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まじょがりっ!  作者: ハクアキ
第一章 Shall We Dance With Cannibalism?
8/121

あんぐらっ! Masaki Angle 9/18 12:37

誤字脱字などありましたら指摘お願いします。

 百合子さん前から逃げだし、トイレでこの嫌な気持ちが落ち着くまで吐いて、少しだけ気分を良くしたあと、僕はばにらさんとの待ち合わせ場所に向かった。

 待ち合わせ場所に着くとばにらさんの姿はなかった。

 まだばにらさんは着ていないか。それもそうだ。分かれてから四十分くらいしか経っていない。女の子の買い物はえらい時間がかかるものと世間一般で言われているけど、そんなの人それぞれだと僕は思うし、ばにらさんも追われている身だから早く買い物を済ませるだろうなと勝手に思った。

 食品売場には捕獲員の百合子さんがいるため、ばにらさんに食べさせる食料が買えない。帰りにどこかスーパーにでも寄って買うしかない。だが、百合子さんがここの食品売場で見張っているのだから他の所でも、別の捕獲員が見張っているのかもしれない。ならばコンビニで売っているビーフジャーキーならどうだろうか。加工されていなければ、干し肉でも食べれるはずだ。でもあれって量が少ない割には高い、さらに塩胡椒振ってあるから食べれなかった場合を考えるととても痛い出費となる。洗って塩胡椒を落とせば食べれるかな? いやでも量が……。

 なんて色々と策を考えている内に、ばにらさんが服屋の紙袋とビニール袋を持って戻ってきた。

「三万で足りた?」

「うん。十分だった。服も二着買えたし。もちろん肌着とかも」

「足りなかったらなら遠慮しない言ってね? 何度も来るのは流石に目立つから」

「……うん。大丈夫」

「そっか、じゃあ早く帰ろうか。近くに捕獲員もいることだし」

 僕はうっかり言ってしまった。ばにらさんの表情が急に険しくなりに頻りに当たりを見渡しはじめた。僕が捕獲員が近くにいると言ったから、このフロアにいると思ったのだろう。

「大丈夫。その捕獲員は一階の奥の食品売場付近にいて、そこで魔女が来ないか見張っているんだ。だからその捕獲員はここには来ないよ」

 ばにらさんに着いて来てと言い、ショッピングモールから出でようとする。もう一人くらい捕獲員がいるかもしれないと辺りを見渡し、そのような人がいないか確認して見るが、捕獲員の殺気に似たような雰囲気を臭わしている人がいるとは感じられなかった。百合子さんみたいなそんな気配すら持たない人がいたが、そもそも自分自身にそんな気配を感じる能力を持っていない、言い換えれば、鈍感なだけなのか、よく分からないが、どう考えても後者だろうと挙動不審にならずに自然な素振りで外に出た。問題なくでられたところからして、ショッピングモールの出口付近にはいなかったらしい。

「誰にも気づかれなくて良かったね」

「うん」

 ばにらさんはぎこちなく笑った。僕はここで初めてばにらさんが笑うところを見た。その笑顔を見れて何故かとても嬉しくなる。

「ここでばにらさんの夕食を買えなかったから、途中どこか、スーパーにでも寄って買って帰らないと」

 僕がそう呟くと笑っていたばにらさんが暗い表情になって、立ち止まってしまう。同時に僕も立ち止まる。どうしたの、と声をかけようとした瞬間、ばにらさんは俯き、小さな声で言った。

「わたしは……まだ大丈夫。……その、食べたばかりだから……」

「………………」

 食べたばかり。

 僕は察せるはずだった。

 ばにらさんが着ていた白いワンピースが血に染まっていたことから察して、その捕食行為を行ったことくらい簡単に想像することはできたはずだ。

 だが、あの記憶が邪魔をした。

 あの一番大切で、一番忘れたい記憶が。

 また思い出してしまった。今度は違うシーンだ。僕は震えそうなる体を必死に抑制し、ばにらさんの強がって、冷静を保つような素振りをした。きっとばればれなんだろうな。

 僕はばにらさん以外誰にも訊かれないような小さな声で訊いた。

「訊いちゃいけないことだって、分かっているけど――どのぐらい食べたの?」

 ばにらさんは泣きそうな声で答えてくれる。

「……分かんない。でも、覚えているのは、三、くらい」

「そうなんだ」

 それを最後に僕は口を閉じてしまった。なんて声をかけてあげればいいのか、僕の頭では思いつきもしなかった。ばにささんもそれっきり何も言わずに黙ってしまう。

 お互い何も発しないまま、黙々と僕の部屋があるマンションまで歩く。大通りも車の通りはいつも通りなのだが歩いている人は全くいない。狭い道に入ると人っ子一人居らず、今日は時折、警察官が見回りの為にいつもよりも多くいたが、それ以外は特になくショッピングモールに行くときと同じように閑散としていた。

 しばらくして、マンション前まで着いた。僕の部屋は七階にあるため階段で上っていくとなると結構疲れるが良い運動になるため、僕は普段はそちらを使う。今回はばにらさんも連れているから一刻も早く部屋に戻りたかったのでエレベーターを使った。

 僕たちはエレベーターに乗り込んだ。

 沈黙。

 僕は何か、何かと頭の中をフル回転させ、気の利いた言葉を探す。このまま、部屋にはいってまでも沈黙のままいるのは辛い物がある。速めに処理しておきたい問題だった。だが、ボキャ貧の僕にとってそれも辛い物だった。

 でも、言わなくちゃいけない。

 そう想い僕はばにらさんに声をかけた。

「あの、ばにらさん」

 流石に監視カメラがあっても、録音はしていないだろう。だから声に出して伝えるのは躊躇う必要はない。

「な、何?」

「僕はどんなに、ばにらさんが……、あの、その、食べたって、絶対に僕は、恐れたり、見捨てたりはしないから、そこは安心して」

 僕は格好つけるように言うつもりではなかったのだが、思ったよりキザっぽく言ってしまい、なんだか僕は恥ずかしくなった。

 そう言われたばにらさんはずっと俯いていた顔を上げて僕を見て言った。

「……ありがと」

 僕は少しだけ嬉しくなった。

「どういたしまして」

 邪魔するかのようにチンッ、と音がして、前のドアが開く。すぐに七階に着いたようだ。日頃から階段で上っているからか、ものすごく早く着くんだと驚いてしまった。

 僕とばにらさんはエレベーターからでる。僕の部屋に向かおう歩きだしたが、僕の部屋の前で立っている人がいた。何か僕にようでもあるのか、それとも、魔女がここで匿われていると気づかれ、捕獲員が部屋の待ち伏せしているのか。僕の頭の中では色々と憶測が飛び交ったが、僕の部屋の目の前に立っている人の顔を見て捕獲員ではないと分かった。

 だが、捕獲員の次に今、出会いたくないやつがそこにいた。

「ようっ! 忘れ物したから取りに来たん、だけ、ど……」

 珠奈は僕の姿を見て忘れ物を取りに来たと言おうとしたが、僕の後ろから続いて来るばにらさんを見つけ、凝視していた。

「その子は、何で、雅樹の服、着ているの?」

 彼女にとっての不安要素なのだろうか? その疑問を僕にぶつけてくる。僕の服を着ているということは、………。それなりのことがあったと想像するだろう。その誤解を解くために話さなければいけない。しかし、今ここで立ち話をして、他の誰か、第三者に訊かれ、魔女を匿っているとバラされたら一巻の終わりだ。

「それは……、ここだと誰かに聞かれるかもしれないから、部屋にはってから説明する」

 珠奈に部屋に入るように指示した。珠奈は素直にしたがってくれた。

 その姿を見た僕は、珠奈ならきっと分かってくれだろうし、理解もしてくれるはずだと、なんの根拠もなく、そう勘違いしていた。


 僕は、ずっと後になって、空っぽの信頼を彼女に押しつけていたのだと気付くのだった。

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