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14. 脱出!

 マヅい、非常にマヅい。


 何がまずいって、既にエリザベスさんの魔力がほとんど流れ出ている感じがすることだ。あと何割くらい残ってるんだろう? すでに立っていられないのか、力なくしゃがみ込んで動こうともしていなかった。


 考えろ、脱出方法を探すんだ。まずはこの部屋の仕組みを考えろ。どんなものにも欠点はあるんだ。どんなに優秀なものにだって。

 できればエリザベスさんと協力したい。彼女の知識があれば打開する策が思いつけるかもしれない。だがあの様子では考える気力も湧かないかもしれない。すでに生きることを諦めている可能性だってある。


 まず彼女を助けよう。それから一緒に逃げる方法を考えるんだ。改めてこの部屋の魔力の流れをよく見る。


 二人の体から魔力が流れ出続けている。エリザベスさんの赤い魔力、私の白い魔力がほぼ同量流れ続けているところから、吸収する指針的な何かを定めたタイプではないらしい。一定のペースで魔力を流し吸い取り続けている感じだ。ならば……

 しゃがみこんで右手を地面につける。そして、魔力を吸い取らせるのではなくむしろ押し込むように流し入れてやる。

 途端にこの部屋を循環する魔力が私の白い魔力一色に置き変わる。うまくいきそうだ。



「……何をしたの?」


 ゆっくりとだが、エリザベスさんが目を開ける。随分辛そうだが現状の変化に対する驚きの方が強そうだ。


「何って、自分の魔力を流し込んでます。この部屋が吸収できる魔力の量は一定みたいですから、こっちから流し込むようにすればそれ以上には吸収できないみたいです」


 私から流し込む魔力が吸収能力より上回って供給過多だ。おかげでエリザベスさんから魔力が吸い取られることが一時的だが停止している。彼女の危機は先送りになった。後は自分の魔力が続く間に打開策を考えてもらうだけだ。


「いったいどういうことなのよ! あんた死ぬわよ!?」

「いやです、死にたくありません」


 至極当たり前だ。誰だって死にたくない。だがそれと同じくらいに助けたい。助けられる可能性があるんだもん。こんな青臭い考えで動けるとは正直思ってもみなかった。やっぱり目の前で人が死にそうになってると知れば、どうあったって助けちゃうんだろう。

 もしかするとまだ自分が死ぬと思って無いのかもしれない。魔力がどうこうとか、やっぱどこか夢だと思い込んでるのかな? 普通死ぬよなそんなことやったら。うん。無事脱出できたらちゃんと現実として受け止めよう。


「……このまま貴方を殺すことだってできるのよ?」


「その場合、エリザベスさんはこの部屋にまた魔力を吸われることになりませんか? だから殺せない」


「……だったら貴方一人でどうにかすればいいじゃない!」


「そんなの無理です。 解ってるでしょうけど私は素人なんですよ。だから一緒に考えて下さい。っていうかむしろ教えてください。どうしたらこの部屋から出られるか。魔力を吸われなくする方法でもいいですから」


 何事か考え始めたようだ。そんなことを言っている間にも自分の魔力がグングンと吸い吸い込まれていく。この部屋マジやばいって。


「こんな大規模な魔力装置、どこかにコントロールするコアみたいなものがあるはずなの。っていうかこれ程の大魔力を通されてるのに壊れないって時点でお手上げなんだけど。せめてそのコアの場所がわかれば……」


「コアですか、そういうのって見た目でわかりませんか? なんか変わった色が出てるとか」


 変なものでも見るように彼女は答える。


「あのね、魔力に色なんて無いの。強弱があるってくらい。感覚的なイメージはあるかもしれないけど。色分けされた認識された魔力なんて知らないわよ?」


 魔力に色は無い? じゃぁ今自分が見ている景色はなんだ? 自分の魔力で白く染まった部屋…… いや、違った、左の壁中央。そこに薄紫色をした針のように小さな光が見える。 これがコアか。


「わかったかもしれません。ちょっと試してみます」


「わかったって、どうゆうこと? あんた何する気なのよ!」


 壁に手を付ける。うん、魔力を吸われる感じが強くなった。こうやって探す手もあったか。でも今はこの紫色の塊を……魔力で押しつぶすイメージを作ってみる。最初のうちは勢いよく魔力が吸われるだけだったが、だんだん崩れるようにに小さくなっていき、しまいには魔力の流れそのものが動きを止めた。勢いだけでやってみたけど上手くいくもんだ。



――



 どうやら当面の危機は去った。朝までに確実に死ぬって危険が無くなっただけだが。あとはどうやって脱出するかだが、これは彼女に頼るしかあるまい。


「なんとなかりました、さてどうやって脱出しましょうか?」


「……えぇっと、うん確かに魔力は奪われなくなった。なんだかわからないけどほんとにどうやったんんだか」


 あんまり驚いてもらっていても仕方がないので、なんとか脱出の方法について話を進める。


「ちょっと待って、それだけだとダメなの」


 どういうことだろう?


「坊ちゃんの制約。アレが有効な間はどこに行こうがバレちゃうのよ。どうにかして無効化しないと逃げようがないの」


 なるほど。でも殺されたくないし。実際彼女から敵意というか殺意みたいなものは感じられない。流石にもうそんなこと考えてもいないようだ。だがこのままではいずれは捕まってしまうだろう。どうすればいいんだか。

 待てよ? もしかすると、案外簡単に解決できちゃうんじゃないか?


「エリザベスさん、ちょっと失礼しますよ」


 といって彼女の背後に回り込む。どこでもよかった気はするが気恥ずかしいので。そのまま彼女の背中に手を当てる。


「え? ちょっと何すんのよ?」


「こうするんです」


 さっきの床と同じ要領で、彼女の体に魔力を注ぎ込んだ。



――



 何? どういうことなの? ホンジョーの手から魔力が流れ込んでくるのを感じる。もう圧倒的って言ってもいいほどの。自分の体が魔力枯渇状態に近かったせいもあって、それこそ体の芯まで満たされていく。うぁ…… やばい…… これは、き、きく……


 なんていうか、もう全身に気持ちいい感じがなだれ込んでくる感じ。背中から、皮膚を通して、体の中まですっぽりと。……ヤバい。体中が喜んでるっていうか! あのマジヤバい。口を閉じてるのに変な声が止まらない。続けてほしいけどやめてほしい、いややめてほしくない! ホンジョーって何者よ! なんでこんな時にこんなことしてくれるのよ!


「動かないで、魔力を流し込んでます。わかりますか?」


「わ、わかってるわよ…… いったい何がしたいのよ……」


 まともに話ができない。っていうか顔から火がでそう。まともに前が見られない。


「うん、この首筋にある7つの針みたいなのが『制約』の源みたいです。今から抜き取りますから我慢してください」


 そういって首に手をかける。ってちょっと今全身が敏感になっちゃってるから! 触っちゃダメ! ってあれ? 『制約の源』とか言わなかった?


「はい、まず一つ!」


 そういうと、何か体の中から根っこのように食い込んでいた『制約』の魔力がズルズルと引き抜かれていることに気が付いた。細く長く伸びきっていたそれは、どうしょうもなく体を刺激する。


「いや、あっ! ちょ、ちょっともうちょっと優しくしなさいよ……!」


「すいません、初めてだから勝手がわからなくて」


「いきなり焦っていくのはやめて、ちょっとイタイから。優しく、ゆっくりお願い」


 そのあとも、やっぱり結構強引に引き抜かれていった。でも最後の方では『魔力の源』自体をホンジョーが自分の魔力で包み込んでくれたか、強い刺激を感じることは減ったみたい。ほんとになんでもできちゃのね。


 全て抜き終えたようだ。今まで感じていた体を縛られる感じが全くない。むしろ体が軽くってしょうがない感じ。今ならなんでもできちゃいそう。なんかテンション上がってるのかしら?


「ありがとうホンジョー。貴方のおかげね。さて、じゃぁ本格的に脱出よ」



――



 エリザベスさんの問題が解決すれば後は簡単だ。鉄格子のはまった窓、そこにから脱出すればいい。魔力が使えるんだからそんなに苦労はしなかった。

 鉄格子ではなく自分の体に魔力を通し肉体を強化する。この状態なら案外簡単に窓枠ごと外すことができた。いまほど体が小さいことに感謝したことはない。元の体だったら腹が突っかかって出られなかっただろうな。エリザベスさんもすんなり通れた。小っちゃい方が役に立つこともあるんだよ! 言わないけど。


 外に見張りはいなかった。エディ君も予想してなかったのだろう。魔力を封じれば脱出できるわけがないと考えているのはある意味自然だ。この世界は魔力が根幹にあるだけに対策も魔力に偏る。エディ君だって知識はあってもこちらの世界の住人だ。やはり最終的には魔力を注視せざるえないだろう。


 だからこそのこの隙。今をおいて脱出するチャンスはもう無い。とにかく全力で走る。例の地下道を通りひたすらに。

 エリザベスさんいわく、川に出てボートを流そうとのことだ。ボートに乗って脱出するのかと思ったが、それは囮に使うんだという。複数のボートが無くなればそちらを探さざるえない。例え見つかっても他にいた可能性がある以上探すしかないという。すべてのボートが確認されるまでに逃げ切ってしまおうということだ。さっきまで死にかけていたのにずいぶんと頭が回る。


 地下道を抜けて桟橋へ。思ったとおりいくつかのボートが止められていた。


「さぁ、盛大にいきましょう。全部の錨を切って!」


 そのへんに放置されていたナタを使って一つ一つ、桟橋に結び付けてあったロープを切断していく。大体20も切ったあたりであたりが騒がしくなってきた。

 明かりが見える。どうやら脱出したのがバれたみたいだ。


「やっぱり坊ちゃんはボンクラじゃないわね。とっとと逃げるわよ!」


 そういうと川の流れとは反対の山道に向かって走り始めた。



――



 林を抜け森を駆ける。このへんには地下道は無いらしい。だからこそこっちに来たそうだ。


「私が作らせた地下道だけど、坊ちゃんが地図を作っていないとは限らないわ。用心するならああいったものに頼らない方が確実ってものよ」


 このまま谷を抜けて隣国まで落ち延びる算段だという。そこまで行けば頼れるところもあるらしい。なにやら曰くつきの相手だとか。なんで最初からそっちを頼らなかったんだ?


「坊ちゃんの警護を『制約』させられてたからね。離れられなかったのよ」


 手紙とか使えばいいのにと思ったが、通信手段が見張られている場合を考えて使えなかったという。どんだけこの地方を把握してるんだあの坊ちゃん。


 森を進むと谷間に出た。簡素な吊り橋が一本あるだけの簡単な山道だ。渡った後でこの橋を落とせば追っ手を絶つことができるということらしい。っていうか橋を切ったらこの町の人に迷惑かかんないかな?


「あんた、自分の命がかかってるのよ? 橋は直せばいいだけでしょ? ちょっとくらいの不便がなによ!」


 うん、まぁ言いたいことはわかる。でもやっぱ気になるよね。

 などと考えていたら、麓の方から明かりが近づいてきた。やばい。もうバれてる。


「走って! 間に合わなくなる!」


 がむしゃらに走り抜ける。自由の身まであとちょっとだ。頑張れ私の心臓!



――



 橋の中央にさしかかったあたりでエリザベスさんが足を止めた。


「どうしたんですか? 早くいかないと!」


「いや、どこにも行かさない。逃がさないよホンジョー」


 あちゃ~、どうやら先回りされていたみたいだ。エディ君が橋の向こう側で待機している。そばに昨晩見かけたボディガードっぽい人達が、お仲間を連れてお待ちかねだ。


「ほんとに君は面白い。どうやって脱出できたんだ。あの部屋から出られるなんて想定外も甚だしい! 実に君は有能だ! だからこそ惜しい。正直殺したくない。今からでも遅くない、私に協力してくれないか?」


 エディ君が熱心に語りかける。自信作だったんだろうなぁ。


「リジー。最後の命令だ。『全ての制約を元に、ホンジョーを捉えて差し出せ。これを持って完全に制約から解放する』」


 高らかな勝利宣言。だがエリザベスは動かない!


「さっきの命令は殺せないと君が断念したので無効になったが、これなら簡単だろ? ホンジョーを連れてくるだけだ。殺さなくていいんだぞ? 本当に簡単すぎると思わないか?」


「えぇ、簡単だわ。ほんとあきれる位に」


 そういうとエリザベスさんの両手が私の肩を掴む。ぎゅっと抱きしめて、橋の縁へと押し込まれた。


「そうだ、そこで動かすな。今からそっちに行く。変なことを考えるなよ?」


 がしっと掴まれて離れない。いったいどういうつもりだ?

 少し困惑していたが、エリザベスさんが大きく声を上げた。


「今よホンジョー! このロープに魔力を通しなさい! ありったけよ! この橋を落とすの!」


 えぇ! マジですか!? って下は谷ですよ? 死んじゃいませんか?


 顔面蒼白になっている自分のことを、エリザベスさんが静かに微笑んで見つめている。真っ直ぐに、綺麗な瞳で。

 そういうことか。

 美人に命を賭けろと言われたんだ。これで動けないんじゃ勇者というか男でもない。


「わかりました。全力ですね!」

「そうよ! 後のことは任せなさい!」

「や、やめろお前ら! どうなるかわかってるのか!」


 ロープに全魔力を注ぎ込む。とたんに橋全体がまぶしい輝きに包まれる。大きな魔力に耐えかねたのかところどころから悲鳴にも似た炸裂音と焦げたようなイヤな匂いが満ちてくる。あ、指輪にヒビが入ったかも。


 そんなことを思う間もなく橋全体が振動を始める。こりゃ復旧に時間がかかるな。ごめんなさい道路整備担当の人。でも後悔はしない。ブチブチという音が不気味に共鳴しはじめる橋をあわてて対岸に駆け上がるエディ君。部下を押しのけて必死だな。そんな様子を見ながら私たちは橋と一緒に谷間に落ちて行った。不思議と二人は笑顔だった。これから死ぬかもしれないのに。



――



 ホンジョーに魔力を注がれてから、体が見違えるほど軽く感じられた。自分の体じゃないみたいに。さっきまでの魔力の枯渇ぎみだった状態、というか普段と比べても比較にならないくらいに。これがホンジョーの感じてる世界。まるでなんていうか、いきなり超人にでもなった気分よ。

 実際、感覚が鋭くなって普段の倍は認識が広がった感じすらした。港に出る時も見張りの様子がまるで天から見下ろすようによくわかった。おかげで楽勝だったの。


 でも調子が良かったのもそこまで、なんだかわかっちゃった気になって油断してたのね。っていうか私油断しすぎたみたい。あんだけあからさまな陽動じゃぁ坊ちゃんなら余裕で看破するわかるわよね。時間が無いからって安易な作戦を実行しちゃったもんだわ。


 でも今日は違う。今の私ならホンジョーをかかえてこの谷に落ちても無事にいられる確信があった。

 大丈夫! あたしに任せて! 無茶な計画だったけどホンジョーは信じてくれた。ここまでさせたんだもの、絶対逃げ延びてあげる。


 落下しながらも橋の破片を巧みに使って体制を整える。うまく背の高い木の枝をえらび、幾重にもおりかさなったところを選んで衝撃を分散。伸びた蔦を掴んだりしてなんとか着地。やればできるもんよね。流石に無傷というわけにはいかないけど、右腕を少しひねったくらいだし。擦り傷はそこらじゅうだけど今の魔力の充実っぷりならそのうち治るでしょ。たぶん。


 本当に全力を使ったんだろう。谷に逃げ延びてからピクリとも動かない。体が小さいからかかえて移動するのも苦にならないのが幸いだ。普段なら無理だと思うけど、ほんとどうしたんだろ私の体。


 全力で1時間くらい。もう坊ちゃんの領地からは逃げ出せたはず。一先ずは安心してもいいかも。というかツライ。そろそろ起きてもらいたいし。

 洞窟を見つけて腰を下ろす。流石に人一人をかかえて走りっぱなしはきついわ。もう限界。まぁ休憩してもいいわよね。


 ホンジョーを下ろして私も腰を下ろす。追っ手に気づかれるわけにはいかないから火を起こすことはできないけど、こうして抱き合っていれば一晩くらい凌げるわ。


 一時はどうなることかと思ったけど、全部あなたのおかげ。ありがとうホンジョー。約束通りなんでもしてあげる、なんでも。

 ちょっとぼんやりと彼を見つめながら、ふと違和感に気が付く。


 ってどういうこと……



 どういうことなの?



――



「ねぇ、ホンジョー? ホンジョーよね? ホンジョーなんでしょ? どういうことなの!?」


 体が揺さぶられる、どうやら魔力の使い過ぎで気絶していたみたいだ。どうやって逃げ出したんだかわからないが、きっとエリザベスさんがうまくやってくれたんだろう。しかし何をそんなに必死になっているだろう?


「は、はい。ホンジョーですけど。どうしたんですか?」


「どうしたんですか? じゃないわよ。貴方、間違いなく私を助けてくれたホンジョーなのよね?」


「間違いって、別人みたいに言わないでくださいよ。エリザベスさんの脱出を助けて言われるまま橋を落としたホンジョーですよ」


 そういってもまだ変なものをみるような目で見つめている。いったいどういうことなんだ。ここは洞窟らしいが、近くに沢があるらしくそこまで連れて行かれた。


「いいからあんた自分の姿をよく見なさい」


 言われるままに、水面を覗き込む。ブロンドの短い髪。ちょっと見慣れた少年のような自分の…… 少年のような? あれ? ちょっとまて?


 思った以上にぷにぷにとした体つき、もっと筋肉っぽい感じがしたはずなんだが、これでは少年というよりは女の子じゃないか。え? はぁ? ちょっとまてどういうことだ? 間違いなく男だよ俺。だってほら!


 ……


 無い。


 どっかに落として、るわけないな。怪我して切れたわけでもないし。


「あんた、妙に可愛いと思ってたけど、女だったの?」


 見ましたよね! しっかり見てましたよね?!

 アレを思い出したのか、改めて二人して絶句してしまう。そりゃそうだ訳わかんねぇ。

 だがその静寂を破って話し始めるものがいた。


「すいません、発言をお許し下さい」


 ふと見下ろすと、水に映った彼女?が喋り始めた。 正確には自分が喋ってるんだろうが。ちょっと待てどうして口が勝手に動くんだ?



「ご説明させて下さい。私の名は9号。『召喚コア』と呼ばれているものです」


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