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31. ノイン救出作戦(後編)

 気が付いた時には日もすっかり落ちていた。どれくらい寝ていたんだろう?


 伸びをして体をほぐす。魔力も随分回復しているみたいだし、これならなんとでもなるだろう。


 急にガザガザと音がしてとっさに振り向くが、『箱』の中では外の様子はあまりわからない。キッチリと(リジーに)カモフラージュしてもらったはずなんだけどなぁ……

 藪をかき分けて来るこの魔力の感じは……


 予想とは違って、十才くらいの少年が姿を現した。

 地元の子だろうか? というか日も落ちたこんな時間にどうしてこんなところに? まさか刺客か!?


「ちょっと怖い顔しないでよ、私よ。リジー。 ってそうねちょっと待って」


 少年がシャツをめくる。肌を晒したそこには何か入れ墨のようなものが覗いていた。それを指でこするように動かすと、少年のシルエットみるみるうちに変化し、リジーの姿へと変わっていた。


「前に教えたでしょ? 姿を変えるのは私の特技よ? というか貴方の魔力のおかげで随分とスムーズに変われるようになった気がするわ」


 リジーは子供の姿に化けての聞き込みや偵察等を行ってきてくれたようだ。本当に彼女は有能だな。どうやってお礼したらいいのか見当もつかない。

 というわけで偵察情報を教えてもらうことになったが、彼女によると脱出前とは随分と変わってしまったらしい。


「まずなにより驚いたのは屋敷の使用人の姿がほとんど見られなかったことよ。十人以上はいたはずなのに誰も出入りする様子が無いの。暇を出されたというわけでもないらしいし、運び込まれる食糧が減っているっていう話もないし。多分中にいるんだと思うけど……」


 あの屋敷をエディ君一人で世話するとは思えない。むしろ世話をするとは思えない。何かしら起こっている、もしくは何かしら起こったと考える方が自然だろう。


「それに領内の人がここ数日の間に何人も行方不明になっているって話よ。突然フと居なくなっちゃうらしいの」


 そう聞いて連想するのは、学院内で襲いかかってきたあの黒い手だ。アイツがいることは想定していたし準備もしている。だがあいつの最大の能力は『感知に引っかからない』ってことだ。


 通常の魔力の流れをしたものなら私やリジーに検知できないものは、多分無い。半径十以内なら正確なポーズまで理解するだろう。例え目をつむっていても魔力の流れさえ視れれば問題は無いない。

 だがヤツは違った。出現する直前までその存在を知らせず、知覚した時は既に遅いってことになりかねない。そんなことにならないよう考えてきたが、うまくいくんだろうか。


「まぁ色々とウワサはあったけど欲しい情報。つまりノインちゃんの居場所について一切わからなかったわ。存在も知られていなかったからこそ突然現れればどこかで目撃されてウワサになってると思ったんだけど。これが意味することはただ1つ」


 言いたいことはわかる。まず間違いなくエディ君宅にノインがいるってことだろう。どこか別の場所に囚われているのかもしれないが、今日このタイミングでそれはないはずだ。なにしろ大事な交渉相手、つまり私に対する切り札になりえる。そんな大事なカードを手元から放すとは思えない。


「よし、早速行動を開始しよう。リジー、もうちょっとだけ手伝って欲しいんだけどいいかな?」


「ここまで来てなに水臭いこといってんのよ! 三人一緒に帰るのよ!」


 作戦は至極単純だ。エディ君は私がどんな能力を得たかを知らない。せいぜい魔力を放出する程度だろう。そこでこの力は極力隠すことにした。切り札は最後まで見せない方がいいに決まっている。それまでは魔力の放出のみで切り抜けるようにしたい。


 捕まったふりをして潜入とか考えたがどんな細工をされるかわかったものじゃない。余計な小細工など講じる暇は無かった、と思わせるためにもここは正面突破だ。相手がペースを握る前に混乱させ、隙に乗じてノインを助ける。そのうえで何かしらの言質がとれれば万全なんだが。さてうまくいくかな?



――



「いやちゃんと間に合うもんだねぇ。馬を飛ばしてギリギリってあたりを見越してたんだが、いやさすが勇者の器。よく来てくれた! いやよく戻ってきたというべきかな? というかもしかするとちょっと背が伸びたかい? 君の魂に合わせて体も成長を始めたという可能性もあるね。いや相変わらず興味深いね君は!」


 以前と別れたままの子供の姿でエディ君は現れた。口調や態度は以前のままだが、表情がどこか鬼気迫るものを感じる。自分がいない間に何か起こったことは間違いなさそうだ。


「ホンジョー。君が逃げ出したおかげでこちらは大した損害だよ! 子供のままでは領民に示しがつかないと思っていたんだが、操っていた元締め連中を使ってうまくしのぐしかなったよ。ま、リジーも連れてきてくれたんだし、また元に戻すのにそんなに時間はかからんだろうとも!」


 なんだかすごくうれしそうだ。本当に自分の思い通りになると信じてるようにさえ思う。


「元に戻せないだろうって? いやそんなことはないぞ。私の血統魔術はどんな制約をも可能とする。勇者だって従えてみせるさ! 何せ勇者はお優しい。今の私にはけして逆らわない……」


 パチンと手を鳴らすと、エディ君のそばの地面の一部から何か黒いものが染み出し地面を染める。そこから浮かび上がってくるのは、椅子に座った状態で縛られたノイン。汗ばんで息苦しく喘いでいたが意識は無いようだった。なんだか病的に肌白くなっている気さえする。

 大きく反応はしない。だが何かされているのだろう。首に巻かれた黒いロープのようなものがなんとなく怪しい。露骨に黒い魔力を放っているし。


「ほら、君の奴隷。いやお姫様かな? 9号だよ。彼女を返してほしいんだろう? じゃぁこっちのお願いを聞いてもらわないとな」


 地面のシミは既に消えていた。どんな魔法だ? というかそもそもエディ君にはそんな魔力はなかったはずだ。誰かの、というか十中八九アレの仕業だろう。だが考えていてもしようがない。話を進めるか。


「ノインを返してもらおう。それは私の物だ」


 物扱いするのは忍びないが、エディ君にそれを強要したところで意味はないだろう。


「んまぁそれはそうだが、それについてはちょっと提案があるんだ。こいつを見てくれ」


 エディ君は一つの布袋を取り出した。中には何か入っているようだが、ゴロゴロとした音が響く。石か何かのようだけど、それがどうかしたのか?


「これは君と9号の奴隷契約時に使った契約板の欠片だ。砕け散ったものを回収しておいたんだ。これを手にあるキーワードを唱えることでこの契約を無効化できる、といったらどうする?」


 どうする……ってそんなの考えてないよ。そもそも知ってて選んだ契約じゃない。ノインの同意もあったもんじゃない。あっても無くても扱いは変わらない。


「そんなものに意味はない、9号……いやノインはノインだ。私のかけがえのない仲間だ。それ以上でもそれ以下でもない」


 ちょっと恥ずかしいセリフだが心からそう思っている。だから助けに来たんだ。

 そのセリフを聞いて、エディ君は頭を抱えて笑い出した。


「いやちょっとまて、奴隷だぞ? 奴隷なんだぞ!? どうやったか肉体を与えてやっているところからかなり愛着が湧いたのかもしれんが、あれか? そんなに良かったのか? 英雄色を好むとは本当だったんだなぁ!」


 うわマジで性格悪いなコイツ。どんだけひねくれてやがんだ。


「しかし体が変わったからかな。魔力を放出できるようになってるのは意外だったよ。どういう技術なんだか。これについては後で研究することにしよう。君が従った後でじっくり解剖してやるから楽しみにしておけ。いや楽しみなのは私かな?」


 絶対的有利についているって確信してるな。何も隠そうとしてない。その自信、どこまで続くか確かめてやろう。


「いい加減にしてもらおう。契約を切られても構わない。俺には関係ない」


 静かにそう言い放つ。だがエディ君の笑みは消えない。


「本当にそうか? 契約が無くなれば、お前をこの地に縛る『楔』は無くなるんだぞ? そうなれば必然的に、お前は元の世界に戻される。強制的にだ! どういう意味があるのか考えてみろ!?」


 強制的な召喚解除。もし実行されれば一時的であったにせよ私は意識を失う。戻ってこれたとしても間違いなくすべてが終わったあとだろう。戻れるのなら、だがな。


「まぁまぁ、これをあげてもいい。取引だよ。まずはそうだな、リジーはホンジョーから離れろ。それでホンジョーはこっちに来てくれ。もっと穏便に話をしようじゃないか。何か飲みながらでもいい。今用意するから」


 パチンと指をならすと、今度は床から椅子とテーブルと紅茶のセットが現れた。なんだこの便利グッズ。呼び出したテーブルに椅子にエディ君は自然に腰を落とす。あまり相手のペースに飲まれても仕方ない、といいたいところだが話し合いで済むならそれでもいいかもしれない。私は差し出されたテーブルに付くべく歩み寄り始めた。

 というその考え自体が甘かった。


「いまだ!」


 エディ君が声を上げる。

 何かドサッと音がした。完全に油断していた。

 次の瞬間、黒い檻のようなものに閉じ込められていた。



――



「いやはや本当に間抜けだな君は! それはあの地下室と同じ岩だ。細工して魔力を奪う力を強めてある。あの部屋の2倍の速度で魔力を吸い上げることも可能だ! 常人なら一分も生きていられまい! だがホンジョーなら、どれくらい耐えるかな?」


 よく見ると床も例の岩で囲まれている。あの黒いシミの能力だろう。

 咄嗟に目の前の鉄格子みたいなものを掴んでみる。固い。だが魔力で強化した腕力なら……と思って力を込めるそばから魔力が流れ出る。これはまずいな。思わず反射的に手を放し距離を置く。といっても狭い檻の中、結局中央あたりに立ち往生するしかなくなるのだけど。


 これは嵌められたか。足元から魔力が勢いよく流れ出るのは見て取れる。

 落ち着け、魔力の流れを追って見極めるんだ。そこに回路の制御部があるはずだ。


「あの部屋のように、内部に弱点を置くだなんてことはしないよ! 頑丈に保護してあるから魔力抜きで破壊できる代物じゃない。だが魔力は吸収されるぞ? さぁどうする! もう時間が無いぞ!?」


 足元がグラつく。いや大丈夫、俺の……魔力はこんな程度じゃ吸い尽くされない。

 ふと見るとリジーにも何か黒いロープのようなものが巻き付いている。こっちに気を取られて油断したんだろうか。リジーらしくない。でも視線はこっちにしか向いていない。こんな時でもこっちの心配か。大丈夫、なんとかするよ。



「さぁって、ホンジョー。お願いがあるんだ。もう帰ってくれないかなぁ?」


 先ほどとがらりと違った冷たい表情でエディ君が話し始める。


「君は勇者として使うには扱いにくすぎるんだよ。君の体を使って別の、扱いやすい勇者に降臨してもらいたいんだ♪」


 冷たい表情からこぼれる冷たい笑み。誰に対してではない。あくまで自分に対する愉悦の笑い。他者を完全に見下した超越者じみた視線。エディ君の正体はこんな、身勝手な存在だったのか。


 私の必死の視線に満足したのかベラベラと喋り続けている。どんなに優れた知識を得ていようとやはり彼は地球にすむ人のそれとは思考が異なるのだろう。

 この世界の人間は、文字通り命をかけて戦いながら暮らしている。だからこそ美しいと感じることもあったが、ここまでの執着を見せられると醜悪以外の感想が浮かんでこない。


「ほんと、こんな綺麗さっぱりの善人を演じるヤツと思わなかったよ。あれかな? 小物っていうのかな。自分も他人も傷つくのを見たくないっていうあれ。 そういうヤツは一生畑でも耕しているのがお似合いなんだが、勇者に選ばれてしまったのがお互いの不幸だったんだろう。だからここで君を解放してあげるよ! その身の魔力を存分に生かすためにも、新しい勇者にバトンタッチ! 君もこれ以上付き合わなくていい、私は新しい勇者を手に入れる。いい解決と思わないかい?!」


 椅子から立ち上がり両手を広げての大演説。誰に聞かせているのでもない、まぎれもなく自分のためだけの演説。こんなに心動かされない言葉は初めて聞いた気がする。


「そうさ、ボクはね。世界を導いて見せるよ。勇者の力と……」


 エディ君が再度指を鳴らす。

 彼の目の前に、黒いシルエットの何かが現れる。黒い手を持った何か。

 なんだこれは?


「それとこの魔族の力を使ってね!」

もうちっとだけ続くんじゃよ

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