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まじょがりっ!  作者: ハクアキ
第二章 Mywonderworld Breaker
97/121

ねくすとっ! Banira Angle 9/18 20:17

 ばにらと雅樹、そして、魔女草ストライガの魔女こと、道化の魔女の真っ逆さまとくらら(まだ機関に見つかっていないので魔女としての名前はないらしい)は、真っ逆さまが能力を使って無理矢理ヒッチハイクした車に乗り込こみ、魔女草ストライガの本部に向かうため南下している、らしい。くわしいことは、ばにらには分からなかった。

 真っ逆さまに保護(?)され、雅樹とくららと合流したあと、四人はまず、ばにらと雅樹の服を調達をした。二人とも血がべったりとついて、血生臭く、そこらへんを歩き回れる格好ではなかったからだった。真っ逆さまが「うちがどっかの店から盗ってこようか?」と提案したのだが、くららに「能力使っても、防犯カメラにはバッチリ映るんですから止めてください」と言われ、「それもそうだな、面倒なことになってるみたいだし」ということになり、どうしようか、迷っている内に、雅樹が「それなら家に服を取りに行けばいいんじゃないか」と提案。早速、雅樹の部屋があるマンションに向かった。だが、マンションには機関の回収班やら、警察やら、報道関係者やら、野次馬やらが、たむろごった返していて、近寄ることができないほど人が沢山いて、とてもじゃないが入ることはできなかった。何時まで経っても、人が減ることがなかったため、もう待っているのが面倒くさくなり痺れを切らした真っ逆さまが能力を使い、一人で部屋までいって服を取りに行ったのだった。十数分して、真っ逆さまが部屋から何着か服を持って帰ってきた。報道のカメラに映ったかもと、笑って言っていた。そして、雅樹とばにらは真っ逆さま持ってきた服に着替えた。それは最初に雅樹が渡してくれた服だった。雅樹は灰色のパーカーと黒いジーンズ。いかにも、逃げてます。って感じの目立たないチョイスだった。

 話は戻って。

「これから、どうするんですか?」と雅樹が首を後ろにいる真っ逆さまの方を向き、訊く。ちなみに車の席順は一、一、三。最初の一はまさか魔女が三人も乗っているとは思ってもいない運転手の男で、ときどき、流れているラジオに併せて鼻歌をのんきに歌っていた。次の一は雅樹。これは雅樹の能力である、“自分に触れた魔女を発火させる”という能力があるため、隣に座ってもし、誤って触れてしまうと大変なことになるので、一人で三人掛けの席に座っている。最後の三は右からばにら、くらら、真っ逆さまの順で座っている。

 真っ逆さまが言った。

「言っただろ? 魔女草ストライガの本部っていうか、うちらのねぐらに行くんだよ。こんな所にいたって、機関やらにつかまるだけで、どうしようもないからな。あ〜、そうか。鈴に魔女一人とヤバ目の男つれてきたって連絡しないと。うちら、携帯電話、使えないからなー。そういえば、携帯持っている?」

「持ってますけど」と雅樹は言った。真っ逆さまは、ばにらに目配せして、その視線に気づいたばにらは、ふるふると首を振った。

「じゃあ捨てな。どうせ、もう使えないんだから」といい、真っ逆さま窓の外を指さした。雅樹は、そうですねと素直に従い、携帯のICカード抜き取って、半分に折った。本体はこれも半分にバキバキと折って窓をあけて捨てた。

「……普通、そんな簡単に携帯を捨てる人いませんよ? 雅樹さん? しかも個人情報はしっかりと守ってるし」とくららは、雅樹が今した行動に度肝を抜かれたようだった。「持っていても必要ないし、それにあんまり使ってなかったしね」と雅樹は言った。

 ばにらはふと、窓の外を見た。車は高速道路を走っている。さっきまでは夜になっても目映い程の光に包まれていた街の景色から一変し、道をオレンジ色に照らすライトの光以外何も見えない、ただの黒。その黒をバックにガラスに自分の顔が映っていた。一瞬だが、ばにらはそれが自分の顔とは思えなかった。そういえば、自分の顔って、こんなまじまじと見る機会がなかったなと思い返す。

 …………思い返す?

 あれ?

 ばにらはちょっとおかしな事に気づいた。

 わたしは今まで鏡で自分の顔を見たことがなかったのかということを、思い返そうとして、気づいたのだ。

 昔の記憶がない、と。

 思い返せる程の記憶がない、と気づいたのだ。確かに、魔女になって父と母に捨てられた記憶がある。確かにその記憶はある。

 だが、それしかないのだ(・・・・・・・・)

 普通は逆ではないか? 父と母に優しくされた記憶があって、捨てられた記憶は都合良く消されてしまう。もしくは優しくされた記憶をねつ造して、嫌な現実はなかったことにする。そうやって過去から逃げるはずだ。なのに、ばにらの中に残っている記憶は、父と母に捨てられた記憶だけ。優しかった父と母の記憶は一切残っていないのだ。それが異常な程、おかしい。思い返しても、思い返しても、それ以外は空白で、題名だけがついた何も写されていない真っ白な写真を見ているようだった。

 ばにらの体に悪寒が走った。ぶるっ、と体を振るわす。これ以上追求したら、何か嫌な予感がする。そう結論がでないまま、考えることを止めようとした時。


 ガラスに映っていた自分の顔が、笑った。


 もちろん、ばにらは笑っていない。


 ニヤリと、薄気味悪い、笑みを浮かべていた。


 そして、口が動いた。言葉を発しはしなかったが、ばにらの頭にははっきりと聞こえた。



(き、づ、い、た、の?)



「ひっ、」

 ばにらは小さな悲鳴をあげた。その声に気づいたくららがどうしたのか尋ねる。

「どうしましたか。ばにらさん? わたくしの隣にいる馬鹿(真っ逆さま)が、アパートに着くまで時間がかかるから、あまりにも暇すぎて、ちょっと脅かしてやろうか、とか愚かに考えてしまい、ばにらさんに幻覚を見せたのでしょうか? そうだったら、わたくしから謝ります。この中二病患者がご迷惑をかけました。ごめんなさい」

「いえ、何でもないんです。外見てたら、人影らしき物が見えて、びっくりしただけです」と嘘ついた。

「そうですか。周りが暗いと、そういう風に見間違えることありますよねぇ? まっさ――」と振り返り、真っ逆さまに同意を求めようとした、くららは、その顔を見て固まった。

「おい、デコ、死にたいか?」

 魔女ではなく、鬼がいた。

 その後。車の中ではくららの悲鳴が響き渡ったが、近くを走る車、運転手、雅樹、ばにらには聞こえなかったのは言うまでもない。

 閑話休題。そもそも閑話なのか、疑問だった。

 ばにらは再び、ガラスに映る自分の顔を見た。もちろん、笑っていないので、表情がない。証明写真のときに作る顔だった。試しに微笑んでみた。ちゃんとガラスには微笑んでいる自分の顔が映った。きっと見間違いだったんだと思うことにした。でも――

 

(気づいたの?)


 あの自分が自分に言った、言葉は、ばにらの頭の中で永遠に鳴り響いていた。


 †


「本当に可笑しいほどうまくいったわね。これからがメインイベントよ」


 †

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