1章1話 『色欲』のギリア
ギリア・レプタンサは一族の人間から見ても妙な子供だった。
イワニガーナ王国の外れの森の中、小さな村に隠れるように住む一族、機族。その中でも、飛びぬけて奇妙な子が、ギリアだった。
小さなころから、異常なほどに美しかったギリアは、しかし生まれつき男言葉で話すのだ。自分のことを男かと認識しているのかと思うと、それに反して女性を強調する格好をする。小さなころから不思議な色気に満ちた少女だった。
親が早くに死んでしまい、孤児となったギリアは、その性格も相まってか村では浮いた存在だった。
いくら綺麗でも、いや、綺麗だったからか、その不釣り合いさでいじめられたりもした。それを全員倒したら、今度はそいつらの親がやってきた。なんてことはない、日々戦って生きてきた。
この世界の住人には、生まれながら、或いは生きる過程にて、それぞれ属性というものが与えられている。
例えば、『純潔』『希望』『暴食』などが挙げられる。さらにそれらを極めた人間には、それぞれ呼び名が付くのだ。属性『勇気』の到着点『勇者』や、『慈愛』の到着点『女神』などである。他にも特殊なものとしては、『嫉妬』『暴食』『憤怒』『怠惰』『色欲』『傲慢』『強欲』の7属性、それぞれ極めた者を大罪人と呼ぶなど、である。
ギリアの属性が『色欲』であると判明した時、周りの大人たちは一様に納得した。ならばこの色気も頷ける、いっそ娼館にでも売りつけてしまおうか、と。
決まってからは早かった。男たちは、処女のまま売るべきか、一度楽しむべきかという話をしながらギリアの元へと向かうのだった。
自分の属性が『色欲』だと知った時、ギリアは唖然とした。
「くひひ、おい、オレが色欲ってことは、つまりあれか? オレが男に抱かれることを願ってるとか、そういう事か?」
露出させた臍を撫でながらギリアは考えた。そのまま身をよじる。
この露出は敢えての事なのだ。こうでもしなければ、こうでもして自分に見せつけなければ、体と心の齟齬から気が狂ってしまいそうだったから、苦肉の策だったのだ。
「それが今度はこれかよお。良いね神様、いい試練っぷりだ。生きてる実感が湧くねえ。ま、神様なんか見たことないけど」
いるのだろう、自分がこんなところで生まれ変わっているのだ。きっといるのだろう。そう考えた方が打ち滅ぼす目標が出来て良い。
「良い、ああ、いい……なるほどね、こりゃまあ、気持ち良い感覚ね、うふふ」
障害を乗り越えた時を想像すると、言いようもない興奮と快楽が押し寄せる。
この感覚が快楽なら、はまる人が多いのも頷ける。捕まえようとしてきた大人の腕を、刃に変えた腕で切り落とす。
大人が何か叫んで、喚いていた。
「ああ、みっともないわ、みっともねえなオイ」
何か、また叫ぶ。
構わない、この村には何も未練はない。ならば彼らはオレの糧となるべきだ。そうギリアは笑った。舌をべろりと出して、それを男たちに見せてみせた。
「ああ……」
そのまま溜息をついて、自分の体を抱くように腕を交差させる。背中から、大量の銃口を発生させる。
トリガーは心の中にある。念じれば一斉掃射だ。打ち出される弾はギリアの精力の塊。
「貫け、うふ」
全身から弾が発射される。
周りに立っていた人間、大人も子供も、男も女も関係なく、村中が貫かれていく。防御の為に体を金属に変えた者もいたが、それすらも貫いて弾丸は行く。
やがて全てを打ち終えて、静かになった村の中心でギリアは空を見上げた。
妙なものである。こんなに簡単に殺せてしまうのに、今までやられる側に甘んじていたというのが、実に妙だ。
血の池に一人立ち、ギリアは笑う。そのまま、血が跳ねるのも気にせず歩き出した。
「ああ、なんでもっと早くやらなかったんだろう、オレもまだまだ馬鹿だなあ」
まだ生き残りがいたらしい、民家から女性が飛び出してきた。確か、最初に腕を切り落とした男の妻だっただろうか、とギリアは考えた。
この淫売が、とか、育ててやった恩を、とか、あんたが夫を誘惑した、だの言っている女性に向けて、ギリアは右腕をつき出した。
「淫凸」
そしてあらわれる、2メートルの金属の塊。それを構えながらギリアは言った。
「あなたに魅力が無いのが原因じゃない、なんつってな。くらいな! 壊れるまで愛してやるよ!」
そのまま、下腹部目指して一気にぶち込んだ。淫凸は、女性を貫いて、赤黒く光っている。
淫凸を解除して、右手に付いていた血を舐めてみた。ちょっとしたかっこつけのつもりだった。
「あん、おいし……おいおいまじかよ」
自分の反応に呆れたギリアは、頭を掻きむしった後、村全体を見回す。
「さて、どうすっかな」
もうここに居る必要もないだろう。ならば、ただ自分の欲望を満たすように生きてみようか、ただ強く、淫らに、美しく。それはとても、
「素晴らしいかもしれないわ」
もっと多くの危機がオレを襲うのだ、そしてそれを圧倒的パワーで虐げる。素晴らしい人生だ。
前世には比べものにならないほどに、きっと素晴らしいのだろう。
「ならまずは大罪人を目指すか、とりあえず、淫らに殺りまくればいいのかあ?」
村から一歩出る。どちらに行こうか、わからないことだらけだ。
そうして、ギリアの当てのない旅が始まったのだった。
それが5年前だっただろうか、とギリアは考えた。
今思い出すとずいぶん恥ずかしい言動だった気がする。
ともあれ、5年で大罪人仲間入りを果たし、罪具のありかを見つけるところまで来たのだ。随分順調なのだろう。
歓声が聞こえた。地上の方からだろう。実況の声も聞こえる。
『さすが、圧勝だ! 寄せ付けない! 『忠義』の騎士ベロニカ・ルリトラノ!! 名誉の名は美貌と共にそこに居た!!』
どうやら噂の騎士様らしい。ギリアは地上を見上げた。
罪具が現れるのは、年に一度、地上と地下両方の王者の記念試合の時のみと決まっているらしい。
「ああ、早く見てみたい……」
なれば、勝ち残らなければ。相手は後何人だろうか。
ギリアは自室として宛がわれた、闘技場地下の一室の天井を、じっと見つめ続けた。




