいけないってことはないから安心して下さい。というか随分放置してたんだけどそろそろ無視できない量になってしまったのですよ。
えっとこれはどうかしら?『竜の被害が出ているのでなんとかしてほしい』ってのはジャングレア村の村長さんからですね。
『原因不明の熱病対策』ってのは西部教会のズヴァン支部長さんから。
『奇怪な植物が大量発生、駆除をお願いする』これはえっとどこのだったかしら、海辺の大きな町からの依頼ですよ。
他にもいろいろあるけど、どれか気に入ったものはあるかしら?」
学院長さんの目がとても楽しそうだ。うわぁリジーみてぇだよこの人。ぜって~いじわる好きだろこれ。
元々学院の生徒の『外部講習』という名目で一般的な冒険者と呼ばれる人が扱うにはやっかいな仕事が回ってくることがあるらしい。
学生が扱うのだからと最初はとても簡単な仕事ばかりだったそうだが、生徒が調子にのってハッスルした結果、選りすぐりの難題が持ち込まれる最後の希望的な存在になってしまったそうだ。どんだけ優秀なんですか先輩たちは。中には貴族としても名を上げるために形だけ参加して、お付きの冒険者に全て丸投げというケースもあったらしいが。
「ここに来る前に一度冒険者が手配されているものばかりですからね。実際には書面にあるほど緊急性の高いものではありませんから、その点はご安心なさい。連絡が来ていないだけで解決してるものも中にはあります、その場合はバカンスみたいなものですよ。報酬は出ませんけど旅費は出ますから安心してくださいね」
ここまで古い依頼書だと絶対間に合わないと思ったが、そういうこともあるのか。じゃぁわざと古そうなのを選んでみる手もありかも?
「ただし、長年放置されているものの中には結局誰も解決できなかった難題になっているものもありますからね。よく考えて頂戴ね」
世の中そんな上手く行かないか。流れとして受けるのは確定っぽいな。
しばし考える。ノインは復帰したばかりだしあんな怪我をさせたくない。やはりそういう所に連れて行きたくないんだけどな。文句言われそうだけどちゃんと釘を指しておくか。
「依頼を受ける場合、やっぱりノインは」
「ご一緒しますよ! 私はホンジョー様といつまでも一緒にいると決めましたから!」
「いやノインには危ないからやっぱり」
「まさかお嫌いになったのですか? 私は嫌いになんかなりません。だからご一緒するんです! いいですよね!?」
「でも危」
「いいですよね!?」
服を掴んで必死に訴えてくる。のびる! のびちゃうから!
そのふくれっ面は可愛いんだけど、もう絶対言うこと聞いてくれないって顔してるし。
横でケラケラとリジーが笑う。貴方も他人事じゃないんですからできたら説得の手伝いをしてほしいんですよ?
「だめねぇ、もう無理。一生離れる訳ないわ。まぁあんたが守ってあげればいいんだから問題ないでしょ?」
なんか楽しそうな、いじわるしたそうな目だ。この世界の女性は潜在的にもSしかいないのか?
「ま、本当にヤバくなったら私が助けてあげるから安心なさい。もともと貴方を一人にする気なんてさらっさら無いんだから……!」
リジーまで私の服を引っ張り始めた。どういう状況だ。なんか顔が真っ赤だし。
結局この状態からビリッという服の悲鳴が聞こえるまで硬直が続くことになる。
受ける依頼についてはまた後で決めることになったが、出発するタイミングだけは決まった。七日後にするそうだ。それまではこれまでの反省と復習や使った技の改良に充てることにしよう。
まぁ、ダメなら逃げればいいだけだし、この二人と一緒ならなんとかなるさ。




