馬の気持ち
初めて書かせていただきます。
読者様からの反応が少しでもあれば、続けていこうかなと考えております。
反応が無ければ、惹かれるモノが何も無いということ。
皆様の肥えた目に、駄文を読ませてしまう謝罪を先に………お手柔らかにお願いします。
大気を裂いて進むーーー。
上半身は舞い落ちる木の葉の如く、凄まじい速度によって生じる空気抵抗を受け流す。
その姿は計算しつくされた最新鋭のスポーツカーを想起させる。
下半身ーー刹那、気を抜けば振り落とされる、天まで突き上げるかのような衝撃。
それを抑え込むのは鍛え抜かれた下肢の筋たち。
下腿三頭筋を筆頭に漸次硬直。
両下肢で、躍動する相棒を挟み込む。
駆け上がる衝撃を吸収するのは大腿四頭筋、ハムストリングス、大臀筋etc...
一つ一つの筋を、心臓のネクサスの様に連結させるイメージ。
それ等がバネとなり全ての力を分散させる。
膝では靭帯が悲鳴を上げ、まだレースの中盤だと言うのに、腰から背部全面、姿勢を保つためのインナーマッスル達が叫ぶーーー「いつまで続くのだ、この苦しみは」と。
だが俺は、、、
俺たちは駆ける。
ただ、もう一度。
もう一度あの光景を見たい
コイツと一緒に、あの高みまで。
一握りの騎手だけが、届く世界。
あの時の幸福感は未だ色褪せることは無い。
…色褪せることは無いーーー。
ーーーあれから三年が経つ今なお。
目の前には最後のコーナー。
相棒、マッキー・ジョーダンの背が、俺に語りかけてくる。
「落ちるんじゃねぇぜ、相棒」
ーーー「ったりめぇだ」
ーーー「おめぇこそ、ビビって脚が伸びてねぇんじゃねぇか?」
「ハッッ、言いやがる」
馬の声が聞こえるなんて、そんなバカな話があるもんか。
世間の人は皆そう言うだろう。
だが、俺たちジョッキーには聞こえるのだ。
ジョッキーと馬の友情は言語の壁を超えるんだぜ?
ん?言語どころか、種族?の壁?
まぁそんな事はどうでもいいか。
俺等の友情は百万馬力、どんな法則もブチ破るーー
………イヤ、俺も確かにそんな話は聞いたことが無いな。
今まで当たり前の様にマッキーと喋っていたから、皆聞こえてるもんだとおもっていたが………
他の騎手からそんな話を聞いたことはないぞ………
そうなると、俺が特別なのか?
馬が好き過ぎて馬と会話できる能力でも発現させたーーんなアホな。
そう言えば、マッキー以外の馬の声を聞いた事はないな。
あ、俺が特別じゃなくて、もしかしてマッキ
「オイ!なにぼけっとしてやがる」
ーーー「おうふ!わりぃ」
思考の海から急速に引き戻される。
いったい俺はどれくらいの時間、気を抜いていた?
精々コンマ数秒だとは思うが、落馬していないのは日頃の研鑽の賜物だろう。
自分の頭に鞭を打ちたい気分だ。
普段ならこんなことーーレース中に考え事をするという愚行ーーはしないはずだ。
しかし、今日は色んな思考が、想いが、記憶が
溢れてーーーくる。
理由は解ってる。
軽く、手の平で漆黒の鬣をなでる。
ーーー気が付けば既に、コーナーを周りきろうとしている。
マッキーとこの『淀の坂』を走るのは、何度目になるだろう………
三年前の天皇賞を想いーーー。
【ふ】と音が消えていく音が、聴こえた。
ーーー「あぁ、この感覚」
「懐かしいな、イクル」
ーーー「帰ってこれたな、最後の最後に」
「気持ちいいなこの世界は。こんな素晴らしい世界を二度も経験出来るなど思ってもみなかった。イクル、やはりあの時お前を選んで良かった、、、ありがとう」
ーーー「それはこっちの台詞だ。叶うのならこのままずっと走っていたい。おっと、走ってるのはマッキーか。でもな………感覚を共有してるかのように、俺の蹄が芝を駆けているーーー俺は今、人の身では永久に辿り着けない世界にいるんだ。お前のお陰だよ、マッキー、ありがとう。………ふっ、口に出すのは、むず痒いもんだな」
「聞いてるこっちの方がむず痒いと思うがな……ーーーずっと走っていたい、か………」
大気が色鮮やかに視え
七色の光線が緩やかに流れゆく
緑の芝に反射する春の陽光は
二人が進む路を真白く染めている
互いの身体の境界が曖昧になり
溶け合い、新たに個として生まれる
身体は軽く、疲れや痛みは一握も遺さず快感に切り替わる。
「確かに、な。あぁ……馬も悪くないもんだな」
ーーー「ん?なんかいったか?」
「なんでもねぇよ」
「………なぁ、イクル」
ーーー「なんでもねぇんじゃなかったっけ?」
「………くっ!………なんでもあるよ!」
ーーー「チャイニーズか、己は」
「誠に残念なことに、馬だな」
ーーー「ははっ!………あぁ、残念だな。馬か、違ぇねぇ。はははっ!!」
「笑い過ぎだ、しょ~もない。ずっと一緒にいたがイクルの笑いのツボだけは未だに掴めんぞ?」
ーーー「この世界でもわからないんなら、永遠にわからないだろうな」
「違ぇねぇな!フッ、フッフ、フッハハハハハ!!」
ーーー「おおぅ。お前がそんな笑うとこ、初めてみたぞ。なんか、何処ぞの悪役かって感じだな」
「悪役ねぇ………前世はそうだったのかもな」
ーーー「俺から、今度は人間にしてやって下さいって言ってやるよ、神さんに。ばぁさんか、じぃさんか知らんけど、こう見えて俺、年寄りに好かれるタイプだぜ?」
「なら俺は、イクルの中の神様のイメージが酷すぎます。今度は馬にでもしてやって下さい…って、神様に言ってみることにしよう」
ーーー「馬かぁ………乗ってくれるのがお前なら、それもありかもな。。。うわっ!キモ!!俺キモ!!!自分の言葉咀嚼して鳥肌たったわ!」
「鳥肌立ったのは俺だ!気色悪ぃ!!」
ーーー「馬なのに、鳥肌……プッ」
「そのセンスもどうにかならんか、神様に頼んでみるわ。わりとマジで」
ーーー「……………」
「どうした?イクル。後、さっき何言おうとしたか忘れたわ。」
ーーー「マッキー、今、俺等って、どうなってる?どうなってる?って変な日本語だな、、、でもそうとしか言いようがないんだよなぁ〜〜。なぁ?どうなってると思う??」
「どうなってるって、走ってるに決まって………」
ーーー「な??」
「浮いてるな。あと、何処?ここ。」
ーーー「さぁ……ってうわぁぁぁ~~~!」
……………………………………………………………
俺が(俺達が?)自己を認識した瞬間。
一つの個となっていた身体が、徐々に分離していく。
さっきは「うわぁぁぁ~~~」とか叫んでみたが、さほど痛みも感じない。
どんな感じ?
う~ん。
スライムになった身体が…
ゴキブリホイホイに引っかかって……
そっから優しく優しく剥がされていく………
そんな感じだ!!
………俺も最初の最初っから、スライムが出た時点で無茶がある揶揄だとは解っていたさ。
だから…感嘆符を付けて…なんとか……。
そんな事よりも、マッキーはどうなったのだろう。
俺の状況はどうでもいい。
相棒の存在だけが気がかりだ。
俺と同じ様に、引き剥がされる感覚に戸惑っているのだろうか。
まぁマッキーの事だから、何処か他人事のように身を任せてるに違いないとは思うが。
生きている頃から(今が死後かどうかは分からんが)マッキーはやけに自分の命を軽く捉えている節があった。
「走るの飽きたし」と言ってレースをサボりだした頃は、「馬肉にされるぞ!」なんて脅したりもしたっけ。
取り敢えずこっからどうなるかが【生きたい】という意思にかかっているのだとしたら、マッキーは確実に悪い選択に振り分けられると思う。
いつの間にか互いの声も聴こえなくなっているので「生きたいのなら、生きたい。と言え!」なんて、少年誌の主人公のような台詞を飛ばしてみたり。
届いてないと思うが、もし本当にマッキーに聴こえてたら恥ずかしさで死ぬかも。
…てかこれ死んでるのかな~。
走ってる間に血管切れて死んで、輪廻転生の真っ最中なんて事じゃ無いといいなーー。
時間の感覚も曖昧で、分離?しだしてから10秒と言われても(まぁ~そんなもんか)って感じだし、100時間って言われても(まぁ~そんなもんか)って感じだな。
うん。
………なんか分からんがめっちゃ眩しいし。
目を瞑ることも出来ず、そもそも目蓋が存在しない。
ただただ白い…果てなどありそうもないこの真白の空間に、自意識だけが存在している。
ん?
よく見ると、真っ白の中に薄く黒い円形のラインがあるように見える。
少しでも気を抜くともう二度と見つけられないかもしれない、そんな儚い目印。
現状に変化を起こさせるであろうソレに、全神経を集中させる。
ーーー違う。
黒いラインではない。
濃いーーー白がある。
例えるなら、白玉団子。
それ以外の説明は不要だろう。
大きさに関しては、比較対象が無いのでなんとも言えないが、、、
『!!!!!!??』
白玉団子がグニュグニュニュと蠢きなにかが構成されていく。
先程までの完璧な円の美しさは何処にもない。
突き出し、凹み、尖り、窪み…その変化は滑らかな流動。
俺の立ち位置?は俯瞰……だと思う。
俺はどうする事も出来ず、ただただ見守ることしか出来ない。
視線を外すことも出来なければ、違う角度に移動することも……ただ、見るだけの存在。
気が付けばグロテスクともいえる凹凸の連続は、少女の粘土遊びの様なゆっくりとした動きに落ち着いていた。
角の無い四角形
少しずつ伸ばされて平行四辺形
底辺中心部分が凹み、片方の上角が伸び
その移ろいは神々しく、慈愛に溢れている。
俺は唐突に、理解する。
これは命の誕生。
目の前で、一つの生命が徐々に形どられて………
牛乳に珈琲を混ぜるように、色が着けられていく
白色から薄茶色。薄茶色から焦げ茶色になり
白玉団子から造形されたのは既知の生物。
漆黒の鬣
逞しい脚
可愛い尾
全身が筋肉の塊
凛々しく大きな瞳
同種の雌ならば必ず振り返るだろう
恰好良い、とても立派な、馬だ。
俯瞰の俺は次第に完成した俺(凛々しい黒馬)に近づいていく。
逆らうことが出来ない、自己の肉体と魂が引き合う引力。
悟る俺。
この馬は、これからの俺の新しい肉体。
だが、理解する事と納得する事は違う。
今チョット考えただけで幾つも浮かんできた、これから馬として生きる俺の人生(馬生?)の劣悪ビジョン。
囓った人参から芋虫が出てくる?
そんな甘っちょろいもんじゃないぞ(°_°)
自分の想像力の豊かさに感嘆しつつ………また新しく生まれた馬生ビジョンに涙が止まらない(今は肉体が無いから実際はなんも出てなさげだけど)
………そんな未来を甘んじて受ける程、俺は達観してはいない。
ワンモアチャンスプリーズ!
後生ですから人にしてくれ!!
魂をくねらせながら創造主に縋る。
ふと、相棒の声が蘇る。
『今度は馬にでもしてやって下さい…って、神様に言ってみることにしよう』
そんなフラグありかよorz
「馬になんて…なって……たまるかぁ〜~〜…」
【スッ…ポンッ!!】
うん。無理でした。。。
【スッ…ポンッ………スッ…ポンッ………スッ…ポンッ………】という心気味良い音が、脳内に響き渡り、何時迄も反響している。
今日、俺は
馬に、生まれ変わった。
………フッ、フフフフ、フゥーーハハハハハ!




