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まじょがりっ!  作者: ハクアキ
第二章 Mywonderworld Breaker
93/121

ばらばらっ! Friends Angle 9/20 16:39

誤字脱字等有りましたら指摘お願いします。

「ねぇ? ぽぽ」

「なぁに、なな?」

 茜色が生まれる夕日に照らされ、彼女たちの世界が一時だけ、すべてがオレンジ色に染まって、やがて闇に消えてゆく中、高校一年生の女の子、二人が仲良く歩いていた。高校に入学して、半年という月日が経ち、着ているブレザーの制服はやっと普段着として定着。高校という、目まぐるしい変化や生活にも、落ち着きが見え、ゆとりが出来てきた頃だった。

「明日、雨が降らないといいね」と道路の右側を歩いている、高嶺七竈はわくわくしながら言った。

「うん、そうだね。天気予報では、降水確率三十パーセントっていってたけど、晴れると思うよ」と道路の左側を歩いている、春崎蒲公英は笑顔でそう返した。

 彼女たちは、明後日、買い物をしに街の方まで行こうと計画していたのだった。

「ねえ、明後日どこに行く? あたし、気になる映画があるんだけど、映画も見に行かない?」と七竈は提案する。

「うん。いいよ。そのかわり、私はいろいろと回りたいところがあるから、つき合ってね」

「おっけ」

 そういい、明後日の予定を具体的に決めた後、二人は、別の話題で盛り上がった。お互いの好きな、アイドルの話とか、昼にも話していたのだが、昨日みたドラマの今後の展開の予想とか、今度、映画化される、人気少女マンガの話とか、話題はつきなかった。笑いながら、今を楽しんで消化していた。

 それは、彼女たちの世界は、平凡を愛していたからだった。下手すれば、絶交してしまう程の衝突や、どちらかが危ない橋を渡って、奈落まで堕ちてしまうような事件など、起こるはずもなかった。

 平凡こそ、最高で、最幸。

 そう思えるほど、そう思えるために、彼女たちの世界は、ただ、規則正しく回ろうとしていた。

 清く正しく、綺麗に、回っていた。


 だから、気づけなかった。


 二人の世界は、そう、綺麗すぎたのだ。綺麗すぎて、何が汚いのか、わからないと同時に、汚れを嫌悪し続けていた。どれほど、汚れるかを知らないで、少しのシミでも、汚れと感じ取って嫌悪しては、ピッカピカに綺麗にして、美しくもある彼女たちの世界を回してした。潔癖だった。そうしなければ、汚れが酷くなり、彼女たちの世界は、もろくなって崩壊してしまうと思いこんでいたのだ。

 それだから、見間違えてしまった。

 そのシミは汚れではなかったことを、彼女たちは知らなかった。

 たとえ、汚れても、ただ見た目が悪くなるだけで、すぐに慣れるということを知らなかった。

 この先の未来で、必ず、汚れてしまうことを彼女たちは知らなかった。

 そもそも、汚れ、よりも、嫌悪すべきものがあった。

 

 それは、破壊。

 素晴らしき世界の破壊者。


 他人の世界を壊すことを快楽とし、己の欲求の飢えに乾き、自我を保てなくなってしまった、道を外れた、獣。その獣に襲われた最後、必ず、世界は壊されてしまう。新しい醜い世界を生み出すか、そのまま、世界と共に果てるのどちらかを選ぶことになる。獣が自分の世界にはいらないように、獣でも、人でも、何でも、遮断するようになった。

 だから、みんな、簡単には誰も信じられなくなった。

 そして、みんな、綺麗なものしか、教えなくなった。

 それが、彼女たちが、襲われた原因でもある。


 彼女たちの後ろから、車が接近してくる、音が聞こえた。七竈は、左隣にいる蒲公英を押して、道路の左側によった。だが、道路の左側には携帯で話しながら歩いている男の人が通り過ぎようとしていて、進路がぶつかり、二人はたたらをふんでしまった。

「ごめんな――」さい、と蒲公英が言おうとした瞬間、隣にいた七竈は、消えていた。

 蒲公英は、一瞬の出来事で気づかなかった。横を通り過ぎようとしていた車――黒いワゴンの中に七竈は吸い込まれるように連れ込まれたことを。そして、今度は自分が、前から歩いていた男に口をハンカチか何かで塞がれ、されるがままに、黒いワゴンの中に入れられたことを。

 視界と思考がぼやけ、蒲公英はそのまま、同じような状態になった七竈の上に多い被さるように、ワゴンの中に倒れた。誰かが、今日ついているなといっているのを聞き、蒲公英は意識を失った。


 世界は壊れるときは、あっけなく、壊れるものだということを二人はしらなかった。

 だから、世界を、守りきれなかった。

 守れなかったらどうなるか。

 それは簡単だ。

 世界の破壊者――獣たちの欲求の飢えが乾くまで、世界を蹂躙され続けるのだ。


 “断片”


 蒲公英は目を覚ました。世界がまだくらくらしていた。何か喋ろうとしたが、できなかった。何か口の中に入れられて、塞がれているようだった。だんだんと頭の中の霧が無くなっていき、薄暗い部屋にいることと自分が今、寝そべっていることがわかった。動こうと体を動かしてみると、動かなかった。自分の手足を何か縛られていた、というよりは、手錠みたいなもので拘束されていた。周りを見渡すと、芋虫のようにうねうねしている七竈がいた。蒲公英と同じように拘束されていた。

 二人は、ここから逃げようと、必死に体を動かし、出口を探した。体を百八十度方向を変えるのは難しく、時間がかかったが、扉を一つ見つけた。そこに向かって二人は這って移動する。

 すると、急にその扉が開いた。そこから、六人の男が入ってきた。

 二人は、もう、自分たちがどうなるか、これから、何をされるか、察してしまった。

 その男たちから、塞がれて、うめき声で泣き叫ぶように、逃げようとした。けれど、両手、両足を拘束されているため、這って動ける範囲なのど、微々たるものだった。

 男たちは、三人ずつに分かれて、すぐに蒲公英と七竈に群がった。


 “断片”


 噎せかえる程の男の腐った臭いが部屋に充満していた。蒲公英は、まだ、泣けた。ごりごりと削られいく心が、悲鳴と激痛と嫌悪を呼び、自分の体から、最大級の生理的拒絶反応を起こし、止めさせようとさせるが、まだ、終わる気配がない。体中に腐った男の臭いが染み込んでいき、自分の体が自分のモノでなくなっていくのを感じた。

 蒲公英はもう、綺麗のままでいることを諦めていた。汚いままでいい、だから、だから、もう、痛い、のは止めて、と言葉にならずに、叫んでいた。

 べちゃっ、と床に落ちて割れた卵のように、堕ちて、いろいろとまき散らした。床は冷たく堅かった。どんどんと床に、暖かい体温が流れて、男の腐った臭いの発生源と混ざっていくような気がした。

 蒲公英は、焦点の定まらない、腐りかけた目で、七竈と男たちを見た。七竈は同じように、心を削られて、もう、涙は枯れ果てたのか、泣いてはいなかった。群がる快楽に溺れた男たちに削られながらも、必死に痛みに耐えていた。

 それにしても、心は不思議なもので、いくら削られても、無くなることはなかった。削られても削られても、小さくなることもなく、削られる痛みだけを確実に与えていた。それが、厄介であり、蒲公英と七竈は、そのせいで、生き地獄の真ん中をさまよっていた。

 蒲公英は早く、壊れて欲しいと思った。少なくとも、そうすれば、痛くなくて済む、と自分の価値が男たちによって、狂っていたからだった。

 蒲公英はまた、壇上にたたされた。

 早く終わらないか、と、削られ痛みに苦しむなか、狂い叫ぶように願った。


 “断片”

 

 男たちは、今日の分は、満たし終えたのか、汚らしいものを見る目で用済みの蒲公英と七竈を部屋の中に閉じこめ、自分たちは自由な世界へと戻っていった。

 腐った男の臭いが体中からする。気持ち悪くて、耐えきれなくなり、蒲公英は吐いた。胃液と男の臭いが、体の奥底からぞぞぞ、とはいでてきた。もっと吐いた。今度は何もでなかった。だけど、まだ、胃の中にこびりつき、溜まっている気がした。もう、いっそ、胃ごと吐きたかった。

「いやだよぉ、妊娠しちゃうょぉ」

 七竈がすすり泣きながら、譫言のように、言った。その顔はもう、死んでいるように表情がない。きっと自分もそんな顔をしているのだろう。

 その死んだような視線に気づいた七竈が蒲公英に訊いた。

「……ねぇ、ぽぽ」

「……なぁに、なな」

「なんで、こうなっちゃったの?」

「……運が悪かったんだよ」

 蒲公英は答えた。運が悪かったと。

 本当に運が悪かったのか? いや違う。運がない、悪い、良いの問題じゃない。あいつらが悪いんだ。私たちが自分自身を守らないせいでも、運のせいでも何でもない。すべて、一文字も間違いなく、あいつらが悪いんだ。悪だ。絶対悪だ。

 また、扉が開いた。七竈の心を削った男たち、三人が、臭いと二人を罵倒しながら入ってきた。そして、三人で、倒れ泣いている七竈の体をつかんだ。七竈は抵抗するが、腹部を容赦なく、殴られて、吐きながら、気を失った。蒲公英はそれを床に這い蹲り、怯え、震えながら、あの心が削られる、痛みを思い出しながら、見ているしかできなかった。

「なな、をどうするの?」と蒲公英は掠れ、震えた声で訊く。

 男たちは、言った。

 綺麗にして、またヤる、と。

 蒲公英は、凍り付いた。まだ、いや、永遠に心が削られるのか、と思い、絶望した。

 人手が足りないから、これが終わったら次はおまえな、とげひに笑いながら、そう言い残し、男たちは、七竈をぞんざいに持ち上げて、つれていった。

 蒲公英は冷たい、死の香りが漂い始めた部屋に、取り残された。

「……殺してやる」

 蒲公英の目に、怒りの炎がつく。

 なんで、わたしたち、女が、こんな恐怖に怯え、なんで、男は、死ぬ恐怖だけしか、怯えないのだろうか?

 不公平だ。だからって、どこで、どう、辻褄合わせをしようと、それ自体、間違っている。辻褄合わせでは、代用なんかできやしない。

 目には目を。

 歯には歯を。

 陵辱には陵辱を。

 快楽には快楽を。

 どうせ、心が死ぬのだ。もうそれは死んだも同然だ。だから、この魂を一発の鉛弾に変えても、惜しくはない。相手に向かって打って、当たって、怪我すれば、儲けもん。死ねば、超ラッキー。外れても、惜しくはない。どうせ、不発で終わる弾だったのだから。

 だから、

「ぐちゃぐちゃの、ばらばらの、めちゃめちゃに、内蔵、引きずり出して、生きたまま目の前で、両足で、どろどろになるまで、踏みつけて、男のアレも、玉も、ついたまま、踏みつぶして、痛がっているところを、さげすんで、笑って、笑って、笑って」

 

 殺してやりたい。

 

 蒲公英は、立ち上がった。

 そして、笑った。

 地獄の中、喜びを見つけた。それがしたくて、したくて、たまらなかった。

 すると、扉が開いた。次は自分の番だ。さぁ、どこに噛みつこう? 手なんか生やさしすぎる。さっき口に無理矢理含まされたアレにしよう。噛みちぎれば、一発でしとめられる。汚いものがあふれるかもしれない。けど、蒲公英にはもう、汚いも綺麗も、プライドも何もない。そんな正しいものは、さっき、削られたのだから。


 さぁ、殺そう。


 すると、誰か――男ではなく、姿かたちからして、女性(・・)が入ってきた。


「楽しそうな人生ね?」

 一瞬、女性っぽい男かと考えたが、女性の声だったので男ではないと思うのだが、一応、訊いた。

「……誰? あの雄豚の仲間?」

「違うわ。私は――そうね、敢えて言うなら、あなたの復讐を素晴らしいものに変える、プロデューサーみたいなものよ」

「……意味、わかんない」

「まあ、そうよね。これだけ聞いて納得できるなんて、狂っているとしか思えないわ」

「……じゃあ、助けてくれるの?」

「いいえ、救って(・・・)あげるの。いつもなら、奪う立場なんだけど、今回限りはあなたが言う、雄豚たちが個人的に許せないから、特別に救ってあげる」

「どうして? あなたも、あの雄豚たちと同様に、奪う者なんでしょ?」

「一括りで言えばそうなるけどね、違うのよ。簡単に例えるなら、足し算とわり算みたいな感じ。どちらも、数学に関係しているけど、違うものでしょ? それと同じように、私の奪うと、雄豚たちの奪うは、何かを奪うのでは、同じだけど、その奪う何かが全然違うのよ」

「……それは何?」

「私の場合は物理的に奪って、物理的に何かを返す。それに対して、雄豚たちは精神的に奪って、精神的に返す」

「……あいつ等から、何もらってない、よ。ていうか、もらいたくない」

「それは違う。何かを奪われたら、必ず、何かをもらうの。必要なくても、要らないものでも、必ず渡される、拒否権なんてない。あなたも、奪われて、不快感や屈辱や憎悪を貰ったでしょ? 奪われて何も得られないものなんて、自分の命くらいよ。私はそれにならって、何かを奪うかわりに、“強い力”をあげているの。この世界で女の子たちが、生き抜くために必要な力を。まあ、私も腹黒いから、大抵の場合、面白く騒がしくなるようにするんだけど」

「…………」

「今回は、例外。許せないのよね。ポリシーに反しているからなのかしら。まあ理由はどうあれ、あなたを救ってあげるわ。そのかわり、奪っちゃうけど」

「……どんな力をくれるんですか?」

「いいわ、奪うものよりも、くれるものの方が気になるなんて。大丈夫、あの雄豚たち全員を、あなたの思い通り、好き勝手できる、“強い力”をあげるわ。だから――――」


「ちょっと痛いけど、我慢してね?」


 そう女性にいわれ、蒲公英はこう返した。


「痛いのはもう、なれました。それに、雄豚を陵辱できるなら――――」


 喜びながら、耐えられます。


 ぐちゅっ。


 “断片”


 三人は男たちは、また、七竈の心を削り始めた。七竈を洗っている際、また、満たされなくなったのだろう。意識を取り戻し、動き、喚き始めたのもあって、男たちは、喚く口を、押さえ、さらに削られた七竈の心を、代わる代わる深く削っていった。

 あ、あ、あ、あ、あっ!!

 もう一人の――汚れた蒲公英を洗い、何度も使えるようにするため、シャワー室に連れ込もうと、臭く汚い部屋に入っていった、ほかの三人の男たちの、何かにおびえる声がした。

 虫がっ! 虫がっ! 虫がっ!

 三人の男たちは、満たされる前に、気が散ってしまったため、涙で顔をぐしゃぐしゃにした七竈を、床に潰れた虫のように、捨てた。しゃくり、と落ちた。うめき声をあげて七竈は泣いていた。

 男たちは残りの男たちが騒ぎ声が聞こえる部屋へと向かった。部屋の扉の前に男たちがたどり着く。中からは、残りの男たちが、狂ったように騒ぎ続けている。おまえが開けろよ、と誰がこの異様な物と化してしまった扉を開けるかどうか、擦り付けあいをしていた。そして、一番扉に近かった男が、その扉をおそるおそる開けた。


「また、ゴミ屑たちが来たね?」


 部屋は、電気が消され、廊下に電灯が部屋の中を照らそうとするが、届かず、奥は、黒、一色だった。部屋から流れてくる、腐った生ゴミに似た臭いが、三人の男たちの周りを冷たく包み込む。その、臭いと、鉄の、新たな臭いも、男たちの鼻孔に入り込んできた。

 いったい何が起こったのか、男たちは、分からなかった。

 一人が、部屋の電灯がつく、スイッチを押した。


 真っ暗な舞台に、主人公に向け、スポットライトが照らされるように、蒲公英が一人、笑みを浮かべながら立っていた。


「さんざん、わたしたちをヤったんだから、今度は、わたしが―――」

  

 その周りには、虫が、体の中に虫が這ってっ! と自分の皮膚や目、肉を、自分の手で剥ぎ散らかして、血を吹き出しながらも、見えない幻想の寄生虫を、取りだそうとしている、三人の男たちが転がっていた。

 

 ()る番だよね?


 男たちは、急に手の甲がむずむず気持ちが悪い嫌な感触に襲われ、自分の手の甲をおそるおそる見た。やけにくっきりと、血管が浮き出ていた。その血管を凝視したとき。


 モゾッ。


 その血管が、うねりながら皮膚の内側を動き始めた。

 ヒィッ。と小さく悲鳴を上げた瞬間、爆発的にその動く血管が、体の内側からぶわっと湧き出てきた。モゾモゾと動く血管は、皮膚の内側を伝って体中の皮膚へと逃げてく。腕、胸、背中、腹、首、足、顔へと。全身に、不快で、内側を這うたびに痛みが走る、動く血管が動き回る。

 男たちは、叫び声を上げた。蒲公英の周りで、自傷行為をしている男たちが、何を恐れているのか、分かった。

 この血管の正体は――、


 虫。

 蟲。


 そして、合計、六人の男たちは、自分の血が無くなるまで、自分の体から湧き出て、皮膚の内側を這う虫を、引っかき出そうと、自分の皮膚を剥がしていた。


 “断片”


 蒲公英は笑っていた。それは、楽しくて、楽しくてしょうがなかったからだ。さっきまで、一心不乱に己の満たされない快楽のために、蒲公英と七竈の心を削っていた雄豚たちが、今度は蒲公英の憎悪と怒りと快楽に、幻覚に犯されて、のたうち回っている。それは道路に上に迷い込み、暗闇を求め、のったくっているミミズみたいで、汚ならしく、気持ち悪く、そして、自分が強いんだと優越感にひたれる物だった。

 蒲公英の目の前には、素晴らしい光景が広がっていたのだ。

「ははははははははは!」

 蒲公英は大笑いしながら、近くに床を転がっている雄豚に、目を付けた。目は血走っており、自分の何ともない皮膚――虫が内側でのたうち回っていると見えている皮膚を必死に剥がして、虫を取りだそうと悲鳴や奇声を上げながら躍起になっていた。

「そんなに虫が気になるなら、おまえが死んで、楽になればいいじゃん♪」

 蒲公英はその雄豚のアレを足で、潰した。色々と液体が出た。激痛に叫び声があがる。その悲痛な叫び声に、蒲公英は興奮した。

「はは! ほらっ! ほらっ! 死ねよっ! もっと苦しんでっ! 激痛で、苦しんでっ! 汚らしくっ! 死ねっ!!!!」

 蒲公英は、その男の機能しなくなったアレを何度も何度も踏みつけた。涙と鼻水で、ぐしゃぐしゃになった顔が、蒲公英的に、生理的に気持ち悪くかったので、顔を床に向け、準備し、蒲公英は真上にジャンプ。頭に向かって両足で、体重をめいいっぱいかけて、着地した。グシャッ、と音がして、蒲公英はきゃっきゃと楽しそうに喜んだ。雄豚は、ピクッ、ピクッと痙攣し、キモッ、と蒲公英に頭を蹴られ、ついに動かなくなった。

「あと、五匹♪ ど、れ、に、し、よ、を、か、な?」と指を指しながら、蒲公英は、次弄ぶ雄豚を品定めを始めようとしたとき、扉が開いた。

「ぽぽ?」

 開けたのは七竈だった。

「なな!! 大丈夫だった!?」

 蒲公英は、扉の前に立ち尽くしている七竈に近づいた。その途中で転がっている雄豚に躓きそうになって、蒲公英がキレて、その躓きそうになった原因になってしまった雄豚のアレを蹴飛ばしたりした。

「何してるの?」七竈は困惑気味に蒲公英に訊いた。

「何って、ヤられたから、()りかえしているの」

「…………」七竈は何か考えるようで、どこか寂しそうな顔をして黙っていた。

「どうしたの?」と黙っていた蒲公英に訊いた。七竈は、はっとして、「え? あ、あたし、魔女になっちゃたんだ……」と言う。

 七竈がそう言い、蒲公英は自分もそう言えば、世間を騒がせているあの、人喰いの魔女になったんだなと、うすっらと実感した。

「ななもなんだ。わたしもなったんだよ。あの人喰い魔女に。わたしの能力はねえ、人に幻覚や幻聴を見せて廃人にする能力でね、この雄豚に幻覚を見せてやってんだ〜。ななのは?」

「え? うん。えっと、相手の。食べた相手の能力をコピーして、自分も使えるようにする能力」

「何その能力っ!? カッコイイっ!」

「カッコイイ?」

「めっちゃ、カッコイイ!」

「そう」

 七竈はまだ転がっている雄豚どもが気になるようで、ずっと見ていた。蒲公英はその視線に気づき、言った。

「ねえ、なな?」

「なに? ぽぽ」

「ななは、この雄豚は憎くないの?」

「…………」

「わたしは憎いよ。憎くて憎くて、わたしたちにしたことと同じ、それ以上の仕返しがしたいと思って、実行して、殺す。わたしたちにはその力があるんだよ? それなのに、ななはそう、思わないの?」

 七竈は言う。

「……思、う。思う、うん、雄豚どもにあたしたちが受けた、痛み、苦しみ、全部、そっくりそのまま返してやりたい。めためたにして、ゴミのように蔑んで弄んでやりたいっ!」とだんだんと、吠えるように怒りがこみ上げてきたようだった。

「そうだよね、そう思うよね? だからさぁ、ななも一緒に殺ろ?」

 七竈は笑みを浮かべながら言った。

「うんっ!」


 “断片”


 男の臭いが充満していた部屋は瞬く間に、真っ赤に血に染まり、もうそんな男の臭いよりも、錆びた鉄と生臭い肉の臭いの方が多くなり、もうこの部屋は、昔の事件の傷跡を消し、新たな惨劇を作った。

「案外、人の肉って、食べれる物なんだね。魔女になったからかなぁ?」と、生きたまま、内蔵を口から引きずり出して食べている蒲公英が言った。七竈は、ちびちびと剥いだ皮膚を食べながら「そうなんじゃないの」といい、蒲公英に訊く。

「ねぇ? ぽぽ」

「なぁに、なな?」

「これから、どうするの?」

 蒲公英はうーんと考えて言った。

「ここから出て、一旦、服をどっから盗ってきて、それから、逃亡生活になるんじゃないかな? わたしたち魔女だから、あの新しくできたなんとか機関に捕まっちゃうから」

「でも、捕まってもいいじゃない? こいつら殺せただけで、もう十分だし……」

 そう、七竈が弱気になった。すぐに蒲公英が言い返す。

「駄目だよ。捕まっちゃったら」

「……どうして?」

「わたし、決めたんだ。こんな酷い事をする奴らに恐怖を与えてやるんだって。だって、おかしいでしょ? 女の子だけが、こんな、心を削られるような対象にされるなんて。わたしはそんな世界を許さない。だから、わたしが、奴らの心を削ってやる。奴らと同じように、削って、殺してやる。わたしにはその力があるんだから――――」

 七竈は少し、俯いて「……そうだね」と同意した。

「だから、ななも一緒にやろ?」

 蒲公英がそう訊くと、七竈はうんと、小さく言った。

「約束だよ?」

 蒲公英が血と脂がこびり付いた、右手の小指を七竈の前につき出した。七竈は同じ様に赤く染まった右手の小指を七竈のつき出した小指に絡めた。

「約束……だね」


 この約束は、一年後、七竈によって破られてしまうことを、蒲公英は知る由もなく、嬉しそうに笑っていたのだった。


 一人、重く暗い表情で、嘘を抱え込んで俯いている、七竈を残して――――

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