25. 本格的魔法訓練(基礎編)
そんなわけで、今日から私、ノイン、リジーさんの3人で授業を受けている。といっても今日はノインがメインで残り二人は見学だ。といっても、実際にはあまり必要がなかったかもしれない。
妖精ノインの時にも見学していたせいもあるが、ある程度の記憶や経験も共有していたのか、ほどなくしてある程度のコントロールができるようなってしまった。
「いやぁノインは筋がいいなぁ! これならすぐホンジョーなんか置いてっちまうぜ!」
「いえ、ホンジョー様にか遠く及びません。あらかじめ見学させて頂いていましたのでそのせいではないでしょうか?」
基本的に謙虚だが、謙虚過ぎてもいけないぞ。 なんにせよノインが優秀だと褒められるのは自分のことのようにうれしい。まぁノインの体を使った自分があれだけ使えるんだから本家があれくらいできて当然かもしれない。
「っていうかノインちゃんてあんなに才能あったのね~ 自分は魔力の扱いがまるでダメって言ってたけど、そんなことないじゃない」
隣でリジーさんが呟いている。自分はもうこの程度余裕でできちゃうし~とのことでパスだそうだが実際に見せてもらったことはない。まぁ多分本当なんだろうが私の魔力の影響で細かいコントロールができなくなったと言っていたし、練習しておけばいいのに。
「いいのよ~、何しろ私は優秀だもの。あんたのおかげってのがアレだけど余裕だから安心してちょうだい。ていうかこんなところにいてもしょうがないし、何か食べに行かない? 学食とかもう開いてるし」
いったい何が余裕なんだ。っていうか腕をからめてお持ち帰りしようとするな! 私は財布じゃないぞ! すっからかんだぞ!
こちらが騒がしいのに気が付いたのかノインがよってきた。ふと目の前に立ち止まって左手に手を伸ばす。
「も、申し訳ないのですが魔力の補充をお願いします……」
お互い指輪をしていれば直接触れる必要はないんだが、やはり直接接触の方が魔力の伝わり方がいいらしい。イメージの違いだろうか。
「うんわかった。ちょっと待ってね」
ノインの手を取り魔力を流し込むイメージを持つ。あまり消費していなさそうだな。一割くらいか? 消費した分と同じくらい、いやちょっと多いか。の程度の魔力をイメージしてノインへ送り込む。まぁ多すぎた分は押し戻されたりどこかに発散されちゃったりするから気にしてないんだけどね~、テキトウ?
私が見学していた理由はこれだ。二人同時に魔力切れになってしまってはどうしようもないので待機していた。だかあの様子からすると、そんなに気を遣わなくてもいいかもしれない。それこそ派手な戦闘にでもならない限り枯渇するようなこともないだろう。
「なるほど、じゃぁ午後からハードなのいってみるか!」
うわ、容赦ないぞこのドラムカン。
――
お昼を食わされた後で、午後の授業となった。
うん、食わされた。バートランド先生のスペシャルコースだ。
つまり、どういうことかわかるな? みんな目が死んでる。
味も効果も抜群だったんだよ。見た目も普通だったし。でもなんだかその、奥にある隠しきれない得体のしれない「何か」が体を駆け巡る感じ…… なんかトラウマになりそうだからこれ以上考えたくないんだ。正直もう勘弁してほしい。学院長さんにいってなんとかならないだろうか。
気を取り直そう。
午後になってからの授業は、なんとウィル先生との合同授業となった。
仲は悪そうだがお互いある程度認めているのだろうか。
「てなわけで午後は、ウィルの作った木偶をターゲットにした魔法訓練だ」
「まて私の研究成果を木偶とはどういった了見だ! ちゃんと必要スペックを見越した必要最低限の機能をこれだけの期間で作り上げる手腕に対して君は敬意というものを」
「はいはい、というわけだ。んでホンジョーは『発火』とかできたよな? あれ使えるか?」
正直なところ、何か道具を使わないと難しい気がする。なんだか自分の手からどか~とかイメージが伴ってくれない。ゲームみたいに考えればいいのかもしれないけど、う~ん、頭が固いのかな。
あ~だこ~だとうだうだしていた横で、リジーさんが発火の手本という感じで手元で炎を作ってみせる。いやそのドヤ顔はどうなのよ。
ってノインもやってる!? あれもしかして俺ってまじ落ちこぼれ!?
「何いってんのあんたならラクショーよ! まっすぐ私みたいにできるようになるとは思わないわ。というかあんたが諦めてもあたしが諦めさせないから覚悟しなさい!」
「ホンジョー様にもコツが掴めればおできになる、かと思います」
そうまで言われては仕方ない、気合い入れて頑張りますか!
……
1分くらいしてようやく火がついた。
うわぁこれは無理だぁ。なんか焦っちゃって余計に無理だぁ……
「ん~、ホンジョーはこっちの方はやめといた方がいいかもな。魔力の循環までうまくいけるし、いっそ直接攻撃を中心にした方がいいんじゃないか?」
「バートランド先生! ホンジョーなら魔力を流し込んで相手を倒すとかかっこいい気がします!」
いやいや待ってくださいってリジーさん。何無茶言うんですかこの人。
「過剰な魔力を流し込んで相手の動きを狂わせる作戦はありかもな。おいウィル! なんか弱っちぃの一匹出せよ!」
「弱っちぃってなんだ! 大量に展開することに意味のあるタイプって言ってくれたまえ」
なんだか言いたいことがあるらしいが、訓練ということで練習相手を用意してくれた。
どうやら等身大の蟻? 昆虫って人間大だとかなり強いって話を聞いた記憶が……
「昆虫系の魔物は魔力の暴走で肥大化したものが多いんだ。ゆえに魔力の影響を受けやすい。つまり単純な物理攻撃は通りにくい反面、魔力の影響には脆いという特徴がある。今の訓練に丁度いい相手だ。ってなわけでホンジョー。さっき言った通り魔力で倒してみろ!」
っていきなりだなぁ……
頭の上の触手らしきものをわしゃわしゃと忙しなく動く。こちらの動きを警戒しているのだろう。正直、どうやっていいのか分からない。
「ほら、見てないでとっとと行け。魔力を込めて殴るだけだぞ?」
そんなこと言ったって…… と思っていたら向こうから近づいてきた。
「あぁ、言い忘れてたけど」
蟻の顎が自分の首めがけて飛んでくる。
「下手すると死ぬから覚悟しとけ?」
あれ? 一番弱いんじゃないの?
――
こういうRPGの序盤の定番っぽく、スライムみたいな弱小モンスターを叩いてレベル上げってシーンじゃないんですかやだ~!
「あのなぁ、弱いものいじめしてたら訓練にならんだろう。ある程度の相手じゃないと。ほら真面目にやれ!」
六本足を器用に動かし、こちらの逃げる先を塞ぐように先回りを繰り返す。戦闘開始の合図とともにこの空間がガラスか何かで覆われたようで、今や完全に蟻と私の二人だけになっている。うわ~全然うれしくねぇ~!
「ほら、走るのと同じだ! 集中して魔力を体に満たせ! ちゃんと集中しないと腕とか食いちぎられるぞ!?」
そういわれた瞬間、死角になっていた左後ろから蟻の顎が迫る。
<ぎゅわん!>
そんな堅そうな音がして蟻が離れていく。なんか顎からへんな汁が漏れてるけど、俺の血じゃないよな……?
一瞬だが完全に左腕に噛みつかれたようだ、だが魔力を通した腕は蟻の顎を逆に跳ね返しすらしたらしい。強いな魔力。でも袖は破れた。一撃でボロボロである。そっちも守ってくれよ!魔力!
「うん、よく間に合った。でも全力で守る必要なんかないぞ。相手の力からどれくらいの魔力を使って保護すべきか考えろ!」
と言われても、自分が痛いからもっと強くしようとか考えたくないですし!
噛みつかれても傷つかないという事実が少しだけ余裕をくれる。
クールになれ俺。まず相手の動きを見てから考えろ。
この蟻の行動は単調だ。こちらの隙を見て噛みつく。それだけしか行ってこない。流石に『弱わっちぃ』と評されるだけはある。でもこの移動速度はちょっとやっかいだ。こっちの足は二本しかないし。やはりカウンターか?
逃げ回るのをやめ、静かに呼吸を整える。
自分を中心にして蟻が円を描くように動きまわる。
大丈夫、うまくいくさ。
数刻にも感じる緊張のなか、我慢しきれなかった蟻が背後から迫る。
よし、いける!
<ドガッ!>
華麗に避けてのカウンターの一撃をと決まったはずだったんだが、体全体の突進を避けられるほど上手く動けなかった。やはり右腕の感覚がおかしい、一呼吸遅れる感じで反応するみたいだ。
首を咥え壁に押しやられ、噛み切ってやろうとばかりにわしゃわしゃと動かす。
うわぁ気持ち悪い。
なんとか気を取り直し、目の前にあった蟻の頭に拳を叩きこんだ。
――
機能を乱すだけだと思っていた。多分フラフラになって動けなくなるみたいな程度のことしか考えていなかったんだが、結果として蟻の頭は破裂した。
当然だがそこから噴き出る体液をもろにあびてしまう。びちゃびちゃである。うわぁまじ気持ち悪い。
「おいおい、魔力を通し過ぎだ。ってこんなに過剰に反応するのも凄いな。とりあえずお疲れ」
蟻の体が私にのりかかるように力なく崩れる。昆虫は頭が無くてもしばらく動くというが、ここまで大きいとそんな余裕はないのだろうか。だが心臓の鼓動はしばらく動いていたようで、断続的に体液が首から噴き出していた。当然そのまま浴びるのだが。凄い臭い。マジ気持ち悪い。
蟻だったからだろうか? 魔物とはいえ命を奪ってしまったという実感はあまりなかった。なんだか噎せ返るような臭いだけが強調され気持ち悪さが前面に出てるせいもあるかもしれない。子供の頃に蟻の巣に水を流し込んだ時の感じってこうだったのかなぁ? いや十分子供なんですけど、体は。
そんなことを薄ぼんやりと考えていた目の前で、心臓が停止したからだろうか、蟻の死骸がチリのように拡散し消えて行った。自分に浴びせかけられた体液だけが何故か残った。一緒に消えてよ……
それとほぼ同時に閉鎖された空間が解放され、ノインとリジーが走り寄ってきた。
「大丈夫ですか! お怪我はありませんか! どこにも異常はありませんか! こんなに汚れて……」
手に持ったタオルでしきりに体を拭いてくれる。ありがとうノインでもそんなところまでまさぐらないでくれ恥ずかしいから。
「あんた戦ったことないの? 見てらんなかったわよほんと」
そっぽを向きながらリジーさんが話していた。いやぁ流石に怪我はしてないけどちょっとだらしなかったかな。
「うん、あんまりこういう経験なくて、良かったらコツみたいなの教えてよ」
「しょうがないわね、ちゃんと見てなさい」
こういった方面ではリジーさんは頼りになる。森の逃避行中も警戒等はリジーさんにまかせっきりだったから余計に恥ずかしくもあるんだが。
ちゃんとしないとな。
というわけでお手本としてリジーさんの出番となった。ウィル先生も久々にリジーさんの手腕が見れるとノリノリである。いいのかこの二人。
相手は同じ蟻だ。
「ちゃんと見てたんだからもっと考えて対応しなさい。カウンターも一つの手だけど相手の攻撃を避けるリスクは無視できないわ。そもそも下手なんだしそんな捨て身の戦法なんて取らなくていいの。『いかに相手を不利にするか』もしくは!」
といいながら蟻の攻撃を避ける。突撃を避けながら相手を上手く誘導しているんだろうか、蟻は壁に向かって突撃を繰り返す結果となった。
「相手のクセを見切って利用! ついでに相手の長所を奪い取れればあとは楽勝よ!」
壁に激突してフラフラしている蟻の足、関節部分に次々と手を触れる。
<バチッ!バチバチッ!>
と音がして、触れた部分の関節がはじけ飛ぶ。
あっという間に右半分の足が膝関節から下を失った。
当然の結果として、足を半分失った蟻は全く動くことができなくなった。
「まぁリジーなら楽勝だな。こういうふうに体の弱い部分を狙えば、さっきのホンジョーみたいに無駄に魔力を使うことなく無力化できる」
バートランド先生が解説を入れてくれる。
「甲殻種は関節が弱点だ。足とか首とかね。逆に腹は関節が集まっているように見えるが装甲も集まっているからあまり狙いやすいとは言えないから注意したまえ」
対抗してウィル先生もコメントを入れる。ほんとに負けず嫌いだな。
まともに動けなくなった蟻の頭を掴み、何やらつぶやいていた。途端に首や足といった関節から何か変なものがあふれてくる。多分トドメを刺したんだろう。どんな状態てもキッチリと。いやぁリジーって有能だなぁ。
「えっとホンジョー向けのアドバイスはこんなもんよね。次はノインちゃん向けかな。えっともう一匹もらえますか?」
ウィル先生がうなずくともう一匹蟻が出現した。おいおい連戦かよ。
「あぁこんなの弱わっちぃから楽勝よ? でよく見ててねノインちゃん。貴方は体力とか見切りとかは考えない方がいいわ。その代り頭を使って制圧するの。要は見極めね。多分だけどあなたは『魔術師タイプ』みたい。さっきまでみたいな真似はしなくていいから」
リジーの解説を待たず蟻が突撃してくる。だか慌てることもなく、突撃してくる蟻に向かって両手を掲げる。
「燃えなさい!」
とたんに手のひらから炎が湧き上がる。さっきまで使っていた炎とは違いとても大きな炎だ。
大きな炎を目前にした蟻は明らかに怯んだように回避を試みる。顔面への直撃を避けることには成功したようだが、胴体に着弾した後も消滅することなくとどまり続ける。なんだか鳴動するように、時折脈打つように、狙いを定める肉食獣のような印象すらある。
「ノインちゃんは魔法が使える。だったら相手に合わせて動く必要すらない。魔法で相手を翻弄し、絡め取って仕留めればいいのよ!」
解き放たれた!といわんばかりに炎がわななく。次の瞬間、絡みついたロープのように伸び始め、蟻の全身を包み込む。あれでは蒸し焼き以前に酸素不足で呼吸困難だな。次第に動きを鈍くして、しまいには動かなくなった。
「えげつないなぁ、呼吸管に炎をからめて動けなくするとか」
「へへ~すごいでしょ! まぁノインちゃんならこれくらい楽勝じゃない? ちゃんと訓練すればね」
戦闘技術を存分に披露できたのでリジーさんはとても満足そうでした。
――
「あ~疲れた。ホンジョー、魔力の補充してぇ」
といって左手を差し出す。
「うん、お疲れ様、凄かった。ほんとに勉強になったよ」
といって彼女に魔力を流し込む。あれだけ派手やったように見えて、実はそんなに消費していないようだ。さっきノインに補給した時より少ないくらいだ。本当の魔術ってのはこう使うものなのかな。
手を触れて魔力を渡しているときに、リジーさんから「ふぅ」とか「はぁ」とかの声が漏れてきて止まらなかったけど、もしかすると魔力の流れが負担になっているんだろうか。もっとゆっくり、優しくしないとダメだなぁ。
なんてことをしていたらノインもおずおずと手を差し出してきた。魔力は補充したばっかりだと思うんだが、もしかすると魔力で強化したりとかしてじっくり観察していたのかもしれない。別にケチることもないし、とにかく補充してみよう。あんまり渡し過ぎてもしかたないけど。落ち着いてくれるならなんでもいいや。
「んじゃノイン次なぁ。ちょっとキツイかもしれんけどアドバイスするからがんばってみろ~」
「は、はい! がんばります!」
手を放す前にぎゅっと握りしめて元気づける。大丈夫。お前ならできる。
ノインは何も言わずにうなずいてくれた。
結局戦闘というか逃げ回ることに終始する結果になった。
やっぱり無理か…… と思ったが、逃げならの集中に慣れだすと炎を放って牽制することもできるようになってきた。
流石に絡みつく炎というのは無理だが、蟻の攻撃の要所でうまく見せつけて勢いを削いでいる。
ノインは飲み込みがいいな。
なんか頼りなさげに見えていて、いざという時のツッコミというか覚悟がいいんだろう。
最後は蟻の足を薙ぎ払うように放った炎が決まった。蟻も体力が尽きたのだろう。そのまま崩れるように絶命した。
「まぁ初日だしこんなもんか、明日はもっとすごいのいくけど、まず対処法とか覚えてから始めるぞ~」
対処を教えてもらえるだけありがたいけど、ちょっとスパルタすぎやしませんか?




