ねくすとっ! Konara Angle 9/23 14:47
誤字脱字等有りましたら指摘お願いします。
「魔女になって生きているのですか?」
私は、そう呟いてしまいました。
まだ、私は生きている。
ちゃんとこうやって、立って生きている。
でも、心臓と右目がない。
「えっ? え、…………えっ!?」
自分が置かれている状況が掴めず、慌てふためきました。どうして魔女に襲われて食べられた私が、魔女になったのか? そもそも、魔女になるのは、サバドという謎の女性に出会い、心臓を奪われるとなるものだったはずなのに、何時、どこで、どのタイミングで、心臓を奪われたのか? もう訳が分かりません。
「ていうか、わたしの心臓、殺戮の魔女に食べられてたよね……」
あの時、殺戮の魔女は、私の胸の皮膚と胸骨を取っ払って、そこに詰まっていたもの――心臓を食べていたはずです。そうなると、どうして、私が魔女に心臓を食べられたというのに、魔女となって生きながらえているのか、全く検討がつきません。あの魔女が実はサバドだ、ということも考えられなくはないのですが――なんとなくそうではない気が何故かします。
そんなことを考えても切りがないと、一旦謎はそのまま放置して、私は、ここはどこなのかを考えました。魔女になったのだから、捕まえた魔女を保護する施設、通称魔女収容所の部屋に入れられたのかなと思いましたが、この白い鏡とベッドしか置いてないこの部屋が、魔女収容所のどこにあるのか、そもそもこの部屋が魔女収容所にあるのか、分かりませんでした。魔女収容所は何回も仕事、女手が足りないからお手伝いでいったことは何回もあり、魔女収容所にある部屋は、どこにどんな部屋があるのか、どこの部屋にいるのか、すぐに分かるくらい熟知しているのですが、この部屋は、魔女収容所では見たことがない部屋でした。改築工事をやって部屋を増やした、という話を訊いたことがないので、新しく出来た部屋ということはなくなります。そもそも、私の能力で魔女が近くにいればノイズが聞こえるはずなのだから、物音すら何にも聞こえない、ここは魔女収容所ではないってことはすぐに結論が出ます。それじゃあ、考えられるのは病院の部屋、にしては殺風景すぎるのと、こんな死体のような体でそんなところに暢気に運んでくれるはずもないので、この線も却下。
いったい、ここはどこなんでしょう?
この部屋には手がかりとなる情報が少なすぎて、ここがどこなのか分からないので、とりあえず、この部屋の出口、スライド式の扉から出て、あちこち歩き回った方がよさそうでした。鍵がかかってなければの話ですが。
私は殺戮の魔女にはがされた胸の皮膚がどうなっているのか、確認するために脱いだスエットの上を着て、左側にあるスライド式の扉に近づこうしましたが、鏡に映る自分の姿を見て、止めました。
「それにしても、この右目、どうしたんだろ……」
このぽっかりと空いた右目。どこかで落としてしまったような右目。右目がなくなっているに激痛とか、痛みは存在せず、昔出来て、もう傷はふさがり、これで治っていると言わんばかりに、その空いた穴は吸い込まれそうなくらい黒く深く空いています。本当になくなっているのか、右の人差し指でおそるおそるその右目の穴に近づけます。
「……うぉっ」
指の第一関節くらい入ってしまい、自分でも小さな驚きの声をあげてしました。これ以上中に入れるのは、怖いし、何だが寒気もしてきたので止めました。これで私の右目は完全になくなっていることに実感できました。
「はぁ、視界が半分になって、すごい見辛い。あと片目だと、遠近が狂うんでしたっけ? よく分からないですけど。まあ、生きているだけでも、良いと考えた方がいいんですかね?」
そうポジティブに考えて、私はスライド式の扉に向かいました。
ザァー。
「っ!? 魔女が近づいて来る!?」
私はこの扉の外の遠くから、ゆっくりと歩いてくる、魔女が鳴らす音が耳に入ってきました。そのノイズのような音は、徐々にこちらに向かって近づいてくるようで、ゆっくりとボリュームを上げていくように大きくなってきます。
ベッドに戻って寝たフリをした方がいいのか、このまま、この部屋を通り過ぎてくれるのか、こうやって巡回しているんじゃあ、外にでることはできないじゃないか――と、どうしようか焦りながらも考えていたとき、ふと思いました。
私だって、魔女なったんだから、攻撃ができる能力が使えるはずっ!
すぐに自分の能力がどういうものなのか確かめようとしました。
「…………って、どうやればいいの?」
分かりませんでした。
無情にも扉の前に近づいて、足音がしなくなりました。どうやら扉の前で、誰かが立っているようです。
こうなったら自棄だ。魔女でも、何でも来いっ――
「あれ? なんかおかしい気がす……る?」
私、今なんて思った?
そう数秒前を思い返そうした時。
扉が開きました。
「っ!?」
私はとっさにその扉を開けた魔女に対して身構えました。
「こならちゃん起きた? ――って、身構えちゃって、一体どうしたの?」
目の前にいたのは、私の先輩、有佐百合子さんでした。長かった髪が、ショートヘアーに変わり、一瞬、百合子さんだと分かりませんでした。
百合子さんは私がぽかんと混乱して突っ立っているのを見て、いいました。
「ん? あー、髪型ね。色々あって変えたのよ。似合う?」
「……へ? あっ! ショートカットも似合うと思いますっ」
「ありがとね。それより、こならちゃん、具合は大丈夫? あんなことになったんだから、悪くない方がおかしいんだけど、怪我とか治った?」
「大丈夫です。なんともないです」
「そう。ならよかったわ。じゃあ、こならちゃんの着替え持ってくるから、ここで待っててね」
「はい。ありがとうございます――――じゃなくて!!」
混乱に乗じて色々流そうとしていた百合子さんは、私に見えないように舌打ちしていました(チッという音が聞こえたので、したんだと思われます)。
私は叫び百合子さんに尋ねます。
「どうして、わたしは魔女になって生きているんですか!? それとここはどこですか!? なんで、百合子さんがこんなところにいるんですか!? あと――」
「なんで、百合子さんが魔女になっているんですか?」
百合子さんは微笑みました。
「色々あったのよ。色々、ね。とりあえず、事情はあとで説明するから、まず、こならちゃんは着替えましょう」
そう言われて、百合子さんが私の着替えを持ってくるまでこの白い部屋で待っていました。
†
「何時、魔女になったんですか?」
「一年前くらいかな、魔女を捕獲しようとして現地に行ったときに急にサバドに襲われてね。こうなっちゃったのよ」
私はスエットから、黒の長袖のシャツに、灰色のカーゴパンツに着替えました。百合子さんになんでこんな地味なんですかと訊いたら「汚れるから、その方がいいわよ」と返ってきました。私、これからいったい何をするんですか?
「その頃って……、わたしや榊君とか、いましたよね? その前にどうやって、わたしたち、捜索系の捕獲員にばれなかったんですか?」
一年前に私が捕獲員になって、百合子さんと一緒に魔女を捕獲していたのに、その時から、隣にずっといた魔女に、誰も気づけなかったのはどうしてなのか、訊きました。
灰色のジャケットを私に渡しながら百合子さんは言いました。
「あなたたち捕獲員の探索系の能力者って、みんな心臓の有無で魔女かどうかを確かめる能力でしょ? 鼓動が聞こえなければ魔女、こならちゃんみたいに、鼓動が聞こえなくてノイズが聞こえれば魔女みたいに。だから私は、それを逆手にとって自分の体に別の心臓を移植して、心臓を動かして、心臓があるフリをしていたのよ。幸い、そういう荒技ができる能力をもらったし、私の元から持っている能力を使うことで、楽に心臓を奪えるし。そうやって誤魔化していたのよ」
「……生きている人の心臓を奪ったんですか?」とおそるおそる訊きました。
「うーん、一回だけ奪ったことがあるけど、ほとんどは死んだ人から奪ってたわ。その方がリスクは低いし」と悪びれもせずにいい「あと、そのジャケット大事にしなさいよ」と話を逸らすように、受け取ったジャケットを指さしました。
「……このジャケットがどうかしたんですか?」
「何いってのよ? 本当は血がべっとり付いていて、捨てられるところを、私が、もう鬼灯君に会えないから、こならちゃん、寂しがるなーと思って、綺麗にとってあげたのよ?」
百合子さんがそう、いい終えたあと、私は疑問に思ったことを訊きました。
「あの、ほうずきさんって、誰ですか?」
一瞬、間が空きました。
百合子さんの顔が無表情になり、ジャケットから目をそらしました。
「…………あの、ほうずきさんって、新しく入って来た捕獲員の人ですか? どうして、その人が私にジャケットを?」
ほうずきさん。一体誰なのか、そんな人が機関にいたのか、私とどんな繋がりがあったのか、全く覚えていませんでした。そもそも、私がそのほうずきさんと会ったことがあるのかすら疑問に思います。そんな珍しい名前の人にあって、思い出せない、なんてあり得ません。
百合子さんは閉ざしていた口を開き言いました。
「あ、ごめん。間違って私の元彼氏の名前、言っちゃったわ」
「…………」
「もう榊君やいちりちゃん、他の捕獲員の人たちにあえないから、そのジャケットはお守りみたいなものだってことを言いたかったのよ」と取り繕ったように説明してくれましたが、私の耳には届きませんでした。別のことで頭が一杯だったからです。
ほうずきさん。
あなたはいったい誰なんですか?
†
そのジャケットを羽織り、百合子さんに着いてきてと言われ、私は言われるがまま、百合子さんの後を着いていき、部屋の外にでました。部屋の外は病院の通路みたいになっていて、白く飾り気のない、蛍光灯があるだけのシンプルすぎる造りで、片側に数十のスライド式のドアが等間隔に並んでいました。百合子さんは部屋から出て左に行きます。突き当たりを右に曲がって、その奥にエレベーターがあって、どうやらそれに乗るようです。上をみると建物の階を表る数のランプがあり、この建物は地下二階から十階までで、ここが地下二階だと言うことがわかりました。ボタンを押して少し待っていると、エレベーターがこの階に着いた音がして、扉が開きました。もちろん誰もいませんでした。乗り込み、百合子さんがえーと、地下一階だっけ、といいながらR1のボタンを押します。
「どこに行くんですか?」「こならちゃんを魔女にした奴のとこに。めんどくさい奴だから、何か言われても聞き流すのが無難よ」という短い会話して、エレベーターは地下一階に到着しました。地下二階から地下一階なのですぐでした。エレベーターを降りると、そこは広いロビーがありましたが、これまた殺風景で白。美よりも低コストを重視した感じでした。百合子さんはここで少し待っててって言われているのといい、エレベーターの前で待つことになりました。ランプをみるとエレベーターは七階で止まり、そのまま降りてきました。
「あの、百合子さん」
「どうしたの?」
「魔女、が来ます」
隣に魔女の百合子さんがいるので、一瞬聴き間違いかと思いましたが、エレベーターから降りるにつれて、ノイズの音が大きくなってきました。
間違いなく、このエレベーターに乗っているのは魔女。
「一人だけ?」と百合子さんが訊きました。
「一人だけ、です、けど?」と私はどうしてそう訊くのか疑問に思い訊こうとしたとき、地下一階でその魔女を乗せたエレベーターが止まりました。
扉が開きました。
「おい、葛。俺様を連れてこなくてもいいじゃねぇか? あとで、会ったときに自己紹介すりゃあ済むだろ?」
「いや、お父さんに頼まれた仕事があってね、杏や椿、あと、鈴にも手伝ってもらわなきゃいけないから、こうやって集まってもらっているだよ。一人一人連絡するのも辛いし、それから、この二人の紹介も済むし。ふきは一石二鳥だと思わない?」
エレベーターの中には、と私よりもちょっと年下くらいの男の子がいました。その二人はエレベーターから降りてきました。ふきと呼ばれた魔女は百合子さんに、別に俺様がいなくてもいいよな、と呟き、百合子さんは、私だってそうしたいですよと愚痴っていました。
そんな二人にわき目もくれず、その男の子が私に近づきました。
「具合はどうだい? こなら?」
なれなれしいなと思いながらも、私は返し、率直に訊きます。
「ええ。おかでさまで。ところであなたは何者なの? わたしを魔女になったの?」
この場所にいるということは、ただ者ではない、ということはわかっていました。
かずらと呼ばれた男の子は笑いながら、言いました。
「ああ。僕のことね。僕は葛っていう名前で、君を魔女にしたのも僕さ。それが僕の一つの能力」
「…………じゃあ、あなたがサバドなの? 聞いた話だと、全く違うんだけど」
サバドは黒いコートを着ている、怪しい女性、としか言われていないのですが、明らかにこの男の子はどれ一つも一致しません。
「僕の場合はちょっと違うんだよ。確かにサバドは、心臓を奪い、能力を与え人喰いにする。でも僕は、片方の目を奪い、能力を与える、それだけなんだ」
「え? あなたは、サバドって能力持った、ただの人間ってこと?」
「それは違う、サバドは能力者でもないし、人間でもない。超越した者とでも言えばいいかな。人間の能力者とは比べ物にならないくらい、強力な存在なのさ」
「じゃあ、あなたはサバドなの?」
「違うね」
「ただの人間?」
「それも、違うよ」
「能力者?」
「それは人間と同じ括りじゃないか」
「……じゃあ何者なの?」
「じゃあ逆に質問。どちらにも当てはまらないなら、なにが考えられる?」
急に訊かれて、口ごもり、パッと答えることできませんでした。
「答えは簡単。僕は――」
サバドと人間のハーフなんだよ。サバドの能力も使えるんだ。
と、そう彼はどこか誇らしげに言いました。
To Be Continued...?