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24. ノインの秘密

 私がバートランド先生に色々と虐待……ゲフンゲフン、し、指導を受けているとき、ノインは学院長と面談していた。彼女の扱いについてどうするかという点だ。


「私としてはやはりこのまま学院に居続ける以上は生徒として受け入れるべきだと思っています。貴方の今後のためにもそれは必要でしょう」


「でも私はただの奴隷ですのでご主人様の所有物です。この立場に不満を持ったことはありません。それ以上を望んだりもしません!」


 平行線でほとんど進まなかったらしい。


「というより、私は魔力が扱えない異常な存在らしいです」


 という爆弾発言で方向が一気に転換する。エディの屋敷にもらわれたのもその体質故だったらしい。


「あのお屋敷で色々な実験を行いました。魔力を吸収することはできても発散することがないのでどこにいっても役立たず扱い。でもご主人様の器として最適と教えられた時に、私にできることがある! って思えてうれしかったんです!」


 魔力を扱えないのなら、簡単な下働きにだって支障が出る。魔力を使えないかもしれないならと誰も子供を欲しがることもない。正にいらない子として暮らしてきたのだろう。それだけに『役に立つ』という言葉がどれだけ彼女を救ったのか、想像に難くない。


「なんだかあまり信じられない話です。実際ホンジョーさんはあれほどの魔力を持つお方。その器であった貴方も相応の魔力を持ち得るはずなのですが……」


「だってほら、お屋敷でも試しましたけどこの魔力計にも反応ありませんし……?」


 魔力計というのは一種の魔力感知器のことだ。大きなガラス管の中に金属片らしき板が入っていて、人間の無意識に放出する魔力を調べることができるよう微量の魔力にも反応するものだ。

 ノインが手をかざすと、その板は回り始めた。


「……え? あ、あれ? 私、ちょっと変ですやり直してください。もしかして壊れてません? だってなんかおかしいですよ! そうだリジーさんちょっと離れてください! ご主人様の魔力が強すぎて反応しているんです。きっとそうです!」


「落ち着きなさいよ、大丈夫。なんだかわからないけどみんな貴方から離れたから。これでわかるでしょ?」


 魔力計の板は回り続ける。ノインの興奮に合わせてより強く回っている気さえする。


「どどどどういう、あぁこれはきっとご主人様からの魔力が反応してるんです! この指輪を取ればきっと元に!」


 指輪を外そうとするノインを必死に押さえつける。新しくホンジョーの髪(をむしり取って)作られたものだ。

 一しきり暴れる彼女をなだめるまでこの話は中断された。



――



「ノインちゃんが大変なの! 来て!」


 リジーさんの声と、手を切り付けられ続ける苦行から離れるべく一目散に走りだす。

 どうやら学院長のところで面談を行っていたようだ。


 正面の扉を思い切りたたき開ける。普段ならノックをするくらいの礼儀があってしかるべきだが緊急事態だ。


「どうしたノイン!」


 そこには泣き崩れるノインと優しく慰めるように肩を抱きしめる学院長。何もできずにおろおろしているだけのウィル先生がいた。


「なんでもないのよ、急に色々と変わったせいで戸惑っただけ。そうよね? ノインさん」


 学院長にうながされノインはうんうんと頭を縦に振る。しかし本当に何があったんだか。


「ノイン君が、自分には魔力が使えないと言っていたんだ。それで試しにと思って確認してみたんだが、まぁ普通に使えるんだよ。普通だろ? なにも驚くことじゃない」


「はいはいちょっと黙って頂戴。さて、ノインさん。都合もいいしホンジョーさんも聞いてちょうだい」


 涙で凄いことになっていたノインにタオルを使って顔を拭う。今日は別行動だったのでせめてこれをとノインに差し出されたタオルだ。うん。役に立ってよかった。


「落ち着きました? ではお話を続けましょう。ノインさんは、先ほどわかりましたが魔力を使えることを確認しました。それについては異存はありませんね?」


「は、はい。どうしてかわかりませんけど」


「これは単なる推測ですが、『ノインさんに余計な魔力を使わせないようにと暗示をかけられていた』んじゃないでしょうか? 貴方はあの屋敷以前の記憶が薄いと聞きましたが」


「えっと、はい確かにそうですけど……」


「ならもしかすると屋敷に来る前は使えていたって可能性もあります。ただの感ですけど。今まで使えなかったという話は信じます。でも今は使えるんですしちゃんとこれからの事を考えましょう? なのでホンジョーさん、貴方と一緒にお勉強してほしいのだけど良いかしら?」


 はい? えっと一緒って、自分の魔力は異常だから一般と同じにはできないって話では……?


「ノインさんの魔力の元は貴方です。そうすれば規模の大小はあっても危険度は同一視した方がいいんじゃないかしら。下手すると貴方よりもコントロールの難しいかもしれませんし、暴走の危険は無いにせよちゃんと対応できる状態で指導を受けて頂きたい、と考えています」


 使えないと思い込んでいた分、魔力のコントロールにブレーキがかかりやすい可能性があるそうだ。また、私への負担を意識して必要以上に力を抑え込む場合も考えられる。


「そういうわけでこのままほおっておくのが一番危ないのよ。どこかで暴発しても困りますし。貴方の体の負担のかかり具合も見ておかないとどの程度できるかもわからないと思いません。なので一緒に勉強してもらうことにしたいのですけど。よろしいですね?」


 ノインはじっとこちらを見ている。基本的に私の判断を尊重するのだろう。ならば答えは一つだ。


「はい、よろしくお願いします」


 そういうのを聞くと、ちょっと申し訳なさそうに、でもちょっと嬉しそうにノインが頷いた。



――



 今日はこれくらいにしておこうということで、ノインを連れて部屋に戻る。リジーさんも付いてきたがっていたが学院長に止められていた。気を使ってくれたのかもしれない。

 二人で静かな廊下を歩く、本当に人とすれ違わないな。この学院。


「でもさぁノイン。昨日焼き菓子作ってくれただろ?」


「はい、食堂のおばさんに手伝って頂きました」


「あそこの機械も基本的に魔力を使ってるとおもうんだけど」


「……!?」


 ちょっと絶句していた。全く想像していなかったんだろう。


「うんまぁつまりちょっと前から魔力が使えてたんだよ。でもなんともないだろ? お互い何も」


「私はまだよくわかりませんけど……」


 色々思い返しているのだろうか。使い方を習ってそのまま使うことに違和感を覚えていなかったせいもあるかもしれない。そんな風に扱われたこともなかったのかもしれないな。


「気にするなってことだよ。これからだって好きにしていいんだ。遠慮なんかするなよ?」


「はい、ご主人様から受けた御恩、お返しできるよう頑張ります!」


 なんかもう顔が真っ赤だけどすっっっごい嬉しそうでいいなぁ。もうコロコロと表情が変わるのが可愛くて仕方ないぞ。つられてニヤニヤが止まらないじゃないか。だからこそ気になる。そろそろ頼む頃合いだろうか?


「いや、その『ご主人様』ってやめてほしいんだけど……」


「え? どうしてですか? ご主人様はご主人様ですし?」


 メイドさんのかっこしてくれてるなら例外と言いたいが、下手するとコスプレが止まらない可愛いマスコットになってしまう危険性が高い。それはそれで売れし楽しでWIN/WINな関係な可能性もあるが、明らかに正しい方向性と思えない。

 ノインはもっとこ~自由であってほしい。やはりその前提としては対等であることを意識してもらうべきだろう。なにより呼びなれない上になんだかこそばゆい。……なんだかかんだ言い訳しても結局は自分のためか。ついため息がでちゃうね。てへぺろっ?


「そういうのなんか気恥ずかしいっていうか、もうちょっとなんだろう、兄妹みたいなものだよね? だからそういうの無しにしたいんだ。ダメかな?」


「えっと、ご主人様が」


「ご主人様は無しで」


「あ、はい、えっとホンジョー様がそれでよろしいなら」


「様はなし。あと敬語もできたら減らして」


「え、えっとじゃぁ、タカアキさんと……」


 顔を真っ赤にしてすこしうつむく。名前で呼ばれるなんてちょっと照れちゃうな。

 あれ?


「あ、ダメでした? すいません!」


「いやそういうことじゃないんだ。どうして本名を知ってるのかと思って」


「それでしたら、前にごしゅ……ホンジョー様の記憶を見せて頂いていた時に……」


 記憶を見られちゃぁ仕方ない。できれば黒歴史まで見ててないといいなぁ。……無理か。


「それはまぁ……しょうがないからいいけど、できるだけ『名前』を言わないようにして欲しいんだ。なんとなくだけど用心に名乗らないようにしていたから。でもノインなら知っててもいいかな。だけど他の人にはナイショにしておいてくれない?」


 魔法の使える世界ってことで警戒しているんだ。本名は自分を縛るなんたら的なものでもあったらやだし。無防備を装っておくことで実際には警戒していないと思わせるのに役立つと考えている。

 この世界は苗字を持っている者は少ないっぽいので意外にバレてない、と思う。まぁホンジョーも本名の一部なので呼ばれることに違和感はない。でも突然名前を呼ばれると焦るな。


「わ、わかりました。ご主人様!」


「……せめて本庄さんくらいでお願いします」


「が、がんばります!」



――



「リジーさん、伺いたいことがあるんだけど。ちょっとよろしいかしら?」


 学院長に呼び止められてしまった。せっかくここから逃げ出そうとしていたのに。もっと早く逃げ出すべきだった。


「はい、何でしょうか?」


「まぁまぁ大したことじゃありませんよ。すぐ済みますからその後ホンジョーさんとご一緒しなさい」


 色々邪推されてる気がするけど、私がホンジョーと一緒にいるのは魔力のためで。まぁそこらへんはいい。本題に移ってもらおう。


「ノインさんはどこから買い取られてきたか、ご存じありませんか?」


 なるほど、ノインちゃんについてね。実際のところ一番接する機会があったのは私だし私に聞くのが一番なのだろうけど。


「すいません、ノインというかあの屋敷に出入りする奴隷についてほとんど関与していませんでしたので」


 メイドとして雇われていた者と、下働きとして働いていた者を何人か知る程度だった。屋敷内の詮索はするなと言われていたのも大きい。当時の屋敷について覚えている限りで考えてみるが、基本的に外部からの侵入担当だったからなぁ……


「どうやら一階から地下にかけて実験室らしいものがあるのはわかっていましたから、そこに何人か奴隷が囚われていた可能性はあります。でもどこから買われてきたかについては何も知りません」


 ふむふむとしきりに考え始める学院長。いったい何を確認したいんだろう。



「可能性の一つだけど、ホンジョーさんを召喚できたのはノインさんの力かもしれないって考えていました。もしかすると、彼女は『巫女』、もしくはその能力を得た者なのかもしれないですね」


 巫女。神の力と啓示を受け取る存在として伝えられている。その身は神に捧げられ、神の威光のみを示すためにのみ使われた。最後には神への寵愛をしめすために犠牲になる定めだとか。


「この『神の威光にみを示す』というのが問題なんです。もしかすると魔力的に無能者だった可能性がありますね」


 あぁ、神の威光<のみ>を示す=それ以外は何もできない って解釈ね。


「といっても実際に関わった人がいたわけでもないから断定はできないのですけど……」


「第一、ホンジョーは神様じゃありませんよね」


 すこし笑いながら答えてしまった。ホンジョーが神ってどういうことよ。たしかに魔力だけ見るとバケモノじみているけど……


「昔の人は英雄を神として見たとしてもおかしくはないのですよ。文字通り何でもできちゃう存在だったでしょうからね」


 神話にも悪鬼羅刹を狩る存在が神として祀られることはある。そう考えれば間違ってもいないのかも……


「でもやっぱりわからないのよね。あんまり当人たちに聞かせていい話とも思えないし。どうかしら? これからもホンジョーさんたちと一緒に行動するようにしてくれません? あの子達がどうなるか心配なのよ。自分の持っている力に振り回されることにならなきゃいいんですけど。たぶん貴方なら大丈夫だと思うのよね。公私ともに」


 色々と誤解させている気がする、あくまで自分のためなんだけど…… たぶん。


「わ、わかりました。とにかく気を付けておきます」


「よろしくお願いしますね。話はこれで終わりです」


 うん、思ったより短かった。そうと決まればホンジョーを見に行こう。ノインちゃんも心配だし。



――



 リジーさんが挨拶もそこそこに部屋を飛び出す。よっぽど心配だったのでしょうね。あまり意識していないみたいだけど、というか意識して意識しないようにしている感じねアレは。


「リジーをかってもらうのは嬉しいんですが、私ならもっと簡単に済ませることもできますけど?」


 黙っていたウィルが口を開く。確かにこういう問題はウィルの方がやりやすいでしょう、ノインさんの体にもなにか細工があると思っていた方がいいと思う。だけど。


「あまり口出しはしないであげて、形はどうあれホンジョーさん達はいらぬ面倒に巻き込まれてしまったの、本来いるべき場所から無理矢理引きはがされてね。だからこそ自分たちで色々と考えてほしい。感じてほしい。できたら協力してほしいけど、あの子達が拒むならそれも仕方ないわ」


「あれだけの逸材、是非とも研究したいんですけど、ダメでしょうかね?」


「それこそあの子達に頼みなさい。ただし恩着せがましく迫るのはダメです。ノインさんの体を造ったことを引き合いに出すなんて絶対ダメよ。自主的な協力を申し出てくれた時だけ認めます。それでも、人体解剖とかそういうことをしようとしたら、どうなるかわかっていますね?」


「あ、は、はいわかっていますよ学院長! もう埋められるのはごめんですから……」


「わかっているならいいの。これからも彼らを見守りましょう。できればこの学院内だけでも安全を保障してあげられたらいいのだけど……」


 普段は全く意識させないのだが、頬に深く刻まれたシワに心労の影が浮き上がる。学院内でも絶対的に安全ではない。その事実を一番よく知っているのだから。


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