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16. ルクツベイン魔法学院

 まず目についたのが大きな門。高さにして十mはあるだろうか。黒い金属でできた大きな門。その両側にこれまた大きな像が立ち並ぶ。なんだろう、すげーゴツい感じ。ちょっと違うがお寺の仏像を連想させる。


「これがルクツベイン魔法学院名物の一つ。『正面門の双子ゴーレム』よ。実際にはちょっと違うんだけどね」


 ゴーレムなのは間違いないが、頭の中が空洞になっていて、使い魔がそこから操作をしているらしい。学院の関係者を識別し、害をなすものを排除する防衛機構だそうだ。

 なんだか得意げに胸を張るエリザベスさん。なんだかむふぅとか聞こえてきそうだ。だがそんな音よりもっと大きな音が突然湧き上がった。

 門のゴーレムが唸りを上げて動き出す。どうやらこちらに反応してのことらしい。


『訪問者よ! 名を告げよ! 知らせの無い者を受け入れる余地は無い!』


 大きなゴーレムに圧倒されて動けなくなってる私の前にエリザベスさんが立ちふさがる。うわぁまじこの人男前ェ! なんか情けないな自分…… そんなこと思ってる間に彼女は大きな声で語り始める。


「いいからいいから。久々だけど関係者が戻ってきただけだから。わからない? リジーよ」


 ゴーレムの反応がしばらく止まる。なにやら目のあたりがチカチカと光っているので、エリザベスさんを確認してるんだろうか。網膜認証システムみたいなのがあるのかもしれないな。


『……否、お前は学院登録者の通称リジーではないと判断する。改めて問おう、お前は何者だ? 何用があって当学院へと訪れた! 回答によっては相応の対応を取ることになるぞ!』


 えぇっとエリザベスさん。どういうことですか? なんかすっごい顔が真っ青なんですけど。


「ちょ、ちょっと待ってよ! 私よ私! そりゃぁ少しは成長したし、昔と比べても見違えるほどの成長だし美貌かもしれないけど、それでも私を忘れるとかどういうことよ! あんたふざけてないでここ通さないとブットバスわよ!?」


 あんなに青かった顔が今は真っ赤だ。あんこと言っちゃうとせっかくの美人画台無しじゃないですか……

 しかしあれから、自分はリジーだいや違うという問答がひたすら繰り返された。何を基準に判断してるんだろう。なんかキレちゃってゴーレムの足を蹴り飛ばし始めた。いやあれまずいだろ!


「もういいから師匠呼んでよ! 師匠が見ればわかるでしょ? いるんでしょ?あのボンクラ!」


 キレまくって何言ってるのかわかってないんじゃないか? なんかややこしい方向にしか動いてない気がする。今日は引き下がった方がいいんじゃなかろうか。


「ボンクラはないなぁ、君の師匠なんだからもう少し敬意を払ってくれよ」


 いつの間にか門の横、私たちの正面に見知らぬ人が立っていた。そこそこしっかりした体格で肩幅もそれなりの中年紳士といったところか。ちなみにレンズが片方しかないメガネをしていた。なんていうんだっけあれ?


「師匠! いからこのバカゴーレムにいう事きかせて下さいよ!」


 そう促されると、エリザベスさんの師匠という人が、左門のところのゴーレムに向かって手を上げる。手のひらから何か模様なものが浮かび上がって見える。あれは魔力で形を作っているのかな?


「はいはい、えっと承認更新。目の前の女性を我が弟子リズベットとして再承認する。復唱を」


『承認更新しました。お帰りなさいリジー、同行されている方についての対処を求めます』


 やっと認められて少し安心したんだろうか、なんかほっと溜息をついているリジーが妙に可愛く見えるのはどうしてかと少し悩んでしまう。まぁそんな様子も一瞬で消え、いつものようにキリッとした表情で声を上げた。


「……こっちはホンジョー。愛称はないからそのままでいいわ。私の友人としてゲストとして承認をしてちょうだい」


『了解しました。ホンジョー様 ようこそルクツベイン魔法学院、通称魔法使いの塔へ。歓迎いたします。』


 そうゴーレムが宣言すると、目の前の門が大きく開かれた。



――



 中は広い庭になっていた。奥に建物が見える。噴水もあってなかなか小奇麗だ。よく見ると小さなタルみたいなものがチリトリやホウキみたいなものをもって動き回っている。あんなのが掃除をして回っているのかもしれない。あっちにあるのが塔かな? なんか普通の建物っぽく見えるけど。四方を見渡しても塔らしきものが見えない。建て替えてもう無いのかな。 ん~まぁここは素直に聞いておくべきかな。


「塔っていうけどどこにあるの?」


「あぁ、最初に来た人はたいてい思う疑問だね。塔っていうのは昔の学院のころからの呼び名なんだ。その時は大きな塔しかなくてね。その塔はすでにここには無いんだ。でも昔からの慣習でそう呼ばれていてね。私も気に入っているんだよ。

 改めましてようこそ魔法使いの塔へ。私はリジーの師匠でウィルキンソンという。ウィルとでも呼んでくれたまえ」


 先ほどの人物がやってきて挨拶をしてくれた。エリザベスさんの師匠と思ってつい身構えてしまったが、魔力の圧力みたいなものを感じなかった。むしろ全く感じないという方が正しい。何者なんだこの人。といっても師匠ということは偉い人に違いない、そうでなくてもエリザベスさんにはお世話になっているしちゃんと挨拶はしておこう。


「初めましてウィルキンソンさん。私はホンジョーと言います。えっと彼女、リジーさん? には随分と助けて頂きました」


「うんうん、といころでもう一人いるみたいだがそちらの方は?」


 と、こちらをジッと見ている。なんだろうぼんやりとしか見て無かったのにもうこっちの事情をある程度把握されてしまったようだ。


「もう一人はノインと言います。今は私の中で休んでいる状態です」


「師匠に相談したいことがあって、まぁ多分想像はついてるんでしょうけど」


「うん、非常に興味深い話になりそうだが、こんなところで立ち話もなんだ。私の部屋に行こうか」


 そういってウィルさんは歩き出す。特に疑問も持たずにエリザベスさんも移動を始めてしまったので慌てて付いていく。スタスタと歩き出すので置いて行かれるかと思った。



――



「エリザベスって本名じゃなかったんですか?」


 歩きながら、エリ… リジーさんに聞いてみる。なんか急に違う名前で呼ばれてたし。


「あぁ、エリザベスってのは坊ちゃんが付けたメイドとしての名前。本名はさっきも聞いたと思うけどリズベットよ。だから愛称はリジーで同じ。というかリジーってのを聞いてエリザベスってつけたっぽいわ。ほんと悪趣味なのよねあの坊ちゃん」


「なんだよリジー。二年も帰ってこないと思ったらどこかでコキ使われてたのかい?」


 二人のやりとりを聞いているだけでもリジー(ちょっと慣れないな)さんが師匠を信頼しているのがわかる。全く警戒というか敵意がない。なんか凄い人なんだろうな。


 そのまま十分ほど廊下を進み三階まで上がる。立派な扉を開けると、これまた扉に負けない重厚な机と、その机が負けそうなほどの本の山。紙の束。あぁ典型的な本の虫だこの人。


「ちらかってて申し訳ない。ちょっと片付けるから手伝ってくれないか?」


 というので仕方なく手伝うことになった。魔法学校の師匠って話だからそれこそ魔法でパパッと片付けてくれるのかと期待したのに。


「物理作用を起こす魔法を使ってもいいんだが、これだけちらかった部屋を片付けるのはかなり面倒でね。魔力を使うと予想外なことになりかねない。本によっては魔力に反応してしまうものもあるのでね。いやすまない面倒をかけた」


 とりあえず机の周り、テーブルについて話ができる程度の片づけを行ってから、改めて話を始める。


「でもさ、まさかリジーが男連れで帰ってくるとは思わなかったよ。浮いた話の一つも聞かなかったから多少は心配していたところなんだよ。どうだい? リジーはいい娘だろう?」


「は、はぁ……」


 言えない、殺しあう寸前でしたとか言えない。


「しかもこんな魔力の塊。さらに魂を二つも持っているとか面白すぎるだろう! どんな魔法実験の結果の産物なんだ? これだけ奇妙な存在なんだ、まさか天然ものとは言わんよね?」


 色々鋭くてこまる。


 結局ウィルさんには包み隠さず知る限り全てを放した。これから協力してもらいたい相手なんだし下手に隠しても無駄だろう。

 私が魂として召喚されたこと。憑代としてノインに憑依していること。ノインと行った奴隷契約が私の魂をこちらの世界に繋ぎとめる結果になっていること。そのあと色々あってエディ君のところから逃げ出したこと。その時に一緒にリジーさんと逃げ出したこと。リジーさんの『制約』は私が魔力を使って調べて外したこと。


「はぁ!? なんだそのでたらめなやり方は。よくそんなやり方で死ななかったなリジー」


 飽きれるを通り越して大笑いされてしまった。そんなに面白いんだろうか?


「その『制約』ってのがなんだかわからないが、普通他人に命令を強要する魔法っていうのは、大なり小なり魂に食い込むように作用するものだ。つまり下手すると君はリジーの魂を引き裂いていた可能性があるんだ。本当にラッキーだったとしか言いようがない。っていうかそれが原因で表門を通れなかったんだろう」


「どういうことですか?」


「あの門は登録したものの体内を流れる魔力の形を記憶して認識する。魔力の流れってのは人それぞれで、魔力が強くなってもこの形だけは変わることは無いんだ。変装したところで魔力の流れは変わらない。

 でも今のリジーは登録した時と体に流れる魔力の量や形が完全に異なっている。まるで別人としか言いようがない。というか何倍にも強くなっている。きっと引き抜かれた魔力跡にホンジョー君の魔力がしみ込んで新しい流れを作ったんだろう。以前と比べても著しい魔力の充実を感じてるんじゃないか?」


 したり顔で説明、というか解説を続けるウィルさん。うん、間違いない。この人も学者タイプだ。しかも没頭する方の。この部屋に入った段階で察しはついていたけど。


「あ、はい。自分の体じゃないみたいでした。そういうことだったんですね」


「でも、命がけのリスクの代償としちゃぁ出来過ぎな方だ。後で体を調べてみよう。ここなら正確に判断がつけられる用意もある。何かあっては遅いからね」


 さすがリジーさんの師匠、色々と有能そうである。


「しかしそれを置いても、君は飛びぬけておかしな存在だ。魔力の色について誰かに話したかね?」


「いえ全く。脱出した時にリジーさんと話してたくらいです」


 人里を避けていたから誰とも接触はないし。


「そうだろうな。これからも言わない方がいい。君の特異性が露見する。というかよく来てきてくれた。いやぁ面白いことになるぞ!」


 ウィルさん大興奮である。なんか自分の世界に入っちゃった感じすらある。


「ところで師匠、相談したいことなんですけど……」


「まずは正式な魔力測定を行いたいな。ここでは外的に測定する方法があるからね。測定岩なんて使わないから安心しろ? その後で君の特性を調べたい。これだけの特異性だ、何かしらに特出したところがあるだろう。あとは色々と観察させてもらいたんだがそうだな、しばらくここで生活してもらうのがいいだろう。まぁ1~2年ほど過ごす間に色々と手伝ってもらって…… いやぁ面白いなぁ、実に面白い!」


 トリップしている師匠の頭をリジーさんが叩く。仮にも師匠だろその人。


「いいですか師匠。お願いしたいのはホンジョーというかノインちゃんのことなんですよ。このままだと彼女、ホンジョーの中で死んじゃいますよ?」


 え? マジ?



――



「結論だけ言うとそうなる可能性は高い。より強い魔力を放つホンジョー君の魂に、ノイン君の魂が取り込まれかねないね」


 冷静だが冷淡な事実を突きつけられる。このままでいたら本当にダメなんだ……


「えっと、じゃ、じゃぁなんとかできませんか? 契約を破棄するとか自分の魂だけ地球に還すとか」


「何を言うんだ、そんなもったいないことさせると思うか?」

「もったいないってどういうことですか!」


 リジーさん。首極まってますよ!?


「いたたた、いやだから対策を用意すればいいんだろう? 多分できるよ」


 予想をしていなかった訳ではないが簡単に答えられてしまった。


「どうしたらいいんですか? 私にできることなら何でもしますよ!」


 その一言を待っていたのか、なんかメガネの奥でキラリと光ったような気がした。面倒なこと押し付けられないといいなぁ……


「まぁ要は器だ。リジーもきっとそんなことを言ったはずだが、君たちどちらかを受け入れられる器が用意できればいいんだ」


「そうはいいますが、赤の他人に体をくれとか言えませんよ?」


「言うのは簡単だが多分無駄だ。そもそもホンジョー君の魔力を受け止められる器というだけで十分異常で特異な才能と言える」


 エディ君も言っていた魔力容量を強化したってのはこのことだろう。じゃぁどうすれば……?


「なに、簡単だよ。無いなら作ればいい」


 そういって棚から一つのビンを取り出した。



「聞いたことはないかな? 『フラスコの中の小人』。ホムンクルスだよ」



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