30. ノイン救出作戦(前篇)
翌朝、朝食の後でさっそく学院長さんに成果を見てもらう。
「ソード」
手を構えると1秒弱くらいで魔力剣を作り出すことに成功する。かなり遅くまでがんばったんだけどこれくらいが精いっぱいだ。
「あらあら、随分がんばりましたね。この調子では教えることが無くなりそうですよ。あまり無理をして魔力を使い果たさないようにしてくださいね」
「そうでもないですよ、消す時に魔力を拡散させないで吸収するようにすればいいだけでしたし。結構効率よく使えるようになりました」
……え~っと、何か変なこと言ったかな?
学院長さんのビックリ顔は結構可愛い感じがしてイイっちゃぁいいんだけど、あぁフリーズが解けた。
「いったん形を成した魔力を再度取り込む、ですか。どうやら本当に教えることがなくなりそうですよ」
実際にはかなり難しいことらしい、と言われてもできるんだから解らないけど。
本来なら、いわゆる覆水盆に返らず。飛び散った魔力を集めるのは不可能に近い事柄なのだそうだ。私の場合は手元にある塊を元に戻すだけと思ってやっただけだし? たぶん難しくないよね? うん。
「とにかく、今は少しだけおさらいというか応用について考えましょう。昼には出発ですからね。あまり時間はありませんよ」
明日の晩にはエディ君のところについていなければならない。ここに来たときは二週間くらいははかかったけど徒歩な上に隠れながらだったしね。移動手段については手配が済んでいるとのことなのでそちらについては完全にお願いしている。
昨日の訓練の部屋に移動する。あの後で思いついた魔力塊の使い方について実際に見せてみながらその応用や欠点を指摘してもらった。やはり思いつきだけで使えるようになるのはいささか夢を見過ぎたような気がする。だがうまく使えればいい具合に働いてくれるだろう。
一緒に行動することになるリジーからもアイデアをもらっていくつか試してみる。うまくいきそうなので、後は移動中の反復練習でモノにできるかにかかってくるだろう。
「アレ使う時はちゃんと合図してね。でないと私が困るから」
自分でネタを出しておいて何言ってるんですかねぇ。
実はリジーも魔力剣みたいなものができることがわかった。しかし思いのほか効率がよくないらしく。同じサイズの魔力剣を作ろうとするとかなりの魔力を浪費してしまうらしい。またほとんど私を私から供給される魔力で構成することになるためコントロールが難しいとのことだ。
「もうちょっと小さいのならなんとかなるかもね。奥の手ってことで考えてみるわ。ちょっとアレンジして、ホンジョーとは一味違うものにしてみせるから楽しみにしててね♪」
新しい力を手に入れてご満悦の様子だ。
昨日は一緒のベッドに寝なかったが、リジーはリジーで特訓していたらしい。ま、寝ているところを襲われないだけありがたいんだけど。急に一人になるとちょっと寂しいね。
――
「ってなわけでコレが当学院の秘蔵の名品。その名も『自在浮遊板』だ、そのなかでもこれは特大サイズの特別製だぞ」
大きな平たい板。先がとんがった三角形をした板だ。大きさから3・4人は乗ることができそうな気がする。
板には長い棒が横向きに設置されていてこれを握っていろってことだろう。中央付近に大きめのボタンのようなでっぱりが何個かあった。これ操縦桿も兼ねてるのか。
バートランド先生ご自慢の品らしい。今回の使用に合わせて調整してくれたそうだ。
「ここに魔力を通すと浮力を発生する。こっちを押すと加速する、馬なんかめじゃねぇ上に空を飛ぶからな。文字通り最短距離をつっぱりれるんだ。あとこっちは減速な。急停止はできないから注意しろ? 飛行中は空気がカーテンのように展開する。風が強くて息ができないとかそういうことはないはずだ。航続時間はお前次第だ。普通の人間なら1時間も飛べればいい方なんだが、まぁ多分大丈夫だろ!」
操縦は簡単そうだが、問題は魔力か。いくら大量の魔力を持っているとはいえ常に操作し続けるのはかなり厳しそうだが、どうしよう。なんて相談するまでもなく対策は考えていてくれてたらしい。
「で、ここにあるのが魔力の蓄積部。お前の髪も入れたからかなりいい感じに使えるようになった。満タンにすれば半日は飛ばせるだろうな。そこまで詰め込んだヤツはいないんだが」
うん、またむしられたんだ。すまないノイン。
「このレバーをこうひねれば状維持のモードになる。飛行中に使えば寝てても飛んでくれるってことだ。繰り返しになるだろうが魔力切れには注意しろよ?」
ちなみにウィル先生も移動手段を用意してくれた。目的地を指定すれば魔力も消費しない優れもの! だそうだが、まぁアレなんだ。デカイg…… 甲殻系の調整された魔物らしい。
うん、ダメ絶対。
生理的に受け付けないと正直に話してご退場願った。
魔力的な風防みたいな機能があるとはいえ、雨や突風をしのげるとは思わなかったので急きょ屋根や背もたれのようなものを付けてもらう。もともと長時間の移動を想定したものではなかったので仕方ないが、こちらは下手すると命がけである。ある程度の安全性は追及したい。ついでに居住性も。クッションとかないと辛そうだったので。
色々いじった結果、ただの板から少し平たい三角錐みたいな感じになった。前方だけ透明なパーツが多いので飛行には問題なさそう。ただし後ろ半分はほとんど板になっているから何も見えない。外観は大きく変わったが性能的には問題ないだろうとのことだ。さすが魔法世界、適当だなぁ。
改装を待っている間に一つリジーにお願いをすることにした。といっても簡単なことだ。
「ねぇ、ちょっとお願いしたいんだけど、髪を整えてくれないかな? 軽くでいいんだけど」
最近なにかとむしられまくって酷いことに、なってはいなかったが少しまくるとへんてこな髪形になりかねない。せめて毛先でも整えたかったんだが、あいにく自分の部屋には鏡もなにもないのでどうにもならなかったんだ。せっかく時間ができたのでその間にというわけ。
ほらなんかあるじゃん。ちょっと気合い入れたい時にやる簡単な儀式みたいなもの? 私の場合は散髪に行くことだったんだけど、こんなタイミングではリジーにお願いするのが関の山だ。
「まぁいいけど、あんまり期待しないでよ? 失敗したら謝るけど直せないからね?」
いや、失敗は困りますんでほんとうに毛先だけ整えてください。さすがにノインの前で半分ハゲになってたとかシャレになりませんし。
――
「何からなにまですいません、少しの間お借りします」
「おう、壊して帰ってきたら承知しないからな!」
「心配なら一匹くらい連れて行ってもいいんだよ?」
「すいませんマジ勘弁してください」
出発前の挨拶をしていたら、いつもお世話になっていた食堂のおばちゃんが来てくれた。
「ほら、考えてなかったんだろ? 道中お食べ」
そういっていくつかの包みをくれた。お弁当のようだ。水筒みたいな丸いものもいくつかあった。大体二日分といったところか。本当にありがたい。
「あとこれ、ノインちゃんが好きだって言ってくれたクッキー。みんなで食べるのよ」
ここまでしてもらって連れて帰らないわけにはいかないな。
「ノインと一緒に戻ってきます」
リジーと二人で板、というか箱に乗り込む。
言われた通りに操縦桿を握り、まずは浮かせてみる。ブルッと全体が少し震えてから音も無く動き始めた。これはすごいな。
二十mくらい上昇してから前進をはじめる。うん。これはちょっと面白い。
しばらく動かす練習をして、方角を確認し移動を始める。
高度はちょっと高めの山くらいにしてみた。感覚的には百mくらいかな? 高度計がないのでちょっとわからないけど。あまり低いところを飛んでも不審がられるだけなので用心しないと。
「ホ、ホンジョー、私、目つむってていい?」
顔面蒼白といった感じだ。いきなり高いところはキついかな? 勤め先がビルの上だったからあまり抵抗がなかったんだけど、普通の人はこんな高さを飛ぶなんて経験ないだろうしな。
本来なら速度と高度を落として慣れてもらうところだが、今回は時間が無い。我慢してもらうことにして更に加速した。
ギュン! と音が聞こえる気がした。瞬間的に魔力を強めてみたらなんかとんでもない速度っぽい気がする。壊れないか心配だ。リジーは壊……気絶していた。急な加速のショックと緊張に耐えきれなかったんだろう。そのままこかしておくのはかわいそうなのでクッションの上に寝かしておいた。
こんなことにまで付きあわせることになって申し訳ないと思う半面とてもありがたいと思ってしまう自分もいる。魔力のためと言ってくれてるけど、そろそろちゃんとしたお礼をしないと。
日が沈む。空が赤から紫、青を経て切り替わっている様子が見える。澄み切った空の思わず息を飲む光景を前に、いつの間にかリジーも起き出して無言で夕焼けを眺めていた。こちらの世界の夕焼けも美しい。自然と涙が出そうになるが、グッと抑えておく。帰りは絶対3人で見よう。
夜通し飛行を維持する。常に操作を意識しないで済むのはとてもありがたい。怖いからそこそこ上空を飛ぶ必要があるけどね。
地味だがクッションを持ち込んでいてよかったよ。飛行中に体を動かすとバランスが崩れて落ちるかと思ってビクビクしていたが多少動く程度じゃビクともしなかった。飛び跳ねるくらいするとグラつきそうなのでやめておこう。
最初のうちは何をするにもビクビクとしていたリジーだが、今じゃすっかり慣れて寝っころがって地面を眺める余裕すらある。開き直ったんだろうか、なんにせよありがたい。
予想以上の速度が出ていたようで、これなら余裕で間に合うだろう。
――
空が白み始めた頃には既に見たことがある地域までたどり着いていた。予定を大幅に短縮できたおかげか。前に橋を落としたあの崖のあたりへ着地する。
私の落とした橋はロープを何本もかけて簡単な補修が施されていた。本格的な修繕のための緊急措置だろう。
わかりにくいように谷底の茂みに『板』を隠すことにする。こんな便利なものを盗まれてはたまったものではない。
「夜通し起きて疲れたでしょ? ちょっと仮眠でもしてなさいよ。その間に偵察でもしてくるわ」
飛んでいる間は暇だったんだろう、大きく背伸びをしながらリジーが提案してくれた。
魔力的には万全ではないし、さすがに徹夜はちょっときついと思っていたところだ。第一到着は夜半の予定だしまだ時間はある。交渉が決裂して拳で会話する必要がでてきた時の用心だっているだろう。
無理をいって探索に同行しても足手まとい。素直に提案を受け入れ、そのまま茂みに隠した『板』の中に戻る。どこかの洞窟に転がっているより安全だろう。
緊張して眠れないかと思っていたが、横になったとたんに疲れが噴き出す。焦っているのかな、かなり無理をしちゃったのかもしれない。ここは素直に寝ておこう。
左手の薬指を眺める。まだノインとの繋がりみたいなものは感じる。流石に魔力が届くほど近くはないが、何か繋がっている気がする。
感じるのはなんだかノインがいるかな~って程度でしかないのがもどかしい。もっと高性能なレーダーはないのか! 下手に強力でも自分の所在をバラしてしまうだけかもしれないけどね。
まぁいい、今はとにかくノインを無事助け出すことだけ考えるんだ。どうにかなる場合に備えて色々と準備してきたじゃないか。
※魔力の吸収放出ロジックに関する補足
本来なら「魔力を使う」→「望む効果を得る(ex.火を起こす等)」等をするので
「変質した魔力を再び元の魔力に戻す」ことはできません。
対してホンジョーは「純粋に魔力の塊」として形を成しているので取り込むために再変換といった手間がありません。
実は意外に効率的なのか? という気もしますがそもそもホンジョーほどの大魔力が前提となるので一般人には(実用としては)不可能に近い荒業です。夜の学院長さんならリジーと同じくらいになるのですが、力として使いたがりませんし。




